恒心文庫:【速報】唐澤貴洋、死を以って開示を成し遂げる
本文
『優しい世界』それは互いに他者を認め心を開き、自らの想いを表現することの出来る世界ではないのだろうか
ここは五反田にある某墓地、砕け散った墓石の前に佇む男は他でもない、唐澤である
IPを開示するだけでは優しい世界は作れない事を悟った彼は、魚釣りから調理器具まで数多くの『世界』に触れ、夢の実現の為その身を削り続けてきた
だが広く、深く、多くの知識を得る事で彼は現実という壁に阻まれる事になる
そんな時に彼が訪れるのは、青春時代に失った弟の墓前である
かつて自らを罰するために打ち砕いたと思われる墓石は、唐澤に明日を生きる力を与えるのだ
弟が念となり彼をを助けているのか、それともただの思い込みなのかは定かではない
「本音を言うと私は優しい世界を作る事は出来ないのではないかと思っています。しかし私の行いは善悪という概念を無視して人々の心に残ります。ただ、やる事に意義を見出しているのかもしれませんね」
墓石に背を向け、iPadでジュニアアイドルのツイッターを優しく見守りながら去ってゆく唐澤
彼は明日も、悩める人々のために全力投球するだろう
墓参りの翌日、通学途中の女児を美味しくいただき、股間に白く乾燥した何かを付けながら事務所の扉を勢い良く開いたのは他でもない、唐澤である
今日もまた、人との出会いに感謝しながら過ごす素晴らしい一日が始まる…はずだった
扉を開けてまず最初に目に飛び込んできたのは、震える手で拳銃を構えた陰茎の様な顔の少年だった
彼ははまず気を落ち着かせるためiPadを取り出し、ツイッターで呟こうとしたその瞬間、鳴り響く銃声
夢を追い、夢に生きた彼は、狂える陰茎の凶弾に倒れ、その生涯に幕を下ろした
だが雪の様な一生を駆け抜けた彼の死は瞬く間に五反田中に広まり、生前の想いを受け入れる人々が現れ、その輪は広がり、やがて世界を覆った
彼が開示したのはIPではなく人々の心だった
優しい世界は、ここにあった
唐澤が天へと旅立った数年後、世界を救い、伝説となった彼に人々は口を揃えてこう言った
「無力なる民を、能を以って救う者」
『唐澤貴洋 無能』、と