恒心文庫:「声なき声に力を」
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本文
東京随一の高級ビジネス街虎ノ門、多くの士業が事務所をかまえるビル街のとある事務所に、声なき声の主である彼はいた。
彼の名は山岡裕明、T大の法学部に学び、その後C大の法科大学院を卒業、そして弁護士となった秀才だ。しかし、彼の目の前にある光景は秀才に相応しいものとは到底思えるものではなかった。
そう、彼の目の前には二人の男の痴態が繰り広げられているのだ。男の一人 ―中年で小太り― は人とは思えぬ声をあげながら、もう一人の男 ―白髪の豊かなもみあげが目につく老人― に絡みついている。その老人も快感に耐えきれないのか嬌声をあげている。
山岡はこの光景を目にし、気を失いそうになった、二人の男の痴態を目にした。それだけならば気味の悪いものをみたと、忘れることもできただろう。
しかし、目の前の痴態の主は親子、しかも嬌声の主である老人は会計士として輝かしい経歴と実績を持ち、山岡自身も尊敬するあの唐澤洋。そして、もう一人の男は、山岡ともに法律事務所クロスを営む、弁護士唐澤 貴洋だったのだ。
ブラインドが降ろされ、嬌声が低く響き光も届かない事務所の中、唯一声をあげない山岡は心中で悲痛な叫びをあげながら祈るのであった、「声なき声に力を」と。
挿絵
リンク
- 初出 - デリュケー 「声なき声に力を」(魚拓)
恒心文庫