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恒心文庫:「ロイヤー旅行記」

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

あの不思議な国を知ってるかって?
知ってる。知ってるよ。僕は直接体験したこともあるしね。君は行ったことないだろう?僕はあるよ。
……え、気になるかい?

まず僕が誰かって?まあ初対面だもんね…
「私はいろいろ不思議な国を旅行して、さまざまの珍しいことを見てきた者です。名前は……」
いや、いや、いいじゃないか、堅苦しい挨拶は。名前なんて無くてもいい。むしろない時の方がいい時だってある。

まあそんなわけで色々な国を旅行した僕だけど、そんな中でも、やっぱりとても不思議な所だったよ、あの国は。
あれは僕が船医としてボロボロの船に乗り込んだ時かな。その船が遭難してしまってね。僕はとても汚らしい、不愉快な島で過ごさざるをえなかったんだ。
その島は、狭くて標高が高い島だった。
それにも関わらず人が一杯いたものだから、漂流者の僕はたちまち見つかってしまったんだ。最も、攻撃されることもなく、助けられることもなかったから見つからなくても変わらなかったけどね。(住民は全員嫌な奴だったけど、野蛮じゃなかったのが幸いだったね。)

数日ぶらぶらしながら過ごしていた僕だけど、とても不思議な国だってことがわかったんだ。(後でそれを記録しようとしたら、手帳を破かれカメラを壊され、散々な目にあったよ。自分達は記録したい放題だったのにね。そんなわけで、僕は話をすることしかできない。ごめんね。)
まずおかしなことだったのが、多くの人が住んでいるのに、一部の人間が広い農地を持っていて、他の人々は皆狭い農地でやりくりしてるってことだ。かわいそうだよね。
ついでおかしなことは、狭い農地の人も広い農地の人も、みんなお金持ちだったってことさ。どいつもこいつも真面目な顔して、貰えるものは貰ってるってわけ。笑っちゃうよね。
でもね、一番おかしなことは…彼らの金銭の源である、果物や農作物達が喋ることだった。

いや、本当に喋るんだ。農作物だけじゃなくって、種だって言葉を発する。

僕がとりあえず生活の拠点としたのは、島の端っこでね。そこにある狭い農場では、若い人達がそれぞれ果物を作っていたんだけど。とっても酷い有り様なんだ、これが。
なにがひどいって?

それはね、果物達があげる悲鳴がかわいそうで、見てられないんだ。そんな哀れな声をあげる果物達から、農家達は容赦なく金を搾り取る。(何処かに輸出してるのかな。結構儲かるみたいだ。)
悲鳴をあげてる果物達だけど、彼らも種の時はちょっと幸せそうなんだ。期待と不安が入り混じった、そんな感じのことを喋っているのを僕は聞いた。
しかし、彼らは雑に撒かれると…ずーーっと待たされた挙句、歪な形の芽を生やして、醜い果実に育っていく。そのあまりの酷さに嘆く果物ったら、もうないね。
たまに綺麗な果物もいるんだけどね。そういう果物も、歪んだ作物と一緒に金になっていく。
(ところがね、島の中央にいる、大農家達は違うんだ。作り方が違うのかな。種から作物まで、みんな幸せそうだ。皆一様に綺麗な作物で、高い値が付くのも納得だ。)

さて、島の周辺部で雑な作業を見ていた僕だけど、農家のあまりの酷さについつい口を出してしまった。
「いくら何でも酷すぎないか。まず、果物達がかわいそうじゃないか」とね。
そうしたら、若い農家達はこんな風に返してきた。
「果物の悲鳴は聞こえないふりをしている。そもそも、高い値段が付くからそれでいいじゃないか。俺は嫌な思いしてないから。」
呆れた返答だ。だけど、二個目の返答には僕も思わず唸ってしまった。

「お前は島の中央の大農家達の果物を見て、そんなことを行ったのか?」
「確かに彼らの果物はかわいそうじゃない。悲鳴もあげないしね。だけどそれは、良い土地を一人占めにしてるからだ。先に来たというだけで、俺たちに豊かな土地を分け与えない。」

もちろん、ただの言い訳だろう。もし彼らが良い土地を貰ったとしても、多分彼らは悲鳴をあげる果実ばかり作るだろうから。
でも僕は少しだけ、一理あると思ってしまったんだ。
だから言ってやった。
「君達の言うことも一理ある。手伝ってあげるから、一緒に中央の人達に抗議しにいかないか?」ってね。(我ながら勇気のある提案をしたと思うよ。)
しかし彼らは乗り気じゃなかった。
だだをこねて、行くことを避けた。面倒くさいのか、中央の人の言いなりになっているのか、怖いのかはわからなかった。

この島には"抗議の道"と呼ばれる、大昔に作られた、周辺部から中央に真っ直ぐ伸びる道路があったらしい。
しかし牙を折られた周辺部に住む農民達は、人口が増えたのにも関わらず誰もその道を通って抗議しに行こうとはしなかったようだ。
「もうずっと使われてないよ。」と若い農民は言っていた。
僕は何となくむかっ腹が立ってきて、その道を通って一人で抗議に行ってやろうと思った。

でも、いざ”抗議の道”を目の前にして、僕は愕然としたよ。
一目でずっと使われてないってことがわかった。埃が溜まった道なんて初めて見たよ。
その時気付いたんだ。この島には雨が降ったことがないってことに。
そう、雨。埃やら汚れやらを、自ずから浄化してくれる作用を持つ、雨。

ほとんど誰も見たことがない、このいびつで不思議な島には、雨が一度も降ったことがなかったんだね。

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