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恒心文庫:殺意

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

帰宅途中、電柱の影に怪しい人影を見つける。こちらをのぞき見ているその人影の手には、キラリと光るナイフが見えた。
ついに来たか。当職は鞄の中から催涙スプレーを取り出し、いつでも噴射できるように握った。
電柱を通り過ぎようとしたときである。男が姿勢を低くしナイフを構え、当職に向かってきた。
当職は素早く催涙スプレーを相手の顔に向けるとその顔めがけて噴射した。
相手は当職の思わぬ反撃に怯み顔を押さえてナイフを落とした。
当職はそのナイフを蹴り飛ばすと、悶絶している相手を組み伏せ、身柄を拘束した。
「当職に何の用ナリか?」
当職は尋ねる。しかし、男は答えない。
「言うナリよ」
相手は口をつぐんだままだ。これでは埒が明かない。仕方がないので相手の指を一本落とした反対にグググッと曲げ折ろうとした時である。
「わ、分かった!言う!」
相手はやっと口を開いた。
「で、何の用ナリか?」
「殺そうとしたんだ」
やはりか。しかし、相手には見覚えはない。
「なぜナリか?君から恨みを買った覚えはないナリが」
「頼まれたんだ」
なるほど、依頼殺人か。面識のある人間が殺してしまうと怨恨の線から捜査され捕まってしまうかもしれない。
だが、まったく無関係の人間に殺させてその間に自分はアリバイを作っておけば疑われることはなく、通り魔かなにかとして処理される。
この男を警察に突き出し、法の裁きを受けさせようと一瞬思ったがすぐに取りやめた。
「誰に頼まれたナリか?言えば君のことは警察には黙っておくナリ」
法の裁きなど生ぬるい。あんなんだから犯罪者どもは更生しないんだよ。
私刑がふさわしい。たっぷりいじめ抜いて、恐怖を植え付けてやる。当職に歯向かうことはできないという恐怖をな。
「はやく言うナリ」
そう当職が言うと男はある一人の人物の名前を口にした。その名前にも聞き覚えはなく、恨みを買った記憶はないを
更に連絡先と特徴などを聞き出し、メモをとり、当職は男を解放した。
「二度と当職の前に姿を出してみろ。殺すぞ。ナリ」
金で動いたのだろう。当職に恨みがない人間だ。そんな人間だから殺す瞬間少しためらいが生まれ、今回のように失敗をするのだ。
翌日、メモをした情報をもとに依頼主の居場所を突き止めた。後をつけ、人気のない路地に入ったところを見計らい、後ろから襲いかかる。
手と首を抑え塀に押し付け、耳元で囁く。
「お前、当職の殺害依頼をしたナリな?」
首の抑えをゆるめ声を出せるようにしてやる。
「答えろナリ」
そう言いながら、腕のロックをきつくしていくと、やっと答えた。
「ああ、俺が頼んだ」
正直な奴だ。さて、どんな私刑をしてやろうか。弟にしてやったのがいいかもしれない。
しかし、こいつは一体どうして当職のことを殺す依頼をしたのだろうか。
「お前、どうして当職を殺そうとしたナリか?」
相手の答えは驚くべきものだった。
「頼まれたんだ」
なんということだ。こいつも人に頼まれたというのか。そして、それを更に人に投げたということか。
当職のことを殺そうとしているやつがいることにも驚きだが、殺人の依頼をやすやすと受諾する奴がこんなに多いのも驚きだ。
「誰に頼まれたナリか?」
当職はその男から依頼主の情報を聞き出すとメモをし男を解放した。
さて、明日はこの依頼主を追うことになるな。

はじめにナイフを向けられてから既に十年以上が経つ。しかしそれでも当職は、一番初めに当職の殺人を依頼した奴にたどり着いていない。
捕まえた人間はみな、自分は依頼されたのだと口にする。そしてその依頼主を辿っても、やはり依頼されたのだというのだ。
依頼主の情報を書いたメモ帳は既に数百冊目に入っている。
まだ、一体誰が最初の依頼主なのかはわかっていないが、どうやら世界の全員が当職を殺したがっているということはおぼろげながらわかってきた。

(終了)

この作品について

星新一の「包囲」のオマージュである。

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