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「東京地方裁判所令和3年(ワ)第9794号」の版間の差分

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>チー二ョ
>チー二ョ
(ごめんなさい、浄風会ではなく浄風園です。当職無能)
 
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東京都中野区 〈以下省略〉<br>
東京都中野区 〈以下省略〉<br>
原 告 社 会 福 祉 法 人 [[中野江古田病院|×]]<br>
原 告 社 会 福 祉 法 人 [[中野江古田病院|×]]<br>
同 代 表 者 理 事 長 [[山岡裕明(弁護士)|A]]<br>
同 代 表 者 理 事 長 A<ref>[[中野江古田病院]]の母体である社会福祉法人浄風園の理事長のこと</ref><br>
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 [[町田力|B]]<br>
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 [[町田力|B]]<ref>名前が開示されていないため、今回の裁判は町田と長野(この当時はまだ長野は静岡弁護士会に所属していたため復代理人)2人のみで行った可能性が高い、あるいは山岡と長野か、別の判例集開示などの事実追及が待たれる。いずれにしろ山岡も関わっていることは間違いない</ref><br>
同 訴 訟 復 代 理 人 弁 護 士 [[長野英樹|C]]<br>
同 訴 訟 復 代 理 人 弁 護 士 [[長野英樹|C]]<br>
東京都渋谷区〈以下省略〉<br>
東京都渋谷区〈以下省略〉<br>
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同訴訟代理人弁護士 松本裕之<br>
同訴訟代理人弁護士 松本裕之<br>
同 藤原邦仁<br>
同 藤原邦仁<br>
===主 文===
===主 文===
'''1'''  被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。<br>
'''1'''  被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。<br>
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====第2 事案の概要====
====第2 事案の概要====
=====1  事案の要旨 =====
=====1  事案の要旨 =====
本件は, 原告がツイ ッター (Twitter。 イ ンターネットを利用 してツイ ー トと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク) 上に, 氏名不詳者(以下 「本件発信者」 という。) がした投稿によって権利を侵害されたと主張する原告が,本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を行使するため, 当該投稿の発信者がその発信のために利用した経由プロバイダである被告に対し, 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 (以下 「法」 という。) 4条1項に基づき, 別紙発信者情報目録記載の各情報 (以下 「本件情報」 という。) の開示を求める事案である。
本件は, 原告がツイッター(Twitter。 インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)上に,氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がした投稿によって権利を侵害されたと主張する原告が,本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を行使するため,当該投稿の発信者がその発信のために利用した経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき, 別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件情報」という。)の開示を求める事案である。
 
=====2  前提事実 (後掲の証拠等により容易に認められる事実)=====
=====2  前提事実 (後掲の証拠等により容易に認められる事実)=====
======(1) 当事者======
======(1) 当事者======
原告は, 東京都中野区において 「a病院」 (以下 「本件病院」 という。) を開設し, 運営する社会福祉法人である。<br>
原告は,東京都中野区において「a病院」(以下「本件病院」という。)を開設し,運営する社会福祉法人である。<br>
被告は, 電気通信事業法に定める電気通信事業等を目的とする株式会社であり, 特定電気通信役務提供者 (法2条3号) に該当する。(甲1, 甲2, 弁論の全趣旨)
被告は,電気通信事業法に定める電気通信事業等を目的とする株式会社であり,特定電気通信役務提供者(法2条3号)に該当する。甲1,甲2,弁論の全趣旨)
======(2) 本件各投稿記事の内容======
======(2) 本件各投稿記事の内容======
本件発信者は, ツイッター上に,「E」(@○ ○)との名称でアカウント (以下 「本件アカウント」 という。)を開設し,別紙投稿記事目録の各 「投稿日時」 欄に各 「投稿内容」 欄記載のとおりの各記事の投稿をした (以下,同目録に沿って「本件投稿1」などといい,各投稿を「本件各投稿」と総称する。 なお,本件各投稿に係る閲覧用URLなどその詳細は,別紙投稿記事目録記載のとおりである。)。(甲3,甲9の1 ~ 9の3)
本件発信者は,ツイッター上に,「E」(@○ ○)との名称でアカウント(以下 「本件アカウント」という。)を開設し,別紙投稿記事目録の各 「投稿日時」欄に各「投稿内容」 欄記載のとおりの各記事の投稿をした (以下,同目録に沿って「本件投稿1」などといい,各投稿を「本件各投稿」と総称する。 なお,本件各投稿に係る閲覧用URLなどその詳細は,別紙投稿記事目録記載のとおりである。)。(甲3,甲9の1 ~ 9の3)
====== (3) 本件訴訟に至る経緯 ======
====== (3) 本件訴訟に至る経緯 ======
原告は, ツイッターを運営するb社から, 本件アカウントにログインした際のアイ・ピーアドレス及びタイムスタンプに係る仮の開示決定に基づき同開示を受けた。これにより特定された上記アイ・ピーア ドレス(別紙発信者情報目録記載のIPアドレス。 以下「本件IPアドレス」 という。) の保有者であるc株式会社から,発信者情報の開示を命ずる判決に基づき, 本件IPアドレスのうち令和2年4月16日午前4時41分02秒(日本時間)に保有していた者が被告であるとの開示を受けた。(甲4~甲8)
原告は,ツイッターを運営するb社から,本件アカウントにログインした際のアイ・ピーアドレス及びタイムスタンプに係る仮の開示決定に基づき同開示を受けた。これにより特定された上記アイ・ピーア ドレス(別紙発信者情報目録記載のIPアドレス。以下「本件IPアドレス」 という。)の保有者であるc株式会社から,発信者情報の開示を命ずる判決に基づき,本件IPアドレスのうち令和2年4月16日午前4時41分02秒(日本時間)に保有していた者が被告であるとの開示を受けた。(甲4~甲8)
====== (4) 被告の開示関係役務提供者該当性 ======
====== (4) 被告の開示関係役務提供者該当性 ======
被告は, 法4条1項所定の 「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」 (開示関係役務提供者) に該当する。(争いがない)
被告は,法4条1項所定の 「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(開示関係役務提供者)に該当する。(争いがない)
====== (5) 被告が提供するインターネット接続サービスの概要 ======
====== (5) 被告が提供するインターネット接続サービスの概要 ======
被告が提供するインターネット接続サービスは,マンション一棟全体を対象とするものであって,本件各投稿の各日時に用いられたグローバル・アイ・ピー・アドレスが割り当てられたのは, マンション一棟 (以下 「本件マンション」 という。) を全体とする共用ネットワーク機器であり, 当該機器の管理者は本件マンションの管理組合法人である。(弁論の全趣旨 〔被告準備書面(1),(2)〕)
被告が提供するインターネット接続サービスは,マンション一棟全体を対象とするものであって,本件各投稿の各日時に用いられたグローバル・アイ・ピー・アドレスが割り当てられたのは, マンション一棟(以下 「本件マンション」という。)を全体とする共用ネットワーク機器であり,当該機器の管理者は本件マンションの管理組合法人である。弁論の全趣旨 〔被告準備書面(1),(2)〕)
=====3 本件における争点=====
=====本件における争点=====
本件における争点は, ① 本件各投稿により原告の名誉が殴損されるか否か (権利侵害の明白性の有無) 及び② ログイン情報の 「権利の侵害に係る発信者情報」 該当性であって,これらの争点に関する当事者の主張は,要旨,次のとおりである。
本件における争点は, ① 本件各投稿により原告の名誉が殴損されるか否か (権利侵害の明白性の有無)及び② ログイン情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性であって,これらの争点に関する当事者の主張は,要旨,次のとおりである。
======(1) 争点① (権利侵害-の明白性の有無) について ======
======(1) 争点① (権利侵害の明白性の有無)について ======
'''(原告の主張(1))'''
'''(原告の主張(1))'''
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'''(原告の主張(2))'''
'''(原告の主張(2))'''
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被告提供のインターネット接続サービスの内容からすれば, 通常は,同サービスを利用して本件各投稿をした者は本件マンションの居住者であると考えられるし,本件では,現に本件投稿がされた直前のログイン時間は午前4時台であり,それ以外のログイン時間も午前6時~8時台という早朝の時間であることからすれば, 本件投稿をした者が本件マンションの居住者である蓋然性は高いといえる。
被告提供のインターネット接続サービスの内容からすれば,通常は,同サービスを利用して本件各投稿をした者は本件マンションの居住者であると考えられるし,本件では,現に本件投稿がされた直前のログイン時間は午前4時台であり,それ以外のログイン時間も午前6時~8時台という早朝の時間であることからすれば,本件投稿をした者が本件マンションの居住者である蓋然性は高いといえる。
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そして, 本件投稿1が原告の職員の立場から本件病院の内部状況について投稿されたものであるからすると,被告の保有する情報 (前記管理組合法人の名称及び住所地),すなわち本件情報と原告が保有する職員情報との照合により,本件発信者を特定することができる。また,本件情報の開示が原告による損害賠償請求権の行使に不可欠である上,被告が上記情報を開示することにより, 個人情報の保護に関する法律に抵触等することもない。
そして,本件投稿1が原告の職員の立場から本件病院の内部状況について投稿されたものであるからすると,被告の保有する情報(前記管理組合法人の名称及び住所地),すなわち本件情報と原告が保有する職員情報との照合により,本件発信者を特定することができる。また,本件情報の開示が原告による損害賠償請求権の行使に不可欠である上,被告が上記情報を開示することにより,個人情報の保護に関する法律に抵触等することもない。
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よって,原告が開示を求める本件情報は,法4条1項所定の 「権利の侵害に係る発信者情報」 に当たる。
よって,原告が開示を求める本件情報は,法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる。
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'''(被告の主張(2))'''
'''(被告の主張(2))'''
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被告として, 特定のインターネット接続が本件マンション内のいずれの居室から行われたのかを特定する手段がなく, 被告の保有する前記情報では本件発信者を特定し得ない。 加えて, 原告の主張(2)のうち, 本件各投稿をした者が本件マンションの居住者であるとの蓋然性を指摘する点についても, 同居住者からパスワードの教示を受けるなどして上記接続サービスを利用した投稿が可能であることなどからすれば,結局,本件情報は 「権利の侵害に係る発信者情報」 の前提としての 「侵害情報の発信者の特定に資する情報」 ともいえず,開示を求める正当な理由がない。
被告として,特定のインターネット接続が本件マンション内のいずれの居室から行われたのかを特定する手段がなく,被告の保有する前記情報では本件発信者を特定し得ない。 加えて,原告の主張(2)のうち,本件各投稿をした者が本件マンションの居住者であるとの蓋然性を指摘する点についても,同居住者からパスワードの教示を受けるなどして上記接続サービスを利用した投稿が可能であることなどからすれば,結局,本件情報は 「権利の侵害に係る発信者情報」の前提としての「侵害情報の発信者の特定に資する情報」ともいえず,開示を求める正当な理由がない。
====第3 当裁判所の判断====
====第3 当裁判所の判断====
===== 1 争点① (権利侵害の明白性の有無) について=====
===== 1 争点① (権利侵害の明白性の有無) について=====
====== (1) 本件投稿1について ======
====== (1) 本件投稿1について ======
'''ア''' (ア) 本件投稿1は,これに先立ち本件病院において新型コロナウイ ルスの院内感染が発生していたこと(甲11~甲13) を前提として,「コロナウイルスについての公表が遅い,説明が少ない。今,院内でも同じ事が起きている。 何の報告も無い, 責任者は職員に何も説明してくれない。 職員は不安を抱えながら仕事をしている。 責任者はすべて保健所のせいにしようと しています。」 と記載するものである。
'''ア''' (ア) 本件投稿1は,これに先立ち本件病院において新型コロナウイルスの院内感染が発生していたこと(甲11~甲13) を前提として,「コロナウイルスについての公表が遅い,説明が少ない。今,院内でも同じ事が起きている。何の報告も無い,責任者は職員に何も説明してくれない。職員は不安を抱えながら仕事をしている。責任者はすべて保健所のせいにしようとしています。」 と記載するものである。
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一般の閲覧者の普通の注意と読み方をした場合,病院という新型コロナウイルス感染症患者と接触する機会の多い職場において,院内感染が発生しているにもかかわらず,本件病院の責任者は職員に対し,職員の感染リスクを抑えるための措置としての必要な説明をしていないとの事実を摘示するものと解される。
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一般の閲覧者の普通の注意と読み方をした場合, 病院という新型コロナウイルス感染症患者と接触する機会の多い職場において, 院内感染が発生しているにもかかわらず, 本件病院
なお,上記摘示部分のうち,院内感染の発生状況の公表(報告)が遅いとの事実については,原告自身もホームページで謝意を表明するところではあるが(甲12),本件投稿1を総じてみると,結局のところ,本件病院の責任者が職員に対する安全配慮義務 (労働契約法5条<ref>第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。</ref>)を果たしていない違法があるとの印象を一般の閲覧者に与えるものであり,原告の社会的評価を低下させるものであるといえる。
の責任者は職員に対し, 職員の感染リスクを抑えるための措置としての必要な説明をしていないとの事実を摘示するものと解される。
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なお, 上記摘示部分のうち, 院内感染の発生状況の公表 (報告) が遅いとの事実については, 原告自身もホームページで謝意を表明するところではあるが (甲12), 本件投稿1を総じてみると, 結局のところ, 本件病院の責任者が職員に対する安全配慮義務 (労働契約法5条<ref>第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
(イ)本件投稿1がされた時点における社会情勢に照らし,新型コロナウイルス感染症の感染状況についての客観的な情報の開示自体は一定の公共性や公益性があるとしても,本件投稿1は,専ら本件病院内における職員に対する姿勢について論難するものであって,これ自体について直ちに公共性や公益性が認められるとまではいえないし,この点をおいても,原告が本件投稿1に先立つ令和2年4月14日に本件病院における院内感染の事実をホームページで公開し,同年3月26日以降,職員及び患者に対するPCR検査の実施,その旨の公表などの所要の措置を講じていること(甲12,甲13,弁論の全趣旨)によれば,本件投稿こついて違法性阻却事由があることをうかがわせる事情もないというべきである。
</ref>) を果たしていない違法があるとの印象を一般の閲覧者に与えるものであり, 原告の社会的評価を低下させるものであるといえる。
(イ) 本件投稿1がされた時点における社会情勢に照らし, 新型コロナウイルス感染症の感染状況についての客観的な情報の開示自体は一定の公共性や公益性があるとしても, 本件投稿1は, 専ら本件病院内における職員に対する姿勢について論難するものであって, これ自体について直ちに公共性や公益性が認められるとまではいえないし, この点をおいても, 原告が本件投稿1に先立つ令和2年4月14日に本件病院における院内感染の事実をホームページで公開し, 同年3月 2 6日以降, 職員及び患者に対するPCR検査の実施, その旨の公表などの所要の措置を講じていること (甲12, 甲13, 弁論の全趣旨) によれば, 本件投稿 目こついて違法性阻却事由があることをうかがわせる事情もないというべきである。
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'''イ''' したがって, 本件投稿1は, 原告の権利 を侵害することが明 らかである。
'''イ''' したがって,本件投稿1は,原告の権利を侵害することが明らかである。
====== (2) 本件投稿2について ======
====== (2) 本件投稿2について ======
'''ア''' 本件投稿2は, 原告が本件病院に土下座を強要しているとの事実を摘示し,かつ,院内感染に対する事実の公表内容が薄すぎるとの事実を摘示し,隠ぺいとの意見を表明するものと解される。
'''ア''' 本件投稿2は,原告が本件病院に土下座を強要しているとの事実を摘示し,かつ,院内感染に対する事実の公表内容が薄すぎるとの事実を摘示し,隠ぺいとの意見を表明するものと解される。
一般の閲覧者の普通の注意と読み方をした場合, 本件病院では職員に対するパワー・ハラスメントがあり, 原告が職場環境への配慮を欠くのみならず, 職員の尊厳を損ねる行為をす
一般の閲覧者の普通の注意と読み方をした場合,本件病院では職員に対するパワー・ハラスメントがあり,原告が職場環境への配慮を欠くのみならず,職員の尊厳を損ねる行為をするとの印象,また,院内感染等の事実をおろそかにする不誠実な病院であるとの印象をそれぞれ与えるものであり,原告の社会的評価を低下させるものである。
るとの印象,また,院内感染等の事実をおろそかにする不誠実な病院であるとの印象をそれぞれ与えるものであり,原告の社会的評価を低下させるものである。
そして,これらの事実が真実であることをうかがわせる証拠は見当たらず,かえって前記(1)ア (イ) の認定判断も併せ考慮すれば, 本件投稿2について違法性阻却事由があること
そして,これらの事実が真実であることをうかがわせる証拠は見当たらず,かえって前記(1)ア (イ) の認定判断も併せ考慮すれば, 本件投稿2について違法性阻却事由があること
をうかがわせる事情はないというべきである。
をうかがわせる事情はないというべきである。
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'''イ''' したがって, 本件投稿2は, 原告の権利 を侵害することが明らかである。
'''イ''' したがって,本件投稿2は,原告の権利を侵害することが明らかである。
====== (3) 本件投稿3について ======
====== (3) 本件投稿3について ======
'''ア''' 本件投稿3は,院内感染の事実を発表してから1週間も経過していないのに, 院内又は院外向けの情報開示をしておらず,隠ぺいを図っているとの事実を摘示するものであって,前説示と同様,原告の社会的評価を低下させるものと認められるところ,かかる事実が真実であることをうかがわせる証拠は見当たらず,かえって前記(1)ア (イ) の認定判断
'''ア''' 本件投稿3は,院内感染の事実を発表してから1週間も経過していないのに,院内又は院外向けの情報開示をしておらず,隠ぺいを図っているとの事実を摘示するものであって,前説示と同様,原告の社会的評価を低下させるものと認められるところ,かかる事実が真実であることをうかがわせる証拠は見当たらずzかえって前記(1)ア (イ) の認定判断も併せ考慮すれば,本件投稿3について違法性阻却事由があることをうかがわせる事情はないというべきである。<br>
も併せ考慮すれば,本件投稿3について違法性阻却事由があることをうかがわせる事情はないというべきである。<br>
'''イ''' したがって,本件投稿3は,原告の権利を侵害することが明らかである。
'''イ''' したがって, 本件投稿3は, 原告の権利を侵害することが明らかである。
===== 2 争点② (ログイン情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)について =====
===== 2 争点② (ログイン情報の 「権利の侵害に係る発信者情報」 該当性) について =====
(1)法4条1項は,「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており,「係る」 という文言を用いていること,また,同法の趣旨等に照らすと,法4条1項の 「権利の侵害に係る発信者情報」 とは, 侵害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限定されることなく,権利侵害との結びつきがあり,権利侵害者の特定に資する通信から把握される発信者情報を含むと解するのが相当である。
(1) 法4条1項は,「権利の侵害に係る発信者情報」 と規定しており,「係る」 という文言を用いていること,また,同法の趣旨等に照らすと,法4条1項の 「権利の侵害に係る発信者情報」 とは, 侵害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限定されることなく,権利侵害との結びつきがあり,権利侵害者の特定に資する通信から把握される発信者情報を含むと解するのが相当である。
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(2) そこで検討するに,① 本件各投稿は, 被告が提供した本件マンション全体とする共用ネットワーク機器 (管理者は本件マンションの管理組合法人) に係るインターネット回線を利用してされたものであるところ,本件マンションの詳細は明らかではないが,一般論として,本件発信者は,同回線を自由に使用し得る本件マンションの居住者である可能性が高いといえる上,② 特に本件においては,原告が指摘するとおり,本件各投稿日(令和2年4月16日)の直前にログインされたのが午前4時41分頃であり,これ以外で本件各投稿日に近接する日のログイン時間も午前6時台~午前8時台であること(甲5,甲7,甲8,弁論の全趣旨)などからすると,本件発信者が本件マンションに居住する可能性は相当程度高いといえる (少なくとも,第三者がこの時間帯に,居住者からパスワードの教示を受けてログインするとの可能性は低い。)。
(2) そこで検討するに,① 本件各投稿は, 被告が提供した本件マンション全体とする共用ネットワーク機器 (管理者は本件マンションの管理組合法人) に係るインターネット回線を利用してされたものであるところ,本件マンションの詳細は明らかではないが,一般論として,本件発信者は,同回線を自由に使用し得る本件マンションの居住者である可能性が高いといえる上,② 特に本件においては,原告が指摘するとおり,本件各投稿日(令和2年4月16日)の直前にログインされたのが午前4時41分頃であり,これ以外で本件各投稿日に近接する日のログイン時間も午前6時台~午前8時台であること(甲5,甲7,甲8,弁論の全趣旨)などからすると,本件発信者が本件マンションに居住する可能性は相当程度高いといえる (少なくとも,第三者がこの時間帯に,居住者からパスワードの教示を受けてログインするとの可能性は低い。)。
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そして,③ 本件各投稿,特に本件投稿1は,いずれも本件病院の内部情報に触れるものであり,投稿者が本件病院の職員であることを示唆するものであること (なお,本件各投稿後も本件アカウントを用いて本件病院の内部情報に触れた投稿が繰り返されている 〔甲3,弁論の全趣旨〕。) からすると,原告が保有する職員情報等を前提として,被告が保有する本件情報の開示によって本件発信者を特定することが可能であるといえる。
そして,③ 本件各投稿,特に本件投稿1は,いずれも本件病院の内部情報に触れるものであり,投稿者が本件病院の職員であることを示唆するものであること (なお,本件各投稿後も本件アカウントを用いて本件病院の内部情報に触れた投稿が繰り返されている 〔甲3,弁論の全趣旨〕。) からすると,原告が保有する職員情報等を前提として,被告が保有する本件情報の開示によって本件発信者を特定することが可能であるといえる。
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以上のような本件における特殊事情に鑑みれば, 本件情報は, 法4条1項所定の「侵害情報の発信者の特定に資する情報」であって,同項所定の 「当該権利の侵害に係る発
以上のような本件における特殊事情に鑑みれば,本件情報は,法4条1項所定の「侵害情報の発信者の特定に資する情報」であって,同項所定の 「当該権利の侵害に係る発信者情報」 に当たるものと解して差し支えない。
信者情報」 に当たるものと解して差し支えない。
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よって, 被告の主張(2)は, 採用することができない。
よって,被告の主張(2)は,採用することができない。
===== 3 小 括 =====
===== 3 小 括 =====
そして,前記認定説示のほか,原告が本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求の準備をしており,そのために本件情報が必要であることは明らかであるから (弁論の全趣旨),開示請求の要件をいずれも満たすものと認められる。
そして,前記認定説示のほか,原告が本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求の準備をしており,そのために本件情報が必要であることは明らかであるから(弁論の全趣旨),開示請求の要件をいずれも満たすものと認められる。
====第4 結論====
====第4 結論====
以上によれば, 原告の請求は理由があるからこれを認容することとし, 訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
以上によれば, 原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
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東京地方裁判所民事第32部
東京地方裁判所民事第32部
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*[[町田力]]
*[[町田力]]
*[[長野英樹]]
*[[長野英樹]]
*[[ファイル:令3 (ワ) 97 94号.pdf]]
{{山岡裕明}}
{{山岡裕明}}
[[カテゴリ:山岡裕明]]
[[カテゴリ:山岡裕明]]

2023年1月8日 (日) 23:25時点における最新版

山岡裕明 > 東京地方裁判所令和3年(ワ)第9794号

全文

判 決

東京都中野区 〈以下省略〉
原 告 社 会 福 祉 法 人 ×
同 代 表 者 理 事 長 A[1]
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 [2]
同 訴 訟 復 代 理 人 弁 護 士
東京都渋谷区〈以下省略〉
被 告 株 式 会 社 Y
同 代 表 者 代 表 取 締 役 D
同訴訟代理人弁護士 松本裕之
同 藤原邦仁

主 文

被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
訴訟費用 は,被告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

主文同旨

第2 事案の概要

1 事案の要旨

本件は, 原告がツイッター(Twitter。 インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)上に,氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)がした投稿によって権利を侵害されたと主張する原告が,本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を行使するため,当該投稿の発信者がその発信のために利用した経由プロバイダである被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき, 別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件情報」という。)の開示を求める事案である。

2 前提事実 (後掲の証拠等により容易に認められる事実)
(1) 当事者

原告は,東京都中野区において「a病院」(以下「本件病院」という。)を開設し,運営する社会福祉法人である。
被告は,電気通信事業法に定める電気通信事業等を目的とする株式会社であり,特定電気通信役務提供者(法2条3号)に該当する。甲1,甲2,弁論の全趣旨)

(2) 本件各投稿記事の内容

本件発信者は,ツイッター上に,「E」(@○ ○)との名称でアカウント(以下 「本件アカウント」という。)を開設し,別紙投稿記事目録の各 「投稿日時」欄に各「投稿内容」 欄記載のとおりの各記事の投稿をした (以下,同目録に沿って「本件投稿1」などといい,各投稿を「本件各投稿」と総称する。 なお,本件各投稿に係る閲覧用URLなどその詳細は,別紙投稿記事目録記載のとおりである。)。(甲3,甲9の1 ~ 9の3)

(3) 本件訴訟に至る経緯

原告は,ツイッターを運営するb社から,本件アカウントにログインした際のアイ・ピーアドレス及びタイムスタンプに係る仮の開示決定に基づき同開示を受けた。これにより特定された上記アイ・ピーア ドレス(別紙発信者情報目録記載のIPアドレス。以下「本件IPアドレス」 という。)の保有者であるc株式会社から,発信者情報の開示を命ずる判決に基づき,本件IPアドレスのうち令和2年4月16日午前4時41分02秒(日本時間)に保有していた者が被告であるとの開示を受けた。(甲4~甲8)

(4) 被告の開示関係役務提供者該当性

被告は,法4条1項所定の 「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(開示関係役務提供者)に該当する。(争いがない)

(5) 被告が提供するインターネット接続サービスの概要

被告が提供するインターネット接続サービスは,マンション一棟全体を対象とするものであって,本件各投稿の各日時に用いられたグローバル・アイ・ピー・アドレスが割り当てられたのは, マンション一棟(以下 「本件マンション」という。)を全体とする共用ネットワーク機器であり,当該機器の管理者は本件マンションの管理組合法人である。弁論の全趣旨 〔被告準備書面(1),(2)〕)

3 本件における争点

本件における争点は, ① 本件各投稿により原告の名誉が殴損されるか否か (権利侵害の明白性の有無)及び② ログイン情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性であって,これらの争点に関する当事者の主張は,要旨,次のとおりである。

(1) 争点① (権利侵害の明白性の有無)について

(原告の主張(1))
別紙 「4 発信者情報開示請求権の存在」 記載のとおり
(被告の主張(1))
いずれも不知

(2) 争点② (ログイン情報の 「権利の侵害に係る発信者情報」 該当性) について

(原告の主張(2))
被告提供のインターネット接続サービスの内容からすれば,通常は,同サービスを利用して本件各投稿をした者は本件マンションの居住者であると考えられるし,本件では,現に本件投稿がされた直前のログイン時間は午前4時台であり,それ以外のログイン時間も午前6時~8時台という早朝の時間であることからすれば,本件投稿をした者が本件マンションの居住者である蓋然性は高いといえる。
そして,本件投稿1が原告の職員の立場から本件病院の内部状況について投稿されたものであるからすると,被告の保有する情報(前記管理組合法人の名称及び住所地),すなわち本件情報と原告が保有する職員情報との照合により,本件発信者を特定することができる。また,本件情報の開示が原告による損害賠償請求権の行使に不可欠である上,被告が上記情報を開示することにより,個人情報の保護に関する法律に抵触等することもない。
よって,原告が開示を求める本件情報は,法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる。
(被告の主張(2))
被告として,特定のインターネット接続が本件マンション内のいずれの居室から行われたのかを特定する手段がなく,被告の保有する前記情報では本件発信者を特定し得ない。 加えて,原告の主張(2)のうち,本件各投稿をした者が本件マンションの居住者であるとの蓋然性を指摘する点についても,同居住者からパスワードの教示を受けるなどして上記接続サービスを利用した投稿が可能であることなどからすれば,結局,本件情報は 「権利の侵害に係る発信者情報」の前提としての「侵害情報の発信者の特定に資する情報」ともいえず,開示を求める正当な理由がない。

第3 当裁判所の判断

1 争点① (権利侵害の明白性の有無) について
(1) 本件投稿1について

(ア) 本件投稿1は,これに先立ち本件病院において新型コロナウイルスの院内感染が発生していたこと(甲11~甲13) を前提として,「コロナウイルスについての公表が遅い,説明が少ない。今,院内でも同じ事が起きている。何の報告も無い,責任者は職員に何も説明してくれない。職員は不安を抱えながら仕事をしている。責任者はすべて保健所のせいにしようとしています。」 と記載するものである。
一般の閲覧者の普通の注意と読み方をした場合,病院という新型コロナウイルス感染症患者と接触する機会の多い職場において,院内感染が発生しているにもかかわらず,本件病院の責任者は職員に対し,職員の感染リスクを抑えるための措置としての必要な説明をしていないとの事実を摘示するものと解される。
なお,上記摘示部分のうち,院内感染の発生状況の公表(報告)が遅いとの事実については,原告自身もホームページで謝意を表明するところではあるが(甲12),本件投稿1を総じてみると,結局のところ,本件病院の責任者が職員に対する安全配慮義務 (労働契約法5条[3])を果たしていない違法があるとの印象を一般の閲覧者に与えるものであり,原告の社会的評価を低下させるものであるといえる。
(イ)本件投稿1がされた時点における社会情勢に照らし,新型コロナウイルス感染症の感染状況についての客観的な情報の開示自体は一定の公共性や公益性があるとしても,本件投稿1は,専ら本件病院内における職員に対する姿勢について論難するものであって,これ自体について直ちに公共性や公益性が認められるとまではいえないし,この点をおいても,原告が本件投稿1に先立つ令和2年4月14日に本件病院における院内感染の事実をホームページで公開し,同年3月26日以降,職員及び患者に対するPCR検査の実施,その旨の公表などの所要の措置を講じていること(甲12,甲13,弁論の全趣旨)によれば,本件投稿こついて違法性阻却事由があることをうかがわせる事情もないというべきである。
したがって,本件投稿1は,原告の権利を侵害することが明らかである。

(2) 本件投稿2について

本件投稿2は,原告が本件病院に土下座を強要しているとの事実を摘示し,かつ,院内感染に対する事実の公表内容が薄すぎるとの事実を摘示し,隠ぺいとの意見を表明するものと解される。 一般の閲覧者の普通の注意と読み方をした場合,本件病院では職員に対するパワー・ハラスメントがあり,原告が職場環境への配慮を欠くのみならず,職員の尊厳を損ねる行為をするとの印象,また,院内感染等の事実をおろそかにする不誠実な病院であるとの印象をそれぞれ与えるものであり,原告の社会的評価を低下させるものである。 そして,これらの事実が真実であることをうかがわせる証拠は見当たらず,かえって前記(1)ア (イ) の認定判断も併せ考慮すれば, 本件投稿2について違法性阻却事由があること をうかがわせる事情はないというべきである。
したがって,本件投稿2は,原告の権利を侵害することが明らかである。

(3) 本件投稿3について

本件投稿3は,院内感染の事実を発表してから1週間も経過していないのに,院内又は院外向けの情報開示をしておらず,隠ぺいを図っているとの事実を摘示するものであって,前説示と同様,原告の社会的評価を低下させるものと認められるところ,かかる事実が真実であることをうかがわせる証拠は見当たらずzかえって前記(1)ア (イ) の認定判断も併せ考慮すれば,本件投稿3について違法性阻却事由があることをうかがわせる事情はないというべきである。
したがって,本件投稿3は,原告の権利を侵害することが明らかである。

2 争点② (ログイン情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)について

(1)法4条1項は,「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており,「係る」 という文言を用いていること,また,同法の趣旨等に照らすと,法4条1項の 「権利の侵害に係る発信者情報」 とは, 侵害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限定されることなく,権利侵害との結びつきがあり,権利侵害者の特定に資する通信から把握される発信者情報を含むと解するのが相当である。
(2) そこで検討するに,① 本件各投稿は, 被告が提供した本件マンション全体とする共用ネットワーク機器 (管理者は本件マンションの管理組合法人) に係るインターネット回線を利用してされたものであるところ,本件マンションの詳細は明らかではないが,一般論として,本件発信者は,同回線を自由に使用し得る本件マンションの居住者である可能性が高いといえる上,② 特に本件においては,原告が指摘するとおり,本件各投稿日(令和2年4月16日)の直前にログインされたのが午前4時41分頃であり,これ以外で本件各投稿日に近接する日のログイン時間も午前6時台~午前8時台であること(甲5,甲7,甲8,弁論の全趣旨)などからすると,本件発信者が本件マンションに居住する可能性は相当程度高いといえる (少なくとも,第三者がこの時間帯に,居住者からパスワードの教示を受けてログインするとの可能性は低い。)。
そして,③ 本件各投稿,特に本件投稿1は,いずれも本件病院の内部情報に触れるものであり,投稿者が本件病院の職員であることを示唆するものであること (なお,本件各投稿後も本件アカウントを用いて本件病院の内部情報に触れた投稿が繰り返されている 〔甲3,弁論の全趣旨〕。) からすると,原告が保有する職員情報等を前提として,被告が保有する本件情報の開示によって本件発信者を特定することが可能であるといえる。
以上のような本件における特殊事情に鑑みれば,本件情報は,法4条1項所定の「侵害情報の発信者の特定に資する情報」であって,同項所定の 「当該権利の侵害に係る発信者情報」 に当たるものと解して差し支えない。
よって,被告の主張(2)は,採用することができない。

3 小 括

そして,前記認定説示のほか,原告が本件発信者に対する不法行為に基づく損害賠償請求の準備をしており,そのために本件情報が必要であることは明らかであるから(弁論の全趣旨),開示請求の要件をいずれも満たすものと認められる。

第4 結論

以上によれば, 原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第32部
(裁判官 寺岡洋和)

別紙

発信者情報目録

別紙投稿記事目録に係る各投稿記事を投稿した者の使用するアカウントについてログインした際のIPアドレス 「〈省略〉」 を、令和2年4月16日午前4時41分02秒ころ (日本時間)に使用していた電気通信設備を管理する者の下記情報
1 名 称
2 住 所
以上

別紙[4]

4 発信者情報開示請求権の存在

(1) 発信者情報開示請求権の要件

法4条1項は、「特定電気通信による情報の流通によって権利を侵害されたとする者」が、開示関係役務提供者に対し、発信者情報開示をするための要件として、 ① 「侵害情報の流通によって開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(以下、「権利侵害の明白性」という。同項1号)、② 「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」(以下、 「正当理由」 という。 同項2号)を要求している。

(2) 権利侵害の明白性について (①)

権利侵害の明白性とは、 権利侵害の事実のみならず違法性阻却事由の存在を窺わせるような事情が存しないこと (ただし真実相当性については除く。) を指す。

ア 名誉権侵害

ある情報が人格権としての名誉権を鞍損したか否かの判断にあたっては、 当該情報の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるか否かにより判断するものであり、 その際、 一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである。本件投稿は、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合、次のとおり、いずれも原告の社会的評価を低下させるものであり、原告の名誉権が侵害されていることは明らかであり、また、違法性阻却事由の要件を満たすものではない。

イ 本件投稿1について (甲第9号証の1)

本件投稿1は、「コロナウイ ルスについての公表が遅い、 説明が少ない。 今、 院内でも同じ事が起きている。 何の報告も無い、 責任者は何も説明してくれない。 職員は不安を抱えな がら仕事をしている。 責任者はすべて保健所のせいにしようと しています。」 との事実を摘示する。

ここで、 雇用主は労働契約法5条より従業員の生命身体の安全を確保すべき義務 (安全配慮義務) を負っている。 この義務の内容として雇用主は、 労働者の心身の健康を損なうこと がないよう注意し、 それに対して適切な措置を講ずべき義務がある (甲第10号証)。 そして、 病院は感染者に曝露する機会が多いため、 病院内で新型コロナウイルス感染者が出た場合、 職員の感染リスクを避けるための適切な措置として感染予防に必要な事項を説明しなければならないといえる。 本件投稿1がなされた令和2年4月16日時点において、 本病院では院内感染が発生していた (甲11号証)。 これより、 本病院は安全配慮義務に基づ く措置として従業員に対し院内感染の状況等感染予防に必要な事項を説明しなければならない。

そうだとすれば、 上記事実は、 一般の閲覧者をして、 本病院が従業員に対し院内感染の状況等新型コロナウイルス感染予防のために必要な事項を説明しておらず、 安全配慮義務を果たしていない違法な病院であるとの印象を与えるものであり、 本病院の社会的評価を低下させる。

したがって、 本件投稿は1原告の名誉権を侵害する。

ウ 本件投稿2について (甲第9号証の2)

本件投稿2は、 「職員に土下座を強要 している」 との事実を摘示する。これは、 一般の閲覧者を して、 本病院ではパワーハラスメ ントがあり、 本病院が職場環境配慮義務を果たしていない違法な病院であるとの印象を与えるものであり、 本病院の社会的評価を低下させる。
また、 本件投稿2は、 「ホームページの内容で謝罪 したつもりになっているけど、 内容が薄過ぎ」との事実を摘示した上で、「これこそ隠蔽だ。」 との意見を表明する。
これは、 一般の閲覧者をして、 本病院がホームページ上で記載すべき事実があるにもかかわらず、その事実を記載せず隠蔽しており、不誠実な病院であるとの印象を与えるものであ り、 本病院の社会的評価を低下させる。

エ 本件投稿3について (甲第9号証の3)

本件投稿3は、 「集団感染発表 してまだ1週間も経ってないのに今日のお知らせ無し。 これがいつもの隠蔽です。」 との事実を摘示する。
これは、 一般の閲覧者をして、 本病院が集団感染 (院内感染) の発生した責任を免れるために事実を公表しない対応をしており、 不誠実な病院であるとの印象を与えるものであり、 債権者の社会的評価を低下させる。
したがって、 本件投稿3は、 債権者の名誉権を侵害する。
(ア) 真実性について
本件投稿はいずれも真実ではない。
本件投稿1において、 本病院が新型コロナウイルスに関する説明が少ないことや本病院が事実を隠蔽していることが摘示されている。
しかし、 本病院は、 本件投稿1がなされる前の令和2年4月14日にいつ何人の感染者が確認されたかに関する全ての事実をホームページ上で発表している (甲第12号証)。 翌1 5日 (本件投稿が投稿される前日)にも、 本病院は、 職員14名にPCR検査を行ったことやその結果及びその後の対応に関しホームページ上で説明している (甲第13号証)。 このように、 本病院は連日にわたり、 本病院内で発生 した新型コロナウイルス感染に関する必要な情報を説明している。 したがって、本病院が新型コロナウイルスに関する説明が少 ないことや本病院が事実を隠蔽していることはない。
本件投稿2のうち、 本病院が職員に土下座を強要 しているという指摘についても、そのような事実はない。
本件投稿3については、上記のとおり、本病院は連日にわたりホームページ上で事実経過を公表しているし、 毎日職員へ状況説明を行っている。 したがって、 集団感染の事実を隠蔽 していることはない。
(イ) 公共の利害及び公益目的について
本件投稿の記載内容はいずれも一病院に関する内容であり、公共の利害に関する事項とはいえず、 表現方法は根拠を明確に示すことなくただ原告を誹議中傷しており、 積極的な加害 意思しか見て取ることができず、 公益目的も認められない。
したがって、 本件投稿については、 違法性阻却事由の要件を満たすものではない。

ク 小 括

以上からすれば、 原告が、 本件投稿によって名誉権の侵害を受けていることは明白であって、 権利侵害の明白性の要件 (①) を満たす。
(2) 正当事由について (②)
原告は、 本件発信者に対して、 本件投稿に係る名誉鞍損による不法行為に基づく損害賠償(民法709条)を求めるため、被告に対し、本件投稿の発信者の氏名又は名称、住所、電子メールアドレス、 電話番号の開示を求めるものであるから、正当理由の要件も充足している。
以上
〈以下省略〉

開示対象となった書き込み

  • 本件投稿1
https://twitter.com/bJYmVFLbr6609X3/status/1250587863407661056(魚拓)

中野江古田病院

コロナウイルスについての公表が遅い、説明が少ない。
今、院内でも同じ事が起きている。
何の報告も無い、責任者は職員に何も説明してくれない。
職員は不安を抱えながら仕事をしている。
責任者はすべて保健所のせいにしようとしてます。

  • 本件投稿2
https://twitter.com/bJYmVFLbr6609X3/status/1250633976349368325(魚拓)

中野江古田病院

ICDは何をしているんですか?
職員に土下座を強要している暇があったら仕事して下さい。
そして外部・内部に謝罪すべき。
ホームページの内容で謝罪したつもりになっているけど、内容が薄過ぎ。
これこそ隠蔽だ。

  • 本件投稿3
https://twitter.com/bJYmVFLbr6609X3/status/1250748284466946049(魚拓)

中野江古田病院

集団感染発表してまだ1週間も経っていないのに今日のお知らせ無し。
これがいつもの隠蔽です。
お知らせする事あるでしょ?
謝罪する事あるでしょ?
職員、入院してるんですよ?
本当に大丈夫ですか?

註釈

  1. 中野江古田病院の母体である社会福祉法人浄風園の理事長のこと
  2. 名前が開示されていないため、今回の裁判は町田と長野(この当時はまだ長野は静岡弁護士会に所属していたため復代理人)2人のみで行った可能性が高い、あるいは山岡と長野か、別の判例集開示などの事実追及が待たれる。いずれにしろ山岡も関わっていることは間違いない
  3. 第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
  4. 先行する東京地方裁判所令和2年(ワ)第22414号の判決のまとめ

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山岡裕明
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