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「恒心文庫:尊師の足のうら」の版間の差分

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(相違点なし)

2022年4月23日 (土) 06:50時点における版

本文

ぺとぺと

白い部屋
染み一つない布団から
顔だけ出す尊師

半開きにされた口
とめどなく垂れるよだれ
ひくつく鼻
つぶらな目はまばたきすらせず染み一つない天井を映す

終わることのない中傷
絶え間無く注がれる視線
だれも尊師をみない
だれも尊師をみとめない

だから尊師はこうなった
だからぼくはここにいる
ぼくは枕元の吸いのみを手にとると尊師の口元に差し込んだ

力無さげに口がすぼむ
喉が動いて胸が動く
ただそれだけ
尊師は自分で動かない
動けない

しばらくして吸いのみを引き抜く
粘質な音をたてて糸がのびる
だけどそれだけ

数えきれないほどご飯をつくって
数えきれないほど水を飲ませて
数えきれないほどおしめを変えて
だけど何も変わらない
なにもいわない尊師

どうすればいいのかな
どうしたらいいのかな
幾度となく繰り返された行動は
感情と生活をバラバラにしてしまった
無機質にすぎる時間
自分は何をしているんだろうか
自分は何かをしているんだろうか
こうやって尊師も悩んでいたのかな

だから今日はとっておきのプレゼントだよ
子犬を一匹つれてきたんだ
つぶらなおめめのラブラドール
真っ黒な毛並みの小さな子犬
僕だけじゃだめだからアニマルセラピー
これならきっと大丈夫

でもだめだった
カーテンを閉めきった部屋の真ん中ベッドの上で
真っ黒な毛並みに重なる真っ黒な陰毛

重なっては離れ
離れては重なって
曖昧な境界を行き交う尊師とラブラドル
粘質な音だけを残して遊んでる

ぼくはなぜだかシラけてしまった
あそこにいるのはぼくのはずなのに
太陽の下元気になった尊師と手をつなぎ
買い物したかっただけなのに外食したかっただけなのに
またあの頃に戻りたかっただけ
それなのに

あなたの笑顔を見たかった
だけど太陽から隠れるあなた
揺れるお尻
まるで光から逃げる月のよう
カーテンを閉めきった部屋で肉欲に沈む尊師
困った様にこちらを見るラブラドル

ぼくはなぜだか腹がたってしまった
自分で勝手に期待して
勝手に期待が外れてて
腹が立って下腹部も立って
荒れ狂う感情の荒波にぼくは大事な何かを見失う
何かがぼくのズボンを脱ぎ捨てさせる

熱に浮かされまるで自分の体じゃないみたい
ぼくは肉欲に醜く膨らむ風船
おいてけぼりにした心は冷え切ったまま股間の渦巻くエネルギー
やがてたどり着く
夢中で腰をふる尊師のうち震えるお尻

ぼくは尊師を見ているけれど
尊師はぼくを見ないんだね
ぼくはなぜだか悲しくなって
尊師に腰を突き入れた
僕たちはどこにいくのだろう

僕たちはどこにいくのだろう
連結して軋みをあげる僕ら
視界の端では星屑が散る
まるで銀河鉄道999
ならば宇宙の果てへ

なんて
そんな高尚なものじゃない
目的地なんてない
ただ堕ちていくだけ
僕たちは囚人のように数珠つなぎ
思い思いに腰を振り欲望に振り回されながら
ここは獣達の楽園
肉欲という牢獄

この作品について

恒心文庫:尊師のおなかと同じく文章に歌を付けた曲がOrpheusで作られ、こちらは現存している。詳細はパカソン一覧#尊師の足のうらを参照。

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