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「唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成24年(ワ)第11833号」の版間の差分

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== 全文 ==
原告 X1<br>
同訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋<br>
被告 ソフトバンクモバイル株式会社<br>
同代表者代表取締役 X2<br>
同訴訟代理人弁護士 高橋聖<br>
同 佐々木政明<br>
同 春日舞
 
=== 主文 ===
1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
 
2 訴訟費用は被告の負担とする。
 
=== 事実及び理由 ===
==== 第1 請求 ====
 主文同旨
 
==== 第2 事案の概要 ====
 本件は,インターネット上の電子掲示板にされた匿名の書き込みによって権利を侵害されたとする原告が,その書き込みをした者(以下「本件発信者」という。)に対してインターネット接続サービスを提供した被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき,本件発信者の氏名,住所等の情報の開示を求める事案である。
 
=== 1 争いのない事実等(証拠によって認定した事実については,各項に証拠を掲記した。) ===
(1)原告は,訴外X3(読み仮名「○○○○○○」,以下「訴外X3」という。)の母親である。訴外X3は,中学3年生であり,NPO法人全世界空手道連盟新極真会愛知山本道場(以下「本件道場」という。)に通っている。本件道場に通う「○○○○○○」という氏名の者は,訴外X3のみである。(甲5,7,9,弁論の全趣旨)
 
(2)被告は,電気通信事業を営む株式会社である。
 
(3)被告は,本件発信者からのアクセスを受けて,本件発信者に対し,別紙情報目録記載(1)及び(2)の各投稿日時ころ,インターネット接続サービスを提供し,本件発信者は,同日時ころ,インターネットに接続して,URL(http://www.2ch.net)で表示されるウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)の電子掲示板(以下「本件掲示板」という。)の「○○○○○○○○○○○○○○○」のスレッド(以下「本件スレッド」という。)に,別紙情報目録記載(1)及び(2)の投稿記事内容の記事(以下同目録(1)の記事を「本件記事1」,同(2)の記事を「本件記事2」といい,本件記事1及び本件記事2を併せて「本件各記事」という。)を投稿した。(甲1,弁論の全趣旨)
 
(4)原告は,本件ウェブサイトを管理する訴外会社パケットモンスターインクピーティーイーエルティーディー(以下「訴外パケットモンスター」という。)に対し,本件発信者に係る発信者情報(IPアドレス及びタイムスタンプ)の仮の開示を求めて,東京地方裁判所に仮処分を申し立てた(平成24年(ヨ)第219号)ところ,同裁判所は,平成24年1月27日,訴外パケットモンスターは,原告に対し,本件各記事にかかる別紙発信者情報目録記載の各情報を仮に開示せよとの決定(以下「本件決定」という。)をした。
 
(5)訴外パケットモンスターは,本件決定を受け,原告に対し,本件決定にかかる発信者情報の開示を行ったことから,原告は,同開示を受けた情報から,本件発信者が,被告の提供するインターネット接続サービスを経由して本件各記事を本件ウェブサイトに掲載したことを知った。(甲2ないし4)
 
(6)本件スレッドの前には,「○○○○○○○○○○○○○○」(以下「本件前スレッド」という。)というスレッドが立てられていたところ,本件前スレッドには,以下の書き込み(以下〔1〕ないし〔3〕を「本件前スレッド記事」という。)があった。(甲8)
 
〔1〕レス番号 △△△「X4:○○○○/○○/○○(△)××:××:××.××ID:○○××○○○○× ▲▲▲▲=X3の母親。」<br>
〔2〕レス番号 ◇◇◇「X5:○○○○/○○/○○(△)××:××:××.××ID:○○×○×○○○× 他支部のものですが,▲▲▲▲こと,●●さんてX3くんのお母さんの事ですか? 息子さん,たしかユースですよね? 今年も推薦されたのですか?」<br>
〔3〕レス番号 ▽▽▽「X6:○○○○/○○/○○(△)××:××:××.××ID:○○○○×○○×× 〉〉◇◇◇X3の母親でビンゴw 中学二年だよね? 息子は」
 
(7)本件スレッドにおける本件記事1の前には,レス番号 □□□「X7:○○○○/○○/○○(△)××:××:××.××ID:○○○○○×○○× 元祖▲▲▲▲,X3ののババァがハジケてるなwww,2chする暇あるなら息子のへったくそな組手改良しろよカスwww」という書き込み(以下「本件前記事」という。)があった。(甲3,8)
 
=== 2 争点 ===
==== (1)被告が法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に当たるか(以下「争点1」という。) ====
(原告の主張)
 
ア 本件掲示板は,法2条1号の「特定電気通信」に該当し,また,本件掲示板を通じた「特定電気通信」のために被告が管理する端末機器,サーバ,交換機(ルータ等),ケーブル等あるいはこれらの結合は,法2条2号の「特定電気通信設備」に該当する。そして,法2条1号ないし3号の文理及び同法4条の趣旨からすれば,最終的に不特定の者によって受信されることを目的とする情報の流通過程の一部を構成する電気通信を電気通信設備を用いて媒介する者は,同法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当する。
 
イ 以上からすれば,被告は,法4条1項の「特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」(以下「開示関係役務提供者」という。)に該当する。
 
(被告の主張)
 
 上記原告の主張のうち,アは認めるが,イは争う。
 
==== (2)発信者情報開示請求権の存否(以下「争点2」という。) ====
(原告の主張)
 
 法4条1項は,開示関係役務提供者に対し,発信者情報開示を請求するための要件として,〔1〕「侵害情報の流通によって開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」(以下「権利侵害の明白性」という。同項1号),〔2〕「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」(以下「正当理由」という。同項2号)を要求しているところ,原告につき,以下のとおり,権利侵害の明白性及び正当理由が認められるから,原告は被告に対し,本件各記事の発信者情報の開示を求める権利がある。
 
ア 権利侵害の明白性について
 
 以下のとおり,本件各記事は,一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として読んだ場合,原告の社会的評価を低下させるものであって,原告の権利(人格権,名誉権)が侵害されたことは明らかである。
 
(ア)本件前スレッドには,本件前スレッド記事があり,X3という名前の道場生は本件道場に他におらず,「▲▲▲▲」,「●●」,「●●さん」という名称は,X3の母親である原告を指すことが,本件ウェブサイトの読者にとって共通認識となっていた(甲8)。
 
 また,本件記事1の前には,本件前記事があり,本件スレッドでも▲▲▲▲という名称で原告が呼称されていた(甲3,8)。
 
(イ)上記(ア)によれば,本件記事1の「母親」が原告であることを一般の読者が容易に読み取ることができることは明らかであり,本件記事1の「母親」が「揉めて問題起こしている」,「大変危険です」という記載内容は,一般の読者をして原告が問題行動を起こす人物であると誤信せしめるものであって,原告の社会的評価を低下させるものである。
 
(ウ)上記(ア)によれば,本件記事1に続けて投稿された本件記事2の「●●さん」が原告であると,一般の読者が容易に読み取ることができることは明らかであり,本件記事2の「●●さん」が「人の悪口を言う」との記載内容は,読者をして原告が問題行動,誹謗中傷行為を起こす人物であると誤信せしめ,もって原告の社会的評価を低下させるものである。
 
(エ)本件各記事は真実でない(甲5)。さらに,本件各記事で描写の対象となっているのは,道場に通う一道場生の母親の振る舞いであって,公益目的は観念し得ず,また,公共の利害に関するものでもない。
 
 したがって,本件各記事については,違法性阻却事由の要件を満たすものではない。
 
(オ)以上からすれば,原告が,本件各記事によって,権利(人格権,名誉権)の侵害を受けていることは明白であって,権利侵害の明白性の要件を満たす。
 
イ 正当理由について
 
 原告は,上記アの名誉棄損による不法行為に基づき,本件発信者に対して,損害賠償(民法709条)を求めるため,被告に対し,本件発信者の氏名又は名称,住所,電子メールアドレスの開示を求めるものであるから,正当理由の要件も充足している。
 
(被告の主張)
 
ア 権利侵害の明白性について
 
 以下のとおり,本件各記事につき権利侵害の明白性は認められない。
 
(ア)本件前スレッドが本件スレッドと合わせて閲覧されるとは限らないため,本件各記事が原告に関する記載か否かを判断するに当たり,本件前スレッドの内容を考慮すべきではない。
 
 そして,本件各記事においては,「あの母親」という抽象的な記載や,「●●」という一般的な姓の記載しかなく,これらの記載が原告を示すものとは認められない。仮に,本件前記事の投稿の記載内容を考慮してみても,同投稿の記載が原告を示すものとはいえないため,本件各記事の記載が原告を示すものとはいえない。
 
(イ)本件記事1の「揉めて問題起こしている」,「大変危険です」との記載や,本件記事2の「人の悪口言う」との記載は,極めて抽象的な記載にすぎないこと,また,本件各記事はインターネット上の掲示板における匿名の投稿であり,その記載内容からして一方的な主張を記載したものであることが誰の目にも明らかであることから,一般閲覧者の普通の読み方からすれば,本件掲示板の閲覧者が「原告が問題行動を起こす人物である」又は「原告が問題行動,誹謗中傷行為を起こす人物である」と誤信するとは考えられず,原告の社会的評価を低下させるものとはいえない。
 
(ウ)本件各投稿の記載内容及び各証拠からは,本件各投稿について違法性阻却事由が存在しないことは明らかではない。
 
イ 正当理由について
 
 争う。
 
=== 第3 争点に対する判断 ===
==== 1 争点1について ====
「開示関係役務提供者」とは,特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害された場合の当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者をいうと解されるところ(法4条1項),被告が法2条3号にいう「特定電気通信役務提供者」に該当することは当事者間に争いがない。
 
 そして、前記争いのない事実等(3)ないし(5)によれば,本件発信者は,被告の提供するインターネット接続サービスを経由して本件各記事を投稿したことが認められることからすれば,被告は,法4条1項にいう「開示関係役務提供者」に当たるというべきである。
 
==== 2 争点2について ====
(1)通常,インターネットに接続して電子掲示板によるスレッドを閲覧する者は,特定の一つの記事のみを見るのではなく,同一スレッドないし関連する前後のスレッドに掲載された一連の記事を見るのが通常であるから,被侵害法益主体の特定の有無については,当該スレッドの前後の関連記事も考慮に入れた上で判断する必要があるというべきである。したがって,本件前スレッド及び本件前記事の内容を考慮すべきでない旨の被告の主張は採用できない。 
 
 前記争いのない事実等(6)のとおり,本件スレッドに関連するスレッドである本件前スレッドには,本件前スレッド記事が投稿されていたこと,また,争いのない事実等(7)のとおり,本件スレッドには,本件各記事が投稿される直前に,本件前記事が投稿されていたことが認められる。
 
 本件前スレッド及び本件スレッドは,そのスレッド名が「○○○○○○○○○○○○○○」,「○○○○○○○○○○○○○○」というものであって,スレッド名から関連するスレッドであることは明らかであり,また,スレッド名,本件前スレッド記事及び本件前記事並びに本件各記事の記載内容を通常人の一般的な読み方によれば,本件前スレッド及び本件スレッドにおいて,「▲▲▲▲」とは,本件道場に通う訴外X3の母親である原告を指すこと,本件前記事は,「▲▲▲▲」こと原告のことを話題にしていること,本件記事1は,本件前記事に応答する形で投稿されたものであるから,本件記事1の「あの母親」とは,原告を指すことが明らかに読み取れるものというべきである。さらに,本件記事2が本件記事1に続いて投稿されたものであることからすると,本件記事2の「●●さん」が原告を指すものであると理解するのが,通常人の一般的な読み方であるというべきである。
 
 以上より,本件各記事の投稿により権利を侵害される者は「原告」であることが特定されていると認められる。
 
(2)権利侵害の明白性について
 
 法4条1項によって,開示関係役務提供者に対し,発信者情報開示を請求するためには,権利侵害の明白性が認められることが要件とされるところ,被告は,本件各記事につき権利侵害の明白性が認められない旨主張するので検討する。
 
ア 本件記事1には,原告が,「山本道場内だけではなく近所や中学などでも揉めて問題を起こしている」という事実を記載した上で,「大変危険」であって,「山本道場の道場生が減ってしまいます」との記載があることからすれば,一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,本件記事1は,原告が本件道場外の近隣において問題を起こして,本件道場の生徒を減らしてしまうような人物であるとの印象を与える。したがって,本件記事1は,原告の社会的評価を低下させるものというべきである。
 
 また,本件記事2は「同じグループの人達と人の悪口言う」という事実を記載した上で,「怖くて道場いけなくなります」と記載されているものであること,本件記事2は,本件記事1に続けて投稿されたものであることからすれば,一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,本件記事2は,原告が,生徒が道場にいけなくなってしまうような悪口を言う人物であり,本件記事1の記事における,原告が本件道場の生徒を減らしてしまうような人物であることを肯定するものとの印象を与える。したがって,本件記事2は,原告の社会的評価を低下させるものというべきである。
 
イ そして,本件において,原告の社会的評価を低下させる事実の摘示について,当該行為が公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的に出た場合であって,摘示された事実が重要な部分において真実であることが証明され,仮に真実であることの証明がないときでも,本件発信者において摘示した事実を真実と信じるについて,相当の理由があるといった違法性阻却事由が存在するという事情をうかがわせる証拠はない。
ウ したがって,本件各記事によって原告の名誉が毀損され,その権利が侵害されたことが明らかであるというべきであり,この点に関する被告の主張は採用できない。
 
(3)正当理由について
 
 本件発信者に対して損害賠償請求権を行使することを予定している原告には,発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえるから,原告の被告に対する発信者情報の開示請求は理由があるというべきである。
 
=== 3 結論 ===
 以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容し,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第50部
裁判官 田口紀子
 
=== (別紙)発信者情報目録 ===
 別紙情報目録記載の投稿日時において,被告が管理する別紙情報目録記載のIPアドレスを使用して,別紙情報目録記載の記事を投稿した者についての下記の情報
 
       記
 
1 氏名又は名称<br>
2 住所<br>
3 電子メールアドレス
 
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[[カテゴリ:資料]]
[[カテゴリ:唐澤貴洋の裁判]]
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