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恒心文庫:貰い物の種

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

職場の同僚が豚の前脚みたいな手の指先に何かを摘んで話しかけてきた。
「これ何の種だと思う?」そいつは私の眼前で胡桃の外殻のような色をした
丸くツルツルとした安価なおもちゃのようなものを振ってみせた。
中に何か詰まっているらしくカラカラと音がしする。
正直、プラスチックでできた安物のおもちゃみたいなもの
だと思っていたが同僚によるとなんかの種らしい。
「これをさ、育ててみよって思ってんだよね」
得体の知れない種を何で育てたいのやら理解し難い。
同僚によると太った白いもみあげの男から撒いて育て上げてくれんか
ワシからのお願いだ。と頼まれ面白そうなので貰ったそうだ。
さっきも思ったが率直に言ってそんな得体の知れないジジイから
そんな得体の知れないものを貰って育てようだなんて皆目理解できない
そんなことするより溜まってる仕事を何とかして欲しいものだ。
翌日同僚は大きめの植木鉢と肥料やらを買い込みその謎の種を撒いて育て始めた。
会社の倉庫と門の間に植木鉢を置くのにちょうどいい隙間があるのだが
そこに植木鉢を置いて毎日水をやっている。
毎日水やりしているのを見かけるのだが一向に芽が出る気配がない。
やはりそのジジイに騙されたんだよ、と笑いながら私が話しても
まあいいからと水をやり続けていた。次第に俺はその植木鉢のことなど完全に忘れ
来るべき決算期の為の準備に取り掛かっていた。
決算のために会計士の先生方の対応をしていた折、同僚が俺に耳打ちしてきた
「あそこにいるでっぷりした腹の白モミでアヒル口のおっさんいるだろ?
俺あの人から種をもらったんだ、重役共が手揉みしながら媚びへつらってるけどあの人そんな大物だったんだな」
そんな馬鹿な、いや、そもそもお前も同じような腹が突き出て短足の似たような体型だろうが
自分と同じような体型って言えよ。頭の中でツッコミをしつつ同僚に対して
もし本当に種をもらった人であろうとなかろうと
お歴々の前でいらぬ話をするな、と釘を刺しておいた。
同僚は不貞腐れていたが素直に従った。
その日の定時後、俺も少し気になったので同僚と一緒に植木鉢をを見に行った。
するとトゲトゲした黒い髪の毛のようなものが土から生えていた。
なんだろうか、パイナップルを連想したがそんなものではないのは明らかだ。
私はそこはかとなく不安を抱いたので同僚に引っこ抜いて捨てろ
と言ったのだが聞きやしない、そしてこの不安は最悪な形で実現してしまった。
監査が終わりようやく仕事も一段落ついたので飲みにでも行こうかと思っていたのだが
生憎同僚は席を外していた、仕方がないので1人で繰り出すかと
帰り支度をしていたのだが、布団あの植木鉢が脳裏によぎったので見に行くことにした。
今思えば俺はアレに呼ばれていたのかも知れない。
倉庫の扉の隙間に鎮座するそれを覗き込むと
トゲトゲした人の髪みたいなものがさらに伸びていた。
薄気味悪いことこの上ない。引っこ抜いてやろうかと
一瞬脳裏によぎったのだがそれはすぐに能の片隅に追いやられた。
同僚と会計士の唐澤洋先生が連れ立って歩いてきたからだ。
俺はその時なぜか咄嗟に物陰に隠れてしまった、物陰から伺っていると
唐澤先生が同僚に謝辞を述べている、育ててくれてありがとう、収穫させてくれと。
植木鉢に植わっている髪の毛みたいなトゲトゲを
むんずと掴みおもむろに引き上げていく。
私は目を疑った、引っこ抜かれたのは人の首だった。
唐澤先生の面影を残す二重顎の無能そうな男の首が先生の手にぶら下がっていた。
そのクビが目を見開き首の切断面から触手のような物を伸ばし同僚の首を絞め始めた
もがく同僚をよそに唐澤洋は冷静だ。
同僚が動かなくなったのを確認するとその無能そうな首は
同僚の首と自分の首をすげ替えたのだ。鈍い音を立てて転がる同僚の首、不思議なことに血が出ない。
それを唐澤洋が鞄にしまい無能そうな男と話し始めた。
「まさか本当に滅多刺しにされて肉体を失うなんて思わなかったな
これに懲りたら無防備にならないことだ。」
「洋、もっと早く復活させることはできなかったのか
1ヶ月もかかるなんて聞いていない。それにもっとスマートな男の体がよかった。」
「貴洋!これは同じような体型の人間じゃないとできんのだ!贅沢言うな!
厚史はいまだに体格が合う人間が種を育ててくれず復活させることができんのだぞ!」
そんな話をしながら2人は夜の闇に紛れて消えてしまった。
その日以来同僚は行方不明だ。
同僚は忽然と姿を消してしまった。
会社も無断欠勤が続いたことで懲戒免職にしてこの件は終わってしまった。
だが俺はなぜ同僚が消えたか知っている
誰も信じないだろうが首から下を別な男に乗っ取られて今もどこかにいるのだ。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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