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恒心文庫:短編・比緒涼子の誕生

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

森園祐一のイチモツが機能不全になるにつれ、彼の内面にも変化が起きた。
新たに"涼子"と呼ばれる人格が顕れ、彼の精神の操舵棒を掴んで離さなくなったのだ。
涼子は淫乱であった。夜な夜な自らを慰めようとするが、股に据えられた萎びた操舵棒を扱うだけでは到底その獣欲を満たすことはできないのであった。
傍らには人形があった。人形の名はヒカリと言った。森園祐一が枯れてからはその役目失った、埃を被るだけの哀れな木偶であった。その木偶に再び光が当たることになる。

あるとき、夜に目が覚めた涼子は不具である脚を折ったままヒカリに這って近づくと、そのまま押し倒すように小さな人形に覆いかぶさった。
脂肉に包まれた巨体が、暗い部屋の中でひとつ煌々と光を放つパソコンのモニターを遮り、ヒカリのその無機質な顔にはたと闇が落ちて見えた。
そこには、かつて人形を娘として頭を撫で、娘として愛を注いだ男はいなかった。
かつて髪を梳いてやり、服を替えてやったその手で、乱暴に人形の服を捲り上げると、その拍子に伸びた爪が背中のスイッチに当たり、ヒカリはブルブルと小さく震え始めた。
逃げられぬヒカリを捕らえたまま、悠々と服を脱ぎ捨てた涼子は、その股座に唾を吐きかけ、萎びたままの陰茎を無理やりねじ込んでみるが、どうにも昔のように馴染まない。
まるで人形が涼子を拒んでいるかのようであった。自らの生まれ持った役目さえ否定した、儚い、あまりにも儚い抵抗であった。
住処を荒らされ驚いたゴキブリが数匹這い出してきて、涼子の毛の生えた内腿を転がってポトポトと床に落ち、また、逃げ遅れた虫はヒカリの内部ですり潰されて潤滑油となった。
全てを意に介さずまぐわいを続ける涼子は、さながら獣を越え、蒸気機関車のようであった。熱を帯びたスチームのピストンが、小さな人形を相手に稼働し続けた。

雌の獣が一匹、汚れた六畳間の巣の中で乱れている。
獣から滴り落ちた汗が人形の頬を濡らす頃になると、涼子の股間にも懐かしい感覚が蘇りつつあった。彼女の尺度で言えば200年ぶりの絶頂が近づいていた。
毛深い肢体が弓なりに反り上がり、目に見えない稲妻が背筋を駆け上がって脳天から抜けて霧散すると、同時に、人形の目がパチパチと弾けた。
「うオオオオン…!」
獣の唸り声が夜の街に漏れ響く。その声を聞いたのは深い闇と、人形に宿った新たな命だけであった。

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