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恒心文庫:唐澤貴洋「唐揚げ弁当食す」

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

40年近い歴史を持つ唐揚げ弁当専門店。
その弁当を短い手にぶら下げている唐澤貴洋は、屈託のない笑顔を浮かべていた。
脂肪たっぷりの巨大な腹を、一定のリズムで揺らして歩いている様は、なんともまあ、滑稽である。
正午。静まり返った事務所に着いた唐澤貴洋は、さっそく弁当を開示する。
必要以上にゆっくりと、まるで高級な割れ物でも扱うかのように、仰々しく蓋を開示する唐澤貴洋。
玉になっていた汗が落ちる。ごくりと喉を鳴らす。
そして濃厚な脂の香りが事務所を包み始めた頃、ようやっと事務所の電気をつけ忘れている事に気が付いたようだ。
「ああ、当職としたことが。これはいけない。
そうだ、少々億劫ではあるが、電気を付けるのは勿論、弁当を山岡くんのデスクまで持っていって、そこで頂くとしよう。
偶には椅子に座っての食事も趣があるだろう」
腹に力を入れ立ち上がり、デスクに向かう唐澤貴洋。
どうやら少し糞を漏らしてしまったようだ。勿論唐澤貴洋はそれを気に掛けたりはせず、そのままどっかりと椅子に腰かけた。
「うん、やはり、椅子に座り、こうして弁当に向き合うのはいいものだ。
たかが弁当と言えども、真摯に、一対一で相対するべきなのは、明白」
そう言いながら、指をこなれた様子で鳴らす。数秒遅れて電気が点いた。
なるほど、考えてみればこれは、哀れともいうべき構図だ。
次いで唐澤貴洋の目に光が差し込み、脳がそれを認識する。
「こ、これは……!?」
そこに現れた物の、あまりの衝撃に思わず盛大に脱糞する唐澤貴洋。
それも致し方ない。
「まいったな、これは。原材料名を確認しなかった当職にも非はあろうが……まさか、唐澤貴洋の唐揚げだとは思わなかった」
唐揚げ弁当には数匹の唐澤貴洋が全身まるまる入っている。
一応ご飯もあり、弁当の体裁は保ってはいるが、唐澤貴洋にとってはささいなことだろう。
しかし、間もなく唐澤貴洋の魅力に気が付いたようだ。
「いや、しかし、よくよく見れば、色彩豊かで美しい。
香りも、こってりとした脂は言うまでもないが、弁当の中はサウナのようになっていたのだろうな、
唐澤貴洋が滝のように汗をかいている。その汗の酸っぱい匂いが、レモンのようでたまらなく食欲をそそる」
いつの間にか、唐澤貴洋は涎を止める術を失っていた。もう引き返せない。
「なかなかどうしてこれはいい。さっそく頂くとしよう」
言うが早いか、唐澤貴洋は大袈裟に唐澤貴洋の足をつかみ取り、頭から腹までを、口いっぱいに頬張った。
唐澤貴洋はしばし口内で唐澤貴洋を弄ぶ。舌で腹を舐めまわすと、十分に異常と形容しうる量の肉汁がとめどなく溢れ出、
唐澤貴洋はそれを一滴たりとも溢さずに胃に収めていく。
十分に堪能した後、いや、恐らくそれでも惜しいと唐澤貴洋は思っているだろうが、
その霜降り肉でさえ思わず呆れるぷっくりとした腹に歯をあてがった。
歯に腹が食い込み、血と共に脂がドッと溢れる。唐澤貴洋にはもはや理性は残されていなかった。
腹に豪快にかぶりつく。と、同時に、爆発が起きた。肉汁の超新星爆発だ。
唐澤貴洋の許容量をはるかに上回る量の肉汁は、行き場を失い口から鼻から漏れ出ている。もったいないものだ。
唐澤貴洋は今、至福の時の最中にいる。唐澤貴洋は今、人生の絶頂を感じている。
しかし端から見れば、唐澤貴洋は以前の、弁護士としての面影を完全に失ったただの家畜である。
穴という穴から肉汁を溢し、声にならない声を漏らしながら、汗と糞尿の中で唐澤貴洋を貪り食っているのだ。
ということは――そろそろ、出荷できそうだ。(終)

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