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恒心文庫:メモリー

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

窓から差し込む陽光で目を覚ます
枕元にある時計を見ると時刻は既に12時
普通の人間であればもう活動している時間帯である
なぜ自分がこんな時間に、見知らぬベッドに居るのか

ドアを開け一人の男が入ってきた
その男は近くの椅子に腰掛ける
「Kさん、おはようございます」
誰ナリか、と当職は当然の返答をする
「やっぱり覚えてらっしゃらないんですね」
男の表情は悲しげである
「僕はYと言います」
「Yナリか?初めて聞く名前ナリね」
「僕がこうしてあなたに自己紹介をするのも、もう何回目なのでしょうね」
「どういう意味なのか分からないナリ」
「…では初めまして、Kさん」

―――

Kさんは記憶喪失である
とは言ってもHさんのことやYくんのことは普通に覚えているし、自分が弁護士であることも覚えている

ただ一つだけ

僕のことを、眠る度に忘れてしまうのだ

―――

目の前の初対面の男―たしか名前はYといったナリね―が椅子から立ち上がる
部屋を出て行く時、振り向きざまに「事務所は来れたらでいいですからね」と言っていた
なぜ当職が弁護士であることを知っているのか
自問自答する日々
だけどなぜだろうか、心の何処か遠くの方で彼の顔がちらついていた

―――

悪いものによる集団レイプ
あの事件によるショックで記憶喪失になってしまったKさん
僕にできることはその傷を癒やすこと
そうすればいつか僕のことを思い出してくれるはずだ

僕は今日も涙をこらえ事務所へと向かった

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