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恒心文庫:ケサランパサラン

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

見ると幸せになる綿毛の様な何か。
そういった都市伝説が少し前に流行ったことがある。
口裂け女、テケテケ、紫鏡、ジェットババア。その一切を当職は全く怖いと感じない。信じる必要はないし、信じている奴らは馬鹿だと思う。
しかしケサランパサラン、これは信じざるを得ない。なぜなら、家にいるのだから。ケサランパサランが当職の家にいる。一緒に住んでいるのだ。
そして当職は幸せである。勝敗は裕福な家に生まれるかでほとんど決まっている!1日1ドルで生活する者もいれば、私のように天文学的数字を持てる者もいる。世界は不平等なのだ! 当職は幸せである。階級闘争など無意味と思わんのかね!
そして今夜、当職は一大イベントを行おうと思っている。もっと幸せになるナリ。よし、カメラの調子はいいナリね。部屋の準備も良い。では始めるとしよう。



長谷川亮太は瞠目していた。蕎麦打ちで休む間も無く鍛えられる毎日。気を許せる友達もなく、もはや呑みに誘われることもない。気が滅入る毎日。その中でのささやかな楽しみが、動物の動画の視聴であったのだ。ネコイヌゴリラ...多くのものを見てきたが、最近特にはまっていたものがあった。
ケサランパサランである。
まるですりガラスを通したかの様にぼんやりとした画面に、何か丸くて白いものが動いているだけの動画。ただ、それを見ているととても幸せな感じがして、気づくと毎日欠かさず見ていたのだ。
そして今日も同じ様に立ち上げたサイトのいつもと違う表示に、目を剥いたのだ。
まるで都内の弁護士事務所の紹介の様なページ。なんだこれは。長谷川亮太は恐る恐る弁護士のイラスト、その顔面をクリックした。
弁護士の顔が二三度まわり、画面が切り替わる。ぼんやりとした画面に動く白いふわふわしたもの。どうやらいつもと同じみたいだ。長谷川亮太はホッと一息つき、瞬間息を呑んだ。
ぼんやりとした画面がだんだんとはっきりしていく。まるでavのモザイクが外れていくかの様に。スピーカーから流れる音も徐々にはっきりしたものになっていく。
じゅ、じゅる、じゅぶぶぶっぶぴぃっ
真っ白いホワホワした輪郭が、画面の中で統合されていく。柔らかな丸みが、なにか粘質な輝きを持っていく。
気づくと、画面の中でおっさんが縛られていた。高級そうな椅子に後ろ手に縛られ、足は天井から吊るされた縄で括りつけられ前に投げ出す様にして固定されている。さらけ出されたピンク色の肛門。
「うっ」
うめき声とともに、尻の中心の薄く湿ったすぼまりから、何か茶色の塊が大量に飛び出る。まさか。画面の前で長谷川亮太は愕然とした。今まで聞いていたケサランパサランの鳴き声。あれはこのおっさんのウンコだったのか。
ケサランパサランの真っ白な名残りが、おっさんの耳もとで儚げに揺れている。
そうして動けない長谷川亮太に、スピーカーから語り掛けるものがあった。アンノオー。それはねっとりとしてコミュ二ケーションに適さない声であった。
声は続ける。
君たちには事実を教えて上げました。つまりお前たちの幸せはクソだったってことナリよ!
ナリナリナリナリナリナリナリナリナリナリナリナリ!!!!!
その笑い声を聞きながら長谷川亮太は固く手を握りしめた。

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