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恒心文庫:【Fiction Novel】唐澤物語

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

俺はその男の依頼人であった。
彼は弁護士であった。
俺はネット上で、自分についてを長々と語ってしまい、結果的に個人情報が漏れてしまったのだ。
俺は当時は高校生であった。
今でもあの時の恥辱を忘れない。
俺は同級生からも欺かれ、顔を晒され、ネット上で内面や外見全てを真っ向から否定されてしまった。
俺のことを亀頭顔と言ったりとか、もう散々だった。
お陰で、未だに外の世界に出ることが辛く感じる。
ネットに晒され続けて早6年が経った。
「人間不信」というものなのだろうか。親ですら顔を見たくなくなってしまうようになった。
俺は、人生を大失敗してしまった。
せめて、あの時に正しい選択をしていれば、あの弁護士に頼んでいなければ、この苦しみは逃れられた筈だった。
30万円という大金を溝に捨て、果てには主な矛先が彼自身に向いてしまった。
勿論、俺の事は未だに語られ続けており、実家の方では多大な被害を受けているらしい。
そんな弁護士に俺は要求してしまったわけだ。
しかし、俺のメールアドレス(どこで知られたかはわからんが)から、俺が元々いた掲示板のユーザーと思われる人物から彼に対しての事が色々と綴られていた。
自分的には最初はよく解らなかったが、ひと目見ただけでも、不吉な事が起きていたことはわかった。
俺は、手にとってその文をつい読んでしまった。

長谷川君へ。
このメールアドレスが長谷川亮太君のものであれば、是非この文を読んで欲しい。
俺は「なんJ」というサイトを主に活動していた者だ。
君がかつて自分騙りしていた場所と同じはずだ。
しかし、ただのなんJ利用者というわけではない。
敢えて言うなら、犯罪者だ。
何をやらかしたのかと思っただろう。
少し長くなるだろうが、ちゃんと具体的に話したいと思う。
途中で嫌な思いをしたのであれば、この文そのものを消していただきたいと思う。
これはある意味、自分の言い訳に過ぎない文のようなものだ。

君も、「唐澤貴洋」という弁護士を知っているだろう。
知らない、とは言わせない。
君が依頼した弁護士であったからね。
勿論、君からしたら憎しみを持っているのかもしれない。
俺たちはまた違う。
俺たちは、彼を「神」として憎しみを抱いている。
憎しみ、と言うよりかは嫉妬、なのだろうか。そこら辺はあまり自分でもよく解らないが、最初は面白がってやってたものだ。

俺は始めの頃は彼に対しての軽い悪口ぐらいで抑えたものだ。
「唐澤貴洋 アホ」みたいな感じでね。
君はその頃に掲示板を見ていたかわからないが、当時はチキンレースと言うものが流行っていて、どの程度の誹謗中傷が彼の沸点なのかを確かめていた。
日に日に好奇心が生まれてきて、俺はついに禁じ手までも使ってしまった。
「唐澤貴洋、ナイフで切り裂く。」簡単に言うと、殺害予告だ。
IPを隠蔽していて、IPが隠蔽できる掲示板に書き込んでいたから、なんとか逮捕とかは免れたが、この時は少し罪悪感も生まれたものだ。
しかし、その時に味を占めてしまったのか、罪悪感はどんどん薄くなってしまっていた。

その殺害予告はどんどん過激を増していった。
彼に関係している人々たちを巻き込んで、具体的な日付、場所などを書いて弾丸ツアーのような感じで書いたこともある。
君もその中に入っていたりもしたね。皮肉を言うけれど。
もちろん、この弾丸ツアーもなんとか開示は免れた。
普通ならそんなの書いていると逮捕されるはずなのに、逮捕されないし、弁護士は見向きもしない。
俺はそんな刺激の無さに少し飽きてしまった。
だから、君の実家に行って、色々悪戯をしたり、彼の事務所にも悪戯をしたりした。
どちらも警察沙汰になりそうでスリル満点だった。
そういったスリルがどんどん自分的に快感になってきた。

もっとそのスリルを味わいたいがために、危険な行動までした。
最初は君の実家の写真を撮ってそれを掲示板に送るぐらいの行動だったものが、ついには君の実家に直接卵を投げたり、玄関のところに悪戯書きで「長谷川一家殺す」と書いた事もあった。
もちろん、それは悪戯だから冗談だった。
彼の事務所にだってそうだ。
最初はただ単に写真を撮ったり、彼が事務所から出入りするところを撮影するぐらいだった。
それもエスカレートしていき、彼の事務所のオートロックに接着剤塗りつけて使えないようにさせたり、彼のポストに殺害予告文を投函したりもした。
殺害予告分はパソコンで打ってプリントアウトしたもので、触れる際には手袋をつけていたから、証拠隠滅はできていた。

彼は怖じ気ついたのか、テレビに出演した。
それを友人から聞いて俺はテレビを付けた。
すると、俺が接着剤を塗りつけたオートロック、殺害予告文が見事に映し出されており、彼はそれを説明していた。
それだけじゃない。テレビ上で俺の姿を写したんだ。
俺はそれに対して流石に怒りを覚えた。
そして、俺はあることを決意した。
それは、「唐澤だけでなく、関係者全員ガチで殺す」と言うものである。
それを友人に話したら、もちろん、冗談だと思っていた。
しかし、そんな冗談話に友人は乗ってくれていた。
そして、前に書いた弾丸ツアーを友人に見せた。
友人は少し笑い、「ガチでやるんだったら、途中で警察に捕まらないようにしろよ」と言った。
俺は、この時に止めていればまだ良かったのかもしれない。
その後、この計画は本当に実行されてしまったのだから。

「神」それは偽りである。あいつは「悪魔」だ。
俺の姿をテレビ上で勝手に晒した。
許せなかった。
動機はそれだけだ。
俺は計画通り、まずは鈴木康史の家を放火するところから始まった。

自分の家から近かったこともあり、案外移動は簡単だった。
ここで、俺は放火する。
そう思いながら俺はガソリンスタンドでガソリンを注いだ火炎瓶の栓にマッチで火を点けようとした。
そんな時、あることが頭に過ぎった。
俺は、本当に人を殺すのだろうか。
俺は、人を殺してどのように思うのだろうか。
そんなことが頭の中で交差し、なかなかマッチに火をつけることができなかった。
俺は正当だ。
こんな有様になるのはあの脱糞快感顔面崩壊知的障害奇形陰茎野郎のせいだ。
俺は悪くない。
そう言い聞かせて、ようやく栓に火をつけた。
そして、俺は鈴木康史の家目掛けて火炎瓶を投げた。
火炎瓶は見事に音を立てて燃え上がり、爆発したかのように大きな炎が上がった。
それと同時に、火災報知器の音が聞こえた。
このままではいずれ警察が来て不審に思われる。逃げよう。
必死の思いで逃げた。

なんとか俺は何事もなく、離れた場所に逃げられた。
とても罪悪感を感じ、スリルどころではなかった。
俺は人を殺した。
その時、俺は弾丸ツアーを止めようとも思ったが、あのテレビ番組の事を思うと、また怒りを感じてきた。
しかし、これ以上人を殺して良いのか。
そんな時、第二の計画が来た。
高橋嘉之の家のインターホンを押し、警察の格好をした状態で聞き込み調査を装い、隙を突いたところで、鋭利な刃物で刺して殺害。
そんなことが今の自分に出来るのかが解らなかったが、俺は気がつけば自然と高橋嘉之の家の前に立っていた。

高橋嘉之の家の前に立った時に、あることを思い出した。
警察の格好をするということだが、流石に警察が着ている服をそのまま着ることはできないものだから、近くの公園のトイレの個室で、会社員が来ているようなワイシャツを来て、高橋嘉之の家へと再び向かった。
そして、恐る恐るインターホンを押した。
「すみません、警察の者ですが、この近隣についての聞き込みを行いたいのです。少しゆっくりお話がしたいので、玄関前で話すことはできますでしょうか。」
出てきたのは高橋嘉之。
その時はまだ殺そうとは思っていなかった。
「すみません、この近隣で不審者がいるとの情報を聴いたのですが、それらしき人は見ましたでしょうか。」
「見ました。」
「詳しく私に教えていただけないでしょうか。」
「そうですね、先程のことなのですが、当方の家の前に突っ立って…ンモ当方の家をじっと見ていた怪しい人がいましたね。」
俺は、その言動を聴いた時に殺意を感じた。
誰が怪しい。俺のどこが怪しいんだ。
俺はコイツを早く殺したくなってきた。
無職のくせに会社社長を名乗り、誹謗中傷をする糖質ステマ野郎め。
ナイフで滅多刺しにしてやる。
「あなた、さっき見た人に顔が似ていますね。」
「えっ、そうですか?」
「あなた、もしかして、当方のストーカーじゃないですか?」
「い、いや、私はただ単に聞き込み調査をしただけです。」
「怪しいですねェ...」
そう言って彼は俺の方に詰め寄った。
今だ。チャンスだ。俺は大きめのポケットに突っ込んだナイフを取り出し、彼の腹目掛けて刺した。
ナイフを引き抜くと、彼は呻き、地面に倒れ込んだ。そして、彼はそのまま動かなくなった。
初めて感じる感触だった。
吹き出た血が生暖かく、気味が悪かった。
そこで、妻が来てしまった。
そうだった。コイツの家には家族が五人ほど居た。
だったら、口封じのために皆殺しして証拠隠滅のために近くの排水溝に落としとけばいいだろう。
そう思い、怖気付くコイツの妻の胸を刺した。その後、自宅に侵入し、残りの三人を脅して殺した。
そして、俺は死体を担ぎ、近くの比較的大きな排水溝に五人を落とした。

その後、計画は次々と実行されていった。
気がつけば、俺は人殺しが快感になっていた。
今思うと、自分でも考えられない殺し方をしていたこともある。
藤原太一の頭をチェインソーでふっ飛ばしたりしたのも、藤村芳美の四肢を切断した後に顔面をナイフで切り裂いた事とかも。自分では絶対にやらないと思うことをやっていた。

そして、ついには長谷川家へ窓を割って侵入し、ハンマーとチェインソーを持ち歩いて殺す計画までできた。
俺にとっては、長谷川亮太、つまり君を殺す事が大前提であったが、君は別居していると知った。
君の母親も父親も弟も自分が殺めてしまった。それも、猟奇的に。
母親の方はもう上から下までを輪切り。
父親の方は頭を潰してから燃やした。
弟は首をチェインソーで斬り刻んだ。
でも、肝心の君が見つからなかったものだから、どうしたものかと思っていろいろ調べてたら、もう引っ越してたっていうのを知って諦めて君の実家を爆破して終わらせた。
もちろん、自分がやってることがどれだけ罪深いことかは解ってはいる。
最初から俺は殺す気で居なければこんなことにならなかったのに。

君の家の計画を終えた後、最終ミッションとなった。
それが、あの弁護士、唐澤貴洋だ。
当時の自分にとっては彼は最後に置いておいて、首を切って、頭をかち割って、内臓を引っこ抜きたい所だった。
俺は、虎ノ門前で彼の仕事が終わるのを待っていた。
そして、彼が出てきた。
そこですかさず隠していたナイフに手を伸ばし、すれ違いそうな所で彼の腹あたりに刺した。
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
思っていた通り、情けない叫び声だった。
近くに居た人々は、「またかよ。」と言うような目で唐澤を見ていた。
中には写真を撮っているけんま民らしき人も居た。
俺を怪しむ人があまり居なかったのにはわけがある。
それは、返り血で怪しまれるのを防ぐために、赤いシャツと赤いズボンを着ていたからである。
ナイフも人々にとっては死角の位置にあったし、自分も唐澤を呆れるような目で見ていた。
そして、その叫び声を出した後に、倒れ込んだ。
まだ生きている。
止めを刺そうとした瞬間だった。
(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!)
齢四十にもなる男の脱糞音が虎ノ門にこだました。
周りの人の目もさすがに唐澤に向いたため、これはまずいと思い、 とっさに逃げた。
殺すという目標は達成できた事に満足していた。
しかし、時間が立つにつれ、段々と罪悪感を感じてきた。
その罪悪感を関係している人に共有すれば、この罪悪感も消えるのではないか。
そう思い、今このような事を君に書いている。
明日の朝には自分から自首をするつもりでいる。
なぜ、このような文を書くかと思うだろう。
それは、君にも、君の周りを知ってほしかったからだ。
だから、君も、前を向いて欲しい。
そうすれば、失敗をしてしまった君でも立ち上がれるはずだ。
もう、あの事件以降は君の承認欲求心が無くなっている前提で話している。
もし、あの事件以降何も変わらないのであれば、君も立派な犯罪者だ。
だから、前へ進め。
犯罪者の俺から言えることではないが、君なら出来るはずだ。

俺はその文を読んで、初めて親と弟が死んだことがわかった。
このメールの送り主を許せるわけが無いが、自分に似ていた事があった。
それは、「人間として欠けている部分がある」という所だったと思った。
俺も、過度に自分語りをし、嘘を騙り、さらには震災を馬鹿にするような書き込みまでしてた。
人間として欠けているのも同然だ。
その後も同じだ。引き篭もってばかりで自分を外へ出そうとしていない。
馬鹿にされることが辛くて、自分の心を閉ざしている。
彼も同じようなものだ。
一度、好奇心で行った行動がどんどん過激を増し、心が歪んでいった。
それに気づいたのも、罪を犯した後。俺と同じだ。
それを悟った俺は思った。コイツは、別の自分であるということを。
長谷川亮太と言う名前ではないし、たしかに別人だ。
でも、心の中身は自分と対して変わらない。
つまり、俺は犯罪者と同じようなものだ。
そう思い、俺は少し考えた後に、決心した。
「人のことも思いやれる自分になる」と。
夕日が照らす部屋の中、拳を強く握った手を肩の前に出し、前を向いた。

この作品について

殺害予告弾丸ツアーから着想を得た作品である。

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