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恒心文庫:「あたし」は女性です。

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

「ねえ、足の関節が痛むの」
ぼくは慌てて駆け寄った。足の親指が取れかかっていたのでシリコンで補強することにしたが、彼女は不満げな顔だった。
「ご、ごめんよお。何がいけなかったんだい。不満そうな顔をしないでおくれ」
「シリコンだなんて、おもちゃ扱いしないで。あたしだって、人間の体が欲しいの」
「無茶を言わないでおくれ……」
翌朝、通勤中にバイクで事故を起こし、足の親指を切除することになった。
数週間後に退院。寂しがっていた彼女と口づけを交わした。彼女の足の指はきれいになっていて、シリコンの跡すら見えなくなっていた。
ぼくはすべて理解し、彼女の受肉を歓迎した。
「足をもうちょっと頂戴」「あばら骨をほんの数本だけ頂戴」
彼女はいよいよ遠慮しなかった。その都度事故に遭い、彼女は美しくなっていった。
その後「自己発信の場が欲しいの」とも言われたので、僕が代わりにパソコンを操作すると約束した。
すると彼女はSNSや動画投稿サイトで「涼子P」として交流を始めた。

五年後、彼女は「もうネットは飽きたわ」と素っ気なく言った。僕自身、彼女の動画作りや他ユーザーとの交流を見守ってきたので寂しく思う。
「その寂しそうな顔、それが気に入らないの。何で貴方はあたしだけを見ていてくれないの」
彼女の計画は、二度と涼子P名義で活動できないように、「ぼくの悲惨な現実」を涼子Pと結びつけて幻滅してもらうというものだった。
「分かった。でも……ぼくは現実世界に居場所がない。ネットまで失ってしまったら……」
「あたしがいるじゃない」

齢二百の妖狐が再びひとつになった。

挿絵

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