若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策
若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策(わかてかいいんがしっておくべきべんごしぎょうむぼうがいじけん)とは、2015年1月6日に第一東京弁護士会で開催された座談会である。第一東京弁護士会会報「ICHIBEN Bulletin」平成27年3月号に特集記事として掲載された。
概要
3月3日にとある弁護士が「唐沢貴洋弁護士がインターネットを通じた業務妨害について報告している」とリークしたことが初出。[1] 弁護士向けの会報誌であることから尊師のご尊顔が開示されるのではないかと注目されていた。[2]
3月7日に記事の一部が投下された。
【朗報】尊師の顔面が遂に公開される★3 316 :風吹けば名無し@転載禁止:2015/03/07(土) 23:33:12.75 ID:ChUIgjjf0 http://imgur.com/lkNCCkL.png おまえらのせいで尊師うつ状態になったやんけ
【朗報】尊師の顔面が遂に公開される★3 362 :風吹けば名無し@転載禁止:2015/03/07(土) 23:42:03.08 ID:ChUIgjjf0 http://imgur.com/8dCtjWU.jpg やっぱりおまえら無職ばっかりなんやな
この時点で未だに尊師は教徒らは未成年や無職ばかりだと思い込んでおり、送検者に女性がいない事にガッカリする様子等がネタにされていた。
そして3月13日には記事の全文が投下される。
【早川紀代秀】雑談★49 【ティローパ正悟師】 273 :グナマーナ正大師:2015/03/13(金) 19:48:32 ID:dJADyOKU 第一東京弁護士会会報 平成27年3月号(通巻504号) 特集記事 若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策 https://infotomb.com/yj6ez.jpg https://infotomb.com/1xjsu.jpg https://infotomb.com/838pr.jpg (以下略)
自分の言いたいことだけを優先し、会話の流れを一つも考えない尊師と、それを冷笑する弁護士たちという構図は、どこかで見たような光景である。
ちなみに記事での尊師と樋口弁護士とのやり取りの一部が受け、語録化となった。(詳しくは「はい。」を参照)
箇条書き版
メンバー紹介(名前と所属事務所)
- 安酸 庸祐(やすかた ようすけ) ときわパートナーズ法律事務所
- 森川 紀代(もりかわ きよ) 森川法律事務所
- 池田 和司(いけだ こうじ) 銀座法律特許事務所
- 黒川 達雄(くろかわ たつお) 黒川達雄法律事務所
- 樋口 收 (ひぐち おさむ) 敬和綜合法律事務所
- 唐澤 貴洋(からさわ たかひろ) 法律事務所クロス
- 松原 健一(まつばら けんいち) 安西法律事務所
- 大澤 一雄(おおさわ かずお) すみれ法律事務所
- 藥師寺孝亮(やくしじ こうすけ) 松本裕之法律事務所
- 出澤 秀二(いでさわ しゅうじ) 出澤総合法律事務所
- 外井 浩志(とい ひろし) 外井法律事務所
座談会で一貫したテーマ 「若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策」
全体のプロセス
- 初めに(司会挨拶)
- 弁護士業務妨害対策委員会の立ち上げ
- 一般に弁護士が依頼者や相手方に接するときの心構え
- アンケート調査等にみる業務妨害の最近の傾向
- 依頼者からの業務妨害について
- 相手方からの業務妨害について
- インターネットを通じた業務妨害
- 電話による業務妨害
- 事務所訪問型面談強要
- 終わりに(質問・相談・宣伝)
「初めに(司会挨拶)」
安酸庸祐(やすかた)
- 一貫したテーマの確認、この座談会の意味を説明(テーマ:若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策)
- 弁護士が増えたことを説明(平成元年1万4,000人→現在=平成27年3万6,000人)
- 発言者には、なるべく具体的な説明と根拠を、やんわり要求
- 全メンバー紹介(インターネットによる業務妨害に大変造詣の深い63期の唐澤貴洋さん)
- 「弁護士業務妨害対策委員会」が出来たのは、オウム真理教による、坂本弁護士一家殺害がきっかけだと説明(後に池田和司から若干の訂正)
「弁護士業務妨害対策委員会の立ち上げ」
池田和司(いけだ)
- 池田の自分語り(表札に「弁護士池田和司」・自分が当委員会の初代委員長代行)
- 「弁護士業務妨害対策委員会」の発足は、一力一家暴力団が、三井弁護士を刺した事件も影響していると、安酸をやんわり訂正・補足
- 一弁(東京第一弁護士会)の会長夫人が殺害されたことを説明(平成9年)
- 当時、一弁会長夫人殺害事件を担当したのは、安酸を含め全3名の弁護士
- 民暴(民事介入暴力対策委員会)と、警視庁と、一弁の連携が大切と、強調
安酸庸祐(やすかた)
- 一弁会長夫人殺害事件について、警察は加害者の異常な行動を把握していたが、伝わっていなかったと説明
- 坂本堤弁護士が、警察と緊張関係(対立関係)にあり、警察に保護を求めにくかったことを指摘
- 強行犯に対して、警察と協力関係にある必要性を指摘
- 警視庁と意見交換会を行ったことの成果を報告
- 弁護士が増えたことにより、たとえ危険でも、仕事を選べない若手弁護士に対し、注意喚起のため開かれた座談会であることを、最後に確認
「一般に弁護士が依頼者や相手方に接するときの心構え」
樋口收(ひぐち)
- 数が増加して、弁護士の敷居が低くなり、尊敬されることも少なくなった
- しかし、それは、日弁連が「市民に開かれた弁護士」路線を目指したことが、間違った結果ではない
- 最近は暴対法が存在するが、それ以前は今より危険な目に遭い、脅かされることも多くある
- 彼ら(反社会勢力)は商売で行動している
- 最近は商売ではなく、個人的な楽しみや、病気のようなもので相手を苦しめる人も増えている
安酸庸祐(やすかた)
- パーソナリティー障碍(人格障碍)を持った依頼者・相手方にはどう対処すればいいか、黒川に質問
黒川達雄(くろかわ)
- インターネットにより、情報が広く共有され、依頼者に命令されることが多くなる
- その流れで、パーソナリティ障碍を持つ相手方・依頼者も多くなる
- 黒川達雄の感じる現代人の総評を説明
- 弁護士が業務妨害被害に遭う危険性を報告
「アンケート調査等にみる業務妨害の最近の傾向」
安酸庸祐(やすかた)
- 日弁連が行ったアンケート調査の説明を、森川に要求
森川紀代(もりかわ)
- アンケートで明らかになった傾向は以下の3つ
- 第一に「相手方による妨害から依頼者による妨害へ」という傾向(相手方:依頼人と争っている個人、またその団体のこと)
- 第二に「暴力的な妨害から非暴力的な妨害」という傾向(非暴力的:インターネットによる名誉棄損のこと)
- 第三に「特殊な人物から一般人に」という傾向(特殊な人物:反社会的勢力のこと)
- インターネットによる妨害が増えている
- 今までは、自分の心の中で抱えるしかなかったことを、インターネット上に投稿するケースがある
- 投稿した内容が、同調されることで、投稿内容が更に過剰になり、大きくなるというケースが、かなり出てきている
安酸庸祐(やすかた)
- インターネットによる業務妨害について、唐澤に一言要求
唐澤貴洋(からさわ)
- インターネット上で、自分も業務妨害を受け、今も続いている
- インターネット上での法律問題が発生している
- 私は「この弁護士は自分たちの表現の自由を害している」ということから、通常であれば会わないようなちょっとおかしい人から、事実無根の記事を多数投稿される
- 私は、他の弁護士会の先生から(インターネット問題についての)相談を受けることがある
- これは弁護士全般の問題になりつつある
安酸庸祐(やすかた)
- インターネット問題は、後に議題の一つとして用意されているので、ここでは割愛
- インターネット問題を、担当する弁護士も、被害を受けることがある、という確認
- インターネットに関しては、更に問題が広がっている
- 弁護士の果たすべき役割が抑えつけられると、司法制度や民主主義に反対するのではないか、という指摘
「依頼者からの業務妨害について」
安酸庸祐(やすかた)
- 依頼者との打ち合わせの仕方、接し方、受任の仕方について池田和司に質問(受任:この座談会では、弁護士が依頼を引き受ける際の契約)
池田和司(いけだ)
- 依頼者からの妨害は、事件処理の過程、途中において、信頼関係が損なわれることにより、発生することが多い
- 受任して、しばらく時間がたった後で、妨害をされると、(弁護士側にとって)被害が大きい
- 私は、1年2年経過した後で、些細なことをきっかけに、「先生は相手の弁護士と意志疎通を図りながら、自分(依頼者)の利益を損ねるような、訴訟進行をしているんじゃないか」と言われたことがある
- 依頼者が、妨害者に変身することがある
- 常日頃から、丸腰で対応するのではなく、自分の身を守るための、証拠を残しておくことが大事
- 相手が、何を言ったかという、メモを残すことも必要
安酸庸祐(やすかた)
- こういう事件は、弁護士側のミスから、依頼者にクレームを受け、問題に発展するケースが多い
- 「電話を何時にください」と言われて、時間を守らなかったり、電話が出来なかったりする場合や、「事務所名で送らないよう頼まれた書類」を事務所名で出す場合もあるが、これらは些細なこと
- やはり、契約書を作ったり、職務規定に書いてある事柄を、きちんと行うことが、業務妨害から自分を守る方法の一つ
- 上記のようなミスの対応策を、黒川に質問
黒川達雄(くろかわ)
- 業務妨害トラブルの発端は「お金問題」と「弁護士の事件のやり方についての不満」という2つ
- 「弁護士の事件のやり方についての不満」への対応は、出来ない事には「出来ない」と言うことが大切
- 断定的な言い回しを避ける必要があり、「依頼者と、事件を一緒に考えて、やっていく」というスタイルが信頼関係の維持に欠かせない
安酸庸祐(やすかた)
- 現代では、情報共有が進んだために、弁護士のミスが、明らかになりやすくなっている
樋口收(ひぐち)
- 弁護士の、懲戒処分を、評釈するサイトが存在する
- 「2ちゃんねる」では、弁護士に対しての、誹謗中傷も書かれている
- 弁護士がミスをした場合には、デパートのクレーム対処マニュアルに学んだほうがいい状況でもある
出澤秀二(いでさわ)
- 普段から、依頼者に、誠実に対応することで、謝れば済むようなケースも多い
- 普段の対応が一番重要であり、基礎にあるのではないか
- (弁護士が)謝らないから、怒るという人も多い
- 誠実に対応してくれた弁護士だからと、許してもらえるような弁護活動が重要
樋口收(ひぐち)
- 早めに対応しないと、日頃の対応をきちんとしていても、トラブルになることもある
- 私は、学歴を詐称していると言われたことがある
- 「(今までに)学歴の話はしていないと思うんですけど」と答えても「嘘の学歴を言った」と言われ、当時の職場の上司に「嘘をついたことを謝らない」と手紙を送っている
- 信頼関係が、保てないことを理由に、(職務を)辞任することも検討するべき
森川紀代(もりかわ)
- 依頼者が、弁護士のミスだと誤解するケースもある
- 出来ない事は「出来ない」と言うことが妨害を防ぐ手段の一つ
- 私は、ストーカー被害を受けている女性から「家族にバレないようにストーカーをやめさせてほしい」という依頼が来たが、不倫絡みなので断ったことがある
- こちらがどれだけ気を遣っても、相手方や警察、その他の問い合わせは防げない
- 仕事は取れなくなるが、安請け合いすればトラブルに発展するかもしれないので、結果的に良かったと思う
池田和司(いけだ)
- 私は、依頼者に疑問を感じた場合は、1人分の費用のまま、共同受任をしている
- 利点としては、(業務の)助けになり、証人にもなるので、若い弁護士にもぜひ勧めたい
樋口收(ひぐち)
- ネットワーク作りは若い方の方が柔軟であり、「今困っているんだけど」などと言えば、(共同受任にも)応じてくれるのではないか
- 唐澤貴洋に「それはできるよね。」と質問
唐澤貴洋(からさわ)
- はい。
樋口收(ひぐち)
- 依頼人の中には、激しくすることが、味方の証だと思っている方が、昔から存在する
- 裁判所で、相手弁護士と声の大きさを比べたり、質問回数だったり、弁護士の数を(相手より)増やしてくれといった要求だったり、相手の職場に乗り込んでほしいと言われるケースがある
- そういった、方針の違いを理由に、辞任を検討することもあるかもしれない
- 依頼人に、裁判プロセスを、後から説明することも、有力であり有用だと思う
安酸庸祐(やすかた)
- 私は、長男に社長を譲った父親が、社長を引きずり下ろすため「株主代表訴訟を起こしてくれ」という依頼が来た
- 一度その方は、大事務所に「うちは商法は苦手だからお宅の仕事は受けられない」と言われ、断られていたらしく、世の中には上手い断り方があるのだなと思う
- 危ないと思ったら、踏みとどまり、早いうちに断ることも重要な選択、決断
- 依頼者がパーソナリティー障碍者の場合、粘り強く離してくれない、時には30件も連絡が入っている時もあるので、この対応をどうするか、黒川に質問
黒川達雄(くろかわ)
- 依頼者からの法律問題を、それ以外の問題と、区別・整理して、法律問題に限定・集中する必要がある
- 権利・義務を見直し、解決できないことには「解決できない」という
- 精神科医の弘末教授は「待てば海路の日和あり」と言う(結論を急がないということですか、と樋口が質問し、黒川が肯定)
- 人格障碍者は、人と関わり合いを持ちたいという願望と共に、被害意識・被害妄想を持つ
- 被害意識と被害妄想が、心の中で逆転すると、加害者になり、非常に攻撃的になる
- そのような場合、常に攻撃性か受動性を持ち、表裏一体である
- 依頼者が、そういった、何とも言えない葛藤を抱えている場合、敵意を持たれてしまうことがある
- その場合は、強く突き放すのではなく、やんわりと断るべき
安酸庸祐(やすかた)
- 依頼者の中には、弁護士の弱みを握って言いなりにしよう、という人もいる
- 私も、そういう相談を何件か受けたことがあり、依頼者との付き合い方、距離感は大切だと感じている
「相手方からの業務妨害について」
安酸庸祐(やすかた)
- DVの絡んだ離婚事件・相続事件に代表されるように、感情の対立が強い事件はどんなことを注意するべきか、森川に質問(DV:ドメスティックバイオレンス、家庭内暴力)
森川紀代(もりかわ)
- DV加害者の場合だと、暴力による妨害が、圧倒的に多く、(日弁連の)アンケート結果から、それは裏付けられている
- DV事件は危険であり、複数受任が基本である、という程度の意識が必要
- DVを行う男性は、女性を低く見ているので、女性弁護士は男性と一緒に組むことで、精神的にも物理的にも、加害者の歯止めとなり、裁判や調停の場にも同席してもらうべきである
安酸庸祐(やすかた)
- 法テラスでは、複数受任における費用面の後押しがあるか、森川に質問
森川紀代(もりかわ)
- 法テラスでは、複数受任を認めていないが、費用自体を少し増額してくれるため、そのお金で、復代理という形でお願いすることは可能
- DV事件で、かなり危険度が高いこと、複数受任の必要があるという理由から増額を申請すれば、検討される
- 法テラスでは、対応が十分ではないが、申請者が多くなれば次第に変わるのではないか
安酸庸祐(やすかた)
- 一弁と千葉県弁護士会が意見交換をした際に、千葉県弁護士会では、DV事件に対しても民暴基金を使ったサポートをしていることが、注目されている
- 当会でも、そういった仕組みが出来ていけば、女性会員にも心強いのではないか、課題の一つである
「インターネットを通じた業務妨害」
安酸庸祐(やすかた)
- インターネットによる弁護士業務妨害が、どういう形で行われるのか、唐澤に質問
唐澤貴洋(からさわ)
- インターネットを使った、最も単純な妨害は、(インターネット上で)弁護士名と弁護士がいかに悪い奴か、書くこと
- 「(この弁護士は)無能、犯罪者、性犯罪者、依頼者を殴った」という、事実無根の文章を作り、ネット掲示板や、弁護士口コミサイトに、投稿する
- これらは、検索エンジンを使い、弁護士を探したり、評判を調べるうえで、関連したキーワードを表示してくれるサービスに、着眼した妨害である
- 私の名前を検索すると、弁護士として、致命的なワード(「無能」「詐欺」など)が、一緒に出てくる
- これは、単純な弁護士への妨害行為から、一歩進んだもの
- 私の場合は、掲示板に、不穏な内容を多数投稿するための、掲示板が、作られている
- プライバシー被害に関する、インターネット攻撃も存在し、これは「炎上」と言われている
- 私は「炎上」を、「特定人に対して、不特定多数の者から、反復継続的に、誹謗中傷がなされる状況」と定義している
- インターネットで、手に入る情報以外も含めて収集し、炎上対象者の情報を、憶測で書いては、発信している
- 私は、紳士名鑑に載った親族の情報から、一族関係図を作られ、その中には、誤った情報も含まれているが、プライバシーを侵害されている
- 今までにも、私の所には、無言電話や、内容不明の届け物が、送られている
安酸庸祐(やすかた)
- (インターネットを使用した)妨害者を、特定することが出来るか、唐澤に質問
唐澤貴洋(からさわ)
- 基本的には(特定は)可能
- しかし、対象の数が多いと、弁護士業務に支障をきたす場合がある
- 私も一回、やろう(彼ら全てを特定しよう)と思いましたが、事務所運営が厳しくなると考え、半ば諦めている
- それに、遠隔操作事件で有名な、片山祐輔容疑者が使用した手法だと、海外で匿名性を担保する、Torサーバーを介するので、警察でも、これを特定するのは困難
- 逮捕できるケースもあるが、技術の進歩の前では、イタチごっこである
出澤秀二(いでさわ)
- (唐澤貴洋が、被害に遭った)きっかけは何だったのか、唐澤に質問
唐澤貴洋(からさわ)
- 「2ちゃんねる」というサイトで、誹謗中傷された高校生の事件を受任して、IPアドレスと投稿日時を請求したことから始まっている
- 私がやった手法は「2ちゃんねる」では、どの弁護士もやっていることであったが、すぐに攻撃の対象になる
- (攻撃・妨害を受けた)弊害としては、検索した結果で、相談者が、私に依頼することを諦めるということ
- インターネット問題は、法律分野としては未開拓であり、手を付けられていなかったため、事務所を始めたときは、受任件数が順調に伸びていたということがある
- 誹謗中傷されてから、著しく売上げが落ちて、今では普通になってきているが、影響としては、非常に大きい
安酸庸祐(やすかた)
- 他の弁護士でも、インターネットで「弁護士××」と検索をかければ「詐欺」「悪徳」という言葉が、出てくることがあり、業務依頼が回避される一因になっているのではないか
- 検索問題は、一弁だけの話でなく、東京三会にも、妨害を受けている会員が沢山いて、当委員会でも、対応を検討している
唐澤貴洋(からさわ)
- 犯人を特定するのは大変だが、去年警察と協力して、1人の逮捕が実現する
- そこで出てきた人たち(誹謗中傷者)の属性には、女性がいない
- 男性、10代後半~20代前半の、学生・無職の人が非常に多く、彼らは基本的に、余りリスクを背負っていない人達に対して、弁護士として何が出来るか
- また、彼らから受け取れる、損害賠償の費用は、少額
出澤秀二(いでさわ)
- 自分が(妨害者の)ターゲットになったとして、参らない(精神的な)タフさを、どうやって維持しているのか、唐澤に質問
唐澤貴洋(からさわ)
- 私は、鬱になり、夜も眠れなくなった(通常ならそうなる、と池田和司が肯定)
- 仕事が出来なくなれば、雇っている事務員が、路頭に迷うことも、ストレスになった
- しかし、同期や知り合いの弁護士が応援してくれること、(この座談会の司会である)安酸庸祐にも非常に助けていただいて、徐々に持ち直すことになる
- この業務妨害対策委員会は、心理的な問題を、相談できる場ではないので、弁護士会の中に、(心理的問題が)相談できる場を、作って欲しい
外井浩志(とい)
- 弁護士会は、メンタル相談を始めている
樋口收(ひぐち)
- 弁護士会も、大企業のように、サイバーテロやサイバー攻撃に備えた、専門部会が、もう少し進化することを、期待している
森川紀代(もりかわ)
- インターネットの怖い所は、最初は嘘っぽい情報でも、繰り返されるうちに、事実のようになること
- 繰り返され、最後に書かれたものを見た人は、それを信じてしまう、という怖さがある
樋口收(ひぐち)
- 私の事務所の、女性アソシエイトが、当委員会で申し立てをして、救済してもらったことがある(アソシエイト:仲間)
- それは、彼女が、国選弁護人として活動していて、実刑の可能性のある事件を、執行猶予に落としたときの話だと説明
- 被告人とメールでやり取りをしていたとき「これだけ優秀だったら人を殺しても大丈夫ですよね」という返信がきて、怖くなり、それから連絡を取らなくなる
- その後、彼女への誹謗中傷、脅迫が始まり、1日300件は「殺す」というメールが、送られ、ファックスも事務所にくるようになる
- 被告人の両親に、事務所の弁護士数人で「警察に突き出せ」と連絡を取ったが、両親も、被告人から脅かされていて、何もできない
- 「今から武器を持っていく」という殺害予告は、しばらく続くことになる
- そこで業務妨害対策委員会を通じて、警察にアクセスし、ようやく上手く解決するに至る
- 「2ちゃんねる」については、削除要請や裁判所を通じた仮処分などで、書き込みを止めさせる方法もありますが、法的手続きが取れないのか、唐澤に確認
唐澤貴洋(からさわ)
- 彼ら(妨害者)は、開示請求と犯人追求の方法論、私が出来る事を、ある程度知っているので、外国のサーバーで掲示板を作り、誹謗中傷をしている
樋口收(ひぐち)
- 妨害者の多くは、日頃忙しくない、基本的にヒマな人であり、その中でも、人をイジメたり、誹謗中傷を生きがいにしている人たちである
安酸庸祐(やすかた)
- インターネットについては、対処方法を研究し、法整備を求める必要があるのではないかと総括
「事務所訪問型面談強要」
安酸庸祐(やすかた)
- 事務所に妨害者がやってくるケースでは、どうすべきか
- 私は、基本的には、妨害行為を起こしそうな人を、事務所に招き入れるべきではなく、弁護士会や、オープンスペース、ホテルのロビーで会う事が望ましいと考えている
- しかし、(事務所に)押しかけて来られた時に、どう備え、どう対処すればいいか、池田に質問
池田和司(いけだ)
- 平成9年3月に、当委員会の議事録で、「事務所の前に、警視庁のカメラを設置して、防犯監視に当たってもらうための手続きをする」と書かれている
- そして、妨害者が来ることがある程度予想できていれば、警視庁と連携を取り合い、カメラのを設置することが、可能なようである
- そのため、(上記のことが出来ているのであれば)喫茶店やホテルで会う方が危険である、と当時から言われている
- しかし、危ない相手と会う場合、自分の事務所から出て、他の場所で会うか、事務所で会うか、意見が分かれるかもしれない
森川紀代(もりかわ)
- 妨害行為は、妨害者が、誰も見ていないという心理になったときに主に行われるということなので、人の目があるところの方が、いいと考えている
- つまり、喫茶店より、事務所の方が、突発的な妨害行為に発展しやすいと思う
安酸庸祐(やすかた)
- 日弁連のアンケートでは、事務所で業務妨害に遭うケースが、非常に多い
- 事務所にいきなり入ってこられた場合、入り口が一つで、逃げられない構造になっていると思う
- しかし、最近の事務所は、常時施錠していて、モニター付きインターフォンで施錠しなければ、入れない
- 新しい事務所は、(ほとんどが)そうしているのではないか
- 監視カメラを設置したり、出入り口が2つの事務所を選んだり、(妨害者と)会う時も大きなテーブルを挟んだりすると効果的である
- テーブルなしのソファーだと、少し不安であり、金属バットや催涙ガスを設置することも考えている
森川紀代(もりかわ)
- 金属バットは、相手に持たれると、危険ではないかと、安酸を補足
安酸庸祐(やすかた)
- 刺股(さすまた)は、何人かで使用しないと機能せず、防犯ブザーが有効だという話もある
池田和司(いけだ)
- 痴漢防止用のブザーもある
樋口收(ひぐち)
- ヒモが繋がっておらず、音だけ出るものもある
安酸庸祐(やすかた)
- 弁護士が不在のとき、事務員が招き入れるかどうか、という意識も(事務所で)統一する必要があると思う
森川紀代(もりかわ)
- 札幌のアンケートでは、事務員が怖い目に遭っているのに、弁護士が、それを真面目に対応しないケースも存在している
- 酷いものになると、事務員が来訪者の情報を伝えたら、「何とかしておいて」と言われ、予定を変更して、事務所に帰らず、事務員に危険を押し付けていることが、実際にある
- 事務員が被害を受けても、弁護士業務妨害であること、事務員は、弁護士が守る必要があることを、間違えてはいけない
樋口收(ひぐち)
- 事務員には女性が多く、中には、大学の体育会の学生に、アルバイトをさせているところも、過去にある
安酸庸祐(やすかた)
- 予知できる危険なら対処のしようもあるが、突発的な危険は難しい、事務員が警察に電話を出来ないような状況、例えば、自分が一人でいた場合などである
樋口收(ひぐち)
- なかなか帰ってくれないとか、(事務所の)中で騒いでいる場合、実際に110番通報して、警察が来ても、相手が民事不介入だと言えば、(警察は)帰ってしまうのではないか
安酸庸祐(やすかた)
- 警視庁の組対三課(組織犯罪対策第三課)に相談に行ったりすると、あらかじめ所轄に連絡を入れてくれるので、すぐに駆けつけてもらえる
- 近くを走っているパトカーに無線で連絡が行き、急行するという対応も場合によっては可能らしいが、「基本的にこれは暴力団の場合だ」と言われたことがある
- そういう(暴力団関係の)ときには、業務妨害対策委員会と警視庁とのパイプは、非常に大切である
出澤秀二(いでさわ)
- 私は、あらかじめ所轄の警察に「こういう人が今日事務所に来る予定がある」と相談しに行き、警備会社の人に隣の部屋で待機してもらった経験がある
安酸庸祐(やすかた)
- 私も、やくざが不法占有しているリース会社の事件では、警察にお願いして、臨場してもらった経験がある
- そういう意味では、警察とのパイプは非常に大切である
黒川達雄(くろかわ)
- 弁護士は、依頼者から、依頼が来た時点で、もう手の付けられない事件を受けることがあり、そのとき、相手方から憎しみの対象とされる
- その場合、相手方から、依頼者への恨み・憎しみを、弁護士が引き継ぐ形になる
- 紛争の本質、背景事情、依頼者の対応等について、詳しい説明を受けないと、弁護士が業務妨害を受け、生命身体を、危険にさらすことになる
- そのときは、自分ひとりだけで(依頼を)受けるのではなく、複数の弁護士と共同して受ける必要がある
池田和司
- (複数の弁護士が対応することで)ターゲット分散になる、と黒川に同調
黒川達雄(くろかわ)
- 先程出た、インターネットの件(の妨害者)は、愉快犯であり、人が苦しむことで、喜んでいる
- 個人的に、弁護士を憎んでいるのかもしれないが、(基本的に)愉快犯は、自分の世界の中で、万能感を持ち、妄想の中で喜んでいる面がある
- だから、その人たちと歩調を合わせることは、大変危険である
- 自分も、(愉快犯と同じ精神世界に)入らず、視点をずらし、シフトしなければ、相手の思うつぼになる
- (相手と歩調を合わせると)彼らの楽しみを倍加し、彼らの異常な妄想が増長することもある
- 我々は、あまりムキにならず、関心を持たないくらいの方が、(相手も)面白くなくなるのではないか
外井浩志(とい)
- やはり、相手を挑発しないことが、非常に重要であり、(相手と)同列に立って、議論をしないことが大切
- 私の知っている弁護士は、依頼者と、本気で喧嘩をしてしまうので、非常に良くないと思っている
- 挑発をしない上で、いくら説得しても無理だと思ったら、(依頼者の話を)黙ってジッとして聞く、というくらいの覚悟が必要ではないだろうか
- 相手を挑発した結果、エスカレートしたり、同列になって議論したりすることは、弁護士としての、資質の問題があると感じている
「終わりに(質問・相談・宣伝)」
安酸庸祐(やすかた)
- 最後に、何か言い残したことがあれば、発言をお願いする
樋口收(ひぐち)
- まとめると、若い方は、依頼の断り方一つとっても、人生経験が必要なので、ハンディがうまれている
松原健一(まつばら)
- 依頼者の話を聞いているとき、どこまで聞いて、どのようにして切るのか、アドバイスをお願いする
森川紀代(もりかわ)
- 誠実に対応していくなか、「ここから立ち入らない、立ち入らせない」という線を引くことが大切だと説明
松原健一(まつばら)
- しかし、早い段階で話を切り上げると、相手が怒りだすこともある
外井浩志(とい)
- やはりある程度、聞くことが大切
- 私は1時間くらいは相談を聞いて、それをすぎると、事務員にノックしてもらって、切り上げている
藥師寺孝亮(やくしじ)
- 若手会員が、実際に、業務妨害を受けた場合、どんなサポートを受けることが出来るか、安酸に質問
安酸庸祐(やすかた)
- 当委員会(業務妨害対策委員会)では、業務妨害を受けている委員に対して、支援活動を行っている
- 支援要請は、委員会宛に連絡をお願いする(事務局会員課03-3595-8580)
- 今回、発言された方、清聴された方の中には、有意義な話もあったのではないか、長時間に渡り、議論を交わした参加者に、お礼を言い、終了
全文
特集記事 座談会 若手会員が知っておくべき 弁護士業務妨害対策 【日 時】平成27年1月6日(火)午後4時~6時 【場 所】第一東京弁護士会 役員室 【出席者】 弁護士業務妨害対策委員会 委員長代行 安酸 庸祐 会員(※司会)(45期) 副委員長 森川 紀代 会員(54期) 委員 池田 和司 会員(22期) 〃 黒川 達雄 会員(29期) 〃 樋口 收 会員(43期) 〃 唐澤 貴洋 会員(63期) 〃 松原 健一(56期) 〃 大澤 一雄 会員(64期) 〃 藥師寺孝亮 会員(66期) 会報委員会 委員長 出澤 秀二 会員(35期) 委員 外井 浩志 会員(37期) 司会・安酸庸祐会員●今日は、弁護士業務妨害対策委員会の松原さん、大澤さん、藥師寺さんの企画により、「若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策」というテーマで座談会を開きます。 平成元年に約1万4,000人だった弁護士数が今や3万6,000人になり重大な事件も起きている中、特に若手会員に知っておいてもらいたい事柄を座談会の中で浮き彫りにできればと思います。 『自由と正義』の平成26年6月号にも「弁護士業務と安全対策について」ということでアンケートを踏まえた詳細な記事が載っておりますが、今回はそれも前提に、一般的・抽象的なお話ではなく、できるだけ具体的なケースに沿いながら、「こういうとき、ちょっと困っちゃうな」というものに対するヒントを示すことができればいいなと思っております。 司会は、私、委員長代行の安酸が務めます。本日ご出席の方々は、当委員会の初代委員長代行をつとめた22期の池田和司さん、当委員会の設立以来のメンバーでパーソナリティ障碍等にも造詣の深い29期の黒川達雄さん、豊富な経験を基に若手会員に熱心に指導する43期の樋口收さん、当委員会の唯一の女性メンバーで日弁連委員としても大変ご活躍の54期の森川紀代さん、インターネットによる業務妨害に大変造詣の深い63期の唐澤貴洋さん、そして今回の企画をしてくれた松原健一さん、大澤一雄さん、藥師寺孝亮さんです。 本題に入る前に、弁護士業務妨害対策委員会が設置された経緯について若干復習しておきたいと思います。 平成元年11月に、オウム真理教による被害者の救済活動に取り組んでいた坂本堤弁護士一家が突然いなくなったということで、その救出活動が始まります。 日弁連執行部の中でも救出活動が始まっていきますが、残念なことに平成7年9月に坂本弁護士一家が遺体で発見されるという痛ましい事態となり、これを機に業務妨害対策に真剣に取り組まなければならないという気運が高まり、翌年(平成8年)6月に日弁連に弁護士業務妨害対策委員会ができまして、当会では平成9年1月に設置されております。 最初に池田さんから、弁護士業務妨害対策委員会ができるころ、どういうことが弁護士会の中で話題になりこれを委員会として立ち上げなければいけないということになったのかについてお話しください。 弁護士業務妨害対策委員会の 立ち上げ 池田和司会員●私は昭和45年に弁護士登録をしました。 登録して間もないころ、弁護士会では弁護士の方々とお会いする場所があり今よりもたくさんの方が来ていまして、あるいは派閥に入ったことなどもあり、ある先輩弁護士から、自宅の表札に、例えば私だったら「弁護士池田和司」というように「弁護士」を付けると、窃盗の被害に遭わず、強盗なども入らず、いわんや放火などの被害に遭うこともない、と教わりまして、「あ、そういうものか」ということで私も自宅を建てたときに表札に「弁護士」の文字を付けた思い出があります。 ですから、当時は弁護士は悪い人たちの刑事事件を担当してくれる尊い人種であるということで、暴力や犯罪の被害者になることはまずなかった時代だったわけですが、今安酸さんが言ったように、昭和の終わりから平成にかけてバブルがやや陰ってきたころから世相が少し変わってきたようです。 先ほど委員会のスタートは坂本一家殺害事件からという言い方をしていましたが、それより3年ぐらい前の昭和62年6月に、浜松で三井さんという弁護士が一力一家の暴力団から刃物で刺されたというこれもかなりショックな事件が起きており、それから2年経つか経たないかのうちに坂本一家殺害事件が発生しているという事で、私はこの時期から弁護士あるいはその家族の身体・生命・財産が妨害行為の対象になるという状況が出てきた、という時代認識をしております。 日弁連では早くも平成8年に弁護士業務妨害対策委員会ができたようですが、そのころは一弁にはまだできていなかった。 当時の山﨑源三会長が日弁連に出ていて、全国的に委員会をつくらないとまずいのではないかということで、山﨑会長の残り数カ月の時点のたしか平成9年2月ごろに急いで一弁の中に弁護士業務妨害対策委員会ができ上がりまして、初代委員長代行ということで私が就任しました。 そういう流れの中で、我が一弁では名前は伏せますがIさんという方が暴力団からターゲットにされて警視庁からカメラを弁護士事務所に向かって設置してもらうなどいろいろ対応していたと思います。 我々委員会も、早速、被害を受けた弁護士を救済・支援する目的で事件受任の候補者名簿を作成しようということになり、1班~5班に分けて約3名編成で支援対策チームをつくることになったわけです。 さて誰になってもらおうかという人材選びがなかなか難しかった。 当時、我々委員会の委員だけではなく民暴(民事介入暴力対策委員会)の委員にも入ってもらい、急遽、5班の編成をつくりました。 その後、そういう方々にボランティアで支援してもらうのは甚だ申し訳ないということで、支援弁護士に対する弁護士費用の問題が出てその方法について議論をしている中、何と、平成9年10月に、我が一弁の元会長の夫人が山一証券の株の取引に関連して殺害されたという事件が発生した。 これはまさに我々の先輩弁護士がそういう被害に遭ったわけで、ではどうしようかということで、その問題に取り組む専従班をつくり、きょうの司会の安酸さん、南部さん、岡本さんの3人が専従班として当該事件を担当していくことになったと記憶しております。 ということで当委員会は大忙しのスタートを切り、民暴委員会との連携の問題や、警視庁との連絡をどうしていくかという中で、ある種のコネクションを生かしながら、一弁特有の活動をしてきた、という歴史的事実があったと思います。 司会●ありがとうございます。 元会長夫人が被害に遭われた事件もまさにそうだったと思いますが、警察はこの加害者の異常な行動について察知をしていましたが元会長にはその情報は伝わっておらず、ましてや奥様には全く伝わっていなかったことがこの事件についていろいろ調査をしていく中でだんだんわかってきました。 もう1つ、坂本弁護士事件について言えば、もともと坂本さんの事務所は刑事事件をかなり活発に行っており、警察とはある種、緊張関係があったこともあり、警察に保護を求めにくかったのではないかという疑念もありました。 弁護士は理念的に警察や検察と対立する部分はありますが、やはりこういう強行犯の対策には警察とどうしても協力関係がなければならない、情報交換ができなければならない。 そういう中で、一弁と警視庁の組織犯罪対策第三課との意見交換会が委員会を立ち上げてすぐにできたのは大変よかったと思っております。 このような歴史の中で、今、若手弁護士が大変急増しているわけですが、弁護士の数だけ仕事があるわけではありませんから、若手弁護士が仕事を取りに行く中でトラブルに巻き込まれやすい環境がつくられているのではないか。 また、従来であればイソ弁のような格好でボス弁に付いて仕事を徐々に覚えられた、経験のある先生に付いて徐々に学んでいけたことが今やそうではなくなっているのではないか。 そういう意味で、業務妨害について若手会員にぜひこの点は注意してほしい、ということで今回の企画になったわけです。一般に弁護士が依頼者や相手方に接するときの心構えについて、以前と今とで弁護士のあり方、対応の仕方が少し変わってきているのではないかと考えますが、樋口さんはどう思われますか。 一般に弁護士が依頼者や 相手方に接するときの心構え 樋口 收会員●弁護士の数が大きく増加するに至り、日弁連が「市民に開かれた弁護士」を念頭に、その敷居はどんどん低くなり、我々の存在も一般市民に大変近くなってきました。 あるいはその一方で、先ほど池田さんが言ったような、弁護士に対する尊敬の念、といいますか、弁護士がリスペクトされることが段々と少なくなってきたことはあるかもしれません。 敷居を低くした、その方針が間違っていたというつもりはありませんが、状況としては市民が弁護士にアクセスする機会が増えて、その態様も多種多様になってきたことは、確かに大きな要因だと思います。 それから、暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)その他のいわゆる反社会的勢力対策の立法がこの間色々進んでいますが、私が弁護士登録をしたころは、業務上、反社会的勢力と対峙する中でそれなりにいろいろ危険な目に遭っている。 まぁ危険な目といっても程度問題ですが、例えば倒産事案などで債務整理に携わっていると変な輩が入ってきて脅かされることも昔はあったわけです。 そういう人たちは、皆さんもご存じのとおり元々それを言わば「商売」としてすべて計算で動いているわけです。 脅かすことを1つの商売としている。 でも、最近はそういう人ではなくて、同じく確信犯でも、ただ相手が苦しむのを見たいとか、相手を窮地に陥れたいといったことを意図し、かつ精神的にまともではない人が多くなってきて、自分自身どこまで続けるのか、限度がわかっていないという事案が非常に増えている。 これは私自身も非常に思うところです。 司会●現在我々が相手にするのは、暴力団から少し様相が変わって人格(パーソナリティー)障碍というようなちょっと厄介な人物で、彼らが事件の相手方あるいは依頼者として登場してくるようになった、そういうのが目立つようになった気がしますが、この点については、やはり黒川さんにお聞きしなければいけないのではないかと思います。 黒川達雄会員●業務妨害の対応について、現在、以前と相当様変わりをしていると思います。まず、情報化、インターネット等により、法律に関する知識や情報が国民の間に広く流布し、国民がセミプロ化し、以前は依頼者も法律の専門家である弁護士の言うことに従っていましたが、今はもう弁護士と対等となり、異議を申し立て、むしろ依頼者が雇用主で、命令服従の雇用関係に近くなっているのではないか。 又、人格障碍を疑わせる相手方、依頼者も多くなってきています。 現代では、国民の一人一人が自分の考えが最良のものとし、他者の考えを無視、排除して、自分の考えを無理矢理押し通そうとする。 現代人は、内的には自己不全、対社会的には不安、不満、不信があり、且つ重大なストレスを抱えている人が多く、法的問題になれば、相手を徹底的に抹殺するまで尖鋭的に対立します。 弁護士は、その一方当事者の代理人となるので、どうしても一方的に取り込まれてしまい、業務妨害を受ける危険性があります。 アンケート調査等にみる 業務妨害の最近の傾向 司会●今、様変わりしてきたとのお話がありましたが、日弁連で行っているアンケート調査に係わっている森川さんから、最近の傾向についてお話しください。 森川紀代会員●簡単なキーワードだけを並べると、まず、「相手方による妨害から依頼者による妨害へ」という傾向があります。 かつては相手方から妨害を受けることが多かったのが、依頼者からの妨害が相当数増えてきていると思います。 2番目に、「暴力的な妨害から非暴力的な妨害」の傾向があります。 かつては脅されたり身体・生命に対する害悪の告知といった妨害が多かったように思いますが、今はインターネット上の名誉棄損という形での妨害が増えてきている。 3番目として、「特殊な人物から一般人に」。 かつては反社会的勢力からの妨害が多かったかと思いますが、今は一般人による妨害が中心になってきている。 以上、3つほど傾向をまとめてみました。 藥師寺孝亮会員(写真) 妨害手段として気になるのは、今も触れたインターネットによる妨害が非常に増えてきたということです。 精神的に未熟な依頼者が増え、弁護士とのやりとりで、カッとしたことについて昔は自分の中で抱えているしかなかったことを、今はインターネットに書き込む。 それについて同調する者が現れてますます図に乗るということで、インターネットで妨害をして、更に周りがはやし立ててそれがどんどん大きくなる、というケースが相当数出てきているという気がします。 司会●ありがとうございます。 的確なまとめ方ですね。 インターネットの話もちょっと出ましたので、インターネットによる業務妨害について、唐澤さんから一言お願いします。 唐澤貴洋会員●インターネット上で私自身が実際に業務妨害を受けた経験があり、かつ、今現在も受け続けておりますが、情報端末がスマートフォンなどで一般的に非常に普及している現代、身近にインターネットにアクセスできる環境の中で、旧来のリアルな、例えば不動産や相続、企業法務といった法分野から、新たにインターネット上での法律問題が発生しているという社会状況があります。 そういった社会状況に置いて、弁護士が自分の名前を出して、インターネット上での依頼者の権利侵害に対して「それはおかしい。ちゃんと正したほうがいい」と言う場面がありますが、それを行う際に、インターネットをする人は様々な属性の人なので通常であれば会わないような人格的にちょっとおかしい人に出くわしたりすると、「この弁護士は自分たちの表現の自由を害している」ということで、インターネット上にその弁護士について事実無根の記事を多数投稿する。 これは実際私自身が経験したんですが、こういった現象は私だけではなく、他の弁護士会の先生から相談を受けることもあり、広く弁護士全般の問題になりつつあると考えております。 司会●ありがとうございます。 インターネットの場合には誰がやっているのかがわからない。 事件とは直接関係のない人だったりすることもあり、後ほど妨害者の類型による区別で考えてみたいと思いますが、事件の相手方というより、もともと典型的な業務妨害事例、民事の事例みたいなものから、依頼者とうまくいかなくなってという話が目立ち、今度は顔も見たこともない、名前もわからない、どこから飛んできているのかわからないという妨害が増え、対応すべき問題の範囲がどんどん広がってきていると強く感じるところです。 今の唐澤さんの話のように、インターネット上で誹謗中傷を受けている人の被害の救済活動をしている弁護士がターゲットにされると、誰もそういう問題については声を上げたくなくなる。 まさに弁護士の果たすべき役割が抑えつけられることによって、結果として、今の司法制度、民主主義に対しても重大な挑戦になってきていると考えます。 依頼者からの業務妨害について 次に、視点を変えて、妨害者の類型による妨害対策についてお聞きしたいと思います。 最初に依頼者からの妨害ということで幾つかの点がありますが、業務妨害を考える場合、依頼者との打ち合わせの仕方、接し方、受任の仕方について、一般的にどういうことをまず念頭に置く必要があるのか。 これについて池田さん、お話しいただけますか。 池田●依頼者からの妨害というのは、初めからあることは余りない。 つまり、受任をした段階では「いい」と思って受任をするわけです。 事件の処理の過程、途中において依頼者との信頼関係が損なわれるようなことが起きてそこから始まってくるので、場合によっては相当時間が経ってから発生すると、無防備の状態でズーッときているからかなりのダメージを受ける、という特徴があると思います。 私も45年の弁護士歴の中で一度だけそういうケースがありました。 事件そのものを1年、2年処理した中で、些細なことから「先生は相手の弁護士と意志疎通を図りながら自分(依頼者)の利益を損ねるような訴訟進行をしているんじゃないか」と言われたのから始まって、かなり恨みを買ったわけです。 ほとんど誤解なんですがそういう特徴があるので、その経験から言うと、やはり依頼者であってもいつ妨害の加害者に変身するかもしれないということは常に念頭に置く、肝に銘じておかなければいけない。 そのために丸腰で対応しないで、信頼関係と裏腹の部分もありますが、やはり自分の身を守るという意味においてはいろいろな証拠を残しておく。 「最初にあのとき、ああ言ったじゃないの」というようなメモを残しておくことも、先々、自分を守るための方法として必要ではないか、ということを若い弁護士の方々にはぜひ伝えたいと思います。 司会●こういう事件になる多くは、弁護士がちょっとしたミスを犯して負い目があり、依頼者からのクレームを受ける、電話にもだんだん出たくなくなる、ますます依頼者に不満が募っていく、というように発展していくケースです。 例えば、「電話をいついつください」と言われていたのに電話ができなかった、あるいは「この書面は事務所名では送らないでくれ」と言われていたのに事務所名で出しちゃった、と。 こういう本当に些細な事から業務妨害が始まるというのは、私どもが相談を受けているケースでもあります。ですから、具体的に例えば、事件の進行に合わせて報告をする、事件の見通しについての話をどのようにやっていくのか、報酬についてどこまで事前に話ができているのか、それをちゃんと契約書にしておく、といった、「やらなければならない」と職務規程に書いてある事柄をきちんとやっていくことが、業務妨害に対して自分を守ることになる1つだと思います。 このミスが生じたときの対応策についてはどのようにしたらいいでしょうか、黒川さん。 黒川●業務妨害のトラブルの発端は、お金の問題と弁護士の事件のやり方についての不満です。 後者については、法的にできることとできないこととを峻別し、で 黒川達雄会員(写真) きないことはできないと言い、勝訴するか否かの予測も裁判が終わってみないとわからないので、断定的な言い回しは避けるべきです。依頼者との信頼関係の維持は、実は事件を一緒に考えてやっていくというスタンスが大事だと思います。 司会●先ほどミスの話をしましたが、従来だと多分弁護士は、多少間違っても弁護士も依頼者も気付くことなく終わってしまうことが多かったのではないかと思うんです。 ところが今はインターネットでいろいろな情報が入ってくる。 ちょっと歩けばすぐそこに弁護士がいるという状況になっているから、ミスが明らかになりやすくなっているところがある。 気を付けていても間違えることはあると思いますが、依頼者が気付いた時の(怒りの)増幅のされ方を考えると、しくじってしまったことに気付いたときには「ごめんなさい」と、まず謝ることが必要ではないかと思います。 樋口●あるサイトでは弁護士の懲戒処分例を紹介してこれに対していろいろと評釈を加えている。 他には「2ちゃんねる」内の特定のスレ(※スレ=スレッド)で、弁護士に対する細かな不満、場合によっては誹謗中傷が、しばしば実名入りで書かれている。 ミスした場合にどう謝るかというのは、むしろ私どものノウハウよりは、デパートとかのクレームの対処法などのマニュアルを参考に学んだほうがいいぐらいの今の状況かなと思います。 出澤秀二会員●その点で1点。 普段から依頼者に誠実に対応していれば、謝れば済むケースは多いと思うので、普段の対応がやはり一番重要で基礎にあるのではないかと思います。 謝らないから怒るという人も多いと思います。 今まで誠実に対応してくれた弁護士だからと思って許してもらえるような弁護活動をいつもしないといけないのではないかと思います。 樋口●精神的にちょっとおかしいなと思ったときは、やはり早めに対応しないと、誠実に対応してきちんとやっているのに、思い込みでトラブルになることもある。 私の経験で、まだ登録3年くらいのころに、依頼者から学歴詐称と言われたことがありました。 「私、学歴の話はしていないと思うんですけど」と言うと、「あなたは嘘の学歴を言った」と。 「このようなことでは信頼関係が保てないので別の弁護士に交替しましょうか」と言ったら、今度は当時の事務所の上司に、私が「嘘をついたことを謝らない」と手紙を出した。 結局その事案は、事務所のサポートも得て続行しましたが、一般論で言えば、依頼人が精神的におかしいことがわかったら、コミュニケーションに留意し、最悪、どこかの時点で信頼関係が保てないことを理由に辞任することを検討すべきです。 依頼人のすべてが「樋口弁護士と闘う」というスレを立てるとは思いませんが(笑)、どういうところで情報が波及するかわからないので、やはりおかしな人だとわかったら何か手を打たなければいけない。 出澤さんが言ったことは100%全くその通りだと思いますが、それは相手がまともであることが大前提かと思います。 森川●実際にはミスではないのに、依頼者がミスだと勝手に思ってしまうという場合もあると思います。 先ほどもお話に出ましたが、最初からできないものは「できない」とはっきり言うことも妨害を防ぐための1つ手段であると思います。 それで思い出したのが、かつてストーカー的な被害を受けている女性から、「家族に絶対ばればいようにストーカーをやめさせてほしい」という話があった。 それはなぜかというと、不倫絡みだったからです。 ただ、こちらが絶対に家族に知られないように気を遣っても、交渉をすることによって相手方が家に来たり、警察に相談をすれば警察から問い合わせが行くとかいろいろなことがあるので、「それは約束できない」といって結 森川紀代会員(写真) 局以来にはならなかったんですが、そこで安請け合いして「わかりました。家族には絶対知られないようにやります」とやっていれば、恐らくトラブルになったのではないかという気がします。 仕事は取れなくなるかもしれませんが、後の危険を考えると、ちゃんと言うべきことは言ってよかったのではないかと自分としては思っています。 池田●あと一つ、私が最近つくづく思うのは、最初に人の紹介で依頼者が来て、話を聞いてみると少しおかしいなとわかったときは、初めからもう1人、弁護士を頼んで、依頼者に「費用は1人分ですけどいいですか」と聞いて、複数で一緒に共同受任をしています。 これはいろいろな意味で非常にいいですね。 もちろん助けてくれるし、証人にもなる。 若い弁護士の方にはぜひとも勧めたいと思います。 樋口●ネットワークづくりは若い方のほうがうまいですから、「今困っているんだけど」と言ってね(笑)、それはできるよね。 唐澤●はい。 樋口●あと、企業の依頼人ではあまり例はないですが、個人の依頼人の中には、何でも激しくやることが自分の味方の証だと思っている人が昔からいるわけです。 例えば、「裁判所で相手の声よりあなたの声が小さかった。相手の弁護士よりも大きな声で話してほしい」とか「相手方は非常に不届きな人間だから、その職場に直接乗り込んで話し合いをしてきてくれ」とかいうものですが、先ほどの、できないことは「できない」と言えるかということで言えば「私はそういうところで勝負していませんので」と明確に言えることが大事だと思います。 また、訴訟や交渉で「相手方は代理人弁護士3人だからこっちは4人にしてくれ」とか「先方は裁判官に対して5回発言したが先生は4回しか発言しなかった」とか、そういう方もいますが、このような場合も同様と思います。 方針の違いを理由にどこかの時点で辞任を検討するということもあるかもしれませんね。 今池田さんが言ったように1人でやっているのかどうかという点もありますが、プロセスを後で示すことは、それこそ紛議調停委員会に行っても鋼紀委員会の場合でも有力、有用だと思います。 司会●私の経験ですが、回り回って私の事務所に相談に来た案件で、長男に社長を譲った父親が長男を社長から引きづり下ろすために「株主代表訴訟を起こしてくれ」ということだったのですが、仰っていることが腑に落ちなかったので「今までどこかに相談をしたんですか」と聞いてみました。 渉外系の大事務所に行ったらしいんですが「うちは商法は苦手だからお宅の仕事は受けられない」と断られたということでした。 いや、うまい断り方があるものだなと思いました(笑)。 ちょっと危ないと思ったら、踏みとどまって早いうちにお断りすることも重要な選択、決断ですよね。 ただ、そうは言ってもなかなか粘り強く離してくれないのが、黒川さんの造詣の深いパーソナリティー障碍者ですが、これはどうしますか。 どうしても受けてくれと。 例えば携帯電話に30件も留守録されているといったストーカー的な猛烈な依頼者も時にはいますが、これにはどう対応したらいいんでしょうか。 黒川●パーソナリティー障害者から相談を受けた場合、まず第1に、どのような法律問題があるのかを考え、それ以外の問題と区別し、整理して、法的問題に限定、集中する必要があります。 権利義務がどうなっているかを考え、それが解決できないものははっきりできないと言う。 精神科医の人に聞いた話によると、まず断定をしないということだそうです。精神科医の弘末先生は、待てば海路の日和ありと言っています。 樋口●結論を急がないということですか。 黒川●そういうことです。 人格障碍者は、人と係わり合いを持ちたいと願っていると同時に被害意識、被害妄想的なところがあります。 それが逆転すると、今度は加害者になり、相手に対して非常に攻撃的になります。常に攻撃性と受動性の表裏一体です。 依頼者が頭を下げて来るとこちらは喜んでしまいますが、意外と依頼者の心の中には何とも言えない葛藤を抱えていることがあります。 又、自分のことをわかってくれないということで、依頼者から敵意を持たれてしまうこともあります。それから、弁護士の断り方により恨まれることもあるので、やんわりと断るべきでしょう。 司会●依頼者との関係について、1つ、最近の話として付け加えておきたいのは、依頼者の中には、実は弁護士の弱みを握って犬のように使おうとする悪い奴がいるということです。 そういう相談を何件か受けたことがあって、とんでもない仕事をさせられたことがあるので、依頼者とのつき合い方、距離感はとても大切だなと思います。 相手方からの業務妨害について 次に、相手方からの妨害についてお聞きします。 ニュース等でも取り上げられる非常に深刻な妨害事案として、DV夫が相手になっているような離婚事件あるいは相続事件がありますが、このような感情の対立が強い事件はどんなことに注意すればいいのか、森川さん、お話しいただけますか。 森川●先ほど、妨害の傾向として暴力から非暴力にという話をしましたが、DV加害者からの妨害は圧倒的に暴力です。 非常に重大な事件が起こったものの妨害を受ける原因となった受任事件は、圧倒的にDV事件が多いということはアンケート結果から裏付けられています。 DVを扱う異常は危険だと考えざるを得ないので、DV事件を受けたときには、先ほど池田さんが言った複数受任が基本であるというぐらいの意識でやっていかないといけないと思います。 特に女性弁護士の場合ですが、DVをする典型的な男性というのは、女性のことを下に見ている人とか、脅せば女は言うことを聞くだろうと考えている人なので、そういう人に対応するには、女性弁護士であれば男性と一緒に複数受任で対応するということです。 突発的にカーッとなって行われることも多いので、精神 樋口收会員(写真) 的な意味での歯止めでもあり物理的な歯止めにもなるように、できるだけ裁判や調停の場にも一緒に行ってもらう。 女性弁護士がDV事件を扱うときは男性弁護士と受けるのが望ましい――必要であるとまでは言えませんが――と思います。 司会●これは法テラスからの紹介案件でも、困難な事件ということで費用を増加していただいて、その費用で複数受任というか、もう一人の弁護士の費用を捻出するという取り組みがなされているわけですよね。 森川●はい。法テラスは複数受任そのものは認めておらず、法テラスと複数の弁護士が契約することはできませんが、費用自体を少し増額してくれるので自分の復代理という形でお願いをすることは可能になっています。 ですから、法テラスに申請をする際に、これはDV事件でかなり危険度が高く複数受任の必要があるので費用を増額してほしいと申請すれば、増額が検討されます。 法テラス自体にもまだなかなか浸透していないようでいろいろと問題はありますが、そのように、むしろ皆さんが申請をしていくことで法テラスも対応が変わってくるのではないかと考えています。 司会●これについては、この前、一弁の当委員会と千葉県弁護士会の業務妨害対策を扱っているところと意見交換をしたときに、千葉県弁護士会では民暴基金を使って、暴力団相手ではないDV事件等に対しても共同受任の形でサポートで入っていく。 用心棒のように弁護士を付け、会が費用を負担するという取り組みをしているようです。 当会ではそういう仕組みはないですが、そういうものができれば、特に若手で「一緒にやってくれ」と頼めないような人の場合やDV夫を相手とする事件を受任した女性会員などにはそれは心強いかなと。 これも新しい課題だと思います。 インターネットを通じた業務妨害 次に、妨害が行われる場所、妨害行為の類型について話を進めてみたいと思います。 まず最近の新しい話として、インターネットによる弁護士業務妨害はどういう形でなされていくのかについて議論をしたいと思います。 これについては唐澤さんからご紹介いただけますか。 唐澤●インターネット上での業務妨害のあり方として、まず一番単純な基本的な妨害のやり方としては、弁護士名とその弁護士がいかに悪い奴かを書く。 内容としては、例えばこの弁護士は無能であるとか、犯罪者であるとか、性犯罪者であるとか、依頼者を殴ったとか、そういった事実無根のことを書いた文章を作ってインターネット上の掲示板に投稿する。 ないしは弁護士口コミサイトといったところに投稿する、というのが一番ポピュラーな妨害の仕方です。 今はそこからちょっと進化したものもあります。 我々はインターネットにどうやって日常的に接しているかというと、検索エンジン(グーグル、ヤフー等)を通じて情報を調べて弁護士を探したりその弁護士の評判を調べたりしますが、そこに着眼した妨害のあり方です。 これは弁護士名とある特定のキーワードを検索エンジン上で表示しやすくするものです。 例えば私の名前を検索エンジン上の入力フォームに入れた際に、検索エンジンのサービスとして、このキーワードはこの弁護士の名前と関連しているのではないかということで、ある特定のキーワードを表示してくれる。 これは検索をしやすくするため検索エンジン上のサービスです。 そこでかつてよく出てきたのは、「無能」とか「詐欺」とか、弁護士としてそれが関連していると思われると、かなり致命的なキーワードをそこに表示する。 こういう業務妨害のやり方が、先ほどのポピュラーなものから一歩進化した形です。 一般の人から見るとその文章自体は意味不明ですが、特定のキーワードをその弁護士名と近接した形で掲示板上に多数投稿するための掲示板がインターネット上につくられており、その弁護士名をちょっとでも入力すると、この弁護士は変な弁護士だと一般の人に思わせることができる。 これは私が実際に経験した例ですが、他の弁護士でもそういった被害に遭っている方はいます。 あと、インターネットの攻撃のあり方として、プライバシーを侵害するというものもあります。 インターネット上で「炎上」という言葉があります。 炎上とは、特定人に対して不特定多数の者から、反復継続的に誹謗中傷がなされる状況と私は定義づけていますが、そのような状況下では、話題を求めて、炎上対象者に関する情報を収集するということが行われることがあります。 インターネット上に散逸している情報以外にも、例えば電話をかけたり、関連しているところに行ったりして情報を収集して、それを基に臆測でいろいろなことを書いて、またその人のプライバシーを侵害する。 私に起こった現象ですが、紳士名鑑に載っている親族の情報も集めて一族関係図みたいなものを勝手につくられました、誤った情報も多く含まれていましたが、そうやってプライバシーをどんどん侵害してくる。 ほかにも、これはインターネットではないですが無言電話がかかってくるとか、よくわからない届け物が送られてくるとか、そういったことが私の場合は行われました。 司会●唐澤さんの妨害者は特定することはできないんですか。 唐澤●基本的にできますが、ただ、インターネットというのは非常に不特定多数の人が関与していて、不特定多数の人に関心を持たれると、攻撃する人も何百人、何十人と数が多くて、その記事一つ一つについて特定する作業をし出すと自分の弁護士業務が滞ってくる。 私も1回やろうと試みましたが、事務所運営がかなり厳しくなると思い、半ば諦めています。 ただ、特定できるといっても今またそこで更に進化しております。 去年遠隔操作事件を起こした片山祐輔容疑者などが使った手法で、海外で匿名性を担保するTor(トーア)サーバーを介して書けば犯人を特定するのは現在困難だと言われておりまして、警察もこれにはかなり手こずっていると聞いています。 犯人を追おうとすると、捕まえられるケースもありますが、技術がどんどん進化していることもあって、かなりイタチごっこの面もある。 出澤●きっかけは何だったんですか。 唐澤●きっかけは、インターネット上の掲示板「2ちゃんねる」というウェブサイトがありまして、このサイトで誹謗中傷された高校生の事件を受任して、インターネット上に投稿された記事を削除ないし発信者を特定するためにIPアドレスと投稿日時を教えてくれ、という請求をかけた。 この請求のやり方は、当時、「2ちゃんねる」上では、「誰でも見られる掲示板上で請求をしてくれ。そうじゃないと一切応じません」ということで、そうしないと削除もしてくれないので、インターネット系の問題をやっている弁護士は皆それに応じる形で請求をかけていた。 私もそのようにしたわけですが、依頼者について攻撃している人たちからすれば、私が弁護するなんてとんでもない弁護士なんだと判断され、私を攻撃の対象にする事態になりました。弊害についてお話ししますと例えば依頼しようとする人が検索してこれを見ると、実際に依頼が来なかったりする。 インターネット上の問題は法律分野としては余り手を付けられていなかったので、事務所を始めるにあたって事件の受任件数も順調に伸びていたんですが、やはりこういった誹謗中傷をされてから著しく売上げが落ちたところがあって、現在は普通になってきていますが、影響としては非常に大きかったです。 司会●唐澤さんのケースのほかにも、例えばインターネット上で「弁護士××」と入れて検索エンジンをかけたらすぐに「詐欺」「悪徳」と出てきて、調べるとそこに中傷した記事が呼び出される。 そうすると、「あの先生を紹介するから行ってみたら」と言うと最近は最初にインターネットで住所や地図を探すので、そこでそんな記事が出てきたら、まず行かない、という選択をとるのではないかと思います。 そういう被害を受けている会員は当会だけではなく東京三会にもたくさんいまして、これにどう対応することができるのか、当委員会でも現在検討しているところです。 唐澤●1点、先ほど犯人を特定することはなかなか大変だという話をしましたが、実際、私もこれだけの事態に 安酸庸祐会員(写真) なったので警察にも協力していただいて、何人か書類送検して1人の逮捕が去年実現したんです。 ただ、そこで出てきた人たちの属性は、まず女性はいないんですね。 男性で10代後半~20代前半の学生ないし無職の人が非常に多く、基本的に余りリスクを背負っていないで生きている人たちです。、 このような方々に対して、どこまで弁護士として注力できるか。 仮に犯人がわかったとしても、現行の日本の法制度で取れる損害賠償金の額は少額です。 出澤●自分がそういう攻撃のターゲットになっても精神的にまいらないタフさというのはどうやって維持されるのですか。 唐澤●やはりうつ状態になりました、夜寝られないとか。 池田●それはなりますね、通常なら。 唐澤●私は今、自分で事務所をやっております。 仕事がこのままできなくなったらどうするんだろう、事務職員も雇っているので路頭に迷う、といったことを考えるとストレスが相当かかってくる。 でも、同期とか知り合いの弁護士で応援してくれる人がいて彼らと話したり、安酸さんにも非常に助けていただいて、その中で辛うじて徐々に持ち直してきたところです。 ですから、そういう心理的なところを相談できる場があればいいなと、それは病院なのかもしれませんが。 業務妨害対策委員会という形だとなかなか相談しにくいので、例えば弁護士会の中に簡単に相談できるところがあれば非常にいいのではない 出澤秀二会員(写真) かと、そのときは思っていました。 外井浩志会員●弁護士会は、たしかメンタル相談を始めましたよね。 樋口●大企業などは企業防衛でサイバーテロとかサイバー攻撃に対するものをいろいろやっていますが、弁護士会も本当はインターネットの専門部会がもう少し進化してそういう方向に行くことが期待されますね。 森川●インターネットの怖いところは、最初はすごく悪意に満ちたコメントの中に誹謗中傷が書いてあるので、嘘っぽいとわかるんですが、それを違う人が「こう書かれていたよ」と何回か伝言のように書いていくうちに、いつかそれが事実であるかのようになっていく。 「この人はこうである。こういうことがあった」ということで、最後のものを見た人はそれを信じてしまう、という怖さがあるように思います。 樋口●確かに進化しています。 以前、私の事務所にいた女性アソシエイトが当委員会で申立てをして救済していただいたことがありましたが、彼女は国選事件で本当に真面目に案件をやって、実刑の可能性があったものを執行猶予に落とした。 そこで被告人とメールでやりとりをしたのですが、「先生のお陰で最良の結果が得られました、本当にありがとうございます」という被告人のメールに対して「いや、私は当然のことをしただけです」との趣旨の返信をしたら、「これだけ優秀だったら人を殺しても大丈夫ですよね」という内容が返って来たので、彼女は怖くなってメールを返さなくなった。 そうしたら被告人から誹謗中傷、脅迫といった業務妨害行為が始まって、最終的にはメールが1日300回、「殺す」とか来るし、ファックスも事務所にいっぱい来る。 1回、事務所の他の弁護士数人で被告人に電話をしたら両親の実家にいたので、私どもが両親に「警察に突き出せ」とかいろいろ言ったのですが、両親もその被告人に脅かされて何もできない、と。 「今から武器を持って行くから」とか殺害予告ばかり来る。 事務所の所轄の警察署に電話をしても、正直最初は埒が明かなかった。 そこで、業務妨害対策委員会を通じて警察サイドにアクセスし、漸くうまくいきました。 ちなみに、2ちゃんねるについては、今は削除要請や裁判所を通じた仮処分など、書き込みを止めさせる方法もあり得るところですが唐澤さんのケースは進化していて誰がやっているかわからないので、法的手続がとれない。 唐澤●彼らも私が開示請求とか犯人追求の方法論をある程度知っていることをわかっているので、逆に、追えないところの外国のサーバー上の中で誹謗中傷を目的とする掲示板をつくって誹謗中傷するとか、そういうちょっと手の込んだやり方をしている。 樋口●皆さんおわかりのとおり、真っ当に一生懸命仕事をして忙しい人はこのような行為をするわけはないので、妨害者の多くは基本的にヒマなんです。 ヒマで、とにかく人のことをいじめたり誹謗中傷することだけを生きがいにしている人たちがいる、ということなんですね、残念ながら。 司会●インターネットについては大変難しい問題があって、対処方法についてもこれから更に研究しなければいけないし法整備も求めていかなければいかないところがあると思います。 電話による業務妨害 そのほかの妨害行為の態様として電話による妨害行為があります。 繰り返しとか長時間とかいう電話の対処方法について何かアイデアをお持ちの方はいますか。 日弁連が出している『弁護士業務妨害対策マニュアル』という冊子がありまして(四訂増補版、現在改訂中)、この中には、NTTのサービスやいろいろな電話機の機能で対応する方策も書いてあります。 私は、録音機能の電話を使うのがよいのではないか、「今録音している」と言うだけでも相当効果があるのではないか、と思います。 最近の録音機能付きの電話は、ボタンを押してから録音が始まるのではなくて受信したときからメモリーに録っているので、ボタンを押せば通話が始まったときから録音できる、残せる。 昔みたいに、あたふたして録音機を持ってくることをしなくてもよい。 これがあるだけでも精神的には相当ラクだと思います。 何か変な話になりかけたらボタンを押す、依頼者でも相手方でも。 これはお薦めしたいと思います。 池田●それは携帯電話は考えていないんでしょう。 固定電話のことですね。 司会●そうです。 樋口●携帯電話の番号は、変な人に教えないというのが一番ですね。あと、履歴を消す。相手にもこちらの番号は非開示で電話をする。 出澤●電話録音をする機会はそんなに多くはないですよね。 安心感のほうですかね。 司会●脅されるわけでもないんですが、グダグダと30分も40分も電話を切らせない場合があるので、そのようなときには、「いや、そんなことを言っちゃっていいのか。ちゃんと録っているんだぞ」と言えると、こちらに心のゆとりができる。 警察も、そういう脅しの電話はやはり録音してあることが捜査を進めていく上での証拠として絶対必要なので、「それは必ずやってください」と言われます。 森川●一般企業のクレーム対策の話ですが、お客様相談室に毎日何時間も電話をしてくる人について、「何回以上・何分以上になったら仮処分を行う」というルールが決まっているらしく、何分を超えたらむしろ「やった~、これで仮処分ができる」と思うんだ、という話もありました。 ですから、とりあえず録音をしておけば、いざとなれば、これ以上長くなれば証拠に使えるぞと考えられれば心の余裕にもつながるし、実際に何かしたいときには有用だと思います。 沖田和司会員(写真) 事務所訪問型面談強要 では、今度は事務所に妨害者がやってくるケースについて考えてみたいと思います。 基本的に、事件の相手方、特に妨害行為を起こしそうな人物を事務所に招き入れることはすべきではないだろうと。 弁護士会とか、どこかもう少しオープンなスペース、ホテルのロビーとかいうところで会うのが望ましいんだろうと思いますが、ただ、押しかけてこられたときに備えてどういう対応策を考えればいいか。 これについて、まず事前準備としてどんなことをすればよろしいでしょうか。 池田●平成9年3月の弁護士業務妨害対策委員会の議事録で、前述のI会員の問題を議論している中で当時の東谷副会長が、I弁護士の事務所の前に警視庁のカメラを設置して防犯監視に当たってもらうための手続きをする、と述べているので、当時から、妨害者が来ることがある程度予想できれば警視庁とそういう連携をとり合ってカメラの設置も可能なようです。 ですから、今もこれは多分できると思うので、喫茶店やホテルで会うのはかえってまずい、というのが当時のIさんに対してのアドバイスだったようにも思います。 これは意見の分かれるところかもしれませんが、どうですか。 そういう危なっかしい相手と会うときに、自分の事務所から出てほかの場所で会うほうがいいのか、それともやはり事務所で会ったほうがいいのか、という問題がありますが。 森川●精神科の方の講演録か何かで読んだように思い 大澤一雄会員(写真) ますが、妨害行為は、妨害者が誰も見ていないという心理になったときに主に行われるということなので、人の目があるところのほうが妨害行為に発展しない可能性が高いように思います。 喫茶店よりは事務所等のほうが突発的な妨害行為が発生する可能性は高いと思います。 司会●日弁連のアンケートでも、やはり業務妨害が行われる場所は事務所が非常に多い。 事務所にいきなり入ってこられたとき、小さな事務所の場合は入り口が1つでなかなか逃げられない構造になっているんだろうと思いますが、最近の事務所の多くは、常時施錠していて、テレビのモニターが付いているインターフォンで、解錠しなければ入れない。 特に新しい事務所などはそうしているのではないか。 あとは監視カメラ等を置いたり、できるだけそういうことはしたほうがいいと思います。 これは先ほどの『マニュアル』にも書いてあるところです。 また、襲われたときに逃げ場があるように、入り口は1つではなくて2つある事務所がいいとか、部屋でも1つの入り口だと逃げにくいとか、会うときも大きなテーブルを挟んでいれば(妨害者が)上がってきても逃げやすい。 それをテーブルなしでソファーに座りながら話していたら、やられたときはすぐですから、そういう構造上のことも意識しなければいけないんだろうと思います。 それに加えて、例えば金属バットや催涙ガスのようなものを置いておくということはどうでしょうか。 森川●ただ、武器に関しては奪われることも考えなければいけない。 金属バットは、相手に持たれると危険ではないでしょうか。 司会●刺股(さすまた)というんですか、あれはやはり何人かでやらないと実際は機能しないらしいです(笑)。 あとは防犯ブザーが有効ではないかという話があります。 大きな音がすれば向こうはひるむ、周りからも見られる。 池田●痴漢防止のものですね。 樋口●実際はつながっていないものでしょう、音だけがでるものですね。 司会●あとは、弁護士が不在の時に訪ねてきて事務員が招き入れるかどうか、というところもあるんだろうと思いますが、このあたりも、実際に被害に遭っているのは弁護士だけではなくて事務員のケースも少なからずあるので、やはりそこの意識をちゃんと統一させておく必要があると思います。 森川●今の点に関連して。 業務妨害対策ニュースなどに出ているのでご覧になったことがあるかもしれませんが、札幌でアンケートをとったところ、問題として出てきたのが、事務員が怖い目に遭っているのに弁護士が真面目に対応しない。 あるいはひどいものは、事務員が「こんな人が来ている」と言ったら「何とかしておいて」と言って、事務所に帰ってくる予定だったのに帰ってこないというように、弁護士が事務局に危険を押しつけていることが実際にあるそうです。 これは1つ、2つではなくて複数の報告として。 事務員に対するものも弁護士業務妨害であることと、事務員は弁護士が守らなければいけないということ、やはりそこを間違えないでほしいと思います。 樋口●(事務員の)多くは女性ですからね。ある事務所では、大学の体育会の学生にアルバイトをさせているところがありましたね。 司会●そういう危険をどれだけ予知して準備できるかにもよりますが、突発的に来たときにはなかなか難しい。 ある程度予想できる場合は、ちょっと変なところに話が流れたら事務員が警察に電話をする、という打合わせが最初からできていると多分いいんだろうと思います。 最悪は自分が1人でいたときですが、そういう事件は結構多い。 夜の遅い時間とか、1人で事務所にいたときとか。 樋口●110番通報をしたときはどうなんですか。 (妨害者が)なかなか帰ってくれないとか、中で騒いでいるとかいった場合、警察は一応来ますよね。 ただ、相手が民事不介入だと言ったら、帰っちゃうんでしょう、多分。 司会●妨害に遭いそうだという人と一緒に例えば警視庁の組対三課(組織犯罪対策第三課)に相談に行ったりすると、あらかじめ所轄に連絡を入れてくれるので、電話があったらすぐに駆け付ける。 一番速いのは、パトカーに無線が入るから近くを走っているパトカーが急行するという対応も場合によっては可能だというお話ですが、でも、そう言った後に「基本的にこれは暴力団の場合だ」と言われたことがありました(笑)。 基本はそうかもわかりませんが、でも所轄にちゃんと連絡が入っていれば、こういう人からやられる可能性があることがわかっていれば、そういうことはできるのではないか。 そのときには、業務妨害対策委員会と警視庁とのパイプは大変有効に働くのではないかと思います。 出澤●私の数少ない経験ですが、所轄の警察にあらかじめ「こういう人が今日事務所に来る予定がある」と相談に行ったことがあります。 これは破産事件の相手方(債権者)でしたが、事務所で話をせざるを得なくて、相手もすごくカッカしていたので、隣の部屋で警備会社の人に待機してもらっていた。 そういうことがありました。 結果的には何もありませんでしたが。 司会●私は昔、車のリース会社の事件をたくさんやっていたことがあって、やくざが不法占有しているリース車両を仮処分で引き揚げてくるという場合など、相手の属性がちょっとヤバいなというときには警察にもお願いして臨場してもらっていました。 そういう意味では警察とのパイプは非常に大切だと思います。 黒川●弁護士は、依頼者から激烈な紛争のドロドロになった火の玉の事件の依頼を受けることがあり、相手方から憎しみの対象にされることがあります。 相手方の依頼者への恨みを弁護士が引き継ぐことになるので、その紛争の本質は何であるのか、その背景事情、依頼者の対応等を詳しく説明を受けないと相手方からの憎しみを直に受け、業務妨害を受け、生命身体を危険にさらすことにもなります。 相手方の依頼者への憎しみが弁護士へシフトしてくるので、そのような相手方に対しては、自分 外井浩志会員(写真) 一人だけを特定化しないで、多数の弁護士と共同してやる必要があります。 業務妨害対策委員の弁護士が多数で対応することも憎しみを散らす一つの方法でしょう。 池田●ターゲットの分散化ですね。 黒川●例えば、先程のインターネットの件は愉快犯です。 人の苦しむのを想像することを無上の喜びとします。 個人的にその弁護士が本当に憎くてやることもあるかもしれないが、愉快犯というのは、ただ自分の世界の中、万能感。妄想の中で喜んでいる面があります。 だから、それと歩調を合わせてしまうと危険です。 自分もそこに入ってしまうからです。 そこで、次元を異にし、シフトというか視点をずらす。 そうしないと本当にその人の思うつぼになってしまう。 彼らの楽しみを余計に倍加し、異常な妄想を増長することにもなりかねません。 我々がむきにならず、あまり関心を持たなくなってしまうと面白くなくなるのではなかろうか。 外井●おっしゃるところはよくわかります。 やはり相手を挑発しないということは非常に重要だと思います。 それから、言っている人と同列になって議論をしない、と。 私の知っている弁護士は、依頼者が無理難題を言ってくるのに対して本気で喧嘩をしてしまうので、あれは非常にまずいなと思います。 やはり挑発はしない。 そして幾ら説得しても無理だと思ったら黙ってジッとして聞く、というぐらいの覚悟が必要ではないか。 そうしないと、相手を挑発すればどんどんエスカレートしていくし、また、 松原健一会員(写真) 同列になって議論をすること自体に弁護士としての資質の問題があるという感じがします。 終わりに 司会●大体時間になりましたので、最後に言い残すことがあればお願いします(笑)。 樋口●先ほどの話をまとめると、若い方は、断り方も演技とか引出しとかいうことで結構人生経験が必要なのでそこはハンディがあると思いますが。 松原健一会員●是非教えていただきたいのですが、話の途中で負担を感じるようになって、「これは危ないな。ここで話を切っておかなければ」と脳裏をよぎることもあろうかと思いますが、どこまで話を聞いて、どのタイミングで、どのようにして切るのか、アドバイスをいただけますか。 森川●人格障碍者に対する対応として、よく故藤本昭さんが言っていたのは、「聞いてはあげるけれども優しくはしない」と。 先ほど来名前が出ている精神科医の弘末先生は、たしか「木で鼻をくくったような誠実さ」とおっしゃった。 誠実に対応しているけれども、完全に線を引いて、ここから立ち入らせない、向こうに立ち入らない、というようなことだと思います。 松原●余り早く閉ざしてしまうと、恨みを買ったり、カーッとさせてしまうかもしれませんし、そこら辺が難しいように思います。 外井●ある程度は聞いてあげるということじゃないでしょうか。 私も我慢して1時間ぐらいは聞きます。 それ以上になるとさすがに辛くなるので、そのときは事務員からノックしてもらってちょっと席を外すという工夫はしています。 やはり2時間も3時間もズーッとつかまってしまうと大変なことになるので、工夫は要るんじゃないでしょうか。 藥師寺●若手会員が、実際に業務妨害を受ける事態に陥った場合、どのようなサポートを受けることができるのでしょうか。 司会●当委員会では業務妨害を受けている委員に対する支援活動を行っています。 支援要請については、委員会宛にご連絡ください(事務局会員課:03-3595-8580)。 きょうはいろいろ有意義なお話が聞けたと思います。 長時間どうもありがとうございました。 (了)
脚注
- ↑ [1]
- ↑ しかし、全文開示される前に別件で開示され、(唐澤貴洋のご尊顔開示事件を参照)実際にはこの記事では尊師は写って無かった。