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恒心文庫:女湯侵入ミッション

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

大の温泉好きの鈴木文刀を満足させる温泉は日本でも数少ない。
鈴木文刀は妻子持ち、イチゴの切り方が悪い、砂糖を均等にまぶせない、社会人になって14年経っても常識的なことが身につかない、勉強の成績はクラスの中で平均的、
運動は平均より少しだけ苦手という、はっきり言って社会不適合の妻子持ち以外に特に突出した特徴のない冴えない男であった。
以前までは山形大学の大学院で研究しており、空いた時間で全国の温泉を巡っていた。
鈴木文刀の好きな温泉は熱湯と言い換えられるような、とにかく熱い温泉を求めていた。
熱いことで有名な飯坂温泉、草津温泉、城崎温泉、松之山温泉、地獄谷温泉、そして日本一熱いとも言われる湯村温泉でさえ、鈴木文刀を満足させるには足らなかった。
熱湯を浴槽に入れて風呂に入れば問題ないのだが、非常に手間がかかり面倒だ。
第一に大学院での研究が忙しくて日頃から熱湯風呂など用意する時間などないのである。

博士課程も修了し、山形県山形市平清水で会社員になってからは少しずつ時間に余裕が生まれてきた。
いつものようにどの温泉に行こうかと適当に雑誌やサイトを眺めていると、宮城県仙台市にある作並温泉に目が止まった。
作並温泉は比較的山形から近いため、数年前に行ったことはあったのだが、とあるサイトによると女湯は男湯と比べ以上に温度が高いとのことである。
女湯だけ異常に温度が高いという事実を知った鈴木文刀は2012年4月15日に女湯侵入を決断する。
前日から入念な下調べを行い、犯行1時間前までは男湯であたかも普通の客のように振る舞っていた。
やはり男湯は数年前自分が入った温泉のままであり、自分にとってはもっと熱い方が良いと思った。

そして午後3時過ぎ、いよいよ女湯侵入ミッションを開始する。
男湯は温かったが女湯は果たして激熱なのか。
ネット上の書き込みに過ぎない噂ではあるが、百聞は一見に如かず、この肌で女湯を体感しよう。
鈴木文刀はそう言って自分を鼓舞した。
多目的トイレでドンキホーテで購入したコスプレ用のセーラー服に着替え、同じくドンキホーテで購入したパーティーグッズ用のボブカツラを被る。
マスク越しに軽くファンデーションをトイレのミラーを見ながら塗っていく。
入念な最終確認を経て、鈴木文刀は暖簾をくぐった。
脱衣所は女のテリトリーだ。それ故男とバレたら一巻の終わりである。
速やかに衣類を脱ぎ、デカブツはタオルで隠していざ女湯へ。

ところが、鈴木文刀は全裸の女が気になって仕方が無かった。
というのも鈴木文刀は今まで地味な人生を過ごしてきた人間で、女の裸など、母以外に見たことがなかったのである。
他の女は自分がまさか男だとは気付いていない。
温泉は逃げない。少しくらいここで裸を見ていくか。
脱衣所内を徘徊し、女の裸を堪能する。
女の裸というものは自分の予想以上のものだ。
興奮して鼻血が出そうになり、慌てて鼻を押さえる。
その時、自分のデカブツを隠していたタオルを持つ手を離してしまった。
するとなんということでしょう。
自分のデカブツがむき出しになってしまったではありませんか!
慌ててタオルを腰に戻そうとしたが、その前に一人の女が大声で悲鳴を上げた。
これはいけない。
鈴木文刀は女湯侵入は諦めてセーラー服に着替え、この場を後にすることにした。
しかし、悲鳴をあげた女が「おかしな人がいる」とフロントに通報したようで、鈴木文刀はあっけなく警備員に捉えられてしまった。

その後、宮城県警に身柄が引き渡され、鈴木文刀は逮捕されてしまった。
女の裸に気を取られ、女湯に入れなかったどころか警察にまで捕まってしまった。
とてもじゃないけど今は何も話す気になれない。
警察署で長時間の取り調べを受け、自分はすっかり疲れきってしまっていたのだった。
たまたま署にあったテレビから鈴木文刀の逮捕が報道されていた。

宮城県警仙台北署は16日、ホテルの女湯の脱衣場に入ったとして建造物侵入の疑いで山形市平清水、会社員、鈴木文刀容疑者(27)を逮捕した。
逮捕容疑は15日午後3時半ごろ、仙台市青葉区の作並温泉にあるホテルの女湯の脱衣場に侵入したとしている。
同署によると、鈴木容疑者は昼すぎに1人で入館。女性客が脱衣場内を歩いている同容疑者を見つけ「おかしな人がいる」とフロントに通報した。
鈴木容疑者は調べに「今は何も話したくない」と話しているという。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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