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恒心文庫:スイッチング・シャトルラン

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

都内某所の研究施設
そこの地下は全面コンクリートで埋められているが、その中に空洞が存在しており、とある実験動物が保管されているという噂がまことしやかに囁かれている
その噂は眉唾ものとしてインターネット上でも鮫島事件と同レベルのジョークにまで昇華されており、信じるものは誰も存在しなかった
しかしこの噂は真実である
ここにその実験データの一部を書き記すことにする



某時刻
密閉されているため時間の感覚が失せる中、実験動物・Kは起床する
寝起きに薬を投与する
1辺20m、高さ5mの直方体で形成されたこの施設、天井には監視カメラが複数取り付けられている
一通りの食料と娯楽、そして薬品が揃っており今飲んだ薬もこの後の実験に密接に関わってくるのだ

朝食?は備蓄されてるカップ麺を啜る
汁まで飲み干すと部屋の中央に鎮座するゲーム機の方へ向かい、遊び始める
今や知らないものは誰も居ない某人気アクションゲームの新作
無駄にネット回線も張られているので最終アップデートもインストール済みである
無愛想な表情で遊んでいるが、やり始めると4時間はそこを動かない事もあるのを見るに内心かなり気に入ってるようだ
さて、このKの飼育部屋だが一通りのものが揃っている中一つだけないものがある

(グギュルルルルルルルルルルルルッ!!)
「……!(バッ)」

無言で挙手するK
これはトイレに行きたいという合図である
しかし周囲にはトイレが見当たらない
すると部屋の隅からトイレが生えてきたではないか!
急いでトイレの出た方向に走るK
その足取りはとても遅く、まるで関取のすり足のようだ
しかしたどり着く直前にトイレが引っ込み、また別の場所に生えてきた
再びKはトイレのある方向へと向かうのだった

実はこの実験、全身唐澤貴洋が患うとされる過度の便意のメカニズムを研究するためのものであった
もし後世に再びこの難病を患う不幸な人物が現れた時のためにどのくらいまで便意を我慢できるかを調べることで不幸な脱糞事故を減らすためである

仕組みはこうだ
まず一日の最初に整腸作用のある漢方を投与する
Kの父親から提供された効能実証済みの代物である
次に食事だが、一般的に食べ物と認識されるものを1週ごとにあらゆるパターンで摂取させることにする
その中でその食べ物を取った時、どのくらいで漏らしてしまうかを記録し平均値を出す
そして比較的長く便を我慢できた食物を今後産まれるであろう全身唐澤貴洋人間に推奨するのだ
トイレに関しては、外部から監視する人間がスイッチを押して位置を入れ替える仕組みになっている
Kがトイレに付く直前にそれを奪い取る、退屈な監視作業に与えられた数少ない娯楽であるためその手口も巧妙・陰湿になってくるのだ

息も切れ切れにトイレに座り込むK
しかしその瞬間引っ込めることで、用を足せず尻餅をついてしまった
レンズを涙目でにらみつけるKに、監視員は笑いが止まらない
トイレを求め、尻を締め付け彷徨い歩くその姿はさながら餌を求め右往左往する単細胞生物のようであった
思い切って全力で走るKをあざ笑うかのようにトイレは引っ込む
ときにはフェイントで目の前に出すという行為も織り交ぜ、飛び込んだ瞬間に引っ込める
既に体はボロボロで、その目もどこか虚ろになっていた
便意が近くなるにつれ表情が青ざめていき、その遅い足取りもより小さくなっていく
そしてとうとうピタッ、と足が止まり脂汗もふつふつと全身に湧きだったままうずくまるのだった
そして、四つん這いになった次の瞬間

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!)」

コンクリート張りの床に、盛大にKが脱糞した
それを見た監視員が急いで耐久時間を記録する
この一週間与え続けた「日清 カップヌードル シーフードヌードル」は過去最長の平均3分34秒を記録した
この歴史的快挙に湧きだった監視員はすぐさまそのデータをとあるところに連絡する
一方のKだが、脱糞した瞬間絶命する仕組みとなっているため既に事切れていた
この実験動物・Kは実在する弁護士唐澤貴洋弁護士のクローンで、1日が終わるたびに処分されるのである
毎回まっさらな状態にリセットしないと、長い生活で余計な知恵をつけ、実験結果に支障が生じてしまうからである
床穴が開き遺体と糞便が処分され、徹底的に糞の跡を洗浄する
それが終わると一見充実した生活環境が再び構築され、そこに新たなKが現れる
後世のためKは今日もまた、この部屋であちこちに走らされ続けるのだ

「貴洋、当分の間この魚介のカップ麺を食べるんじゃぞ」
「……?まあそれ大好物だからいいナリけど唐突ナリね」

実験の本当の目的は、いまこの世にいる初の全身唐澤貴洋罹患者・唐澤貴洋に脱糞という惨めな思いをさせないための洋の親心であった
この実験の効果が本当にあるのか、仮にあったとして息子と同じ姿の生物が毎日死んでいくことに何も感じないのか
否、本当はとても心苦しい
厚史を含め何百人の弟がこの世を去ってでもなお、今いる肉親の貴洋を大事にしたいという思いが、このとても歪な精神を形成してしまったのだ
そうとは知らず今日も貴洋は飯を喰らい、臥薪嘗胆……惰眠をむさぼる日々を過ごすのであった

「この赤いオバケ強いな……いつになったら倒せるんだよ(ブリッ)」
「…あ」

……課題はまだまだ多そうだ

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