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定永だが、この後詐欺に加えて不正アクセスの罪も明らかになり、最終的に有罪判決が下されたという。 | 定永だが、この後詐欺に加えて不正アクセスの罪も明らかになり、最終的に有罪判決が下されたという。 | ||
</poem> | |||
=== EX Stage 6 -脱獄- === | |||
<poem> | |||
ここは府中刑務所。唐澤は電に手を出し、強姦致傷の罪で投獄されていた。毎朝早くに起こされ、刑務作業をする日々を過ごしていた。 | |||
今まで自堕落な生活をしてきた唐澤にとっては苦痛で、なにより日課の児童ポルノの収集が出来ない事に強いストレスを感じていた。 | |||
刑務作業中につい「ムショから出たいナリ……」と口にする。当然刑務作業中は私語が厳禁なので怒られる。「2783番、私語は厳禁だぞ!」 | |||
そして長い刑務作業が終わり、唐澤は独房に戻る。これでようやく今日は休めるのだ。食事を終え、床につく唐澤。 | |||
今までの生活を改めなければ刑務所での生活は出来ないため、諦めて寝る。しかしその日の夜、唐澤は不思議な夢を見た。 | |||
(…ここはどこナリか?どこかで見た気がするナリが……)どこか思い出せそうで思い出せない。しかし見覚えのある河川敷だった。 | |||
ここまでなら普通の夢なのだが、唐澤の場合は幼女に対する飢えからか、ここしばらくカンボジアで"買った"夢ばかり見ていたため、違和感を感じていた。 | |||
唐澤が河川敷を歩いていると、後ろから声をかけられる。「おい。」 | |||
当職は上級国民だぞと思いつつ振り返ると、そこには見覚えのある姿があった。「麻原尊師!?」「久しぶりだな、唐澤。」 | |||
「あなたは既に死んだはずナリが……」「確かに私は死んだ。だが今は天上界から超越神力を使って君の夢に出てきている。…その様子だと超越神力を殆ど失ったようだな。」 | |||
「実は……」「言わなくても分かるぞ。奥義・分身を使ったが、その分身を倒されたのだな。本来超越神力を上手に使えば今のように逮捕される事は無かったのだがな。」 | |||
「麻原尊師は何でもお見通しナリね。」「当たり前だ。天上界に行っても修行は続けていたからな。そこでだ……」 | |||
麻原は自身の超越神力を凝縮したであろうエネルギー球を手のひらに出す。 | |||
「もう一度だけチャンスをやろう。私が天上界で身につけた超越神力の一部を再び与える。今度こそ偉大な尊師(グル)になってくれよ。」 | |||
麻原がそう言うと、唐澤にエネルギー球をぶつける。唐澤はぶつけられてハッと目覚めると、既に起床時刻になっていた。 | |||
外から刑務官の声が聞こえる。「2783番、朝食だぞ。」刑務所の食事は質素だ。唐澤が好きなような物はまず出て来ない。 | |||
(当職はガリガリ君が食べたいナリ……)唐澤が朝食を受け取り、机に置くために振り向くと、床に未開封のガリガリ君が落ちていた。 | |||
「…ナリ?」唐澤は特に疑う事なくガリガリ君を手に取る。「よく分からないナリがちょうどいいナリね。」 | |||
唐澤は朝食の後にデザート感覚でガリガリ君を食べる。 | |||
そしていつも通り刑務官に連れられて刑務作業に向かうが、道中でこんな汚らわしい刑務官など消えてしまえばいいと思った途端、唐澤を連行していた刑務官が跡形もなく消えた。 | |||
「ナリっ!?」当然一人で歩いている唐澤を見つけ次第、他の刑務官が来るものの、消えろと思った瞬間消えていた。 | |||
(この感覚……超越神力が戻ってきたナリ!)唐澤が超越神力を失っていた期間がそこそこあったため、超越神力の使い勝手を忘れていたが、この時完全に思い出した。 | |||
(勝てる・・・勝てるナリ!)そして唐澤は取り戻した超越神力を使い脱獄する。 | |||
『緊急警報!緊急警報!』 | |||
『囚人一名が脱獄!』 | |||
『職員は直ちに向かえ!!』 | |||
唐澤が脱獄した後、刑務所では警報が鳴り響き、職員が大慌てになっていた。当然この非常事態はすぐに他の囚人にも伝わる。 | |||
急遽今日の作業が中止となった囚人の間でもこの話題で持ち切りになった。 | |||
唐澤が脱獄した場所では刑務官が目を疑っていた。「何故だ……」刑務官が驚くのも無理はない。 | |||
高強度コンクリートで作られた刑務所の壁がまるで粘土の壁だったかのように大穴が開けられていたからだ。 | |||
この穴を見た一人の老刑務官が呟く。「まさか……超越神力が継承されたとでもいうのか?」「超越神力?」一人の若い刑務官が尋ねる。 | |||
「あぁ…… 昔麻原彰晃が居たのは分かるよな。」「確かテロを起こして死刑執行された人ですよね。」 | |||
「アイツが過去に脱獄した事があったのだが、まさにこんな感じだった。」「え…?」麻原の脱獄の話を聞いて固まる若い刑務官。 | |||
「…そういう事だ、仕事に戻れ。」老刑務官は唐澤が脱獄した場所を調べだした。 | |||
所変わってけんまの拠点。けんまは開発の仕事をリモートで行っていた。(とりあえずここまで完成したし一旦休憩するンマ。) | |||
作業が一段落してコーヒーを飲みながらSNSを開く。いつも通りよく分からない事が流れてくるタイムラインだったが、その中にニュースのリンクが紛れていた。 | |||
"府中刑務所から囚人が脱獄"と。 | |||
どうせ関係無い事だと思っていたけんまだったが、社員用アプリの緊急通達と電からの電話が同時に来た。 | |||
けんまが電からの電話に出ると、電がパニックを起こしていた。「けんまさん、早く捕まえて!」 | |||
「いきなりどうしたンマ!」「唐澤が…唐澤が脱獄したのです!!」「なっ…!!」この時けんまは他人事でない事を知る。 | |||
「けんまさん、いい?」パニックを起こしている電に代わり、六実が電話に出る。 | |||
「ニュースで報道された内容を大まかに纏めるわ。唐澤は府中刑務所に収容されていたんだけど、刑務官数人を巻き込んで脱獄したみたいなの。 | |||
勿論警察も総力を上げて探しているけど脱獄した経緯から特殊部隊を出動させる事も検討してるらしいわ。ただ、その脱獄した手法は報じられてないけど。」 | |||
「想像以上に厄介な事になってるンマ……」「あと聞いた噂なんだけど、巻き込まれた刑務官は"殺された"のでなく"消された"らしいわ。」 | |||
「どういう事ンマ?」「私もよく分からないんだけど、なんでも"跡形もなく消された"んだとか……」 | |||
「都市伝説みたいな事になってるンマね……」けんまは電話で話しつつパソコンで緊急通達の画面を開いた。 | |||
「え…?」「どうしたの?けんまさん。」「会社のサーバーの負荷がおかしいンマ…… セキュリティ的に大丈夫なはずなんだけどこれは攻撃されてるンマ……」 | |||
「こんな時に!?」「しかも通達に書いてある事だと複数社が同時に攻撃を受けてるンマね……」 | |||
「いわゆるサイバーテロってやつになるのかしら?」「何を目的にしてるのか分からないンマが恐らくそうンマ。で、えっと……」 | |||
けんまが通達の続きを読むとこう書いてあった。"デバッガー・エンジニアは緊急の案件のため本件の解決を優先せよ"と。 | |||
「何かそっちも厄介な事になってるようね…… 私達も行きましょうか?」「裏方の仕事が出来るなら来てほしいンマ。」 | |||
「分かったわ。」六実が電話を切った後、本件の詳細を調べた。 | |||
会社が出した資料によると、複数社が同様の被害を受けており、協議の結果合同で本件に対応する旨が書かれていた。 | |||
また、攻撃対象には日本政府管轄のサーバーも含まれていた。(ん…?これは本当にやる気ンマ?) | |||
けんまが気になった部分として、資料の最後には"本案件は緊急かつ重要な案件のため、社長も参加する"と書かれていた。 | |||
社長がこの手の対応に参加するレベルという事は尋常じゃないと文面から感じ取っていた。 | |||
そしてけんま宛にDMが送られてきている事も気付く。(DM?誰からンマ?)けんまがDMを開くと、社長からの個人通達が届いていた。 | |||
"今回の件は定永の件を類似している箇所がいくつかあった。共通点を分析していくと、恐らくあの時の装置と同じ物が使われている可能性が高いため、プロトタイプを使ってまた電脳世界に入ってほしい。私がセカンドオペレーターとなる" | |||
「また…?」けんまはDMの添付資料を読むと、けんまが定永の時に使った装置とほぼ同じヘッダー情報が書かれていた。 | |||
「…どうやらまた全員を呼ばないと駄目ンマね。」けんまはカナチ達に拠点に来るようにメッセージを送った。 | |||
この時唐澤は社長の読み通り、どこからか定永が使っていた装置を入手し、都内のとあるビルに即席の拠点を構え、数人の仲間の援護の下電脳世界にダイブしていた。 | |||
協力者の目は虚ろだったが、唐澤のために全力を注いでいた。 | |||
しばらくしてけんまの拠点にメンバーが集まった。「今回集まってもらった理由はメッセージで送った通り社長からの要望があったからンマ。」 | |||
「まさかまたアレを使うとはな。」「正直な事を言うと前回の時みたいに安全を保証出来ないンマ。嫌なら嫌って言っていいンマよ。」 | |||
「馬鹿な事を言うな、オレ達が必要なんだろ?」「私も大丈夫よ。」「みんな……」全員が今回の作戦に挑む意思を見せる。 | |||
「で、コードネームはどうする?」「そうンマね…… "Star Force"ってのはどうンマ?」「"Star Force"(星の力)か…… 悪くないな。」 | |||
「よし、なら出撃準備するンマ!」各員が装置の中に入る。「"Operation Star Force"、作戦開始ンマ!」 | |||
けんまが起動コマンドを入力すると、カナチ達の意識は7つのリングを通り、電脳世界にダイブする。 | |||
「今回の作戦は前回と違って飛行が禁止されてるとかは無いンマ。というのも、相手は日本のネットワークを無差別に攻撃してるみたいだから隠れたところで意味が無いンマ。」 | |||
「随分と厄介だな……」「会社のエンジニアが対応に当たっているンマが基本的に防御しか出来ないンマ。で、社長に言われたけど僕達は"攻撃する側"になるンマ。」 | |||
「それってマズいんじゃ……」「確かに違法行為になるンマ。ただそれはIP開示とログの取得の両方が成功して初めて逮捕出来るンマ。」 | |||
「まさかログを……」「社長が会社側のサーバーにアクセスした時のログを消す仕組みを用意したのと、かなり匿名性の高いVPNを調達してくれたンマ。」 | |||
「…社長って実は悪人なのでは?」「社長は元々ハッカーだったからその辺の知識は妙にあるンマ。」 | |||
「本当に大丈夫かしら……」「社長曰く『NSAすら欺ける』らしいンマが、正直その辺は専門外だから僕もよく分からないンマ。」「おいおい……」 | |||
「とりあえず今は社長を信じるンマ。」「まぁやるしかないよな……」「今回は裏口も攻撃されてるから正面から出るンマ。」「分かった。」 | |||
カナチ達はサーバーの正面玄関に相当するメインのネットワークアダプタからインターネットに出る。 | |||
しかし事前の情報とは違い、インターネットは静かだった。「…妙ンマね。」「あぁ。」 | |||
カナチ達が周囲を見渡しても傷跡こそあるものの誰かが攻撃している様子は無かった。「会社のサーバーも狙って――」「上ンマ!!」 | |||
けんまに言われて上を見ると、何の前触れも無く突然巨大な爆弾が落ちてきていた。カナチ達は飛び上がって爆風から逃れる。 | |||
ビル郡の上まで飛び上がると、仮面を付けた謎の人物が居た。謎の人物はカナチ達に向けて合成音声で話し出す。 | |||
「当職は今非常に起こっている。故にこの国に裁きの雷を下す。」 | |||
カナチ達が攻撃元を見つけたため、防衛のために用意された大量のサイバーエルフが一気に現れる。 | |||
「目標捕捉!」「分析開始!」「デバッグモード、準備ヨシ!」 | |||
"A.C."は謎の人物に妙な既視感を覚える。(なんやろ…… どっかで見た気がするんやが思い出せんな……) | |||
「アイツが攻撃元ンマ!」「了解、戦闘に入る!」「当職は上級国民だ、悔い改めよ。」「ファイル名分析完了、"Gtanda.ELF"!」 | |||
ファイル名が解析されたグタンダだったが、余裕を見せながら手を挙げた。「光あれ。」グタンダがそう言うと、大量のミサイルが現れた。 | |||
瞬間的に加速したミサイルを避けるためにカナチ達は散乱する。一般兵として召喚されたサイバーエルフは銃を連射し、弾幕を張ってグタンダに対抗しようとする。 | |||
弾幕で逃げ場が無くなったグタンダに向かって電は電撃弾を放つ。 | |||
「無駄だ。」 | |||
グタンダは眩い光を放ったかと思えば大爆発を起こして電撃弾ごと弾幕を掻き消した。「次は当職の番だ。」 | |||
そう言うとグタンダはどこからか黄色い剣を取り出した。次の瞬間、ミサイルのように加速し、サイバーエルフ数体を斬った。 | |||
斬られたサイバーエルフはまるで鈍器で殴られたかのようによろめく。 | |||
「この程度……」「おいお前…… 身体が!」斬られたサイバーエルフは身体がバグに蝕まれ、データが崩壊していく。 | |||
「当職の呪いをその身で味わえ。」「嫌だ…… あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」 | |||
そしてデータが全てバグに蝕まれ、"消滅(デリート)"する。「何あのバグ…… エンジニアやってて初めて見たンマ……」 | |||
「俺達はアレをどうにかしろってのかよ……」「それでも…… それでも必ず弱点はあるはずンマ!」 | |||
「そうね、完璧な物は存在しない、そう信じて戦うしかないわ。」「まずはウチが!」"A.C."はネツァクを携え音速で突っ込む。 | |||
"A.C."をフォローしようと召喚されたサイバーエルフもバズーカやミサイルで援護する。 | |||
しかしグタンダは避けようとせず、剣の切っ先を"A.C."に向け、呪文を唱えるように呟く。 | |||
「ウラニウムソードよ、我が意志に呼応して輝け。」「!!」 | |||
"A.C."は本能的に危険を感じ取り、急旋回してグタンダから離れるも、グタンダの剣が発した青白い光を浴びてしまう。 | |||
幸い致命傷は避けられたものの、一番グタンダに近かった脚がバグに蝕まれる。「アイツ今"ウラニウムソードって言ったよな……"」 | |||
「まさかさっきの光はチェレンコフ光って事…?」「どういう実装をしているのか分からないンマが、アレにバグを引き起こすプログラムが仕込まれているのは間違いないンマね。」 | |||
「ならオレ達はあの光から逃れながら戦えって事かよ!?」「飛び道具はさっきみたいに掻き消されるから……」 | |||
「…結局近づかなアカンって事やな。」「一応会社のコンピュータにウラニウムソードの解析命令を出したンマが、AIを介入させても時間が掛かるかもしれないンマ……」 | |||
「まぁそれでも何もしないよりかはマシだな。」「という事は私達は解析するまで時間稼ぎをしないといけないって事ね。」「とりあえず有効打をどうにかして探すこったな。」 | |||
「当職は倒せないぞ。」グタンダはカナチ達に向けてミサイルを放つ。「とりあえず近づいたらやられる!ありったけの弾を撃ち込むぞ!」 | |||
カナチ達は散乱し、遠くからグタンダを囲い込む。「行くぞ!」カナチ達はそれぞれの武器でありったけの弾を撃ち込む。 | |||
「応急処置は済ませたンマ!ただガワだけ直してるようなものだから無茶しないでほしいンマ!」「けんま、ありがとうな!」 | |||
けんまは"A.C."に生じたバグに応急処置を施す。グタンダに撃ち込まれた弾は爆発で掻き消されるも、カナチ達は屈する事なく撃ち込み続ける。 | |||
「しつこいな……」グタンダは花火玉程度の弾を取り出し、ウラニウムソードで次々と打ち、カナチ達の方へと飛ばす。 | |||
「千本ノックといくぞ。」"A.C."は飛んできた弾を打ち返そうと思っていたが、飛んできた弾はまるで近接信管が付いていたかのように"A.C."の眼前で炸裂する。 | |||
「大丈夫か!?」爆炎と煙が晴れた後、そこには"A.C."の姿は無かった。「当職は無敵だぞ。」 | |||
「キルスイッチで強制的にログアウトさせたンマ、"A.C."は死んでないンマ。」「最悪の事態は避けられたか……」 | |||
「まだ終わってないぞ。」グタンダは休む隙を与えず次々と弾を打つ。カナチ達とグタンダの間には双方から撃ち込まれた弾で弾幕が形成される。 | |||
カナチ達はグタンダの弾を回避しているものの、一般兵として呼び出されたサイバーエルフには高度なAIが搭載されていたり優秀なオペレーターが付いていたりしないため、少しずつ数が減っていく。 | |||
けんまも戦況を有利にしようとグタンダの解析状況を見る。(やっぱりスーパーコンピュータの概念実験機だと性能が足りないンマか?) | |||
グタンダの解析に量子CPUをフル稼働しているものの、最新のプロテクトが使われているのもあってセキュリティの突破に手こずっていた。 | |||
他社もグタンダの解析をしているが、どこも結果を出せていなかった。 | |||
また、複数の解析機をネットワーク経由で接続して解析速度を上げる案もあったのだが、そのほとんどが開発に用いるコンピュータを使っており、企業秘密の流出を懸念して賛同しなかった。 | |||
また、これとは別にグタンダの接続元も監視していたのだが、全てがTorのIPであったため通信ログから解析出来そうな物はほとんど無かった。 | |||
だがけんまはログを流し読みした時に一箇所だけ混じっていた怪しいデータに気付く。(これ……もしかして?) | |||
一見するとただの乱数と思われるデータだったのだが、けんまにはどこかで見覚えのあるデータだった。 | |||
けんまは急いで過去に取っていた通信ログを遡る。(あの時似たようなデータがあったはずンマね…… よく見たら……) | |||
けんまのコンピュータの画面全体に大量のログが表示される。「あったンマ!やっぱり思った通りだったンマ!」 | |||
けんまは急遽解析班にメッセージを送る。"恐らく暗号化にメガ系列の会社が開発したアルゴリズムを使用している" | |||
偶然の発見によりグタンダを暗号化しているアルゴリズムが一気に絞り込まれる。会社に居るエンジニアが一気に慌ただしくなる。 | |||
けんまは解析を他の社員に任せ、再びカナチ達のオペレートに戻る。グタンダは攻撃の手を緩めず、次々と弾を打ち出す。 | |||
グタンダに向けて撃たれた弾はグタンダが飛ばした弾に相殺されるか、グタンダに届いたとしても爆発で掻き消される。 | |||
「四方八方から囲んでもコレか…… 背中に目でもあるのか?」「そうとしてか思えないな。背面からの弾に対しても秒で反応してるからな。」 | |||
グタンダは死角など存在しないかのように全方位から飛んできた弾に対処する。「どうすればいいのですか……」 | |||
「暗号化を突破出来てもそこからまた分析が必要ンマ。僕の知識で支援出来るのはまだ後になるンマね。」 | |||
けんまが次の一手を考えていると、会社から復号化成功の連絡が入る。「もう終わったンマか……」 | |||
けんまは社員の仕事の早さに驚く。「新興企業のはずなのにやけに技術力が高くないか?」 | |||
「まぁ僕みたいな"変わり者"がいっぱい居るンマ。で、えーっと……」けんまは復号化されてデコンパイルされたグタンダのソースコードを読む。 | |||
「…やっぱりC7で書いてるンマね。C7用のデバッグAIに入れたらバグを見つけてくれそうンマ。でもどうしてあの暗号化方式を使ってたのか気になるンマが……」 | |||
けんまはデバッグ用のAIに指示を出した。けんまもソースコードを読み、脆弱性を探す。 | |||
グタンダはソースコードがデコンパイルされた事を知らず、攻撃を続ける。味方のサイバーエルフは少しずつ減っているが、戦況はカナチ達の方が有利になりつつある。 | |||
カナチはグタンダの様子を見ていたが、少し違和感を感じる。「なぁ山岡、アイツの爆発間隔、若干だが長くなってないか?」 | |||
「言われてみればそんな気もするな。誰かがオペレートでもしてるのか?」「今ソースコードを読んでるけど全部AIに投げる作りじゃないから誰かがオペレートしてると思うンマ。」 | |||
「という事はオペレーターが疲れてきたとか?」「可能性としてはありそうだな。」「なら物量作戦は有効って事ね。」 | |||
カナチ達は引き続き大量の弾で弾幕を作り続ける。グタンダの攻撃で消滅(デリート)されていたサイバーエルフもバックアップなどからの再起動が始まり、補充が行われだす。 | |||
「もうしつこいぞ!」グタンダは突如怒りだす。「まずい!一旦全員ログアウトするンマ!」 | |||
けんまからの呼びかけに応じ、カナチ達はログアウトする。直後、けんまが使っていたコンピュータの通信が強制切断される。 | |||
装置の中から出てきたカナチがけんまに問う。「一体何があったんだ?」「…アイツ、とんでもない規模のゼロデイ攻撃をしてきたンマ。」 | |||
「ゼロデイ攻撃?何だ?」「一言で言うなら対策が発見される前の脆弱性を使った攻撃ンマ。今回はルーターを強制停止したから僕達には被害が出てないンマが……」 | |||
一旦休憩しようとテレビをつけた山岡だったが、ニュース速報が表示されていた。"日本政府のサーバー全てにサイバー攻撃か" | |||
この時他の人は誰がやったのか分からなかったが、カナチ達はこれがグタンダの仕業だと気付いた。 | |||
「なぁけんま、さっきゼロデイ攻撃って言ってたよな。何を使っていたんだ?」 | |||
「ソースコードを読んだ限りCPUのバグを使った攻撃ンマね。恐らく"Nuclear Missile"って呼ばれてるやつンマ。」 | |||
「…この間それの記事を読んだが確か今から10年前までのIntel製CPU全てにあるバグだったよな。」 | |||
「そうンマ。しかも発見されたのが先週末だから……」「3日程度だとまともに対策も出来ないって事か。」 | |||
けんまと山岡の話についていけないカナチ達。「で、例の脆弱性は海外でも知られてるのか?この手の事を一番してきそうなのはロシア辺りだが……」 | |||
「アメリカのハッカーの間では話題になってるンマ。ロシアの方は繋がりが無いからよく分からないンマが……」 | |||
「なら海外からの攻撃では……」「多分違うンマ。分析結果からすると日本語環境で構築された可能性が高いンマ。」「となると……」 | |||
「恐らく作ったのは"コシニズム"の連中ンマね。」「コシニズム?」初めて聞く単語に戸惑うカナチ。 | |||
「説明するンマ。コシニズムは日本で一番勢力のあるインターネット犯罪組織ンマ。」「犯罪組織ってか…… 頭領を捕まえれば解決するんじゃ?」 | |||
「それで解決してるなら今頃コシニズムなんてねぇよ。」「どういう事だ?」 | |||
「コシニズムは上下関係を持たない、いわゆる"集合意識"の集団ンマ。更に"特定される事を恥"としている教義がある集団故に他の構成員の本名を誰一人知らないのが基本ンマ。」 | |||
「お互いがお互いを知らない……」 | |||
「過去にアノニマスという集団が居たが、アイツらはハクティビズムという思想があったが、コシニズムにはそれが無い。面白いという理由だけでやってる上に誰も構成員を知らないから厄介なんだ。」 | |||
「かなり面倒な集団を敵に回してるな……」「で、通信ログの解析はどうだ?」「全部Torだから…… ん?」 | |||
けんまは1つだけ逆引きに特徴のあるIPを見つける。気になったけんまはルーターを再起動し逆引きを調べる。 | |||
「これは……」「どうした?」「接続元は"Fortress Hostings"になってるンマね。」「…コシニズム宗教自治区か。」 | |||
「おい待て、その2つをいきなり言われてもオレらは分からないぞ。」 | |||
「Fortress Hostingsはコシニズムの構成員であるコシナイトが設立した疑惑のあるサーバー会社ンマ。本社は中米のベリーズにあるから日本の警察も中々手が出せないンマ。」 | |||
「で、そのサーバーなんだが、名前通り要塞なんだ。どうもログをそこまで取ってないようでな……」 | |||
「ログが無いと警察も捕まえる事が出来ないから厄介ンマ。で、コシニズム宗教自治区はそこでホストされてるンマ。」 | |||
「ただIPだけだとコシニズム宗教自治区からの攻撃と決まった訳ではないだろ。」 | |||
「会社に情報収集目的で潜り込んでる人が居るンマ。その人に聞いたら何か分かると思うンマ。」「そんなとこに潜り込むって……」 | |||
「さっきも言った通りコシニズムはお互いの事をほぼ何も知らない匿名集団ンマ。情報収集目的で入っても誰にもバレないンマ。」 | |||
けんまは社員に電話をかける。 | |||
しばらくして通話を終えたけんまは報告する。 | |||
「内部資料からすると犯人はコシナイトで間違いないンマね。ただコシナイト同士のやり取りで主カラサワって単語が頻出してるのが気になったンマが……」 | |||
「まさか"あの"唐澤なのですか……?」「多分違うと思うンマ。僕は天才ハッカーとして有名な厚史だと思うンマ。あの人も唐澤姓だし。」 | |||
「そうだといいのですが……」電は不安を拭いきれなかった。唐澤が逃げ出した直後に今回の件があったため、どうしても関連性を否定する事が出来なかったからだ。 | |||
「とりあえず会社のエンジニアの一部が僕達と一緒にコシニズム宗教自治区に向かう事になったンマ。装置のエラーチェックが終わったら出陣したいけど大丈夫ンマ?」 | |||
「オレは大丈夫だ。皆は?」「大丈夫よ。」先程緊急離脱した"A.C."含め出陣する意志を示す。 | |||
「コシニズム宗教自治区は日本で一番自由な空間ンマ。何があるか分からないンマよ。」 | |||
「アルファに殺されそうになったのと比べたらそれほど怖くないぞ。」けんまは装置の簡易メンテナンスを行う。 | |||
「…さっきのゼロデイ攻撃は何とか防げてるンマね。会社のサーバーも仮復旧したみたいだし出陣出来るンマよ!」 | |||
全員が再び覚悟を決める。「システム起動、トランスミッションンマ!」カナチ達は先程と同じように電脳世界にダイブする。 | |||
「やっぱり視覚的に見ると結構悲惨ンマね……」カナチ達は先程のゼロデイ攻撃で大きな被害を受けているサーバーに出た。 | |||
サーバーの中ではサイバーエルフや大量のコンソール画面が修復を行っていた。 | |||
「見た感じ本当に応急処置だけして再起動した感じね。」「幸いカーネルが無事だったからどうにかなってるンマ。とりあえずコシニズム宗教自治区を目指すンマよ。」 | |||
カナチ達はサーバーの正面玄関から出る。「…外も結構悲惨だな。」会社のサーバーと同じように、グタンダの攻撃によって街並みは破壊されていた。 | |||
それぞれのサーバーを意味する建物には大穴が開けられた物もあり、被害が深刻だった事を思わせる。 | |||
「あそこまでダメージを受けてると0から環境を組み直したほうが早そうンマね……」 | |||
カナチ達は荒廃した街を通り抜け、一つの門の前に立つ。「まさかこんな大通りに構えてるとはな。」 | |||
「この先がコシニズム宗教自治区ンマ。ここから先は日本のネットワークから離れるから注意するンマよ。」 | |||
カナチ達が先に進むと大量の広告が迫ってくる。"神を崇拝せよ""神の死によって罪は償われる""百科事典を読め"などだ。 | |||
内容は宗教的な物とインターネット集団らしい物がほとんどを占めていた。 | |||
「…妙だな。インターネット犯罪組織のはずなのにポップカルチャー的な内容しか無いな。」 | |||
「それはコシニズムの表面的な部分ンマ。奥に行けば行くほど禍々しい物で溢れてるンマ。」 | |||
カナチ達は美少女やイケメンキャラが勧誘してくるのを無視して更に奥へと進む。進んでいる途中、巨大な百貨店のような施設があった。 | |||
「…妙にデカいな。ここは何だ?」「ここはコシナイトが使っている百科事典のサイトンマね。かなり大量のデータがあるからコシナイトが使っているサイトで最も大きなサイトンマ。」 | |||
「ならここにさっきのゼロデイ攻撃の情報も載ってそうだな。」「ここが速報サイト的な使われ方してるか分からないンマが載ってそうではあるンマね。」 | |||
山岡は後で確認出来るようにブックマークマーカーを置いた。「ブックマークマーカーがこんなに置かれているって事は使ってる人がかなり多いのね。」 | |||
百科事典に置かれていたブックマークマーカーに次々と飛んでくるサイバーエルフの数から規模の大きさが伺い知れた。 | |||
百科事典を通り過ぎると、じきに禍々しくなっていった。 | |||
「ここがコシナイトの本拠地ンマ。騒がなければ多分大丈夫ンマが、サイバー犯罪に慣れた人が多いから気をつけるンマよ。」 | |||
眼の前にはノイシュヴァンシュタイン城のような豪華な要塞があった。「ここがコシニズムの本拠地か……」 | |||
「これがコシニズムの中核を成す匿名掲示場のアイオス五反田駅前掲示板ンマね。」「何でその名前なの?」 | |||
「詳しくは知らないけどどうも今は昔のビルの名前を付けるのが流行りらしいンマ。」「よく分からないのですね……」 | |||
カナチ達が掲示板に入ると、無数の部屋があった。「ここは掲示板サイトだから部屋の1つ1つがスレッド(話題)ンマね。」 | |||
「…"ネット犯罪綜合"とかあるのか。」「コシナイトの一部はそういう事に強いから普通にあるンマね。」 | |||
この時けんまは気付いていなかったのだが、アイオス五反田駅前掲示板の管理人はカナチが侵入した事に気付いていた。 | |||
所変わって管理スレ。過激派コシナイトはカナチ達にどう対処するかを相談していた。 | |||
「主の跡を追って誰か来たようだぞ。」「確か主は東京に居たよな。」「東京の廃ビルに居る。ただどこでIPが漏れたのか……」 | |||
「主の装置は鯖のノードを入口にしてたよな。」「そもそもあの装置はTorを前提に作ってなかっただろ。」 | |||
「漏れたのはしゃーない、切り替えていく。論点はここからどう対処するかだな。」 | |||
「とりあえず唐澤砲でも撃っておくか?」「撃つ前にハッカー隊を動員しろ。相手には本職のデバッガーが居るとの情報がある。」 | |||
「すぐにどれだけ来るのか分からないがハッカー隊に要請をかけた。」「タイの政府鯖のバックドアを使って唐澤砲を仕込んでおいた。」 | |||
「ようやっとる、俺らは主を守るから砲兵は唐澤砲で、ハッカーはKRSWLockerで応戦してくれ。」 | |||
「――で、コシニズムの本拠地はここンマが指揮している……」「危ない!避けろ!」突然カナチ達に向けて一発のレーザー砲が放たれる。 | |||
「裁きを。」「裁きを。」特に何もしていなかったカナチ達だったが、警戒態勢のコシニテスに囲まれる。 | |||
「クソッ、察知されたか!」「どうやらウチらはアレと戦わんといけんようやな。」カナチ達は武器を構える。 | |||
「声なき声に力を。」コシナイトの一人がそう呟くと、他のコシナイトも一斉に襲いかかってくる。 | |||
「敵はおそらく数で圧倒するタイプや!とりあえず蹴散らすで!」「まずは私が!」六実は牽制として炎の矢を大量に放つ。 | |||
「私も援護します!」電も大量の電撃弾を放つ。矢と弾はコシニテスに着弾するも、数が全く減らない。 | |||
「山岡!」「おう!」カナチと山岡は音速まで加速し、次々とコシナイトを斬りつける。「やるしか無いわね…!」 | |||
座間子は氷龍を召喚し、コシナイトに向けて飛ばす。十七実は召喚された氷龍を盾に、次々とフォレストボムをバラ撒く。 | |||
「ウチもまとめて射抜いたるわ!」"A.C."は杖からレーザーを放つ。 | |||
カナチ達全員がコシナイトを次々と消滅(デリート)するも、一向に数が減らない。それどころか、戦闘開始時より数が増えている感じすらした。 | |||
「…どういう事だ!」「もしかして……」けんまは消滅(デリート)されたコシナイトのデータを解析する。「やっぱり……」 | |||
「何だ?」「コイツら、サイバーエルフに姿を似せただけのウィルスンマ!」「おい待て、サイバーエルフじゃないって事はコイツらの羽は?」 | |||
「どうも普通のサイバーエルフに見えるようにその辺を偽装しているみたいンマ。」「ウィルスって事は増殖も容易いって事ね。」 | |||
「そういう事ンマ。ウィルス故のカラクリンマね。」「でもこれだけの数はいくら倒してもキリが無いわ。一度に大量を倒す兵器って無いの?」 | |||
「今会社のデバッガーにサンプルを送ったところンマ。感覚的にクラッシュさせるバグはあると思うンマが、コード長的にAIで分析しないと短時間で見つけるのは難しいと思うンマ。」 | |||
「でも会社のコンピュータがさっきの攻撃でまともに動かないんじゃ……」 | |||
「一応故障時のために置いていた控えのワークステーションが数台あったからそれを使って分析するンマ。」 | |||
「とりあえず解析出来るまでコイツらの相手をしろって事か。」「やるしか無いのです…!」 | |||
カナチ達は解析の時間稼ぎのためにひたすらコシナイトを倒し続ける。先程のレーザーも撃ち込まれていたが、撃たれる度に詳細が明らかになっていく。 | |||
「レーザーの正体が解析出来たンマ!」けんまは解析結果を読み上げる。 | |||
「攻撃元は様々な国から、これはハッキングされたサーバーなどから撃たれてる可能性が高いンマ。目的は相手の計算資源を喰らい尽くして機能停止させる事みたいンマ。」 | |||
「アレに当たるだけで死が確定するのか……」 | |||
「今使ってる装置はまだ開発段階の物ンマ。安全装置がまだ未完成だからフリーズするだけでもどうなるか分からないンマ、だから絶対に避けるンマよ!」 | |||
「どっちにしろ元から喰らえそうな雰囲気じゃなさそうだったがな!」カナチ達は再び増え続けるコシナイトを相手する。 | |||
「――あともう少し……」けんまは会社のAIのコンソールを見ながらカナチ達が不利にならないようにオペレートし続ける。 | |||
そして15分くらい経った後、AIがついにコシナイトの解析を終え、脆弱性を突く1つのプログラムを生成した。 | |||
「AIが解析してくれたンマ!起動するから離れるンマよ!」 | |||
けんまがプログラムを実行すると、カナチ達からは会社のサーバーから超音速でICBMが飛んできたように見えた。 | |||
そして退避を終えたカナチの眼前で炸裂した。まるで核爆弾かのように。発生した衝撃波はコシナイトを一掃し、一部のコシナイトを残して殲滅した。 | |||
「凄まじい威力なのです……」一掃されて残ったコシナイトを分析したところ、ウィルスではなく通常のサイバーエルフだと判明した。 | |||
「恐らくアイツらがウィルスの司令官ンマ!アレを叩けばウィルスは湧かないと思うンマ!」 | |||
残ったコシナイトを倒そうとするカナチ達だったが、コシナイトも負けじとレーザーで反撃する。 | |||
コシナイトは再びウィルスを召喚して戦おうとするものの、先程のプログラムの影響で不発に終わる。 | |||
これまでの戦いで精神的に消耗しているカナチ達であったが、皆があと少しだと思ってコシナイトを撃破していた。 | |||
そして残されたコシナイトをすべて撃破したカナチ達。これでようやく終わったと思っていたが、突如として全身が動かなくなる。 | |||
「これは……」けんまが急いでサイバーエルフの状態を確認する。「マズい、クラッキングされてるンマ!」「クラッキングだと…?」 | |||
カナチ達のサイバーエルフがクラッキングされたのは、ウィルスとレーザーの解析に注力し過ぎて敵勢力全体の分析に遅れが生じたからであった。 | |||
幸いサイバーエルフ自体はプロテクトが掛かっていたため無事だったものの、敵のハッカー軍団は移動に関する制御権を乗っ取った。 | |||
ハッカー部隊のサイバーエルフがカナチ達の上に現れる。 | |||
「よう実働を倒したな。だが俺らの方が一枚上手だったようやな。ではお楽しみの処刑タイムといこうか。まずは……」 | |||
ハッカー部隊はカナチ達を見た後、六実と十七実を指差す。「お前らだ!」「なっ…!」「神の名において華々しく散るがよい!」 | |||
「間に合わないンマ!」コシナイトは先程のレーザーを六実と十七実に向けて放つ。けんまは最終手段としてキルスイッチを用いて二人を強制ログアウトさせる。 | |||
「これは愉快だ!さっきまで圧倒してた奴をこんなあっさりと退場させられるとはな!」「くっ…!」 | |||
カナチは必死に動こうとするも、クラッキングされた領域が広いからか、まるで金縛りのように体が動かない。 | |||
けんまは急いで会社のデバッガーにフォローを頼むも、ハッカー部隊は攻撃の手を緩めない。「次はお前だ!」レーザーは無惨にも"A.C."に向けて放たれる。 | |||
「すまん、離脱する!」"A.C."は攻撃の矛先が向けられた時点で今までの経験上やられる事を確信し、被害を最小限に抑えるべくログアウトする。 | |||
急いでデータの修復を試みるけんまだったが、完成まであと一歩のところでもう一発が放たれ、放たれた時には既に"A.C."はログアウトしていた。 | |||
「クソっ…!」「間に合わせだけどパッチが完成したンマ!」パッチが適用され、どうにか動けるようになったカナチ達。 | |||
「ほーん、もう突破したのか。面白くないな。でも次は――」「させるか!」 | |||
山岡は斬撃を飛ばし、次のプログラムを実行しようとしていたハッカーの腕ごとプログラムを破壊した。「覚えてろよ!」 | |||
ハッカーはプログラムが起動出来なくなったからなのか、早々と撤退した。「よくも同胞を…!」 | |||
先程のハッカーとは別のハッカーが出てきてカナチ達に反撃しようとする。 | |||
「そこまでナリよ。」「あ…主カラサワ様…!」「お前は…!」 | |||
なんと、そこに居たのは府中刑務所から脱獄した"あの"唐澤だった。「!!」電は唐澤を見た途端言葉を失う。 | |||
「コイツ…!!」カナチと山岡は槍のように鋭い殺意を唐澤に向ける。「そうピリピリしないでほしいナリよ。何故なら……」 | |||
唐澤はウラニウムソードを取り出す。それも一本だけでなく二本も。「この剣の前には誰も勝てないナリ!」 | |||
唐澤はウラニウムソードを光らせ、そのまま山岡を斬ろうとする。「くたばれ!!」山岡は次々と唐澤に向けて斬撃を飛ばす。 | |||
しかし唐澤はこれらを弾き飛ばして山岡に接近する。「法廷での借りはキッチリ返させてもらうナリよ。」そして唐澤と山岡は鍔迫り合いになる。 | |||
カナチは背後から唐澤を斬って抵抗しようとしたが、近づいたらウラニウムソードが放つ光にやられるため近づけなかった。 | |||
ウラニウムソードの光で身体がどんどんバグに蝕まれていく山岡。「山岡!これ以上は死んでしまうンマ!」 | |||
無念にも山岡はログアウトする。「さて……」唐澤の視点は電に向けられる。「あの時の続きナリよ。」 | |||
電はパニックを起こし、恐怖から狙いを定めずに電撃弾を次々と連射した。 | |||
唐澤が一気に接近すると同時にけんまが継戦不能と判断し、ログアウトさせる。 | |||
残されたのはカナチと座間子の二人。「ここでやられてたまるか!」カナチはピュシスフォームを起動し、ミサイルのように唐澤に突っ込む。 | |||
「無茶ンマ!」「無駄ナリよ。」唐澤は飛んできたカナチを蹴飛ばす。カナチはセイバーを地面に突き刺し、強引に姿勢を整える。 | |||
「落ち着いて、カナチさん!」「そうンマ!今あの光を無効化するプログラムを作っているとこンマ!」 | |||
「…何分稼げばいい?」「はっきりとは言えないけど推定5分ンマ。」「やってやる!」「頑張ります!」 | |||
残された二人は唐澤に近付かれぬよう、距離を取って次々と弾を放つ。唐澤は余裕を見せるかのように飛んできた弾をウラニウムソードで打ち返す。 | |||
元はカナチが放った弾も、ウラニウムソードの力によりバグを引き起こすプログラムが付与されるため、余計に避ける必要が生じる。 | |||
カナチと座間子は複雑な軌道を描いて避けつつも、負けじと弾を撃ち込み続ける。「デバッグ用プログラムが完成したンマ!」 | |||
けんまはグタンダの解析で得たプログラムを実行する。「これでウラニウムソードのバグを起こすプログラムが無効化出来るンマ!」 | |||
「よし、一気に攻めるぞ!」カナチと座間子は一気に間合いを詰める。 | |||
唐澤はウラミウムソードを光らせてカナチ達を追い払おうとするも、プログラムによって纏ったオーラが光を無力化する。 | |||
「前後から攻めるぞ!」「分かりました!」カナチは唐澤の後ろに回り込む。今まで不利だった戦況がカナチ達が有利になり始める。 | |||
座間子は槍をバトンのように振り回し、唐澤の防御を崩そうとする。 | |||
隙を見せた唐澤を背後から斬りかかろうとするカナチだったが、唐澤は奥の手と言わんばかりに大爆発を起こす。 | |||
一気に吹き飛ばされた二人だったが、ダメージは先程のプログラムがほぼ完全に無力化していた。 | |||
「被害軽微、まだいける!」カナチは正面から堂々と唐澤を斬りつけようとする。 | |||
カナチの流れるような連撃を唐澤はウラニウムソードで弾く事しか出来なかった。 | |||
防戦一方の状況に唐澤は焦っていた。(本当に最後の手段を使わないと勝てないナリね…… 麻原尊師から貰った力を解放する時ナリ!) | |||
唐澤は渾身の力でカナチを振り払うと、座禅を組んで空中に浮かび上がる。 | |||
「我々はチームになりつつあります。声なき声に力を。」唐澤がそう言うと、周囲に居たコシナイト全員が「声なき声に力を。」と言い、光球を放った。 | |||
そしてその光球は唐澤の下に集まり、そして吸収される。「新しい時代を。」突如、唐澤は急加速してカナチに斬りかかる。 | |||
「何だ!?」カナチは唐澤の斬撃を防ぎきれず、吹き飛ばされる。力、スピード共にピュシスフォームのカナチと互角か、あるいはそれ以上になっていた。 | |||
「唐澤からの通信量が増えてる…… アイツ、コシナイトの力を吸収したみたいンマ!」「また厄介な事を!」 | |||
認識能力の限界を超えたスピードで戦う二人を座間子はただ眺める事しか出来なかった。 | |||
「けんまさん、私もあのスピードになったら…?」「座間子は多分経験が無いから脳が追いつかないと思うンマ……」 | |||
「やっぱり私じゃ駄目なのかしら……」「一応パッチ自体は10分あれば作れるンマ。ギャンブルになるけど使ってみるンマ?」 | |||
「…お願いするわ。間に合ったらの話だけど。」自ら戦力に加わりたい座間子を横目に、カナチと唐澤は激しい斬撃戦を繰り広げていた。 | |||
「けんま!弱体化パッチは作れないのか!?」「サイバーエルフの解析中だから今は無理ンマ!」 | |||
「クソっ!このスピードとパワーはどうにかならないのかよ!」「無茶言わないでほしいンマ!」 | |||
光の脅威は無くなったものの、ウラニウムソードの質量自体は無力化されていないため、純粋な攻撃力でカナチを斬り続ける。 | |||
力と質量合わさる事でカナチの防御を崩そうとする。 | |||
お互いが攻撃を避けられないように動きに緩急をつけており、唐澤の動きがゆっくりになった瞬間を狙って座間子はアイスジャベリンで応戦しようとする。 | |||
が、唐澤は素早い動きで回避するため、有効打にはならなかった。画面を凝視するけんまは解析に頭を悩ませていた。 | |||
(復号化は出来たけど変なライブラリの正体がよく分からないンマね……) | |||
唐澤が使っているサイバーエルフはおそらくコシナイトが独自開発したであろう謎のライブラリによってRAMの中身が書き換わらないようになっていた。 | |||
会社のデバッガーもこのライブラリの解析を試みているものの、コシナイトが独自仕様を盛り込んだためか作りが特殊なため難航していた。 | |||
「普通あの装置を使ってるなら会社にあるデコンパイラでどうにかなるンマが……」けんまがそう呟くと、唐澤が通信を傍受したのか、けんまを煽る。 | |||
「当職の超越神力に敵う者など居ないナリよ。」(超越神力…?コイツ何を言ってるンマ?) | |||
けんまは何を言っているのか分からなかったのだが、偶然コシニズムにスパイとして潜り込んでいた社員が気付き、メッセージを共有した。 | |||
"恐らく唐澤は自身の超能力かなにかで配下のプログラマーの能力をブーストしてるかも 全く訳の分からない話なのは承知なのだが、コシニズムの成り立ちが唐澤の超能力のファン集団らしいから可能性はある" | |||
けんまを含めた他の社員はこの話を信じる事が出来なかった。超能力など存在しないという論文があるのを知っていたからだ。 | |||
"仮に超能力説が本物だとしても言語を0から組むのは現実的ではないはず"けんまはそうメッセージを送り、再び解析に戻る。 | |||
カナチは未だパワーアップした唐澤に対して優位性を取れず、どうにかしてその場を凌いでいた。 | |||
カナチを見守る座間子だったが、ふと見覚えのある影が視界を横切った。「あら…?」 | |||
座間子は追いかけようとしたが、次の瞬間カナチが吹き飛んできたのでこれを受け止めた。「クソッ、力負けしてる!」 | |||
カナチはすぐに体勢を戻し、再び唐澤を斬ろうとする。座間子が視線を戻すとそこには誰も居なかった。 | |||
そしてそのすぐ後、けんまに新しい情報が入る。「ンマ?」そこにはコシニズム内部に潜入して得られた情報が書かれていた。 | |||
その情報によると、唐澤が使っていたライブラリはC7ではなく、既にレガシー言語になっていたGoで書かれているらしい。 | |||
「Go…… 聞いた事無いンマね……」それもそのはずである。Goの最終アップデートは今から50年近く昔であり、既に使う人が居なかったからである。 | |||
当然社員全員もGoのプログラミングについて誰一人知らなかった。 | |||
社長一人を除いて。 | |||
社長はGoと聞くと、とっくに消滅していたGoの仕様書をどこからともなく用意してきた。「へ…?何でこんなのがすぐに出てくるンマ…?」 | |||
仕様書が共有されたかと思えば、バイナリからデコンパイルされたライブラリのソースコードが次々と明らかになっていく。 | |||
「これが超越神力とパワーアップの正体と見ていいンマか…?」けんまは光を無力化するために使った唐澤の解析結果と照らし合わせ、パワーアップを検証する。 | |||
(確かにこのライブラリ呼び出しを使うと他のサイバーエルフの変数を変更出来るンマね…) | |||
サイバーエルフ自体のメモリ保護自体もこのライブラリでしっかり行われてるのと同時に特定の手順を踏めば容易にパワーアップ出来るようになっていた。 | |||
「カナチ、唐澤のパワーアップの理屈が分かったンマ!後は脆弱性が見つかれば弱体化パッチを作れるンマ!」 | |||
けんまはカナチに解析が出来た事を伝えたが、ここで2つの問題が生じる。 | |||
まずAIにGoのデータが無く、光を無力化した時と同じようにAIを用いて強引に脆弱性を探す事が出来ないのと、Go自体を理解している社員が社長のみという事であった。 | |||
しかし社長の知識と過去に公開されていた脆弱性のデータベースの記載から、わずか15分で脆弱性を使ってRAMの内容を書き換えるプログラムが作られた。 | |||
確かに最終アップデートから50年近く経ち、なおかつ一定の利用者が居た言語ならば、IPAが使用中止を呼びかけるようなバグの1つや2つがあってもおかしくない。 | |||
けんまは勝ちに行くため、コマンドプラインでプログラムに指示を出す。「カナチ!今助けるンマ!」 | |||
唐澤の周りにオーラが纏わりつく。「こっちのパッチも完成したンマよ!」けんまは座間子に強化パッチを当てる。 | |||
「これでスピードに関しては唐澤に追いつけるはずンマ!」座間子は槍を強く握り、唐澤に向けて突っ込む。 | |||
唐澤は座間子の攻撃を弾こうとするも、まるで腕に力が入らないように押し切られる。「ナリッ!?」唐澤の秘策が崩れ落ちる。 | |||
戦況は一気にカナチ達が有利になる。「これで終わると思うなナリよ!」唐澤は再びコシナイトの力を集めようとする。 | |||
「させないンマ!」けんまは急いで妨害する。唐澤が吸収しようとした力の一部は霧散し、先程の半分程度しか吸収出来なかった。 | |||
唐澤は二人を斬ろうとするも、二人は連携して攻撃を捌く。座間子が巧みな槍裁きで攻撃をいなし、カナチが唐澤に有効打を与える。 | |||
唐澤は徐々に押されていき、追い詰められる。(このままだと死んでしまうナリ……)唐澤は負けそうになりつつも必死に考える。 | |||
(そうだ、アレを使うナリ!)突然何かを思いつく唐澤。「ではさよなら法政二中。」そう言うと突如後方に離脱する唐澤。 | |||
「危ない!後ろから何か来るンマ!」カナチが後ろを振り向くと、座間子が唐澤が放った黒い槍状のエネルギーに貫かれていた。 | |||
「がはっ…!!」「座間子!!」サイバーエルフ本体が貫かれ、キルスイッチの起動と同時にデータがバグに蝕まれ、崩壊する。 | |||
キルスイッチの効果で最悪の事態は逃れたものの、あまりのダメージに装置の中で気絶する座間子。 | |||
(流石に妨害されたから二人を一気に倒すのは無理があったナリか……)「よくも……よくも…!!」 | |||
カナチは怒りで肩が震える。「これで一対一ナリね。では早速さっきの続きを――」 | |||
唐澤がカナチに剣を向け、再び斬ろうとしたが唐澤の身体は微動だにしなかった。 | |||
唐澤は直感でこれがハッキングによる物だと分かり、ハッカー隊に命令を出す。 | |||
「ハッカー隊、早く当職が動けるようにするナリ!」「か…唐澤様、無理です!管理用コンソールが乗っ取られました!」「ナリっ!?」 | |||
唐澤の周囲には大量の管理用コンソールが現れる。けんまは何があったのかをカナチを通じて調べた。 | |||
(このプログラムの電子署名……)コシナイトのサーバーに展開されたプログラムには見覚えのある署名が使われていた。(会社で使っている物と同じンマ……) | |||
使われたプログラムはシステムを欺くために署名を使っていたのだが、その署名が社員が発見した未公開のバグを引き起こす署名だった。 | |||
実はコシニズム宗教自治区が使っているサーバーOSには特定の署名を使うとかなり遠回しではあるが任意コード実行が出来るバグが存在しており、会社ではそのバグの検証が行われていた。 | |||
そしてそのプログラムの幾つかをデコンパイルする事に成功していたのだが、書き方の癖から社長が書いたコードである事が分かった。 | |||
「当職は怒っているナリ!早く戻すナリ!」唐澤は何も出来ないハッカー部隊に怒鳴り散らしていた。 | |||
だが時間が経つにつれコシナイトが出来る事が減っていく。 | |||
サーバープログラムの脆弱性から始まり、OSと続き、最後にはCPUの脆弱性の攻撃へと切り替わっていく。 | |||
もはやここまで来るとコシナイトでは対処出来ない程のハッキングとなっていた。 | |||
ハッカーは負けを認めた事を主である唐澤に伝えようとしたが、その通信すら遮られた。 | |||
コンソールから次々と飛び出る鎖に拘束される唐澤。「カナチ、今ンマ!」「うおおおおおおおお!!!」 | |||
カナチのセイバーは即席のパッチで先程唐澤が放ったエネルギーに似た黒いオーラを纏う。「とどめだ!」 | |||
カナチはセイバーを振り抜いたと思ったが、手にはセイバーを握っている感覚が無かった。 | |||
「その力は当職の超越神力由来ナリ。当職には効かないナリよ。」「!!」 | |||
唐澤はカナチが使っていたセイバーの力を吸収し、その力で唐澤を縛っていた鎖を引きちぎった。 | |||
デバッガーが総出で唐澤を拘束しようとするも、セイバーから得た力で次々と弾き返す。「お返しナリよ!」 | |||
唐澤はカナチに向けて再び槍状のエネルギーを放つ。カナチは瞬発力で避けようとしたものの、弾速が速く右腕を持っていかれる。 | |||
「カナチ!!」右腕のデータは崩壊し、武器を持てなくなっていた。「さて、いつまで耐えられるナリかな?」 | |||
唐澤は次々とエネルギーを放つ。崩壊の進むデータに気遣いながらカナチは避けるしか無かった。 | |||
デバッガーの支援は続いていたものの、唐澤の抵抗が激しく、戦況を再びカナチ有利にする事は難しかった。 | |||
データの崩壊が肩まで進む。これ以上無理だと思っていたカナチだったが、突如唐澤が背後から伸びる白い鎖に縛られた。 | |||
「本職エンジニアを舐めないでほしいンマ!」けんまはありったけの知識と技術を総動員し、ソースコードを急いで書き上げて唐澤の動きに干渉する。 | |||
「カナチ!社長が新しい剣を用意してくれてるンマ!」「剣を用意するって…… 左で扱えってのか!?」「右で振るンマ!」 | |||
「何を無茶な事を……」カナチが文句を言おうとした途端、失った右腕にデータが適用されて形作られていく。 | |||
"Battle Data - Loading [Sword][Wide Sword][Long Sword] - Advanced Code [Dream Sword] Ready..." | |||
合成音声が聞こえたかと思えば、右腕が巨大なソードに変化していた。「これはセイバーよりも強力ンマよ!」 | |||
唐澤はどうにかして拘束を解こうとしていたが、未だ解けていなかった。「今度こそ終わりだ!!」 | |||
巨大なソードで斬られた唐澤の頭は宙を舞い、データが一気に崩壊した。 | |||
「まだ……まだ終わ……」唐澤が何か言ったが、ノイズが酷く、何を言っているのか分からなかった。 | |||
「やっと終わったか……」カナチは電脳世界からログアウトする。 | |||
装置から出てきたカナチはかなり疲弊していた。「疲れたからもう寝ていいか?」「大丈夫ンマ、お疲れ様ンマ。」 | |||
カナチは布団に入り、そのまま眠りについた。「ちょっと頭を使い過ぎたンマね……」 | |||
けんまはソファーに横たわり、社内SNSを見る。"作戦完了、突然の仕事ご苦労だった""脆弱性データベース、ああいう使い方する物だっけ?" | |||
今回の作戦に参加した社員が各々に感想などを書いていた。(僕も寝るンマ……)けんまも疲れていたのでそのまま寝る事にした。 | |||
そして1時間半くらい経った後、けんまは通知のバイブレーションで目が覚める。(ちょっと寝過ぎたンマ……) | |||
けんまは寝ぼけ眼で通知を確認する。「…ンマっ!?」通知の内容で一瞬で目が覚める。 | |||
詳細は把握されていないものの、社内SNSでコシナイト製ウィルスが発電所等のインフラ設備を中心に大規模な感染が確認されたからだ。 | |||
同時にDMでそのウィルスを簡易的ではあるが駆除するためのプログラムが送られてきた。 | |||
その起動方法なのだが、装置を使ってウィルスに接触し、コアを破壊した後にプログラムを実行するといった物だった。 | |||
けんまはカナチを起こそうとしに行ったところ、ちょうどカナチが起きて部屋から出てきた。 | |||
「カナチ…!」「どうした?」けんまはカナチに社内SNSを見せる。「何だ…?」「コシニズムの連中、まだ何か隠してたンマ……」 | |||
「で、オレはどうしたらいいんだ?」けんまはカナチに次の作戦を伝える。「…なるほどな、またアレを使えってか。会社の連中も無茶を言うもんだな。」 | |||
「仕方ないンマ。今は時間が無いンマ。」「どのくらいなんだ?」「おそらく1時間半ンマ。最優先は核融合発電所ンマね。」 | |||
「…そう言うって事は相当面倒な事になってるな。」「日本の生活インフラの8割以上に影響が出てるンマ。」 | |||
「他のメンバーで行ける奴は居るのか?」「被害状況的に動けるメンバーは"A.C."くらいンマ。電はデータ自体は無事だけど…」 | |||
「アレを見た後だから休ませておいたほうが良いと。」「そういう事になるンマ。」 | |||
「連れて行けるのは"A.C."だから分散して叩くか?」「手分けして行くよりリソース管理の観点から同一目標に向けて動いたほうが良いと思うンマ。」 | |||
「分かった。で、セイバーと右腕のデータってどうなった?」「一応バックアップから復元してあるンマ。」 | |||
「よし、"A.C."にも話を通してくれ。オレは先に出撃準備をする。」「分かったンマ。」 | |||
けんまは"A.C."に作戦の説明に行った。(さて、インフラ設備が狙われてるって言ってたな。規模がどれくらいなのだろうか……) | |||
5分くらいして、"A.C."も準備を終えた。「さっきと同様かなり過酷な戦いになると思うンマ。無理はしないでほしいンマよ!」 | |||
「「了解!」」二人は再び電脳世界にダイブした。 | |||
「まずは首都圏の電力を確保するために銚子発電所に向かうンマ。今ある情報だとコシニズム宗教自治区からバックドアを使って侵入しているみたいンマ。」 | |||
「セキュリティソフトに弾かれない事を祈るしか無いな。」「その辺は社長がどうにかしてくれると思うンマが……」 | |||
「とりあえずコシニズム宗教自治区にまた向かえばええんやな。」カナチと"A.C."は再びインターネットを通り、コシニズム宗教自治区に向かう。 | |||
先程の戦闘で唐澤が倒されたからか、さっきのような活気が無かった。「この短時間でこんな変わるモンなんか……」 | |||
「Wikiの勢いが見るからに違うからな……」「目当ての物があるのは更に奥、最深部にあるグタンダ共和国掲示板らしいンマ。」 | |||
「さっきとは別のとこか。」「アイオス五反田駅前掲示板は外部の人が見る前提らしいンマが、こっちは完全にコシナイトしか使わない掲示板ンマ。」 | |||
「となると、さっきよりやべー奴があるって訳か。」「又聞きだけどクラッキングで流出したカード情報なんかを扱ってるらしいンマ。」 | |||
「マジの犯罪フォーラムじゃねぇか……」「さっきの戦いでかなり戦力が減ってると思うンマが、一応気をつけてほしいンマ。」 | |||
「さっきみたいにレーザーを避けながら戦うのはゴメンやで。」二人は荒廃したアイオス五反田駅前掲示板を通り抜ける。 | |||
掲示板の中は先程の戦闘の傷跡が修復されずに残っていた。「ロビーにグタンダ共和国へのリンクがあるンマ。そこから飛べるはずンマよ。」 | |||
ロビーに行こうとすると何人かのコシナイトが居たが、二人を見た途端逃げ出した。「…暴れすぎたか?」「さぁ……」 | |||
ロビーは比較的損害が少なく、コシナイトが普段使うサイトへのリンクが生きていた。「これがグタンダ共和国へのリンクになるンマね。」 | |||
リンクは禍々しく装飾され、一目見ただけで闇の掲示板だという事が分かった。カナチ達はリンクを使ってグタンダ共和国掲示板に飛ぶ。 | |||
グタンダ共和国掲示板は被害こそ無かったものの、カナチ達が戦っていた頃を境に活気が無くなった痕跡があった。 | |||
「やっぱあの闘いでここの連中も出てたみたいやな。」「気をつけろ、不意打ちがあるかもしれないぞ。」 | |||
二人は警戒を解かずにカラッキング路線綜合と書かれたスレッドに入る。「…これが侵入経路か。」 | |||
中には多数の裏口(バックドア)が設置されていた。 | |||
「ウィルスと同じ侵入経路を使う関係上この先は安全が確保出来ないンマ。」「ウィルスと同じく"駆除"される可能性があるのか。」 | |||
「正直あんまり使いたくないんだけど、アンチウィルスソフトを止めるウィルスが今手元にあるンマ。ソフトと噛み合うかは分からないンマが……」 | |||
「どうしてそんな物を……」「社長が開発の検証に使ってたウィルスらしいンマ。ただ中身は本物だから非常用の保険にはなりそうンマ。」 | |||
「動作未確認だから極力自力でアンチウィルスに対抗する必要があるんか。」「そういう事になるンマ。」 | |||
「…なら覚悟を決めたほうがいいな。」「ウチは腹括った、もう戻れない事は承知しとるで。」 | |||
「オレも大丈夫だ、どうにでもなる事を信じてる。」「…よし、作戦開始ンマ。」 | |||
カナチと"A.C."は銚子核融合発電所への攻撃に使われた裏口(バックドア)に入った。 | |||
飛んだ先のサーバーでは、ウィルスが暴れ回った後だからか、広範囲でデータに異常が出ていた。 | |||
「被害的にどういうタイプのウィルスか分かるか?」けんまは二人を通じて周囲の情報を集める。 | |||
「…恐らくランサムウェアの挙動ンマね。」「また厄介な物が使われたんか……」 | |||
カナチが周囲を見渡すと、遠くから何かが飛んでくるのが見えた。「危ない、避けろ!」 | |||
二人は瞬時に飛び退き、飛んできた投げ槍をかわす。「アンチウィルスのお出ましってか。」 | |||
「アンチウィルスには自動再起動機能があるンマ、手を出すだけ無駄になるンマよ!」 | |||
「とりあえずアレをどうにかしつつウィルスのコアを見つければいいんだな!」 | |||
二人はサーバー内を飛び回りながらウィルスのコアを探す。同時にサーバーを管理しているエンジニアから悲痛の声が上がる。 | |||
「主任、また不正アクセスがありました!」「アンチウィルスはどうした?」「こちらの防御策をすり抜けているため機能しません!」 | |||
彼らにはサーバーを止めて対処するといった選択肢は無かった。今ここで止めると辛うじて動いている発電所までを止める事になるからである。 | |||
故にシステムを稼働させたまま対処するしか無かった。「冗長性を確保しててもこうなるとはな……」主任も頭を抱えて次の一手を考えていた。 | |||
そして二人は遂にウィルスのコアを見つける。「コイツがランサムウェアのコア……」「コレを破壊したらデータは戻るんか?」 | |||
「いや、止まるのはデータの暗号化部分だけンマ。戻すには別のプログラムが必要になるンマが今は無いンマ……」 | |||
「破壊しただけで終わらないってのが面倒だな……」 | |||
「今確保出来たデータを会社に送ったンマ。正直解析するのにAIをフル活用しても1時間以上掛かりそうだからあんまり期待出来ないンマが……」 | |||
「もっと早い方法があればいいんだけどな……」「ウィルスの設計図(ソースコード)があれば15分程度で作れそうンマが……」 | |||
「無い物をねだっても無駄だな。ひとまずアレを破壊するぞ!」「了解、挟み撃ちにするぞ!」 | |||
"A.C."は素早くコアの裏に回る。「感覚的にアンチウィルスは3秒周期で攻撃してるはずや!その間を狙うぞ!」 | |||
"A.C."は戦場で磨かれた感覚でアンチウィルスの挙動を見抜く。「効果あるかは分からんが……」 | |||
"A.C."はアンチウィスルに向けてショットガンアイスを放つ。 | |||
アンチウィルス本体はAIが組み込まれており、攻撃を解析する能力を持っているものの、他のファイルへの影響を防ぐためか、攻撃を回避する能力は然程高くなかった。 | |||
「アンチウィルスを止めたで!今のうちに叩くぞ!」"A.C."の合図と共に勢いよく斬りかかるカナチ。 | |||
ウィルスのコアは抵抗する事無く破壊される。ウィルスが活動を止めたと同時に再びアンチウィルスが動き出す。 | |||
「復号化のほうはどないするんや!」「解析がまだ終わらないンマ!」 | |||
「主任、これ……」エンジニアは主任に不可解な挙動を見せる。「ウィルスの動きが止まった…?アンチウィルスが効いたのか?」 | |||
「それはまだ分からないですが……」「とりあえずバックアップを確認しろ。物理的に別だから大丈夫だろ。」「了解です。」 | |||
エンジニアはシステムのバックアップから復元する事にした。 | |||
所変わってグタンダ共和国掲示板。ゴーストタウンと化したサイトを自動で巡回しているプログラムがあった。 | |||
何者かが知られぬよう、コシニズムと同じローブを被り、掲示板にあるリンクを転々としながら何かを探していた。 | |||
そして何かを見つけた後、そのデータを外部に送信してその場を去った。 | |||
「ここのランサムウェアは止めたが、次はどうするんだ?」「とりあえず駆除するンマ。今のままだといつ再起動するか分からないンマ。」 | |||
「分かった。で、オレは何をすればいいんだ?」「ひとまずこのランチャーをぶっ放すンマ。」 | |||
けんまはカナチにランチャー型のプログラムを送信する。「ただぶっ放すだけでいいのか?」 | |||
「すぐに全体に効くプログラムみたいだから特別狙う必要は無いンマ。」カナチは言われた通りランチャーをぶっ放す。 | |||
弾はすぐに炸裂し、衝撃波が通り過ぎる。「これでここのシステムでさっきのランサムウェアが再起動する事は無いンマ。で……」 | |||
けんまはカナチを通じてサーバーの様子を調べる。「多分9割バックアップは残ってそうンマね。データの差し替え作業が始まってるンマ。」 | |||
「という事はウチらはここに残る理由は無いと。」「そういう事ンマ。一度掲示板に戻るンマよ。」 | |||
二人はけんまが設置したブックマークマーカーを使って銚子核融合発電所を後にした。 | |||
「さて次は……」けんまは次に行く場所を考えていたが、何者かが物色していたであろう痕跡を見つける。 | |||
「どうした?」「いや、ちょっと気になる事があったンマから……」「?」「ウチも何か分からんが……」 | |||
「…やっぱり気のせいンマ?」「それより、次はどうするんだ?」「そうンマね、舞鶴核融合発電所が次の対象になるンマ。」 | |||
「関西圏の電力復旧か。」「そういう事になるンマね。」二人は裏口(バックドア)から舞鶴核融合発電所に向かった。 | |||
「うわ……」けんまはサーバーに入った瞬間被害の大きさに驚いた。 | |||
「こっちはほぼ全てのファイルがやられた後みたいンマね…… OS以外ほぼ全部やられてるンマ。」 | |||
「必要最低限を残して他はやられた感じか。」「そういう事ンマね。」「という事はアンチウィルスも止まってるのか?」 | |||
「確認してみるンマ。」けんまはサーバーの様子を探る。「どうもアンチウィルスのコアもやられてるンマね。」 | |||
「一応はアンチウィルスの事は考えなくてもいい訳か。」「ただ……」けんまが何か言おうとしたところ"A.C."が遮る。 | |||
「カナチ!跳べ!」背後から大砲の弾が飛んでくる。二人は跳んでこれを避ける。「何だ…!?」 | |||
「さっきのランサムウェアンマね。」「アンチウィルスの次はアイツかよ!」 | |||
「多分自動再起動は無いと思うンマ!コアを狙うンマ!」「無茶言うな!」二人は次々と飛んでくる攻撃を避ける。 | |||
「けんま!ウィルスは使えないのか!?」「アレはアンチウィルス用ンマ!ランサムウェアには使えそうにないンマ!」 | |||
「クソっ!」二人はどうにかして攻撃を避けつつもコアに近づく方法を模索していた。 | |||
「カナチ!分かったで!」"A.C."がランサムウェアの挙動に気付く。「3発×5セットで2秒や!その後3秒のリロードタイムがあるわ!」 | |||
そう言われてカナチもランサムウェアの挙動に注目すると、ちゃんと5秒周期で動いているのが分かった。 | |||
「ホーミング性能は大して高くない!動き続ければ当たらんで!」カナチは"A.C."の言葉を信じ、ジグザグに動きながらコアに接近しようとする。 | |||
ランサムウェアが放った弾は着弾点にあったデータを暗号化していく。「コアを前後から斬るぞ!」二人は立体的に動き、コアを前後から挟み撃ちにする。 | |||
「とどめだ――」 | |||
二人がコアを斬ろうとした瞬間、想定されていないタイミングで弾が放たれ、"A.C."が被弾してしまう。 | |||
被弾した"A.C."はデータが次々と暗号化されていき、人としての形を失っていく。カナチはコアを斬り落としたが、砲撃を止める事は出来なかった。 | |||
暗号化されていく"A.C."を見てカナチは絶句する。「どうするんだよこれ……」 | |||
"A.C."が入っている装置は稼働を続けているものの、強制ログアウトするとどうなるのか分からなかった。 | |||
「とりあえずアレを止めないと……」カナチは表情を失いながらも、ランサムウェアを駆除するためのランチャーを放つ。 | |||
モニターの前で顔面蒼白になるけんま。けんまは無意識にキーボードを叩いていたものの、その内容は復号化プログラムではなかった。 | |||
「…しっかりしろ、けんま。」カナチに言われて正気に戻るけんま。「まだ死んでないんだよな?」 | |||
「作りかけの物とは言えど装置に組み込まれている安全装置は一応機能しているみたいンマ。」 | |||
「生きてるって事はまだ出来る事があるよな。復号化の手立ては見つかりそうか?」「それは……」 | |||
けんまは言葉に詰まるも、社員に向けたメッセージが来ている事に気付く。「…ンマ?」 | |||
メッセージの内容を見ると、そこにはランサムウェアの物らしきソースコードが公開されていた。 | |||
「もしかしたら……」「手がかりはあったのか?」「カナチ!20分程一人で作戦を続行してほしいンマ!」 | |||
「一人でか…… まぁやってやる!」カナチは一人でグタンダ共和国掲示板に戻る。(さて、次は……) | |||
コシナイトが攻撃の対象選定に使ったと思わしき物を見つける。(…次は柏崎だな。) | |||
カナチは一人柏崎核融合発電所に向かった。 | |||
柏崎核融合発電所は被害が比較的軽微であり、ランサムウェアとエンジニアの戦いが激化していた。 | |||
当然エンジニアは攻撃を警戒していたため、不正アクセスで侵入したカナチを迎撃する。 | |||
エンジニア・アンチウィルス・ランサムウェアの3者から同時に攻撃を受けるカナチ。 | |||
「けんま!例のウィルスを使ってくれ!敵が多すぎる!」「分かったンマ!」けんまは秘密兵器を起動する。 | |||
けんまが放ったウィルスは様々なサーバーを経由し、カナチが居る柏崎核融合発電所のサーバーに向けて攻撃する。 | |||
カナチの目にはどこかから放たれたレーザーがアンチウィルスを片っ端から焼き払うように見えた。 | |||
「岡本課長!アンチウィルスが止められました!恐らく新手のウィルスです!」「アンチウィルスが止まった……」 | |||
「まさかTorネットワークを経由して自動的に脆弱性を識別する機能があるとは思わなかったンマ……」 | |||
「え…?」「僕はカナチを通じてデータを集めてからパラメータを調整する必要があると思ってたンマ。それすら自動化されてるンマ。」 | |||
「技術的にはよく分からなかったが凄い物なのか?」「完全に今回の作戦用に最適化されてるとしか思えないンマ。」 | |||
「相当ヤバそうな代物だな……」「とりあえずアンチウィルスは止まったンマ、今のうちにコアを叩くンマ!」 | |||
けんまは作業に戻り、カナチは一人でコアの破壊に挑む。不意に飛んでくるエンジニアの攻撃を避け、5秒周期で動くランサムウェアの攻撃を見切る。 | |||
まるで立体的な檻に閉じ込められたかのように攻撃が続いていたが、カナチはこれらの隙間をすり抜けるようにランサムウェアのコアへと迫る。 | |||
「そこだ!」狙いすました一撃はコアの中心を突く。そして地面に向かって落ちている間にランチャーを構え、プログラムを実行する。 | |||
「離脱する!」カナチは次の攻撃対象にされる前にブックマークマーカーを使い、柏崎核融合発電所を後にする。 | |||
(さっきのとこで10分くらいか…… 後もう一箇所を回るくらいでちょうどいい時間になるか?) | |||
カナチは被害が確認された施設のリストを見る。 | |||
(…石狩核融合発電所でひとまず核融合発電所は全部か。これが終われば次は地熱発電所か?) | |||
カナチは再び裏口(バックドア)から発電所へと飛んだ。 | |||
(さて、状況は…… 最悪だな。)石狩核融合発電所は舞鶴核融合発電所並に被害が甚大であり、制御用コンピュータとしての機能は喪失していた。 | |||
エンジニア達は度重なる攻撃で疲弊しきっており、ログインしているだけの状態となっていた。 | |||
無防備なサーバーに対して依然攻撃を続けるランサムウェア。 | |||
ランサムウェアは暗号化されていないデータであるカナチを検出し、暗号化しようと攻撃を始める。 | |||
「潰す!」カナチは一人ランサムウェアに立ち向かう。次々と放たれるランサムウェアの攻撃。 | |||
だが今までの経験から何となくランサムウェアが何をしてくるのかを感覚的に把握出来るようになっていた。 | |||
5秒を1サイクルとして放たれる攻撃、攻撃時に居た位置を狙う単純なAI、そして自らはあまり動かないといった弱点が見えていた。 | |||
立体的な移動で少しずつコアとの距離を詰める。 | |||
時折想定外の攻撃をしてきて距離を取らざるを得ない状況もあったが、所詮はプログラムであり、よく観察していくとどのタイミングで攻撃が放たれるかが分かってきた。 | |||
(なるほどな、一定距離に入った時にクイックターンで強引に避けようとすると追撃される感じか。要は分からん殺しだな。) | |||
そしてカナチは試行しているうちにこの攻撃を出し続けると攻撃間隔が僅かではあるが長くなる事に気付く。 | |||
(…もしかして上手い事使えば処理落ちが狙えるのでは?) | |||
本来迎撃する存在であるエンジニアが打つ手も無く疲れ切っているのか何もしてこないため、好き放題動けているからこそ気付けた弱点である。 | |||
次々とクイックターンを繰り出し、ランサムウェアに計算資源を浪費させていく。 | |||
攻撃の間隔は数ミリ秒ずつ延びていき、しばらく繰り返していくと遅延が1秒程にまで延びた。(よし、今だ!) | |||
カナチは急加速し、4秒という僅かな隙を突いて一気に接近してコアを斬り落とす。 | |||
「…これで終わりか。」カナチはランチャーを放ち、ランサムウェアの再起動を封じる。 | |||
「けんま、状況はどうだ?」「…たった今社員の協力もあって復号化プログラムが完成したンマ!」 | |||
「これで何とかなりそうだな。」「とりあえず"A.C."のデータに適用するンマ。」 | |||
カナチは一旦石狩核融合発電所を後にし、"A.C."が居る場所へ戻る。 | |||
"A.C."のデータは暗号化され、人としての形を残していなかったが、今は復号化プログラムがある。 | |||
カナチは復号化プログラムとして、拳銃型のプログラムを渡される。「これが完成したプログラムンマ。恐らくこれで大丈夫だと思うンマが……」 | |||
カナチは"A.C."のデータに向けてプログラムを起動する。「…何も起こらないが。」「暗号化フレーズの特定には30秒ほど掛かるンマ。」 | |||
そして1分程待つと、暗号化されたデータの復号化が始まり、徐々にデータが再構築されていく。 | |||
「おぉ……」「成功したンマね。」「…どうしたんだ?」「暗号化されている間の記憶は無いのか。」 | |||
「…あぁ、そういやランサムウェアの攻撃を喰らって……」 | |||
「一度全体が暗号化されたンマが、復号化プログラムが完成して今に至るンマ。これで暗号化されたデータも元に戻せるようになったンマよ。」 | |||
「となるとこれでウチら有利になったって事か。」「そうンマ。ここから先はランサムウェアを無効化しつつデータを復号化していくンマよ!」 | |||
「了解、まずはここを復号化していくぞ!」カナチと"A.C."は復号化プログラムを手にし、暗号化されていた舞鶴核融合発電所のシステムを復旧していく。 | |||
「アンチウィルスは最後に復旧するンマ!さもないとまた狙われるンマよ!」「そんな事言われたってどれか分からねぇよ!」 | |||
「このサーバーだと…… 今のカナチから10時の方向にあるあの山がアンチウィルスのコアっぽいンマ!」「分かった!」 | |||
次々と復号化されていくデータ。「アンチウィルスを復号化した!離脱するぞ!」「了解!」二人は舞鶴核融合発電所を後にする。 | |||
舞鶴核融合発電所の担当エンジニア達は復旧が難しいこの惨状を関西電力にどう報告すべきか考えていたが、一人がシステムが再稼働している事に気付く。 | |||
「何があったんだ…?」「ログを見る限り外部の侵入者が復旧したとしか思えないが……」「これをどう説明すべきか……」 | |||
二人はグタンダ共和国掲示板に戻る。「関西圏のメイン電源は復旧したンマ。これで効果の実証は出来たンマね。」 | |||
「まさかこんな短時間で解決出来るとはな……」「AIをフル活用してるから何とかなってるンマ。AIが無いと思うと……」 | |||
「想像したくもないな。」「とにかく作戦を継続するぞ。残された時間でどうにかしないとな。」 | |||
「そうンマね。残された時間は伸びてるとはいえ大体30分ンマ。」「あんまり余裕が無いな……」 | |||
「ここはもう手分けして叩いた方がええな。」「そうなるンマね。カナチは電力設備を、"A.C."は水道設備を任せるンマ。ただ正直僕一人で二人ともオペレート出来るかは不安だけど……」 | |||
「安心しな、ウチらは歴戦の強者や、一人だけでも作戦を遂行出来るで。」「あぁ、さっきみたいに一人でも大丈夫だ。残された時間が少ないから早いとこインフラを復旧させないとな。」 | |||
「…分かったンマ。僕も弱音吐いてる場合じゃないンマね。」「じゃ、作戦開始やね。」 | |||
カナチは柏崎核融合発電所に、"A.C."は大山浄水場へと飛んだ。 | |||
(さて……)カナチは再び柏崎核融合発電所の地に立つ。(ランサムウェアは潰したが、ここにはエンジニアが居るからそれをかいくぐって復旧させないといけないんだよな。) | |||
カナチはエンジニアが使っているサイバーエルフに見つからないように行動を起こす。 | |||
エンジニアはランサムウェアの攻撃が止まったといえど、まだ攻撃があるかもしれないと警戒を続けていた。 | |||
まるでステルスミッションかのようにカナチは暗号化されたデータを次々と復号化していく。 | |||
最後のデータを復号化しようとした際にチーフエンジニアに見つかってしまったものの、プログラムを起動して即座に撤退した。 | |||
"A.C."が居る大山浄水場はランサムウェアがアンチウィルスを止めるといった被害が出ていた。 | |||
「コアの位置は分かるか?」「3時の方向に反応があるンマ。ただエンジニアのサイバーエルフもたくさん居るンマよ。」 | |||
「ならスピードに物言わせて最短経路を突っ切って行ったほうが早いか。」「あんまりそれはオススメ出来ないンマね。」「どうしてだ?」 | |||
「実はあのランサムウェアはカナチが言うにはある程度近づいてクイックターンで攻撃を避けると追加で攻撃してくるみたいンマ。」 | |||
「なら別の手段があるといいが……」次の一手を考えていたところ、けんまにメールが届く。 | |||
「丁度いいタイミングで来たンマね。」「何だ?」 | |||
「実はコシナイトが潜入した時にターゲットにされないプログラムを使ってそうな痕跡があったからそれを再現してもらってたンマ。」 | |||
「要は味方と偽装するってやつって事か。」「そういう事ンマね。恐らくコシナイトが実証実験する時のプログラムが残ってたンマよ。」 | |||
けんまはプログラムを"A.C."に適用する。「このローブが偽装用プログラムって訳か。」 | |||
"A.C."はローブを深く被り、エンジニアのサイバーエルフに見つからないように低い位置を高速で駆け抜ける。 | |||
"A.C."はランサムウェアが認識出来る位置に居たが、偽装プログラムが敵と認識する事を防いでいた。 | |||
「よっしゃ!」"A.C."は高く跳び上がり、そのままコアを破壊する。「次は無力化と復号化やな。」 | |||
「さっきと同様にアンチウィルスは最後に戻すンマよ。」"A.C."はランサムウェアを無力化し、大山浄水場のデータを復号化していく。 | |||
「これで全部か。」「次行くンマよ!」"A.C."はエンジニアに見つかる前にその場を去る。 | |||
(次は八丁原発電所か……)カナチは九州の発電所に来ていた。八丁原発電所は旧式ながらも発電量が大きく、九州の電力を支えている。 | |||
そんな場所だったのだが、ここもランサムウェアの活動が確認されていた。状態は良いとは言えず、ランサムウェアが暗号化している最中であった。 | |||
「カナチ!これを使うンマ!」けんまはカナチに先程届いた偽装用プログラムを渡す。「それでランサムウェアからは敵と認識されないンマ!」 | |||
カナチもローブを被り、エンジニアとアンチウィルスの目を避けながらランサムウェアのコアに迫る。 | |||
あと一歩のところでアンチウィルスに気付かれ、ランサムウェアと共に攻撃を加えられるが、息をするようにかわしてランサムウェアのコアを斬り落とす。 | |||
そしてすぐにランサムウェアを無力化し、エンジニアとアンチウィルスの両者に追われながらも暗号化されたデータを探し出して次々と復号化プログラムを適用していく。 | |||
「よし次!」カナチは八丁原発電所を離れる。 | |||
「ウチは次は東淀川浄水場に行けばええんやな。」「そうンマ。」「水道も冗長化されてるとはいえ面倒やな……」 | |||
「正直今回のコシニズムの犯行はインフラを人質にされてるような感じンマから……」「奴ら本当に面倒な事をしてきやがったな。」 | |||
"A.C."は東淀川浄水場に飛ぶ。「そういやウチらはいつまでこうしてればええんや?」 | |||
「今会社で復号化プログラムの汎用化とマニュアル作成をしてるからそれが終わるまでンマ。」 | |||
「汎用化…?」「このプログラム自体不確定要素の実験も兼ねてるから、それを取り除いて他の環境で使っても大丈夫なようにする作業ンマ。」 | |||
「…?」「要はプログラムを実行して必要な物以外に手を出さないための調整ンマ。」 | |||
「なるほどな、ウチらはそれまで重要設備を守ればいいと。」「そういう事ンマ。進歩的にもうすぐ終わりそうンマ。」 | |||
「なら後数カ所程度で良さそうだな。」"A.C."は復号化作戦を再開する。 | |||
幸い東淀川浄水場は感染初期の段階であり、ランサムウェアの影響は然程大きくなかった。 | |||
しかし被害が出始めの初期という事もあり、多数のエンジニアが目を光らせていた。 | |||
「ランサムウェアはどうにでもなるが問題はエンジニアやな……」「数が多いうえにランサムウェアの周りを重点的に固めてるンマね。」 | |||
「偽装用プログラム、アレ用を作ってくれないか?」「人間が見張ってる以上作れたとしても相手が気付かないかは別問題ンマよ。」 | |||
「機械相手なら騙すんが楽なんやがな……」二人は攻め込むためのルートを模索する。 | |||
「…なぁ、あの通り、警備が手薄に見えんか?」"A.C."は他より配置密度の低い筋を見つける。 | |||
「確かにあそこだけ手薄な感じがするンマね……」「あそこならクイックターンをフル活用すれば抜けられる気もするで。」 | |||
「やってみる価値はありそうンマね。」けんまは念のため周囲のサイバーエルフの配置を調べる。 | |||
「…今ならあの一筋だけがまともに使えそうンマね。」「なら行くか。覚悟は出来てる。」 | |||
"A.C."は深く構えた後、弾丸のようにランサムウェアのコア目掛けて飛び出した。 | |||
当然エンジニアとアンチウィルスに見つかったものの、クイックターンを駆使して無理やり攻撃を避けていく。 | |||
そして回転しつつランサムウェアのコアを斬り落とす。「ここはバックアップから戻すみたいンマ!無力化だけしたら離脱するンマ!」 | |||
"A.C."は素早くランサムウェアを無効化し、すぐさま東淀川浄水場を離脱する。 | |||
グタンダ共和国掲示板に戻ると、カナチが次に行くべき場所を考えていた。 | |||
「カナチ、大丈夫か?」「あぁ、順調に事は進んでるぞ。」「多分もうそろそろ……」けんまの端末にメールが届く。 | |||
内容を確認するけんま。「とりあえず今回の作戦は終了ンマね。」「もう動かなくて大丈夫か?」 | |||
「被害が出た場所に復号化プログラムとマニュアルが届いたみたいンマ。だからログアウトを――」 | |||
作戦終了を決めようとしたけんまだったが、来た時には無かったバックドアがある事に気付く。「…ンマ?」 | |||
けんまがバックドアを調査する。「この先は…… 警視庁のサーバー!?」「なんやて!?」「まさかまだ残党が残ってたのか!」 | |||
「とりあえず行くしか無いンマね。」「…なぁ、これが警察にバレたらどうなる?」「…当然逮捕ンマね。」 | |||
「流石にウチはそのリスクはよう踏めんぞ。」「二者択一になるンマがTorプログラムを使うンマか?」 | |||
「それで何か変わるんか?」「一応かなり追跡はしにくくなるンマ。恐らく僕のとこまでは辿り着けないと思うンマよ。」 | |||
「ならランサムウェアに攻撃されるより追跡されにくい方を選ぶな。」「カナチは今の話聞いてどう思うンマ?」 | |||
「オレもTorプログラムを使うな。」「了解ンマ。」けんまは二人にTorプログラムを適用する。「とりあえず追跡リスクは下げたンマ。」 | |||
「少々不安だが…… 行くか。」二人は裏口(バックドア)から警視庁のサーバーへと飛んだ。 | |||
「ここは……」「僕が調査すると追跡されそうだからしないけど見た感じ何かのデータベースの保管庫ンマね。」 | |||
二人は周囲を見渡す。「…ん?」カナチが何か物陰で何かをしているサイバーエルフを見つける。 | |||
「念のため挟み撃ちにするぞ、バレないように裏に回ってくれ。」「了解。」 | |||
"A.C."は姿勢を低くし、誰にも気付かれぬよう移動する。「奴の死角で待機してる、いつでも動けるぞ。」 | |||
カナチは居合の構えを取り、一気に接近する態勢を整える。 | |||
カナチと"A.C."が死角で相手の動きを観察していると、システムの正面入口から自動巡回のプログラムが入ってくる。 | |||
プログラムはすぐにコシナイトの残党に気付く。プログラムは与えられた使命通り、警報を鳴らそうとした瞬間、ランサムウェアを適用させる事で無力化した。 | |||
「おい……」「あぁ、間違いねぇ。アイツはコシナイトの残党だな。」「これじゃ迂闊に近付けないンマね……」 | |||
「バスターで〆るか?」カナチはセイバーからバスターに持ち替える。 | |||
二人は相手の動向を伺っていたが、コシナイトの残党は"A.C."の存在に気付く。「!!」 | |||
"A.C."はデータを暗号化する攻撃を避けたものの、追撃を喰らいそうになる。「クソっ!!」 | |||
カナチは飛び出し、背後から斬りかかろうとする。コシナイトの残党はすぐにカナチに気付き、手にした銃を乱射して追い払おうとする。 | |||
「その程度…!」カナチはクイックターンを多用して全ての銃弾を避ける。 | |||
しかし目の前まで来た時、ランサムウェアを変質させたナイフで斬ろうとしたため、急遽距離を取る。 | |||
そして異変に気付いた他のサイバーエルフがカナチ達の居る場所に入り、警報を鳴らす。「コイツだけでも大変なのに!」 | |||
当然警察のサーバーであるためか、警察サイドのサイバーエルフは本気でカナチ達を消滅(デリート)する気になっている。 | |||
警察のサイバーエルフがカナチ達を攻撃した瞬間、どこかから投げナイフが飛んでくる。「私が相手よ!」 | |||
一番目立つ場所に現れた声の主は千刃剣魔だった。「千刃剣魔!」「流石にこればかりはあなた達だけだと無理だと思ったから来たわ!」 | |||
千刃剣魔は大量のサイバーエルフを引き付け、大規模な戦闘を始める。「今のうちに!」「相手は人間ンマ!ランサムウェアの対策は通用しないンマ!」 | |||
「消滅(デリート)させるしか無いか…!」「現状それ以外で鎮圧する方法が思い当たらないンマ!」「2対1や、ウチらで何とかするで!」 | |||
"A.C."は杖を鎚状に変化させ、コシナイトの残党を叩き潰そうとする。しかし相手は全て紙一重で避けていく。 | |||
カナチは避けたところを強引に斬ろうとするも、まるで後ろにも目が付いているかのようにカナチの攻撃を次々と避けていく。 | |||
「…コイツは本気でやらなアカンわ!ウチはやるで!」"A.C."は今のままでは無理と判断し、ビーストフォームを起動する。 | |||
滅双刃ディアブロから次々と弾を飛ばし、逃げ場を狭めていく"A.C."。 | |||
カナチはこの状況を見逃さず、ナイフを持っていた右腕を斬り落とす。「よっしゃ、とどめを――」 | |||
とどめを刺そうとした二人だったが、二人は目を疑う光景を目の当たりにする。 | |||
なんと、千刃剣魔に倒された残骸のデータを吸収し、切り落とされた腕を修復した。「さしずめ…スカベンジャー…だな。」 | |||
コシナイトの残党は不気味な合成音声で話す。「どうすんだよコレ……」 | |||
消滅(デリート)する前に戦線離脱するサイバーエルフが大多数を占めていたが、1割弱くらいの量でそのまま消滅(デリート)されるサイバーエルフも居た。 | |||
コシナイトの残党は消滅(デリート)されたサイバーエルフが残したデータを利用し、そこから自らのデータに変換していた。「何をどうしてるンマ……」「そんなにアレが凄い事なのか?」 | |||
「サイバーエルフ自体規格こそあれどサイバーエルフ同士をマージしようとすると0から作る事以上の高い技術を要求されるンマ。しかもあのスピードでマージするとは……」 | |||
「超越…神力…」「つべこべ言えないンマね……」けんまは捕まるのを覚悟でサイバーエルフの解析を始める。「無駄……」 | |||
「諦めないで!私も工夫するから早くそいつを!」「残骸の数はそこまで多くない!在庫が尽きれば修復も出来ないはずや!」 | |||
「OK、アイツの防御力は大して高くない!手数で攻めたらどうにでもなる!」「ファイル名、解析出来たンマ!"Phantom.ELF"ンマ!」 | |||
警察のサイバーエルフは千刃剣魔でなく、カナチ達をも攻撃しようとしてくる。 | |||
その度に千刃剣魔は阻止するも、それを振り切って攻撃する者も居た。 | |||
カナチは飛んで、"A.C."は横にステップして避けたが、ファントムは攻撃が命中する瞬間、何らかのバリアを展開して防いだ。 | |||
「やったか…?」「いや、まだです!」「消滅(デリート)……」ファントムは銃口を警察のサイバーエルフに向ける。 | |||
銃口から火を吹くと、次の瞬間には警察のサイバーエルフは暗号化されずに消滅(デリート)される。 | |||
「このままだと残機が増えていく一方だな……」「早いとこ仕留めなアカンな……」 | |||
「とりあえず腕を落とすぞ!武器を封じればどうにかなるはずだ!」 | |||
「多分直接触れないとデータの吸収は出来ないンマ!残骸に近づけない立ち回りでどうにかなると思うンマ!」 | |||
「カナチ!援護射撃を頼む!」カナチはファントムの逃げ場を奪うようにバスターを放つ。 | |||
追い詰めたファントムを"A.C."が爪で引き裂く。「片腕落としたる!」再びナイフを持っていた右腕を落とす。 | |||
「周囲の残骸の位置をマーキングしたンマ!」残骸のデータを吸収しようとするファントムをカナチはバスターで妨害する。 | |||
「けんま!残骸は消せないのか!?」「ファイルの消去権限を奪取出来てないンマ!」 | |||
「なら役割分担するで!ウチがファントムを殴る!カナチは残骸の対応を頼む!」「了解!」 | |||
"A.C."は左腕も落とすために再び飛びかかる。 | |||
ファントムは近づいてきた"A.C."を銃で攻撃しようとするが、ビーストフォームで上がった機動力を使って避ける。 | |||
残骸に飛びかかるファントムをカナチがバスターで追い払おうとするも、力尽くで残骸を吸収すべく被弾も気にせず突っ込んでくる。 | |||
「コイツ痛覚が死んでるのか!?」カナチは近づいてきたファントムにセイバーで立ち向かう。 | |||
残された左腕で銃を撃ち、二人を退けようとするファントム。「無理にでも動きを止めなアカンな……」 | |||
「なら脚を凍らせる!」カナチは近づけるだけファントムに近づき、アイスジャベリンで脚を凍らせる。「凍れ!」 | |||
目論見通り、ファントムは脚を凍らされて思うように動けなくなっていた。「よし!」 | |||
「ウチがとどめを――」"A.C."がとどめを刺そうとした瞬間、ファントムの口が異様なまでに開き、そこからビームが放たれる。 | |||
"A.C."はすぐに回避行動を取り、致命傷は免れるものの右腕のデータが大きく破損するダメージを受ける。 | |||
「奥の手をまだ残していたか…!」ファントムは"A.C."の破損したデータを吸収する。 | |||
データの相性問題なのか、切り落とされた右腕ではなく、左腕が禍々しく変化し、手にした銃にはビーム刃の銃剣が装備される。 | |||
「ナイフの代わりか……」「すまんカナチ、これ以上無理や……」"A.C."はこれ以上の戦闘は不可能と判断し、戦線離脱する。 | |||
千刃剣魔に応援を頼もうにも無尽蔵にも思われる警察のサイバーエルフの対処に手を焼いていた。 | |||
「…けんま、解析のほうはどうだ?」「今の段階だとAIが動かしてる訳ではなく、ベースは普通のサイバーエルフって事しか分からないンマ。」 | |||
「中身入りか。アクセス元は分かるか?」「残念だけどログを残してないサーバーを経由してるンマ。」 | |||
「やっぱりコシナイトは厄介だな……」「一応今は残骸吸収の部分を解析してるンマ。ただセキュリティが固いからいつ突破出来るか……」 | |||
ファントムは銃を構え、カナチに向かって突撃する。「銃剣突撃ってか!」お互い逃げる場所を奪うように弾を放ち、徐々に近づいていく。 | |||
双方が近接攻撃の範囲内に入ると互いの武器を狙って攻撃する。銃剣の突きはカナチのセンスと判断能力で紙一重で避け、セイバーの斬撃はAIの補助などでこちらも紙一重で避けていた。 | |||
しかし何度も繰り返すうちに、戦闘経験の差からカナチが有利になっていく。そして狙いすました一撃で左手ごと銃を斬り落とす。 | |||
斬り落とされた銃はデータが崩壊し、ジャンクファイルと化した。「今のうちにとどめを刺すンマ!」 | |||
カナチはファントムにとどめを刺そうとする。ファントムもビームを放って抵抗する。 | |||
しかしカナチは一度見た技であるため、発射と同時に軸をずらし、回避する。「見きった!」 | |||
カナチは首を斬り落とそうとセイバーを振り抜く。が、次の瞬間セイバーのデータが崩壊していた。「!?」 | |||
カナチは屈さずにバスターで追撃するも、ファントムはバリアを展開して全ての攻撃を防いでいた。「無駄……私は……無敵……」 | |||
「クソっ…!ここに来て!」「これは相当硬いバリアンマね……」「もはやこれまでか……」「カナチさん、私を手伝って!」 | |||
「千刃剣魔…?何か策があるのか?」「あるわ、でも今のままだと敵が多すぎて使えないわ!」 | |||
「警察のサイバーエルフの相手をしろと。」「えぇ、私は大砲であのバリアを粉砕するわ!」 | |||
「でもさっきセイバーが……」「とりあえず私の物を使って!」千刃剣魔はカナチに持っていたセイバーを投げ渡す。 | |||
カナチは千刃剣魔が戦っていた警察のサイバーエルフ相手に剣を振るう。千刃剣魔の周りに大量のコンソールが出現する。 | |||
「マスター、データ転送お願い。」「カナチ!千刃剣魔の準備完了までは推定3分ンマ!それまで一人で対処してほしいンマ!」 | |||
次々と襲ってくる大量のサイバーエルフにカナチは屈する事なく次々と斬っていく。 | |||
(ファントムに食われないように加減してるつもりだが……)ファントムは時折残骸を吸収しようと機会を伺っていたが、千刃剣魔が都度ナイフを投げて妨害していた。 | |||
千刃剣魔のコンソールには推定残り時間が表示されており、カナチはそれを見ながら戦っていた。 | |||
そして残り時間が0になった時、千刃剣魔の左腕は巨大な大砲になっていた。 | |||
"Battle Data - Loading [Tank Cannon 3][Blower][Kilo Bomb 3]"「吹き飛びなさい!」"Advanced Code" | |||
「対戦車榴弾砲・高熱型(ヒートキャノン)!!」爆風とともに放たれた砲弾はファントムに当たると同時に爆発する。 | |||
ファントムのバリアは割れ、無防備になっていた。「マスター、もう1つも実行して!」 | |||
"Battle Data - Loading [Step Sword][Step Blade][Step Cross]"「今よ、とどめを!」 | |||
"Advanced code [Step Life] Ready..."カナチと千刃剣魔は同時にファントムを斬り裂く。 | |||
声なき声を上げ、ファントムのデータは崩壊していく。「これ以上ここに留まる意味は無いンマ!早く脱出するンマ!」 | |||
二人はログアウトし、サーバーから抜ける。 | |||
「とりあえず解決したのか?」カナチは装置から出てきて状況を確認する。 | |||
「グタンダ共和国掲示板を見る限りは特に動きは見られないから大丈夫そうンマ。」「で、警察のほうだが……」 | |||
「ログを見る限りは撒けてると思うンマ。恐らく今の段階では追跡は出来てないはずンマ。」 | |||
「それならいいが…… 座間子達の様子は?」「今のところ深刻な被害は無いンマ。明日になれば多分動けるンマよ。」 | |||
「なら良かった。」疲れ切ったカナチはソファーに腰掛け、テレビの電源を入れる。 | |||
「――法務省と警視庁の発表によりますと、脱獄したのは唐澤貴洋被収容者との事です。 | |||
唐澤被収容者は脱獄した後、都内の廃ビルに潜んでいましたが、機動部隊が突入したところ、大型の装置の中で意識不明の状態で見つかり、その後死亡が確認されました。 | |||
警視庁は今後この装置の正体を含めた捜査を進めていくとの事です。」 | |||
「…結局死んだのか。」「まぁ当然の報いンマ。あれだけ大規模な犯罪をしてたから軽くても無期懲役辺りが出そうンマよ。」 | |||
「コシナイトのほうはどうだ?」「リーダーを失ったから今後自然解散すると思うンマ。」 | |||
そして数週間後、唐澤がコシニズムの首領である事が判明し、余罪について調べたところ、今回の件を主導している事も明らかになった。 | |||
ただ実働部隊として働いていたコシナイトの事は首領である唐澤でも知らず、結局被疑者死亡で書類送検されるだけに留まった。 | |||
だが、この時開発されたランラムウェアとその復号化プログラムは、依然引き起こるエンジニアとハッカーの戦いを象徴する物としてコンピュータ史で語り継がれる事になった。 | |||
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* [[恒心文庫:超越神力vs超越神力]] - 影響を受けたとされる作品<ref>{{Archive|http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/25445/1595864893/171|https://archive.ph/TPPEV|作者の書き込み}}</ref> | * [[恒心文庫:超越神力vs超越神力]] - 影響を受けたとされる作品<ref>{{Archive|http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/25445/1595864893/171|https://archive.ph/TPPEV|作者の書き込み}}</ref> | ||
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