恒心文庫:A or B

本文

アネモネの花が花瓶から出たがっている。
唐澤貴洋には揺れるそれをただ見つめることしかできない。このアネモネは枯れるまで人に生かされ、枯れたら捨てられる。そんな決まった人生、いや、花生とでも言おうか。ともかくそれを歩むなんてまっぴらゴメンだ、そう思い揺れているのではないか。唐澤貴洋はそう考える。
だがそんな柵に囚われているのはどの生物も同じである。例えば可愛いチワワでも飼い主が見つからずに野良犬として生きていれば保健所に連れていかれ、毒ガスで殺されるかもしれない。もし飼い主がいたとしてもその飼い主に一生従うしかない。人生というレールは次第に敷かれていくものではあるが、誰もそのレールからは外れることはできない。レールの外では死神が今か今かと鎌を持て余しているからだ。
人間もこの業からは決して逃れることはできない。

唐澤貴洋は今、二つのレールのうちどちらかを選ばなければならなかった。
一つは皆のものになるレール、もう一つは山本のものになるレール。
山本はこの騒動を完全に鎮火させる術を持っていると豪語し、唐澤貴洋はそれを欲したが代償は大きかった。山本祥平は唐澤貴洋の肉体を欲してきたのだ。
本来山岡専用の自分の体を山本にあずける、こんな屈辱的なことがあるだろうか。

みんなのものになる 先程は山本しか騒動を鎮火させる術を持っていない、というようなことを言ったが、唐澤貴洋にも秘策はあった。それこそが悪いものたちに体をあずけるというものだ。
やつらの中には唐澤貴洋の肉体を欲している者が多勢いる。そいつらを週二回、十数人を一人一人満足させれば攻撃をやめてやるとメールを受けた。山本1人の相手に比べればハードかもしれないが、山岡に悟られる可能性は低いしやつらは早漏っぽいから少しテクニックを使えばすぐに果てるだろう。

だが、どちらのレールを通っても山岡を裏切ってしまうし、レールを通らなければ山岡だけでなく他の心ある方々にも迷惑をかけ続けてしまう。

さぁ、どっちだ。唐澤貴洋は選択する。
アネモネの花は何も教えてはくれない。

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