恒心文庫:自分語り

本文

私の母は父であった。
糞と精液にまみれた不浄の子である。
ゆりかごの入り口には四六時中、あやす様に醜悪な花が咲き、濁流が私の肉体を洗い流していった。
普通の子共が享受するはずの安寧を得ることはなかったが、普通の子共と同じように腹の中で育っていった。
「でりゅ!でりゅよ!」
私が最も多く聴いた子守歌である。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )
頭の上に降ってくる音楽である。

私は学ぶ。未消化の檻の中で。
そして私は知っていく。私の兄弟のことを。
本物の母から生まれた兄弟は用水路のぬかるみの中へ落ちたそうだ。
子宮から正しく生まれた兄弟をうらやましく思ったものだが、彼の最期は私と同じ、汚濁の中であったのだ。
できそこない、できそこない、できそこない。
私の兄弟達は、失敗であり、二束三文の肉と同じ扱いであった。
そして、私も同じ運命をたどると知った。

私は考える。本来知性を得るはずのなかった私。
この世に投棄され、何も知らないままずぶずぶと消えていくはずだった私達。
何故、私には知性があるのか。私は何のために生まれるのか。何故生きるのか。
悪趣味な神が超越神力を弄んだ結果か。
嫉妬にかられたみすぼらしい駝鳥の呪いか。
悪戯につくられ、胃酸の海へ沈んでいった兄弟の復讐か。
考える時間は膨大にある。その間にも醜悪な花は咲き、腐敗した濁流が音を立てる。
醜悪な脂肪の塊である兄は、生まれる前から私に見えない傷をつけている。
母である父を、弄び、嬲り、凌辱した。

ゆらゆらと、ある結論が私の中に生まれた。
私は自分の意志で動いた。

私は生まれる。
「でりゅ!でりゅよ!」
ああ、私が最も多く聴いた子守歌。私はこの世に放たれた。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )
奇しくも、地獄で聞きなれた音楽が、この世で鼓膜の処女を奪ったのだ。
この世で私がすべきことは、ただ一つである。兄であり、父であり、兄達の仇であるその人間に。

私は立ち上がり、神聖な言葉を産声に上げた。

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