恒心文庫:東京脱糞ストーリー

本文

日本中、ひいては世界中の人間を大量に食っては大量に排泄し続ける脱糞都市・東京。
当職はここで生まれここに住んでいる。
夏の盛り、都心の路上には数え切れぬほど多くの人の欲望の死体が発する臭気が満ちている。
臭気に巻かれ、暑さに伸びて、疲れ果てた当職は軽い目眩で夢と現の隙間、蜃気楼を漂っていた。
某野球板でネタにされ始めてから3度目の夏が来ていた。
人々は足早に歩んでいく。当職だって負けじと歩んでいく。
ただ精一杯やっても人より劣るだけで、当職は不真面目なわけではない。無能じゃない。
すれ違いざま、人々の憂鬱そうに見える表情は当職の心を映しているのか。声なき声が聞こえる。
それはとても恐ろしくて耳を塞ぎ瞼を閉じてしゃがみ込んだ。
とその時。先ほどエアコンを効かせた部屋でアイスを食べ過ぎたせいか否か強烈に腹が痛くなってきた。
どれくらい差し迫っているかというと、依頼人が2週間でログが流れる掲示板の開示を最後の日に開示依頼しに来たくらい差し迫っている。

(大都会のど真ん中で出したら確実に人生終わるナリ…。)
(…そうだ、もう今日で終わりにすればいいナリ!)
(大声を上げて注目を集めるナリ!!!!!!!!!!)
「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!

飛び散る花火。綻ぶ花々。上がる悲鳴。
当職は度々、緊急事態に陥ると正常な思考が出来なくなる。
最も、このような事態に陥った場合誰でもそうなるかもしれないが、経験上、どうやら当職のそれは他の多くの人より頻度が多く、程度が酷いようだ。また悪い癖が出てしまった。大便も出てしまった。
なぜ当職だけがこんな目に。当職は当職ナリに頑張ってるのに。
なぜ無能 脱糞 ドルオタ 悪徳 詐欺師 核兵器保有 ホモ ボボボーボ・ボーボボなどと呼ばれなければならないのか。
もう当職は脱糞前にしゃがみこんだそのままに場にうずくまる、それ以外選択肢が思い浮かばず。
心は現実を離れどこか遠い空間を漂いながら、思うのは頼れる父洋のこと。こんなとき、父洋が居てくれたら。
不器用で人に甘えることが苦手な当職だが、世田谷区より広い心を持つ優しい父洋には心置きなく甘えられる。
…喧騒の中、迫ってくる足音に気がつき前方を見やると。
腹や胸や二の腕やらの豊満な贅肉を揺らし、はあはあと呼吸を荒くしながら内股気味でこちらへ走ってくる白いもみあげが見えるではないか。
これは幻想なのか?
いや、紛れもなくそれは、当職の父洋だ。
当職は伏せていた顔を上げその姿を神か仏か、まさかの助け舟と、反射的に拝んでいた。
灼けつくコンクートの上に咲いた汚い花が放つ、目に染みる臭気さえ今は気にならない。
洋だ、洋が助けに来てくれたナリ。都会の真ん中で遭難した当職をレスキュー洋が救助に駆けつけてくれた。
張りつめた緊張からの安堵で脱力。残りの身が出る。ぶりぶりぶりゅりゅりゅ
父洋は当職へ駆け寄ってきたと思うと、糞まみれでうずくまる、捨てられた子猫のように惨めな当職に、躊躇することなくその手を触れ抱きしめた。
父洋の大きな胸のぬくもりよ。言葉も交わさず当職はひたすら父の胸に顔を埋める。洋を前に抱えていた悲しみの全てが堰を切り溢れ出す。

「…洋、当職はもう疲れたナリよ、厚史のところへ行きたいナリ」

風にふわふわともみあげを踊らせながら、当職の温かい父洋が語りかける。

「(例え自分のケツさえ自分で拭けない息子だとしても)わしはお前が生きているだけでいいんじゃ」
「わしはどんな人波の中からでもお前を見つけられりゅ」

当職は泣いた。
昼間の人が行き交う路上でうん項を漏らした男とそれを抱きしめる老人。
偶然通りがかった目撃者からすれば一生に一度あるかないかのプレシャスな光景だろうが、周囲の人目など構わず、当職は泣いた。ぶつちちぶりゅぶりゅぶりゅりゅりゅりゅ

リンク