恒心文庫:懺悔の絶歌

本文

弟が消えた
僕の前から消えた
悪魔が突然やってきて
弟をさらっていった
誰だ弟を殺したのは
誰だ弟を殺したのは
なんで僕のことを疑うの
違うよ僕は悪くない
悪いのは全部悪魔だよ
悪魔が殺れって言ったんだ
誰だ弟を殺したのは
誰だ弟を殺したのは

―――悪魔とは誰の事なのでしょうか。

私には弟がいました。
顔立ちは美しく才能に恵まれた誰からも愛される弟でした。
私は弟を性的に愛していました。
全くもって弟と正反対の私。
容姿に恵まれず、勉学もできない。中学時代はいじめられ、高校に入るのにも浪人してしまうような私。
私は弟にひどく嫉妬していました。
弟への愛に身を焦がし、嫉妬の炎が燃え上がり身体の内側から火刑にされるような感覚。
何故こんなにも私は辛い思いをしないといけないのか。
最終的に下した結論は弟を殺す事でした。
私がこの手で殺してしまえば、弟は永遠に私のものとなる。
私がこの手で殺してしまえば、嫉妬の炎が身を焼くこともない。
私の欲求を全て満たす完璧な結論でした。

今宵の月は何色か。
何故か紅く染まり幻惑的に夜を照らす月。
水面に揺れる紅い光は街の人工的な光が競いあう中、召使を従えた美しい女帝の様に輝いていました。
普段より少し早く進む時を刻む鼓動。私はただただ河川敷に呼び出した弟を待ち続けました。
時折流れるそよ風は私の内側から燃え上がる炎を感じさせてくれました。
川の流れる音、遠くに聞こえる車の音、かすかに聞こえる鈴虫の演奏会。
背中に風を感じて振り返ると、そこに弟が立っていました。

弟が何故呼び出したのかを私に聞くために口を開こうとしたその時、私は弟に体当たりをし用意していたナイフで刺しました。
噴き出してくる暖かい液体。紅くなったナイフを照らす紅い月。
その幻想的な風景に、私は自然と口角が吊り上って行くのを感じました。。
声にならない音を上げる弟。その音は私の脳内にこだまし、私は勃起していくのを感じました。
音を上げる口を左手で抑えると愛する弟の唾液と温かい息を直に感じる事が出来、手が性感帯になりました。
殴り方も知らない私は、握りこぶしを作りただただ弟を殴打しつづけました。
叩くたびに、暖かい風が左手に吹きかかるのを感じ、下半身に血が集まっていくのを感じました。
しばらくすると殴打ではもう弟は反応してくれなくなり、ペニスが萎れていくのを感じました。

私はナイフで刺す事を開始しました。
ナイフを弟に振りおろし、最初に少し抵抗を感じた後に、さくりと肉の中へと埋まっていく感触。
弟はもう声を上げることは出来ませんでしたが、刺すたびにびくり、びくりと手足を痙攣させていました。
愛する人の内側はどうなっているのだろう。そんな疑問が浮かんできました。
私は弟の腹部を開示すると、生臭いにおいを発するそれを目の当たりにしました。
噴き出す血を啜ると、その血が直接下半身に流れ込むような錯覚に陥りました。
まだまだ暖かい弟の内側に頬ずりをすると、天使の羽に触れたような心地よさを感じました。
ああ、私は愛する人の内側に触れているんだ。
唯一、弟の内側に触れた事のある人間なのだ。
愛欲の炎で燃え上がり、嫉妬の鎖で縛られていた苦しみを、独占欲の剣が断ち切ってくれました。

メッタ刺しになった弟、血にまみれた弟、苦しみ抜いた顔をした弟。
そんな弟を見て、私は射精していました。
その時、初めて私の中の「悪の存在」を認識しました。
世の中には、人を傷つけて殺害し性的に興奮する「悪魔」がいるんだと、深く心に刻まれました。
悪魔は息絶えてもなお暖かさもあるその死体の肛門に挿入し、狂った笑顔で腰を打ちつけていました。
血と精液の混ざりあった、処女を奪ったかのような液体で濡れたペニスが紅い月に照らされて蠱惑的に輝いていました。

―――「悪魔」は俺だよ唐澤貴洋だよ。

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