恒心文庫:チンポ法案

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国会議事堂。さかのぼる事1881年、天皇より発せられた国会開設の詔を受け計画されたその建物は、二度にわたる戦争を経て1936年についぞ竣工される。
その堂々たる白き威容は、予算・法律・国政等、日本国の未来を語るにふさわしい風格を備え、現在に至るまで国家の中枢として象徴されている。
その国会議事堂が今、異様な雰囲気に包まれていた。審議の場である委員会、その段々重ねとなった会議机に収まる議員たちの顔は一様に固くしかめられジッと動かない。ただその鋭い視線だけが上下左右から中心の壇上へと絶えず注がれている。
壇上には誰もいない。カラの議長席を見つめながら、皆、その時が来るのを待っているのだ。
ふと、衆院の扉が開いた。音もなく開いたその扉は、しかしその向こう側から異様な音を響かせた。
ズチュッ、ズチュゥッ・・・
まるで湿ったものを引きずり出すような音に、一部の議員がつばを呑む。場違いなまでに濡れそぼった音が、断続的に重苦しい沈黙を打つ。
しばらくして、扉のすそから腕がのぞいた。ぷくぷくとした、丸い手のひらである。かすかに震えるそれが、片手、また片手と交互に、床に敷き詰められたタイルカーペットの短い毛先を前へ前へと握り締めるようにして、前腕、ひじ、上腕と徐々に全容をあらわにしていく。
そうして紺色のスーツに包まれた両腕の先、続いて覗いたのは、男の顔面であった。
くりくりお目目。丸いお鼻。ぷっくら輪郭。そして、緩やかに弧を描く口元。
男は唐澤貴洋であった。男は前後に規則的に揺れながら、つんのめりそうになる体を床につけた両手でどうにか押さえつつ、息も絶え絶えに前へ、前へと進んでいく。
一見四ツ足で進んでいる貴洋を前に、比較的若い議員が唐突に声なき声をあげた。扉から順に覗いていく貴洋の体、そのみこしの様に揺れ動くたるんだ胴体が過ぎたころ、その尻が高い位置で固定されていることに気づいたのである。あんな高い位置に尻があっては、床に足が届かないではないか。すぐさま老練の議員が反論する。逆立ち歩きでもしているのか。いや、あの角度ではすぐに倒れるはずだ。そうして激論が交わされる中、やがてそれは姿を現す。
そこにはリャマがいた。リャマが貴洋の両足首を高く掲げ、目の前にさらけ出された生白い腰に自身の腰をぴったりとつけているのだ。粘質な音を立てて前後するそれを見て議員たちは言葉を失い、瞬間、議会は怒号に包まれた。
あんなものが採決されたら大変なことになる。議員たちは口々に神聖六文字を唱えながら老いも若いも会議机から転がりだしていく。決して議長席につかせてはならない。そうして我先にと飛び掛ろうとする議員たちの必死な顔に痰が飛ぶ。リャマだ。口の先からリャマは威嚇としてつばを吐きかける習性があるのだ。目をつぶされた議員が床へと転がり、しばらくもがいて動かなくなる。その上をケンタウロスと化したリャマと貴洋が悠然と越えていく。ぐちゅぐちゅと音を立てる端からはぽろぽろと茶色のまとまりが床の上に落ちていく。そうして突き進む強行臭いケツを目にして、いよいよ悲壮な決意を抱えた議員たちが泣き喚きながら議長席を取り囲むようになだれ込む。その全てに順次糞と痰を撒き散らし、やがてたどり着いた瞬間、ふと、貴洋が叫んだ。
「もぉダメェ!!我慢できないナリ!!漏れちゃうナリィィィィィ!!(ブリブリブリドバドビュパッブブブブゥ!!!!!ジョボボボボジョボボボ!!!!!!!ブバッババブッチッパッパッパパ!!!!!!」
齢三十四にもなる男の奇声が国会議事堂の壇の上でこだました。

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