恒心文庫:オナ弁

本文

「ちくしょ~…ちくしょ~!」
当職はベッドの上に身を投げ出した。
父親の失望。周囲の見くびり。弟の軽蔑。
すべてを覆すために、見返すために、当職は努力をしてきたはずだった。
努力は実を結び、弁護士として、恥じること無く胸を張って独り立ちしたはずだった。
それなのに。
誹謗中傷に晒され、同業者からも鼻で笑われる毎日。
畜生。当職は心を裂くような現状に、身をよじらずには居られなかった。
匿名の暴力。隠れみのが無ければ何もできないくせに。畜生。
当職は体の内側をうねる激情をおさめようと、スーツをはだけた。
ネクタイを外し、ボタンを外し、寝室の光のもとに当職の裸体が照らされた。てらてらとした粘質な光が肌の表面を揺れる。
「ああああああああああああ!!!!!!!!!」
おもむろに、唐澤貴洋は両の指先で、はかなげに震える胸元を寄せた。
硬くしこった乳首は天を向いて屹立し、異様な雰囲気を湛えてひくついている。当職はその側面を猛烈な勢いでしごく。血がにじむほどに力強く。
喉をほとばしる絶叫。体を突き抜ける快感。あまりに巨大な感覚の奔流は、当職の自我を意識の隅に追いやっていく。
その時ふと、当職は気づいてしまった。このどうしようもなく、振り回されている感覚。当職の人権などあってなきが如く扱われるこの状況を、どこか心地よく感じている当職がいることを。
ボーボボを開示した時も、仕事を無償で手伝わせようとした時も、ネクタイが曲がっていた時も。少し考えればおかしいと思いつくことを、なぜ当職は思いつかなかったのか。それは、思いつかないようにしていたからだ。当職は馬鹿にされ、なじられたかった。無能として扱われ、どこまでも深く、万遍なく責められたい。
そう。当職はM豚奴隷だったのだ。

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