恒心文庫:とっさの機転

本文

「おいボギー1、いいだろぉ?金くれよ」
「ダメナリよ」
都内の一等地のビルの一室で小太りの男と髭面の男が向かい合い話をしている。
「インカジですっちまったんだよぉ。客の金にも手を出してやべぇんだ
昔の馴染みだろ、金くれよ」
「そういうことはしていないナリ!」
小太りの男が声を荒らげた。すると、髭面はやれやれといった面持ちでソファに深く体を預ける。
しばらくの沈黙が部屋を包んだが髭面が口を開いた。
「おいデブ。言っちまうぞ?弟のこと」
「な、なんでそのことを!」
「牢屋に行きてえのかよ?な?嫌なら金!」
小太りはその言葉に反応すると近くにあった燃料棒を手に取り、髭面の頭部を強打した。
飛び散る血、漏れる放射能と糞。髭面の頭部は砕け散り脳みそが散乱している。
小太りはヒュコーヒュコーと息をし人心地つくとひとりごちた。
「一人も二人も同じナリね」
そう決心してからは早かった。
髭面の死体を素早く処理すると多摩川の河川敷に投棄した。
そして、そのまま誰にもそれは発見されることなく数ヶ月が過ぎた。

「それではパソコン使う画がほしいんでいつも通りにお願いします」
テレビのスタッフが指示をだす。
都内のオフィスビルの一室で小太りの男はその指示に従おうとマウスに手を伸ばすが、その手が途中で止まる。
「どうされたんですか?」
スタッフの声。小太りはマウスの前後を素早くひっくり返すとその状態で使い始めた。
テレビスタッフは不思議そうな顔をしたが撮影は続行され何事もなく取材は終わりその映像は全国に放送された。
テレビスタッフが帰ると小太りは慌ててマウスに付着した血痕を拭き取り、
いつものように使っていたらテレビに血痕が映るところだったと胸をなでおろしたのだった。

リンク