東京地方裁判所平成31年(ワ)第2422号

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全文

東京地方裁判所
平成31年(ワ)第2422号
令和01年08月08日
東京都(以下略)
原告 X
同訴訟代理人弁護士 (省略)
(省略)
東京都(以下略)
被告 アマゾンジャパン合同会社
同代表者代表社員 アマゾン・オーバーシーズ・ホールディングス・インク
同職務執行者 A
同訴訟代理人弁護士 涉谷洋平

主文

  1. 原告の請求をいずれも棄却する。
  2. 訴訟費用は原告の負担とする

事実及び理由

第1 請求

被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。

第2 事案の概要

本件は、原告が、被告が関与するインターネット上のショッピングサイトにおける商品紹介のウェブページに投稿されたカスタマーレビューの記載内容が原告に対する名誉毀損に該当し、原告に対する権利侵害が明白であるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、被告が保有する発信者情報の開示を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)

(1) 原告は、コンサルティングビジネス専門のコンサルタントであり、株式会社ドラゴンコンサルティングの代表を務め、コンサルタントに向けた講演やセミナーを多数主催する者である。

原告は、書籍「(省略)」(以下「本件書籍1」という。)及び「(省略)」 (以下「本件書籍2」といい、本件書籍1と併せて「本件各書籍」という。)の著者であり、他にも多数の著書がある。(甲1、12、乙2ないし5、弁論の全趣旨)

(2) 被告は、インターネット等を利用した電子商取引事業等を目的とする合同会社であり、アメリカ合衆国の法人であるAmazon ServicesLLCが管理運営しているインターネット上の電子商取引サイト「B」(以下「本件サイト」という。)の日本における問い合わせ先である(乙1)

(3) 本件サイトは、取扱商品について、購入者の意見や感想を受け付けてサイト上に自由に公開できる「カスタマーレビュー」という機能を備えている。カスタマーレビューは、本件サイトにアクセスする不特定多数の顧客に対する取扱商品に関する情報提供を目的としている。(甲5、乙1)

(4) 本件各書籍は、本件サイトの取扱商品に含まれているところ、本件サイトにおいて、本件書籍1に対して別紙投稿記事目録記載1及び2のカスタマーレビューが、本件書籍2に対して同目録記載3のカスタマーレビューがそれぞれ投稿され、上記各レビューには別紙投稿記事の内容に記載された内容が含まれている(以下、別紙投稿記事目録記載1ないし3のカスタマーレビューをそれぞれ「本件レビュー1」ないし「本件レビュー3」のようにいい、これらを総称して「本件レビュー」という。また、本件レビューのうち別紙投稿記事の内容に記載された部分については、別紙投稿記事の内容の項番に沿って「本件レビュー1-〈1〉」のように表記する。)(甲1ないし4)。

(5)被告は、本件レビューに係る開示関係役務提供者に該当し、別紙発信者情報目録記載の情報を保有している(争いがない)。

(6) 原告は、本件レビューの投稿者に対して不法行為に基づく損害賠償等を請求するため、別紙発信者情報目録記載の情報の開示を求めている。

2 争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は、本件レビューが原告の名誉権を侵害することが明らかといえるか否かである。

(原告の主張)

(1) 社会的評価の低下

ア 本件レビュー1について

一般の閲覧者をして、本件レビュー1 - 〈1〉の摘示事実は、原告が同業者等を見下ろすような無礼な人物であること、同〈2〉の摘示事実は、原告が不当に高額なコンサル報酬を獲得することを意図した卑しい人物であること、同〈3〉の摘示事実は、原告が書籍において多数の誤字脱字をしてしまう不注意な人物であること、同〈4〉の摘示事実は、原告が適切な論理展開を行わない論理性のない人物であること、という印象を抱かせるものであり、同〈5〉ないし〈8〉の意見表明は、原告が提供するコンサルティングサービスは甘言を弄して参加者から高額の金をせしめ、同額に見合う実益を受けられない犠牲者を量産する類のものであるとの印象を抱かせるものであり、原告の社会的評価を低下させる。

イ 本件レビュー2について

一般の閲覧者をして、本件レビュー2-〈1〉ないし〈3〉の摘示事実は、原告が単に同業者等を否定、批判、ダメ出し又は酷評するだけの無礼な人物であるとの印象を抱かせるものであり、同〈4〉ないし〈7〉の意見表明は、原告の著書の内容が購入して読むに値しない内容であるとの印象を抱かせるものであり、原告の社会的評価を低下させる。

ウ 本件レビュー3について

一般の閲覧者をして、本件レビュー3-〈1〉ないし〈3〉の摘示事実は、原告が提供するコンサルティングセミナーがその料金に見合わない内容であるとの印象を抱かせるものであり、また、同〈4〉ないし〈6〉の意見表明は、原告が提供するコンサルティングサービスを受けても何らの実益も得られないとの印象を抱かせるものであり、原告の社会的評価を低下させる。

(2) 違法性阻却事由の不存在

本件レビューはいずれも真実ではなく、一私人である原告の人物評価又は業務内容に関する内容であり、公共の利害に関する事項とはいえない。また、表現方法は根拠を明確に示すことなくただ原告を誹謗中傷し、強く非難し揶揄するものであり、積極的な加害意思しか見て取ることができず、公益目的も認められない。したがって、本件レビューについては、違法性阻却事由の要件を満たすものではない。

(3) 以上によれば、本件レビューが原告の名誉権を侵害することは明らかである。

(被告の主張)

(1) 社会的評価の低下

ア 本件レビュー1について

本件レビュー1 -〈1〉については、本件書籍1が年収3千万以上の実現が可能な経営コンサルタントになることを薦めるものであることからすれば、原告の社会的評価を低下させるものではない。同〈2〉については、肯定的な小見出しが付けられ、コンサル報酬の不 当性に関する記述がないことに照らせば、原告の社会的評価を低下させるものではない。同〈3〉については、次の段落に誤字脱字は出版社側の問題であると記載されていることやその記載内容からして原告の社会的評価を低下させるものではない。同〈4〉については、どのような書籍でも考慮されていない観点があることは通常のことであるから、原告の社会的評価を低下させるものではない。同〈5〉ないし〈8〉については、投稿者の意見を一般的・抽象的に述べるものであり、他方、原告が提供するコンサルティングセミナーに関する具体的な記述がないことからすれば、一般の閲覧者に対して原告が主張するような印象を与えるものではなく、原告の社会的評価を低下させるものではない。

イ 本件レビュー2について

本件レビュー2-〈1〉ないし〈3〉については、本件書籍1が、年収3千万円以上の売れるコンサルタントになって活躍する具体策を説明するものであることに照らせば、説明の中で他のコンサルタント等が批判されていることが指摘されたとしても、著者である原告 の社会的評価を低下させることにはならない。また、同〈4〉ないし〈7〉については、何ら具体的な事実を示すことなく、投稿者の感想が記載されているものに過ぎないところ、カスタマーレビューが本件書籍1に対する論評ないし批評が投稿されるものである以上、書籍の著者は一定程度の否定的な論評を甘受すべきであり、その表現方法も不相当なものではないことからすれば、少なくとも社会生活上受忍すべき程度を超えて原告の社会的評価を低下させるものとはいえない。

ウ本件レビュー3について

本件レビュー3-〈1〉及び〈2〉については、原告のセミナーに参加した投稿者が、自らの体験に基づき、セミナーの概要を説明しているものであり、本件書籍2の紹介文からすれば、同書を読んだだけでその内容を体得することが難しいものと推察されることから、 書籍と同じ内容がセミナーで時間をかけて説明されたという事実が摘示されたとしても、原告の社会的評価は低下しない。そもそもカスタマーレビューが本件書籍2に対する論評ないし批評が投稿されるものである以上、書籍の著者は一定程度の否定的な論評を甘受すべきであり、その表現方法も不相当なものではないことからすれば、少なくとも社会生活上受忍すべき程度を超えて原告の社会的評価を低下させるものとはいえない。同〈3〉については、投稿者が自ら参加したセミナーについて抱いた感想を一般的・抽象的に述べたものに過ぎず、何ら原告の社会的評価を低下させるものではない。同〈4〉ないし〈6〉については、その前後の記載内容を踏まえれば、投稿者の感想や一般論を一般的・抽象的に述べたものにすぎず、一般の閲覧者に対して、原告が提供するコンサルティングサービスを受けても何らの実益も得られないとの印象を抱かせるものではなく、原告の社会的評価を低下させるものではない。

(2) 違法性阻却事由の不存在

本件レビューを閲覧するのは主にレビュー対象となった書籍の購入を検討している者であると考えられるところ、これらの者にとって当該書籍の内容や書籍に関連するセミナーの情報は重要な関心事であるし、本件レビューの内容は対象となった書籍の購入等の判断に有益な情報提供をする意義を有していることから、公共の利害に関するものであることがうかがえる。

本件レビューは、本件各書籍の記述内容の合理性や注意点等に関する記載が相当詳細に記載され、本件各書籍の内容が参考になる読者層に関する記述も存在するなど、本件各書籍の購入判断に資する部分が多々あることからすれば、本件サイトの閲覧者に対して有益な情報を提供する目的で投稿されたものであり、専ら公益を図る目的で投稿されたことがうかがえる。

本件レビューにおける摘示事実は、各投稿者の経験談や、本件各書籍の記述内容を引用しながら詳細な検討がなされていること等を踏まえれば、その重要な部分について真実であることがうかがえる。また、本件レビューにおける意見は、本件各書籍を含む原告の書籍の記述内容や原告が主催するセミナーの体験を前提としているものであり、意見の前提となった重要な部分が真実であること又は真実であると信じたことについて相当な理由が存在することがうかがえる。

したがって、本件レビューには、いずれも違法性阻却事由をうかがわせる事情が存在する。

(3) 以上によれば、本件レビューが原告の名誉権を侵害することが明らかであるとはいえない。

第3 当裁判所の判断

1 争点に対する判断

(1) 社会的評価の低下について

ア 本件レビュー1-〈1〉は、原告が他の業種を経営コンサルタントよりも下位に位置付けているとの事実を摘示し、同〈3〉は、本件書籍1に誤字脱字が多く、各章がバラバラな構成になっているとの事実を摘示し、同〈4〉は、原告が市場や競合の概念を考慮せずに論理を展開しているとの事実を摘示するものであるが、その記載内容に加え、カスタマーレビューが一個人の意見や感想等を自由に投稿できる場であることも踏まえれば、本件サイトの一般の閲覧者をして、原告の社会的評価が低下したことが明らかとはいえない。

次に、本件レビュー1 -〈2〉、〈5〉ないし〈8〉は、投稿者が、本件書籍1を読んだ上で、原告は、同書の読者を巧みに自身が主催する高額セミナーに誘導して成約することを企図しており、同書の内容を鵜呑みにせずに注意を払うべきであるとの意見や論評を述べるものというべきである。この点、本件サイトの一般の閲覧者を基準とすれば、カスタマーレビューに投稿された上記記載も一個人の意見や感想に過ぎないものと受け取られるものといえるし、コンサルタントを業とする者が、著書を契機にして自らが提供する各種サービスの顧客を増やしていくという方法は一般的なものということができるから、本件レビュー1における上記記載により原告の社会的評価が低下したことが明らかとはいえない。

よって、本件レビュー1により、原告の社会的評価が低下したことが明らかとはいえない。

イ 本件レビュー2-〈1〉ないし〈7〉は、いずれも具体的な事実を摘示したものとはいえず、投稿者が本件書籍2を読んだ上での意見や感想を述べたものに過ぎないというべきである。そして、前記のとおり、本件サイトのカスタマーレビューが、購入者個人の意見 や感想を自由に述べる場であることを踏まえれば、本件サイトの一般の閲覧者を基準として、本件レビュー2により原告の社会的評価が低下したことが明らかとはいえない。

ウ 本件レビュー3-〈1〉及び〈2〉は、原告が主催するセミナーについて、3万7千円という高額でありながら、内容は本件書籍2と同じであり、10分程度の短時間で説明できることを4時間もかけて説明していたとの事実(〈1〉)や、単なる勉強会や研修会で 高額フィーを取るものであるという事実(〈2〉)を摘示するものである。また、本件レビュー3-〈3〉ないし〈6〉は、原告が提供するコンサルティングサービスが内容に比して高額であるとの意見や論評を述べるものである。この点、本件サイトの一般の閲覧者を基 準とすれば、カスタマーレビューに投稿された上記各記載も一個人の意見や感想に過ぎないものと受け取られるものといえるし、一般に、セミナーに参加した際に得られる効用については、参加者の当該分野における習熟度や講師の著書の理解度に依るところが大きいといえることも踏まえると、本件レビュー3における上記記載により原告の社会的評価が低下したことが明らかとはいえない。

よって、本件レビュー3により、原告の社会的評価が低下したことが明らかとはいえない。

(2) 違法性阻却事由の存否について

前記前提事実(1)のとおり、原告は、コンサルティングビジネス専門のコンサルタントとして多数の著書を出版し、コンサルタント向けの講演やセミナーも多数主催する者であるところ、本件レビューは、このように対外的に精力的に活動している原告の著書やセミ ナーに関するものであり、その内容も、原告を必要以上に揶揄、中傷するものとはいえず、本件サイトのカスタマーレビューとして、本件各書籍やセミナーの内容をときには批判的に紹介するものであることからすれば、本件レビューは、公共の利害に係る事実に関し、専ら公益を図る目的で投稿された可能性が否定できないというべきである。

そして、本件レビューの記載内容に照らせば、本件レビューの各投稿者は、本件書籍1あるいは本件書籍2を読んだ上で本件レビューを投稿したこと及び少なくとも本件レビュー3の投稿者は、原告が主催するセミナーにも参加した上で本件レビュー3を投稿したことがそれぞれうかがわれ、これらの事情を踏まえれば、本件レビューに記載された摘示事実については、真実である可能性を否定することができず、また、本件レビューに記載された意見や論評については、その前提となった事実の重要部分が真実である可能性があり、人身攻撃に及ぶなど意見や論評の域を逸脱しているとも認められない。

よって、本件レビューについては、違法性阻却事由が存在する可能性が否定できないというべきである。

(3)小括

以上によれば、本件レビューによって原告の社会的評価が低下したことが明らかであるとはいえない上、本件レビューについては違法性阻却事由が存在する可能性を否定することもできない。そうすると、本件レビューによって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるとはいえない。

2 結論

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからすべて棄却することとし、主文のとおり判決する。

民事第6部

(裁判官 磯﨑優)

別紙(省略)

(3)

画像

関連項目

外部リンク