恒心文庫:見つめる瞳

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本文

仕事が立て込み終電を逃したのでタクシーを拾おうとしたものの、なかなかタクシーが通りかかってくれない。まあいい、しばらく歩いて疲れたら電話でタクシーを呼ぶなり歩いてる途中に捕まえることができたらいいや、そんなつもりで歩みを進める。
深夜の東京都の港区三田はなかなかに人が多かった、あちこちの事務所らしき建物に灯が点っている、東京都というものはどこも不夜城なのだろうか、粛々と歩いていると、電信柱のシミにふと目がついた、そういやネットでみた無能と悪名高い弁護士のイラストにそこはかとなく似ているな。
そんなことをぼんやり考えているとそのシミがボコッと盛り上がりあの弁護士の顔だけが現れた、例えるならテレビから貞子が出てくる直前のように顔だけだ。
首筋を隠す二重顎、目尻に向かって垂れるつぶらな瞳、鼻フックでもされてるかのような鼻に薄い唇。
イラストではなくあの弁護士の実物が現れた、どうやら疲れているらしい、気のせいだと自分に言い聞かせ歩みを早める。
コンビニに立ち寄り熱いコーヒーを買って飲みながら歩くことにした、そうあれは気のせいだ、そうに違いない。
背後から何かの衣擦れの音がしたので振り返ると看板から唐澤貴洋が逆さまに這い出てぶら下がり私を見つめていた。
たまらず手元のコーヒーを彼に浴びせてしまった、「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
夜のしじまに耳をつんざく悲鳴があたりにこだまする。
その場を通りかかったタクシーを拾い急いで自宅へと走ってもらった。
自宅につき料金を払う段階でお金を渡そうとすると、「アンノォ」と先ほど私がコーヒーをぶちまけたあの顔がタクシー運転手の顔、車の窓という窓、車の外観の塗装の反射、ドアノブにまで張り付きこちらをあのつぶらな瞳で見つめていた。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

挿絵

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