恒心文庫:究極の選択

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本文

当職は焦っていた。
いつものように下校中、多摩川の河川敷の側を通っていた時のことだ。

遠目に橋の下で何やら不良達が集団でリンチを行っているようだった。
これはいけない。
そう思ったが正義の血があふれる当職ではあるが、残念ながら無駄な戦いに振るう拳がない。
真の正義の味方は些細な悪は見逃すのだ。
ああいうのは当人達が解決することなのだろう。これでいい。

知らん振りしよう、踵を返して帰ろうとした。
しかし、その瞬間叫び声が聞こえた。助けを呼ぶ声だ、信じ難いことに聞き覚えのある声。甲高いひ弱な声。

なんと絞り出された声無き声は弟の厚史のものだった。

兄としての立場である当職は考えた。
弟を見捨てていいのかと。
兄は弟より早く生まれただけではないのか。
何故、弟を庇って当職が痛い目に遭わなければならないのか。
厚史もたまには痛い目にあえばいい。

当職があと一歩で助けに行こうと動こうとしていたところ、悪魔が囁いた。
今日は「家なき子2」がテレビであるじゃんよ、と。

それから先の記憶は考えてみると何もない。


気付いたら当職は家のテレビの前で肘をついていた。



翌日、何故だか厚史は死んだ。
厚史の部屋には悪い者達のリストがあった。
その中には当職の名前も記されていた。


厚史は気が触れたんだと思い胸を痛めその字をそっと消し当職は泣いた。

あのリストの中の誰が弟を殺したのだうか。大人になった今でも分からない。


(終)

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