恒心文庫:松戸鎮守府の長谷川司令官

2021年2月14日 (日) 17:01時点における>チー二ョによる版 (ページの作成:「__NOTOC__ == 本文 == <poem> 電とお父さんの話と司令官さんとの出会いをお話ししますなのです 電は小学校でもお友達がいませんで…」)
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本文

電とお父さんの話と司令官さんとの出会いをお話ししますなのです
電は小学校でもお友達がいませんでしたが、お手紙で暁ちゃん達とやりとりをとっていました。
電も本当はお母さんのところにいきたかったのですが、お父さんは自分のウンチもふけないのです。
だから電がついていないとダメだったのです。
それでも夜、寂しくなってめそめそ泣くこともあったのです。


電のお父さんは弁護士さんなのです。
暁ちゃん、響ちゃん、雷ちゃんは別れたお母さんのところにいったのです。
家にはお金がいっぱいありましたがお父さんはいつも電をいじめたのです。
だからお父さんのことは嫌いだったのです。
そんなある日お父さんがうんうん言いながら家に帰ってきたのです
電は恐る恐る聞いたのです。

「お父さんどうしたのですか?何か難しいお仕事なのですか?」

お父さんは答えました。

「うるさいナリ。千葉のクソ提督が住所開示されたとかで助けを求めにきたナリ。当職は無能だけどこいつから金を巻き上げる方法を考えているナリ。それより飯はどうしたナリか?」

ある日学校からかえるとお父さんから電話がかかってきました。

「電、大切な書類を忘れたナリ。それを今から持ってこいナリ。持って来なきゃまた殴るナリよ」

電は、はい、と答えて書類を持って電車に乗りました。
途中道に迷いながらも、お父さんの弁護士事務所までなんとかたどり着きました。

事務所に入るとお父さんは見たこともないニコニコ笑顔をしていたのです。
誰かからお金を巻き上げられたのかもしれないけど、電に難しい話はよく分からないのです。
書類をお父さんに渡して、電はそそくさと立ち去ろうとしたのです。
すると、ソファーに座っていたお兄さんから声をかけられたのです

「ワイは長谷川、あだ名はチンフェや。千葉の松戸鎮守府で提督やっとるんや。お嬢ちゃんは?」

かっこいいお兄さんなのです。
電はびっくりしながら

「い、電です。唐澤貴洋べ、弁護士の娘、なのです」

と答えたのです。
長谷川…いえ、司令官さんはそのあと優しく頭をなでてくれたのです。
これが前までのお話なのです。

それから時が流れ電が小学三年生の夏の日のことでした。
電が晩御飯のシチューをうっかりお父さんのスーツにこぼしてしまったのです。
お父さんは烈火のごとく怒り狂って、電をいっぱいぶったのです。
ごめんなさいといっても、お父さんは馬乗りで電を殴り続けたのです。
電はいっぱい泣いたのです
その日は夏休みの前日、電は豚さんの貯金箱とお母さん達と撮った写真と筆箱をもって、夜中に家を飛び出したのです。
そう、家出なのです。
もうお父さんのところには戻りたくない一心で、電は歩き続けました。
お父さんにぶたれた足がヒリヒリ痛んで涙がポロポロ溢れたのです、それでも歩いたのです
何時間も歩きました、自分がどこに向かっているのかも分からないのです。
とにかく逃げて逃げて、草むらに座って。
晩御飯で作ったお米をおむすびはしょっぱい味がしたのです。
電はポロポロ涙を流していました。

「誰か助けて下さいなのです…」

電の非力な叫びは夜の闇に吸い込まれていきました

月明かりを頼りに歩いて歩いて歩いて。
すると、懐かしいような切ないような匂いがしたのです。
潮のかおり…海が近いのです。
昔、お父さんもお母さんも仲が良かった頃にみんなで来たのです。
電は駆け足で海に向かいました。
海なんて、なん年ぶりでしょうか。

ここはどこの海でしょうか、港区から歩いて歩いて…もしかしたら青森の海でしょうか。
そんなはずはないのです。
お月様は綺麗で浜辺を優しく照らしています。
海は静かで波の音が優しく心に沁みいります。
数時間前までボコボコにぶたれていたのに、嘘のように綺麗で穏やかな気持ちなのです。
都会から離れた、どこかも分からない星空は宝石を散りばめたように輝いています。
電は浜辺に腰かけ空を仰ぎました。
「おつきさま、おつきさま、電はいっぱいぶたれるのはもう嫌なのです。また皆で仲良くご飯を食べたいのです。お願いを聞いてください」
手を合わせてお月様にお願いしたのです。
月に手を合わせてお願いをするなんて格好悪いのです、それでも願わずにはいられませんでした。
殴られた傷跡に潮風がちょっぴり染みましたが気にならなかったのです。

「…お友だちがほしいのです…」

思わずぽろっと声にでてしまった…その時でした。

「なんや、友達が欲しいのか?」
「はわわっ、誰なのです!?」

夜の浜辺に先客さんがいたのでびっくりしたのです。
砂を踏みしめる音と共に月明かりに照らされた浜辺に人影が現れました。

「潮風は毒やでお嬢ちゃん。なにしとるんやこんなところで」

どこかで見た、ブラックスーツにピンクのネクタイを締めた男性なのです。

「あなたはお父さんの事務所にいた…ち、ちんふぇさん!」
「なんや、どっかで聞いた声だと思ったらあのデブの娘さんやんけ!なにしとるんや!」

電はチンフェさんに事情を話したのです。
するとチンフェさんは何も言わずに電を抱きしめて涙を流したのです。
電も思わず泣いてしまったのです。
なのです!


電は虐待を受けていることを告白しました。
チンフェさんは何も言わずに電の手を引いて、今の松戸鎮守府に連れてきてくれました。
優しいお姉さん、私と同じくらいの女の子、頼りになるお姉さん…皆が電に優しくしてくれました。
チンフェさんは食堂でカレーを二つ頼んで電にご馳走してくれました。
翌日の朝、チンフェさんが部屋にやってきました。
「電、艦娘になってワイと一緒に戦わないか?」
艦娘のことは学校の授業で習いました。
なにをするのかも知っていました。
とても辛いことだと思いましたが、電はあの家にはもう戻れません。
「はい」
と答えてチンフェさんと握手を交わしました
その日の夜、チンフェさんがまた部屋にやってきました。
嫌いな家でも離れたら寂しくなって泣いていたのです。

「お前はもう学校にも行かなくてええ。手続きは済ませた、ワイがなんとかしたる。あのクソデブもねじ伏せた。これからはワイがお前を守ったる」

この時、どんなに幸せだったことか。

勉強や運動は重巡洋艦のお姉さんたちが教えてくれたのです。
夕立ちゃんや時雨ちゃん、潮ちゃんに吹雪ちゃん、はじめてのお友達もできて幸せでした。
それでも寂しくなって部屋ですんすん泣いていると天龍さんや長門さんがやってきて
「大丈夫だ」
と言って抱っこしてくれるのです。
本当に幸せな日々でした。
それでも心残りがありました…それはお姉ちゃん達のことです。
鎮守府にきてから半年が経ちましたが、一度も連絡がとれていません。
家に住所を描いた紙もハガキも全て置いてきてしまったのです。
ある日、それを長谷川司令官に相談してみたのです。
司令官さんはマンフェーという彼女さんがいるのです…とっても優しそうで美人さんなのです。
電も大きくなってあんな美人さんになれたら…司令官さんも好きになってくれるかなぁ
「司令官さん、お暇を頂けませんか?」

「なんでや?」

「そのぅ…お手紙を取りに行きたいのです」

「なんのや?」

「電にはお姉ちゃん達がいるのです。住んでいるところは違うけど大切なお姉ちゃん達で…そのぅ…名前はですねぇ…」

「…暁、響、雷やろ?」

「…えっ…どうして…」
「お前が一人ぼっちで寂しがっているのは知っていたんや。俺はこの半年ずっと人探しをしていてな。遂に俺は先週、そいつらを見つけた。そいつらにな…お前が寂しがっているって話をしたらな…【その子のところに連れて行って下さい】って涙を流しながら言うんや」

司令官さんは少し笑っていたのです
司令官さんは続けました。

「そいつらは来月就任することになっていたんやけどな、お前が悲しむところをもう見たくなくてな無理を言ったんや。これからそいつらがここに来るで」
「???あ、あのぅ司令官さん。電はいじめられっ子だったのでお友達は…それに今はそういう話をしているんじゃ…」

コンコン…コン…

突然、執務室のドアをノックする音が聞こえたのです。
それでも司令官さんはお返事もせずにニヤニヤと笑いながら電の顔を見つめるばかり。
たまらず電が
「司令官さん、誰か来られたのですよ?」
と聞いたのです。
それでも司令官さんはニヤニヤと笑うばかりなのです。
司令官さんが口を開きました。

「俺には嫌いなものがある。それは女が悲しんでいる顔や。お前がお姉ちゃん達に会えなくて寂しがっているのを…ただ眺めているだけじゃないで俺は…なぁ?」

まさか…まさか!まさか!まさか!

「電…来客や。返事したれや」

「!!どっ、どうぞなのです!」
ガチャリ

「失礼します」という少しこわばった懐かしくてたまらない声と共に、会いたくて堪らなかった大好きな姉達が次々と部屋に入ってきたのです。
あまりにも突然のことで電は言葉を失い動けなくなって静止してしまいました。

「駆逐艦暁、駆逐艦響、駆逐艦雷。君達の着任を歓迎するで」
「不慣れなことだらけで不安だと思うが安心してくれや。ここの奴らは皆優しくていい奴ばかりやで。特にこの電は優しい奴や…お前達の妹は…誰よりも優しい奴やで…」

海で溺れた時の様に、鼻の奥がツーンとするのです。
電も、お姉ちゃん達も…司令官さんも…皆泣いていたのです。

「電ぁ!!!」

大好きなお姉ちゃん達が一斉に電に抱きついてきたのです。
電もいっぱい抱きしめ返したのです。
皆でえんえんと泣いたあとも司令官さんは私達の頭を優しく撫でてくれたのです。

「お前達の部屋は四人部屋や。今日は一緒に寝るんやで?命令や」

世界で一番優しい命令でした


夜寝る前に沢山の事をお話ししたのです。
小学校で暁ちゃんは委員長さん、響ちゃんはお花係、雷ちゃんは生き物係をしていたのです。
電がお父さんから酷い事をされた話は聞かれませんでした。
多分、事情を知っているのです。
その日、電はお姉ちゃんの温もりにつつまれながら眠りについたのです。
あれからいっぱい喧嘩もして、仲直りもして、泣いて、笑って、遊んで…毎日が幸せでたまらなかったのです。
大好きな人達に囲まれて過ごす日々の喜びと素晴らしさは言葉にできないのです。
愛する人が側にいる、守りたい人と共にいる、なんて素晴らしいのでしょうか。
電は幸せなのです。

それから更に数年の月日が流れたのです。
深海棲艦もいなくなって今は海上の護衛と遠征での資材確保ばかり。
これから更に数年様子を見て、異常がないと判断されたら屈強な僅かな艦娘を残して他の艦娘は解体(武装解除)されるとのことです。
そしたら、私達はここを出ていかなければなりません。
それが数年先のことなのか、半年先のことなのかは分かりません。
国からは莫大な恩賞がそれぞれ与えられ、電達は世界旅行だってできちゃうし、間宮さんのアイスクリームを毎日食べられちゃうのです。
でも…お金よりも長谷川司令官や鎮守府のみんなと離れてしまうことが一番辛いのです。

長谷川司令官は今では【自分語りの英雄】と呼ばれています。
お金もお家も手に入ります、そんな凄い人に釣り合うように電は自分磨きをしているのです。
牛乳もピーマンも今じゃ大好きなのです。
いつか素敵な女性になって…長谷川司令官さんのお嫁さんになるのが電のお願いなのです♪

おしまい

静かな夜は大好きなのです

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