恒心文庫:情報漏洩に強い弁護士

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本文

「唐澤貴洋?ああ、あいつのことか、思い出したくもないよ」
インタビューをしていたところ、東京第一弁護士会のとある弁護士について話を伺った所山岡裕明弁護士は露骨に顔を顰めた。
気持ちはわからなくもない、唐澤氏と共同で事務所を設立したことで山岡弁護士には決して消えないデジタルタトゥーが刻み込まれたのだから。インタビュアーの私が唐澤貴洋氏のあだ名の、ものすごい小太りのデブやパカデブって面白いあだ名ですね、と何気ない一言に山岡弁護士は過剰に反応した
「デブ?あんたあいつが本当にデブだと思ってるのか?あいつはデブなんかじゃない、あの突き出た腹も、太い腕も頸筋も全部筋肉だ、見せてやるよ」
山岡弁護士は机の上に何枚か写真を広げてくれた、その写真はどれも異様なものばかりであった。穴だらけの事務所の壁、何か貫通したような穴が穿たれたパソコンのディスプレイの山、そして顔の形が変わるほど殴られ
あちこちあざだらけの上半身裸の男性だった。「これは奴が大暴れした後だ、毎回管理会社に退去してくれと言われていたが、理由は嫌がらせだけじゃない、やつの大暴れも原因だったんだ。その写真の男が誰かわかるか?あんたの目の前に今いる男、そう俺だよ。イライラが募った矛先は徐々に俺にむきだしていったんだ、何回肋を折られたかわからない。あいつは自分の感情のコントロールが一切できず、衝動的に行動するいわば畜生、野生動物みたいなものなのさ」
唖然としているインタビュアーに山岡弁護士は告げる「俺が写っている写真以外は持って帰ってもらって構わない、漏洩元の俺の名前は伏せといてくれ。持ち帰ったところで何かに使えるとは思えないけどな」
インタビューは終わり、山岡弁護士に礼をいう、山岡弁護士は気をつけて帰れよ、と送り出してくれた。
私はY弁護士事務所を後にした。タクシーを拾い駅までと頼む、コロナウイルスのせいですれ違う車も稀で人もまばらか殆どいない。景色を見るのにも飽きたのでうつらうつらしていると、不意に運転手が危ない!と絶叫し急ブレーキを踏んだ
ハッとするのも束の間、車は何かにぶつかり横転し大破した。運転手に声をかけて見たが返事がない、仕方がないので横転しひしゃげた車の中にいる私は懸命に外に出ようとした、しかし扉が変形し開かない。警察と救急車を呼ばなければ
そう考えながらも体のあちこちが痛み頭がこの苦痛から逃れるにはどうするかで支配されてしまう。突如扉を凄まじい力で叩く音がした、鈍い打撃の音というか、鉄の塊で何かを殴る音がした、変形したドアは強引にこじ開けられた。救急隊員が助けに来たのだと思った、しかしその男からは私の意識を確認する質問ではなく、命令が飛んできた「写真を寄越せ!」男は私を強引に車から引き摺り出すと顔を殴りつけた、私は数メートル吹っ飛んだかもしれない。なんとかその男の面を見てやろうと視線を向ける、驚いたことにそこにいたのは唐澤貴洋だった。
「ヒステリック乳首が!写真を漏らしやがって!」と他に何か叫びながら先程の写真を手に取り空いた手で車を殴っている、みるみるうちに車は穴だらけになり、車体は原形を留めぬほどひしゃげていった。怒りに任せ運転席のタクシードライバーを引き摺り出すと、襟首を掴んだまましこたまパンチを叩き込む、ボロ雑巾のようになった運転手をその辺に投げ捨て、一頻り車を殴り溜飲が下がったのか唐澤貴洋はドスドスと足音を立てながら夜の闇に消えていった。
私が意識を取り戻した時、病院にいた。
事故により顎を2箇所骨折、頭蓋骨陥没、全身打撲の重傷だった、運転手は残念ながら死亡していた。
現場検証をした警察曰く運転手、同乗者とも事故により社外に投げ出されたが私は奇跡的に助かったとのこと。
しかし私は知っているのだ、唐澤が私の手にした証拠を奪いに襲撃してきたに違いないと。この一件により私はまだ死にたくないので唐澤貴洋から手を引くことにした。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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