恒心文庫:廃墟の風景
本文
明日は寒いながらも晴れ渡る日なのだそうだ、こんな日は気分転換に散歩でも行くに限る。小林はせっかくの休日に少しでも男同士のくんず解れずを見せつけられている自分の双眸を浄化するためにどこか静かなところに行くことにした。
そうだな、鄙びた廃墟の風景でも描くか
小林は準備を終えて気になっていた廃墟へ向かった。朽ちて自然にかえりゆく人工物の佇まいは別格だ。黒く汚れた壁、人が通っていた痕跡を消して行く木々や草、あたりに散らばる人がいたことを忍ばせるさまざまな残留物。静謐な廃墟の雰囲気がそのもの悲しさを際立たせる。
静かだ。持ってきた折り畳みの椅子に腰をかけ目の前にキャンパスを置きスケッチに没頭する。ここでは八雲法律事務所での男の気持ち悪い声や、肌と肌がぶつかる音なぞ聞こえない。そのはずだった。
小林の耳にほぼ毎日聞く羽目になっている
ある男の喘ぎ声が聞こえてきた。
この声はまさか…….
恐る恐る声のする方へ行くと
そこでは山岡裕明がこの廃墟を縄張りとしているらしき男達に輸姦されていた。
なんでこんなところにまであいつがいるんだ
帰ろうと足早にその場を去ろうとすると枝を踏み締めてしまいその音で男達に気づかれてしまった。
「おいニイちゃん、俺たちのお楽しみをデバガメしてたのか?混ぜてやるからよ、もうこの男のケツマンコ使えねからお前のを貸せや!」
男達が山岡を抱えながらこっちまできた
早く逃げなければ、しかし恐怖と焦りで足がうまく動かない。追いつかれてあわや犯される寸前で男達が画材に目をやった。
「ニイちゃん、絵描きなのか。そうだな、なら俺たちがお前の画題になってやるよ。男同士の裸体は複数の絡みの方が映えるんだよ!」
結局小林はここでも男共の痴態を描くハメになった、震える手で絵筆をとり知らない男が山岡を輸姦する様を荒い筆致でカンバスに描き上げ、選抜だとばかりに置いて行きその場を後にした。
宮廷画家の宿命からは逃れることができないのか、小林は何か薄寒いものを感じつつも
諦観の境地に至りつつあった。
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