恒心文庫:子供が欲しい

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本文

日本の全カップルの7組に1組――――不妊というのは決して珍しい話ではない。
妊孕性は30歳を過ぎたあたりから落ちていくのだから、年齢が上がれば不妊の割合はこれ以上に高くなる。
合計年齢が100を超えると、自力で出産可能なカップルなどまずいない。
唐澤貴洋(37:仮名)と唐澤洋(68:仮名)も、そんな"珍しくない"カップルの1組だ。

貴洋が大きく息をつく。洋の中に精を吐き出すのは、これで何回目になるだろうか。
今日は洋の排卵日だ。開腹して直接確認したのだから間違いない。慣れた手つきで卵子に精子をふりかけ、腹を閉じる。
貴洋の精液は少々特殊なようで、創はみるみるうちに塞がった。後は天命を待つだけだ。
しかし次の日も、その次の日も、貴洋と洋は体を重ねる。1日に1回は精液を取り込まなければ、
生殖適齢期をとうに過ぎた洋の子宮は腐り落ちてしまうからだ。互いの老化が進むにつれて必要な精液の量は増加し、
流石の貴洋でも生産が間に合わないことが増えた。半年前からは第3者に足りない分を補ってもらっているが、
それでもようやく子宮が維持できる程度だ。

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリュリュリュリュ!!!!!ブチブチブチチチッッッ!!!!!ブブッブゥッ!!!ブゥッ!!!)」

排卵日から2週間後、洋に生理が来た。着床を果たせず壊死した子宮が、貯留した精液と共に排泄される。
通常の生理は子宮内膜が剥がれるだけだが、それでも相当な苦痛となる。それが子宮全体ともなれば、
その苦痛はいかほどか。洋は絶叫し、慟哭し、あらゆる分泌物と排泄物をこぼしながらのたうち回る。
しかし有能会計士に休みは無い。すぐさま次の妊娠の準備に取り掛かる。可能性が低いのだから、
チャンスは多い方がいい。貴洋の精子を体内に取り込み、子宮を再生させ、そしてまた開腹を行う。

このような生活を始めてから、すでに5年が経過した。自分の子共/孫の顔が見たい一心で、今も彼らは限界に挑み続ける。
「諦めたくはないですね、愛し合う2人が子供を得るのは当然の権利なのですから」と唐澤貴洋は語り、洋が隣で微笑んだ。

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