恒心文庫:ル・モンド・アミキャルの躍進

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本文

この章では、前章まで触れられなかったクアドラ・プルーデンサの残り2人について言及しながら、モンドが大衆化した経緯について論じる。
当時の某国には、短い動画を作り、鑑賞し、共有する文化があった。中でも毎年2月と8月に動画を大量投稿し、その出来を競い合うイベントがあった。2015年2月の祭の場に彗星のごとく現れたのが、クアドラ・プルーデンサのミルキーウェイである。この人物の人となりについて、またある一つの偉業を除いた言動について残っている史料はゼロだが、彼(女?)のもたらした功績は凄まじいものだった。当初、神を表すイコンとして用いられていたのは二次元のイラストしか無かったが、彼は神のイコンを三次元の人形として作り上げ、自ら動画を作り投稿した。神の人形が作られたこと、また非信徒が人形を目にする機会が増えたことに信徒たちは沸き立った。その後、彼に続いてサンフラワーやエグズィットら著名な人形作家が登場する。瞬く間に、モンドが祭を乗っ取ってしまったのである。そこからまた、当時祭を運営していた者たちの腐敗が暴かれた。これは信徒たちの間では聖戦として扱われる。
時を同じくして、神のイコンは強力なコンピューターウイルスとしても使われた。これを作り出したのが、おそらく最も若いクアドラ・プルーデンサのミロタンである。そのウイルスは、当時の冬の流行病であったインフルエンザに喩えられる。コンピューターを使っていて突然、神の不気味なイコンが現れたとしたら……その恐怖は計り知れない。独特の文体で綴られた脅迫的な金銭要求を信じ込んでしまい、ミロタンに助けを乞うた者もいたというが、彼からすれば悪ふざけで作ったウイルスであるので、誰も嫌な思いをしない。なお、この愉快犯は改名し、亡命したという。本人は、2058年に至っても、モンドに関わったこと自体を記憶抹消したいと言っているため、「ミロタン」に関する言及は避けよう。
最初の詠唱者フュースィス、技術力を悪ふざけに使ったミロタン、神の人形を作り出したミルキーウェイ、不吉な予言者アンドロポフ。以上の四賢人や、その他多数の熱心な人々によって、素朴な聖歌やルネサンス的芸術が作られ、インターネットから現実で事件を起こし、モンドは今や文字通りモンドーー世界ーーの宗教となった。

出典
千葉かなえ他『ル・モンド・アミキャル概説』民明書房、初版2058年6月23日

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