恒心文庫:ノック

2021年6月11日 (金) 07:10時点における>チー二ョによる版 (ページの作成:「__NOTOC__ == 本文 == <poem> コンコン… 硬いものがぶつかる音がする コンコン… リズム良く音が続く。 その日長谷川亮太はその奇…」)
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本文

コンコン…
硬いものがぶつかる音がする
コンコン…
リズム良く音が続く。
その日長谷川亮太はその奇妙な音に安眠を妨げられた。
「何ンゴ、こんな夜中に」
コンコン…
音は断続的に、そして一定の法則を持って発せられている。どうやら玄関に何かが当たっている音らしかった。
「住所がばれてから数日、ホモサイトに住所を書き込まれるなどの嫌がらせなどをされたが、とうとう直接乗り込んで来たンゴか」
卒業証書セルフ開示から数日、自分の住所を卑猥な名前と共にいたるところで晒されていた長谷川亮太はフラストレーションが溜まっていた。
そこで真夜中の訪問者に対して少し脅かしてやろうとモデルガンを手に音を立てないように階段を降りてゆく。
「なめんじゃねーぞクソガキ、これでなんJのバカ共も懲りるやろ」矮小なことを考えながら玄関へと近づく。
ドアにはめ込まれたすりガラスに黒い影がぼんやりと映っている。一人で来るとはバカな奴や…そうひとりごちながらドアスコープを覗き込んだ。
瞬間恐怖のあまりのけぞったがなんとか悲鳴を上げる事だけはこらえることができた。
黒、真っ黒、完全に黒い人の形をしたものがそこにいた。
「なななんやアレ…完全にヤバイ奴やんけ…」コンコン…長谷川亮太は今度は沈黙を守ることはできなかった。
眠たげな目を擦りながら父満孝が玄関へ来た。「うるさいぞ亮太、今何時だと思ってんだ」
「ワイの住所見てヤバイ奴が来たンゴ!警察よぶンゴ!」満孝はドアスコープを覗く。
そこには何もいなかった「誰もいないぞ」
「そんなはずないンゴ!どっかに隠れてるに違いないンゴ!」
息子の必死な言動に一応ドアを開け周りを探したが何も、誰も見つからなかった。
「なんJの奴ら絶対この辺にいるんや!町中の奴らに探してもらうで!リンチにしたるンゴ!」
「あのなぁ亮太…」満孝は愚息を睨み付けながら言った。
「近所の事を考えろ。お前の妄想に付き合うほど周りは暇じゃないんだ。自分のせいでこうなったんだろ」
「でも…」
「いいか、誰のせいでこんなことになったか考えろ。それにその手の奴らがもしいたとしても無視しとけばあきらめる、さっさと寝ろ」
そう吐き捨てると満孝は寝室へと戻っていった。

次の日亮太は家族の白い目に晒されながら学校に行った。
今まで仲良くつるんでいた友人達がニヤニヤしながらこっちを指差す。女子がぶつかりそうになり露骨に避ける。
「なんでこんなことになったんや…」そうつぶやきながら家に帰る。
あれだけ人生を賭けていたなんJに目を通す気にもなれず。もうパソコンをつけようとも思わなかった。
ベッドにうつぶせになり亮太は昨日の夜の事を考えていた。
昨日の奴、今日もこんよな…?そう考えていると深夜を周り、そろそろ眠ろうと考えていたときにまたあの音がした
コンコン…
昨日の奴だ!直感で気づいた亮太は親を呼ぼうとも考えたが、また昨日のように怒られるのがオチだと悟った。
つまりこの夜の闖入者に自分独りで対処しなければならないということだった。
おそるおそる階段を降り、ドアスコープを覗く、奴だ。昨日の奴がまた来たんだ。
コンコン…ドアをノックされ思わずのけぞる。もう一度覗くと全く動いた様子もない。
その後何度も行われるノックに怯えながら恐怖の客について調べたのだが、いくつかの事に気がついた。
まず全身真っ黒だと思っていたものだがどうやら暗闇でそう見えただけで、紫のぼろぼろのスーツを着ていて胸には鈍く輝く金属片があった。
またどうやら人ではなく案山子のようで、つんつんとわらのようなものが逆立ち、顔には穴が空いていた。そして案山子の後ろに何か肌色が見えた。
つまりだれかが案山子を持ってきて案山子を毎晩ドアに当てているのだ。
常人なら間違いなく奇人や変質者のそれと考えるが、長谷川亮太はなんJ民の陰湿な嫌がらせだと感じた。
我慢…我慢ゴ…無視してたらいなくなる…そんな考え事をしながらドアスコープをいると、虫の声に混じってなにやら低い陰気な調子の囁きが聞こえてきた。
「…の…です、ひぼ…おあなたの…す」
その日は恐ろしくなって部屋に帰り、震えて眠った。

次の日も彼は、毎日やってくる奇人を観察した。次の日も、次の日も。毎日深夜になるとドアスコープを覗き真夜中の珍客を見続けた。
夜はほとんど眠れないので目の下にクマができ、白髪も増えてきた。それを隠すために日焼けをし、髪を金髪に染め、両親から奇異の目で見られるようになった。
それでも観察を続けた。彼にはそれしかないような気がしたのだ。
警察も当てにならず、親や友人からも見捨てられた彼にとってこの案山子を持った男だけが自分を見捨てていない。
そんな気がしていたのだ。
「彼はワイと話がしたいだけなんかもな…」
「毎晩家に来てノックするのはそら頭おかしいことやけど、彼なりに何か伝えたいことがあるのかも知れんな」
いつしかそんな考えが頭をよぎり、彼のノックに答えてドアを開けるべきだと考えるようになった。
コンコン…
またいつものノックだ。今日は彼に対してドアを開けてやってもええかもな、そう思いドアを開けた時、彼は二つ間違えていたことを知った。
一つは彼が人ではない―少なくとも彼が生きてきた短い人生でそんな形の人間に出会ってこなかった。
そして二つ目は彼はノックをしていたのではなく家に入ろうと体を押し付けていたのだ。
ずっと、コンコンという音は胸のバッヂがドアに当たる音だったのだ。
「弁護士の唐澤です誹謗中傷問題は解決できるかも知れないもし辛くて眠れないときは弁護士に相談してくださいあなたの傍にいる弁護士がいます長谷川亮太君ネットで誹謗中傷されて辛かっただろう大丈夫当職に任せればなんJクズ共を見返せるナリ必要なのは相談する勇気とお金です声なき声に力を新しい時代を愛なき時代に愛を」

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