恒心文庫:じばく
本文
ある昼下がりのことである。
たかひろはおもむろにスラックスのチャックを開け、その隙間へ利き手をすべらせた。
伸縮性に富んだブリーフの窓を掻き分ける様にして差し込まれた指先は、そのまましな垂れる竿をおしのけ後ろに控えた金玉を巧みに探りあげると、その片方をつまみあげてひねった。
指の先で金玉がくるん、と不自然にまわる。柔らかく垂れ下がる金玉、その玉袋は変わらずぶら下がっているのに、指先にふれたシワまみれの表面が何か重みを抱えたまま弧を描くようにして一瞬ぶれたのだ。
事実、たかひろの金玉は回転していた。染み入るようにほのかに湿った玉袋、その外側のみを置いてけぼりにして、中身の精巣がくるんとまわっていた。
精巣捻転である。腹部と精巣をつなぐ、精液と血液の通り道である精管がねじれているのである。
しばらくすると、たかひろは内股にした両足、その股ぐらに両手を挟み込むようにして転げた。
「いでぇよお」
遠くでカラスの鳴く声がした。
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