恒心文庫:いたずらのつもりが……

2020年3月16日 (月) 23:15時点における>ジ・Mによる版 (ページの作成:「__NOTOC__ == 本文 == <poem> あれは兄と二人で夏休みの宿題をやっていたときのことです。 家の居間で麦茶を飲みながらそれぞれド…」)
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本文

あれは兄と二人で夏休みの宿題をやっていたときのことです。
家の居間で麦茶を飲みながらそれぞれドリルに向かって取り組んでいました。
しばらく経った頃、兄が自分の麦茶を飲み終わり、お代わりをしに冷蔵庫の方へと歩いていきました。
勉強で疲れていた僕は、休憩がてらいたずらをしてやろうと
僕に向かって背中を向けている兄にそろりそろりと近づいて
思いっきり浣腸をしてやりました。
しかし感触が変なのです。
夏の暑い日だったので、薄めのズボンを履いていたのですが
それにしても指がどこまでもどこまでも入っていくのです。
両手の人差し指と中指を合わせて、いわゆる忍者のポーズのようにして浣腸したのですが
とうとう指が根本まですっぽりと入ってしまいました。
え?と僕は小さく声を上げたのですが、すぐに兄の絶叫によってそれもかき消されてしまいました。
「お父さんごめんなさい!いたいよ!もうやめてよ!」
鼓膜が割れんばかりの声で兄はそう叫ぶではないですか。
僕はびっくりして手を引っ込めたのですが、兄はまだ自分のおしりを抑えながら
「パパ!ごめんない!やめてください!」
と泣きながら叫んでいます。
僕も浣腸をしてごめんなさいと謝ったのですが、兄は泣き叫ぶのをやめません。
ずっとその場にはいない父に向かって謝罪を繰り返してるのです。
この叫び声に、書斎にいた父が気が付きやってきました。
そしておしりを抑えうずくまり、父に向かって泣きながら謝っている兄の姿を見て真っ青になりました。
父は僕の方を向き、一言
「なにをしたんじゃ」
と低く重い声で言いました。
僕は、兄に浣腸をしたこと、指が根本までずぶりと入ったこと、兄が泣き叫び始めたことを説明しました。
これを聞いた父は、そうかと小さくつぶやき、今回のことは忘れるように、そして母には言わないようにと命令しました。
そうしなければ、お前もひどい目にあうというのです。
どういうことかと父に聞いたのですが、教えてくれません。
父は泣き叫ぶ兄を連れ、書斎ではなく寝室へと行き、扉を閉めました。
扉からはかちゃりと鍵をかける音が聞こえます。
中で何が起こっているのか知りたかった僕は、扉に耳を当て中の様子を伺います。
しかし、聞こえるのは野獣のように低く唸る声と、パンパンとなにかを叩く音です。
この日は、これ以上のことはわからず、僕は勉強に戻りました。

次の日の昼です。僕は父の書斎を訪れ、昨日何があったのかを尋ねました。
父は僕をしばらく睨みつけたあと言いました。
「後悔することになるかもしれんぞ」
僕は怖かったですが、父に話をしてくれるように頼みました。
すると父は、この家に伝わる話を語ってくれたのです。
この家があるところは昔は合戦場だったというのです。
合戦場ですからたくさんの人が死にます。その中でとりわけひどい死に方をした人がいました。
その人は矢と刀と槍をすべておしりの穴で受け止めてしまったというのです。
その人はどうしてもその地を守りたかった。だから、そんな悲惨なことになったというのです。
おしりにやりが刺さりながらも、おしりが刀を飲み込みながらも、その人は言ったそうです。
「ここは、とおさんぞ」
と。
それから数百年が経ち、その人の幽霊が出るようになり、それが兄に乗り移ったそうです。
ですから、兄はおしりに衝撃が走ると、その亡霊に乗っ取られてしまうというのです。
兄が言っていた「父さん」というのは「通さん」だったのです。
この話を聞いて僕はなるほどそうだったのか、兄には悪いことをしたなあと思い父の書斎を去りました。

しかし、よく考えてみると変なところがあります。
どうして兄のおしりにあんなに僕の指が入ったのでしょう。
亡霊が乗り移ったからといってそんなことになるでしょうか。
まるでいつもなにかをおしりの穴に入れられている、そんな感じでした。
それに「父さん」は「通さん」の聞き間違いだと父はいっていたのですが、それもおかしいです。
「父さん」ではなく「お父さん」といっていたので、「お通さん」だと意味が通りません。
しかも、兄は確か「パパ」とも言っていたはずです。
父はもしかしたら僕に何か嘘をついているのかもしれません。
今日の夜は、父に誘われて多摩川の河川敷で花火をすることになっています。
絶対来るようにと言われているので、行くつもりですが不思議なことに僕と父の二人きりで花火をするんだそうです。
二人きりのほうが色々と話しやすいので、さっき僕が言ったような疑問を聞いてみたいと思います。
そろそろ、出発しないと、父との約束の時間に間に合いません。
それではいってきます。

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