恒心文庫:「なぜモリケーは盛り上がらないのか」

2019年12月24日 (火) 20:18時点における>植物製造器による版 (ページの作成:「__NOTOC__ == 本文 == <poem> 薄暗い部屋、光源はデスクトップパソコンのモニターのみと言う部屋で 森は誰一人も書き込まないモリ…」)
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本文

薄暗い部屋、光源はデスクトップパソコンのモニターのみと言う部屋で
森は誰一人も書き込まないモリケーの更新ボタンを連打していた。
会長に就任した嬉しさから、あの憎っくき白モミを打ち倒した喜びから
自分の名前を冠した掲示版をしたらばに設置して早一週間、
会計士コミュニティ最大の掲示版となるはずが、レスの9割は自分の自演レスという有り様であった。
自分を褒め称えるレスばかりだと疑われると思ったので、プチエンジェルスレまで立てたのにそれすら伸びない。
残りの1割はスパムの宣伝である。
自分の派閥とコネクションを最大限に利用し会計士仲間はもちろんのこと、官僚・政治家・大学教授にも宣伝をした。
自分ほどの人徳があればすぐに人は集まり、賞賛のレスが乱舞する。そう考えていた。
しかし、現実は違った。
一方、ヒロケーのほうはどうか。あちらは盛り上がっている。
あいつについてのルポルタージュが日々更新されている。
なぜだなぜだなぜだ。
机の引き出しをあけ、この前あいつからむしり取ったもみあげを眺める。
これか?これがあるかないかなのか?確かに、森にはもみあげはなかった。
しかし、こんなことで?いや、落ち着け、落ち着くんだ。俺は会長様だぞ。
ゆっくり深呼吸をすると立ち上がり、部屋の電気をつける。
部屋をぐるりと見回す。
洋の写真、洋の写真、洋の写真、ベッド、洋に似せたマネキン、洋の写真、洋の写真。
我ながら壮観だな、森はぽつりとつぶやいた。
ライバルのためなら研究はおしまない。敵を知り己を知れば百戦危うからずとはよく言ったものだ。
しかし、これでも洋には勝てない。
確かに肩書では勝利した、しかし、なにかが違うのだ。
モリケーを設立するとき、自分では洋に勝ったという喜びを感じたと思った。
しかしあれはいっときの気分の高揚に過ぎなかったのだ。
森の空虚な心を埋めるのは、闇である。地位がなんだ金がなんだ。
そんなものくれてやる。俺はあいつに勝ちたいんだ。
これ以上、洋の何を知ればいいというのだ。
いや待てよ、せっかく殺してこの部屋に安置しているのに、じっくり解剖したことなかったな。
肝臓のサイズも知らずになんで敵を知った気になっていたのだろう。間抜けな話だ。
マネキンの横のベッドまでいくとシーツをめくる。土気色になった洋がいた。
近くにあったハサミで開腹する。臭気が鼻をつく。思わず吐きそうになるがこらえる。
皮膚は思ったよりもはるかにかたく、血が凝固し真っ黒になった内臓の全貌が見える頃には、はさみは刃こぼれしていた。
しかし、開いたならこちらのものだ。手を突っ込む。内蔵をとりだす。
引きちぎったのだがこれにも大変力がいった。爪を立て切れ目を入れるように何度もこすりやっと引きちぎれたのであった。
口に入れてみる。噛んでみる。なるほど、これが洋の味か。
自分のとどう違うのだろう。
森は先ほどの刃こぼれしたハサミでジョキジョキと自分の腹を開いていく。
開いたところで腕を突っ込み、生温かい感触と強烈な痛みを感じながら、洋のそれに相当すると思われる内臓を引っ張り出す。
色々と管はついたままだが仕方がない。口いっぱいに頬張る。
ドクンドクンと臓器は脈動する。
へえこんな感触なんだな。
歯を思い切り立て、顎に全力を入れる。
その瞬間、森は自分の口でその臓器が弾け飛ぶのを感じた。血の味が口いっぱいに広がった。
なんだ俺の方が美味しいじゃないか。
一瞬だけそう考えることができた。
森は実に幸せだった。

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