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恒心文庫:六実

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本文

潮境 黒潮親潮の出会う豊かな海で孵化する六実は生まれてすぐ銚子港から利根川を遡る
弱い稚魚は天敵に狙われやすく、あるものは捕食されまたあるものは力尽き千葉-茨城圏を出ることすら叶わない
研究によれば産卵数150万とされる六実 150万もの兄弟姉妹たちのうち利根川上流まで辿り着けるのはたった数百なのだという
より源流に近く、きれいな水のあるところでアユやヤマメに混じって成魚になるまでを過ごす
厳しい冬を耐え忍び春の訪れる頃に今度は川を下る
日本一を誇る利根川の流域は一都六県にまたがり、それぞれに散らばっていた六実たちは産卵のためただ一つの河口を目指す
もちろんここでも自然の摂理がはたらく 1匹の母六実より生まれてからさらに次の世代へ命を繋ぐことのできる個体は5匹もいない
150万が、片手で数えられるほどまでに篩にかけられるのだ
下流へひた泳ぐ六実たち 古来より、陽光を浴び白くきらめく体が春を連れてくるとされてきた

利根川の 川瀬も知らず ただ渡り 波にあふのす 逢へる君かも (万葉集 巻14)

“波”は単なる水だけでなく六実の群れ 特に伴侶となるものと出会い産卵するために川を下る生命のうねりを指すと解釈されている
波に当たる様に逢へるとはなんとも艶っぽくはないだろうか

河口までを泳ぎ切った六実たちは傷だらけの身を癒す間もなく相手を探し番いとなる
中には誰とも番えず生きながら死んだように漂う者もいる あの命を燃やした行軍はつまるところ繁殖競争のスタートラインに並ぶまでの道のりでしかない
なんとか伴侶を見つければ生涯最後の大仕事、卵を産んで幕引きである


六実漁では生きた状態のものとこうして息絶えたものとが水揚げされるが市場(しじょう)で好まれるのは当然前者である
傷つきすぎた身は痛むのが早く、また味も魂と一緒に抜けてしまったかのように薄くなってしまうのだ
今回ご紹介するのは数の少ない六実のさらに稀少な部位を贅沢に使い熟練の職人が握る寿司である……

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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