恒心文庫:千葉°リスの審判
本文
小林が絵筆をとりトロイア戦争を画題として一幅の絵を描き上げている。
羊飼いのパリスに扮した千葉の前に三女神に扮した八雲の面々が生まれたままの豊潤な肉体を晒している。千葉は黄金のリンゴを渡され、この3人の中で最も美しいものにリンゴを渡すのだと告げられたのだ、星野はヘラに扮し自分を選べば広大な領地と絶大な権力を、アテナに扮する菊地は輝かしい戦功を、アフロディテに扮する山岡は千葉の望む人間の愛を与える、という見返りをちらつかせつつ
自分にリンゴを渡すような仕向けている。
中年男の裸体美をを三つの方向から鑑賞できるように女神に扮する3人を背後、斜め、前とポーズを変えて配置し、男の毛深い身体、だらしなく突き出た腹、胸毛と屹立した乳首などの各々の特徴を描きわけるのだ、加齢臭すら絵から漂ってきそうな筆致の妙がこの絵柄は感じ取ることができる。
誰にこのリンゴを渡すのかは決まっている、もちろん山岡に渡すのだ、思い人とのこれからの快楽に興奮している千葉は足を突き立て、陰茎も勃起させ山岡にリンゴを渡そうとしている。
山岡にリンゴを渡した時点で千葉の扮するパリスの運命は決まったのだ、絵画の上空に復讐の女神アレクトに扮する阿部通子がこれから起こるトロイア戦争に狂気し、勝ち誇って叫ぶ様子が雲と一体化するようにうっすら書き込まれている。
1人の男の後先を考えない欲情が国を滅ぼすきっかけとなったという逸話であるパリスの審判。山岡の後先考えず快楽を貪る姿勢を風刺しつつ描いたこの絵を山岡はいたく気に入り八雲の応接室に飾ることにした。
これは小林の細やかな叛逆である、この絵を見るたび小林は少しだけ元気が出る、何故なら毎回描きたくもないものを書かされる小林のせめてもの抵抗の証なのだから。
タイトルについて
この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。
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- 初出 - デリュケー 初心者投稿スレッド☆1>>975(魚拓)
- パリスの審判 - 原画