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恒心文庫:酷評作品/私のデリュケー文です。みてください

提供:唐澤貴洋Wiki
< 恒心文庫:酷評作品
2020年1月11日 (土) 01:02時点における>植物製造器による版 (→‎リンク)
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本文

私、唐澤貴洋は人生の中で最大の過ちを犯してしまった。
依頼人を守る弁護士という立場にありながら、私はある男の子を見捨ててしまったのだ。だが、それだけではない。私のネットでの言動が公に広まり私は、悪徳弁護士として名を馳せた。そう、いつの日からか私はネット上で磔にされていたのだ。
手足を鎖で縛られ、逃げられないように施しを加えたネットの住人たちによって。
依頼人の家族を、弟の死を、父の威厳を、一緒に働く同僚達を、見ず知らずの人たちを全て全て私が、この手で壊してしまったのだ。
悪徳弁護士という名がこれほどまでに似合う奴はいるのだろうかと、自分でも笑みがこぼれる。
「あぁ……、疲れた」
自らの口から吐き出されたその言葉は、空を漂い、いつしか頭の中をグルグルと走り回る。
そして、いつの日だか母親が、私が友人と喧嘩をしてしまい大怪我を負わせてしまった時に自らに掛けてくれた言葉が、脳裏をよぎった。
「悪い事をした子にはね、天罰が下るのよ。ごめんなさいが通じない世界。けどね、本当に心の底から反省して、今の自分に罰を与えるの。そうすれば、きっと皆は貴洋を許してくれるわ。私はね、貴洋に暴力をふるって欲しく無い…だからこそ、目指そっか------。」
あの時は、その後に続いた母の言葉だけが何を指しているのか分からなかった。
あの日の母の話がパズルのピースのようにはまっていく。
『ああ…、そうか。』
髪を整え、憧れていたアーティストのようにツンツンヘアーにする。いつも着ている青い縞のワイシャツに、ピンクのネクタイ、そしてこの前クリーニングに出したばかりのお気に入りのスーツを着る。ネクタイが曲がっているような気もしたが、今の自分にとっては、そんな事はどうでもいい事だった。
玄関に置いてあった草履を履き、鞄も持たずに外に出る。外はセミが煩いと思うくらいに鳴いていて、思わず耳を塞いだ。何も聞こえなくなる空間に響いてきたのは自分の声。「このまま何もしないで終わりでいいのか?一番大事な人に、伝えなければいけない事があるだろう?」
そうだ、僕の大事な人たちに伝えなきゃ駄目なんだ。今じゃなきゃ駄目なんだ。それでいいんだよね?そう、僕は自分自身に静かに問いかけた。
--返事はなかった

一鳴りする。多少イラつきながら僕は、枕元に置いてあるスマホを手に取った。
「もしもし、山岡です」
「あ、もしもし山岡くん、唐澤です。」
どうやら、同じ職場で働いている上司らしい。休みの日まで電話をかけてきて一体何の用だと思わず小さく溜息が零れた。それでも、上司という事もあるのでなるべく穏やかな声で用件を尋ねる
「どうしたんですか?カラさん」
「その、いきなりで悪いんだけど事務所の方を山岡くんに預けようと思って。ほら、新人の山本くんもいるだろう?だから君の方が、所長に合ってると思うんだ。」
先程まで彼に対してイラついていた気持ちがシュッと収まる。むしろ、悲しく寂しい気持ちにさせられる。
たしかに僕は所長になる事を昔から望んでいた。前の僕だったら、飛び回って喜んでいただろう。でも今は何故か、すごくすごく悲しい気持ちになった。
「カラさん…一体何を企んでるんですか?」
「……ハハ。山岡くんには、何でもお見通しだね。僕は…僕はこれから旅に出るんだ…。長い長い、果てのない旅に」
泣きそうな上司の声に思わず、息を呑む。今までにこんな弱気な上司の声を僕は、聞いたことがあっただろうか?
「だから、山岡くんにお別れを告げようと思ってね。……今までありがとう、さよなら山岡くん」
反論する暇も与えず、泣きそうな声で彼は淡々と喋り電話を切ってしまった。
「カラ、さん……?」

「…うっ、うっ…」
涙が一つ二つとこぼれ落ちる。なぜ、彼の声を聞き、お別れを告げるだけでこんなにも涙が溢れるのだろうか。そんな疑問を抱えながら、涙を拭い拭い、足を運んだ。


陽が欠けてきた夕暮れ時、彼は一人、アイオス五反田ビルの屋上にいた。
昔、弟と一緒に戦隊ごっこをしていた時、よく自分が「カラトラマン参上ナリ~!」と語尾にナリをつけて喋っていた事をふと、思い出す。
「僕が、あの時なりたかったヒーローには結局、なれなかったなあ…。ごめんね、皆…。」
フェンスに手をかけ、向こう側へと飛び移る。
「いざ立ってみると怖いものだね…。でも、もう行かなきゃ…」
腕を真横に伸ばし、目を瞑る。そして、大きな声で叫んだ。
「声なき声に力を。愛なき時代に愛を。さよなら世界。当職は、優しい世界に良くナリ!」

「--カラさん!!!」
僕が、屋上の扉を開けた時、確かにカラさんは下に落ちていった。あと少しが、足りなかったのである。僕はその場にズルズルと座り込み、汗と涙まみれになりながら絶叫した。


俺の上司の唐澤貴洋が死んでから、幾日経っただろうか。奴が死んで以来、山岡は一切口を開かなくなった。ただひたすらにパソコンで何か作業をしている。
「…できた…。これでまた、彼に会える…」
と思ったら、今ボソッと喋りやがった。
「何ができたんすか?」
「君には関係ないよ、ほらお昼だ。ご飯買いにコンビニまで出かけよう」
「ちょっ、先輩!?わ、わかりましたから」
二人が出て行った事務所のパソコンには、小さな小さな唐澤貴洋が息をしていた。

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