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「若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策」の版間の差分

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== 内容 ==
== 内容 ==
特集記事
座談会
若手会員が知っておくべき
弁護士業務妨害対策
【日 時】平成27年1月6日(火)午後4時~6時
【場 所】第一東京弁護士会 役員室
【出席者】
弁護士業務妨害対策委員会
委員長代行 安酸 庸祐 会員(※司会)(45期)
副委員長 森川 紀代 会員(54期)
委員 池田 和司 会員(22期)
〃 黒川 達雄 会員(29期)
〃 樋口 收 会員(43期)
〃 唐澤 貴洋 会員(63期)
〃 松原 健一(56期)
〃 大澤 一雄 会員(64期)
〃 藥師寺孝亮 会員(66期)
会報委員会
委員長 出澤 秀二 会員(35期)
委員 外井 浩志 会員(37期)
司会・安酸庸祐会員●今日は、弁護士業務妨害対策委員会の松原さん、大澤さん、藥師寺さんの企画により、「若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策」というテーマで座談会を開きます。
平成元年に約1万4,000人だった弁護士数が今や3万6,000人になり重大な事件も起きている中、特に若手会員に知っておいてもらいたい事柄を座談会の中で浮き彫りにできればと思います。
『自由と正義』の平成26年6月号にも「弁護士業務と安全対策について」ということでアンケートを踏まえた詳細な記事が載っておりますが、今回はそれも前提に、一般的・抽象的なお話ではなく、できるだけ具体的なケースに沿いながら、「こういうとき、ちょっと困っちゃうな」というものに対するヒントを示すことができればいいなと思っております。
司会は、私、委員長代行の安酸が務めます。本日ご出席の方々は、当委員会の初代委員長代行をつとめた22期の池田和司さん、当委員会の設立以来のメンバーでパーソナリティ障碍等にも造詣の深い29期の黒川達雄さん、豊富な経験を基に若手会員に熱心に指導する43期の樋口收さん、当委員会の唯一の女性メンバーで日弁連委員としても大変ご活躍の54期の森川紀代さん、インターネットによる業務妨害に大変造詣の深い63期の唐澤貴洋さん、そして今回の企画をしてくれた松原健一さん、大澤一雄さん、藥師寺孝亮さんです。
 本題に入る前に、弁護士業務妨害対策委員会が設置された経緯について若干復習しておきたいと思います。
平成元年11月に、オウム真理教による被害者の救済活動に取り組んでいた坂本堤弁護士一家が突然いなくなったということで、その救出活動が始まります。
日弁連執行部の中でも救出活動が始まっていきますが、残念なことに平成7年9月に坂本弁護士一家が遺体で発見されるという痛ましい事態となり、これを機に業務妨害対策に真剣に取り組まなければならないという気運が高まり、翌年(平成8年)6月に日弁連に弁護士業務妨害対策委員会ができまして、当会では平成9年1月に設置されております。
 最初に池田さんから、弁護士業務妨害対策委員会ができるころ、どういうことが弁護士会の中で話題になりこれを委員会として立ち上げなければいけないということになったのかについてお話しください。
弁護士業務妨害対策委員会の
立ち上げ
池田和司会員●私は昭和45年に弁護士登録をしました。
登録して間もないころ、弁護士会では弁護士の方々とお会いする場所があり今よりもたくさんの方が来ていまして、あるいは派閥に入ったことなどもあり、ある先輩弁護士から、自宅の表札に、例えば私だったら「弁護士池田和司」というように「弁護士」を付けると、窃盗の被害に遭わず、強盗なども入らず、いわんや放火などの被害に遭うこともない、と教わりまして、「あ、そういうものか」ということで私も自宅を建てたときに表札に「弁護士」の文字を付けた思い出があります。
ですから、当時は弁護士は悪い人たちの刑事事件を担当してくれる尊い人種であるということで、暴力や犯罪の被害者になることはまずなかった時代だったわけですが、今安酸さんが言ったように、昭和の終わりから平成にかけてバブルがやや陰ってきたころから世相が少し変わってきたようです。
先ほど委員会のスタートは坂本一家殺害事件からという言い方をしていましたが、それより3年ぐらい前の昭和62年6月に、浜松で三井さんという弁護士が一力一家の暴力団から刃物で刺されたというこれもかなりショックな事件が起きており、それから2年経つか経たないかのうちに坂本一家殺害事件が発生しているという事で、私はこの時期から弁護士あるいはその家族の身体・生命・財産が妨害行為の対象になるという状況が出てきた、という時代認識をしております。
 日弁連では早くも平成8年に弁護士業務妨害対策委員会ができたようですが、そのころは一弁にはまだできていなかった。
当時の山﨑源三会長が日弁連に出ていて、全国的に委員会をつくらないとまずいのではないかということで、山﨑会長の残り数カ月の時点のたしか平成9年2月ごろに急いで一弁の中に弁護士業務妨害対策委員会ができ上がりまして、初代委員長代行ということで私が就任しました。
 そういう流れの中で、我が一弁では名前は伏せますがIさんという方が暴力団からターゲットにされて警視庁からカメラを弁護士事務所に向かって設置してもらうなどいろいろ対応していたと思います。
我々委員会も、早速、被害を受けた弁護士を救済・支援する目的で事件受任の候補者名簿を作成しようということになり、1班~5班に分けて約3名編成で支援対策チームをつくることになったわけです。
さて誰になってもらおうかという人材選びがなかなか難しかった。
当時、我々委員会の委員だけではなく民暴(民事介入暴力対策委員会)の委員にも入ってもらい、急遽、5班の編成をつくりました。
 その後、そういう方々にボランティアで支援してもらうのは甚だ申し訳ないということで、支援弁護士に対する弁護士費用の問題が出てその方法について議論をしている中、何と、平成9年10月に、我が一弁の元会長の夫人が山一証券の株の取引に関連して殺害されたという事件が発生した。
これはまさに我々の先輩弁護士がそういう被害に遭ったわけで、ではどうしようかということで、その問題に取り組む専従班をつくり、きょうの司会の安酸さん、南部さん、岡本さんの3人が専従班として当該事件を担当していくことになったと記憶しております。
 ということで当委員会は大忙しのスタートを切り、民暴委員会との連携の問題や、警視庁との連絡をどうしていくかという中で、ある種のコネクションを生かしながら、一弁特有の活動をしてきた、という歴史的事実があったと思います。
司会●ありがとうございます。
元会長夫人が被害に遭われた事件もまさにそうだったと思いますが、警察はこの加害者の異常な行動について察知をしていましたが元会長にはその情報は伝わっておらず、ましてや奥様には全く伝わっていなかったことがこの事件についていろいろ調査をしていく中でだんだんわかってきました。
もう1つ、坂本弁護士事件について言えば、もともと坂本さんの事務所は刑事事件をかなり活発に行っており、警察とはある種、緊張関係があったこともあり、警察に保護を求めにくかったのではないかという疑念もありました。
弁護士は理念的に警察や検察と対立する部分はありますが、やはりこういう強行犯の対策には警察とどうしても協力関係がなければならない、情報交換ができなければならない。
そういう中で、一弁と警視庁の組織犯罪対策第三課との意見交換会が委員会を立ち上げてすぐにできたのは大変よかったと思っております。
 このような歴史の中で、今、若手弁護士が大変急増しているわけですが、弁護士の数だけ仕事があるわけではありませんから、若手弁護士が仕事を取りに行く中でトラブルに巻き込まれやすい環境がつくられているのではないか。
また、従来であればイソ弁のような格好でボス弁に付いて仕事を徐々に覚えられた、経験のある先生に付いて徐々に学んでいけたことが今やそうではなくなっているのではないか。
そういう意味で、業務妨害について若手会員にぜひこの点は注意してほしい、ということで今回の企画になったわけです。一般に弁護士が依頼者や相手方に接するときの心構えについて、以前と今とで弁護士のあり方、対応の仕方が少し変わってきているのではないかと考えますが、樋口さんはどう思われますか。
一般に弁護士が依頼者や
相手方に接するときの心構え
樋口 收会員●弁護士の数が大きく増加するに至り、日弁連が「市民に開かれた弁護士」を念頭に、その敷居はどんどん低くなり、我々の存在も一般市民に大変近くなってきました。
あるいはその一方で、先ほど池田さんが言ったような、弁護士に対する尊敬の念、といいますか、弁護士がリスペクトされることが段々と少なくなってきたことはあるかもしれません。
敷居を低くした、その方針が間違っていたというつもりはありませんが、状況としては市民が弁護士にアクセスする機会が増えて、その態様も多種多様になってきたことは、確かに大きな要因だと思います。
それから、暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)その他のいわゆる反社会的勢力対策の立法がこの間色々進んでいますが、私が弁護士登録をしたころは、業務上、反社会的勢力と対峙する中でそれなりにいろいろ危険な目に遭っている。
まぁ危険な目といっても程度問題ですが、例えば倒産事案などで債務整理に携わっていると変な輩が入ってきて脅かされることも昔はあったわけです。
そういう人たちは、皆さんもご存じのとおり元々それを言わば「商売」としてすべて計算で動いているわけです。
脅かすことを1つの商売としている。
でも、最近はそういう人ではなくて、同じく確信犯でも、ただ相手が苦しむのを見たいとか、相手を窮地に陥れたいといったことを意図し、かつ精神的にまともではない人が多くなってきて、自分自身どこまで続けるのか、限度がわかっていないという事案が非常に増えている。
これは私自身も非常に思うところです。
司会●現在我々が相手にするのは、暴力団から少し様相が変わって人格(パーソナリティー)障碍というようなちょっと厄介な人物で、彼らが事件の相手方あるいは依頼者として登場してくるようになった、そういうのが目立つようになった気がしますが、この点については、やはり黒川さんにお聞きしなければいけないのではないかと思います。
黒川達雄会員●業務妨害の対応について、現在、以前と相当様変わりをしていると思います。まず、情報化、インターネット等により、法律に関する知識や情報が国民の間に広く流布し、国民がセミプロ化し、以前は依頼者も法律の専門家である弁護士の言うことに従っていましたが、今はもう弁護士と対等となり、異議を申し立て、むしろ依頼者が雇用主で、命令服従の雇用関係に近くなっているのではないか。
又、人格障碍を疑わせる相手方、依頼者も多くなってきています。
現代では、国民の一人一人が自分の考えが最良のものとし、他者の考えを無視、排除して、自分の考えを無理矢理押し通そうとする。
現代人は、内的には自己不全、対社会的には不安、不満、不信があり、且つ重大なストレスを抱えている人が多く、法的問題になれば、相手を徹底的に抹殺するまで尖鋭的に対立します。
弁護士は、その一方当事者の代理人となるので、どうしても一方的に取り込まれてしまい、業務妨害を受ける危険性があります。
アンケート調査等にみる
業務妨害の最近の傾向
司会●今、様変わりしてきたとのお話がありましたが、日弁連で行っているアンケート調査に係わっている森川さんから、最近の傾向についてお話しください。
森川紀代会員●簡単なキーワードだけを並べると、まず、「相手方による妨害から依頼者による妨害へ」という傾向があります。
かつては相手方から妨害を受けることが多かったのが、依頼者からの妨害が相当数増えてきていると思います。
2番目に、「暴力的な妨害から非暴力的な妨害」の傾向があります。
かつては脅されたり身体・生命に対する害悪の告知といった妨害が多かったように思いますが、今はインターネット上の名誉棄損という形での妨害が増えてきている。
3番目として、「特殊な人物から一般人に」。
かつては反社会的勢力からの妨害が多かったかと思いますが、今は一般人による妨害が中心になってきている。
 以上、3つほど傾向をまとめてみました。
藥師寺孝亮会員(画像)
 妨害手段として気になるのは、今も触れたインターネットによる妨害が非常に増えてきたということです。
精神的に未熟な依頼者が増え、弁護士とのやりとりで、カッとしたことについて昔は自分の中で抱えているしかなかったことを、今はインターネットに書き込む。
それについて同調する者が現れてますます図に乗るということで、インターネットで妨害をして、更に周りがはやし立ててそれがどんどん大きくなる、というケースが相当数出てきているという気がします。
司会●ありがとうございます。
的確なまとめ方ですね。
 インターネットの話もちょっと出ましたので、インターネットによる業務妨害について、唐澤さんから一言お願いします。
唐澤貴洋会員●インターネット上で私自身が実際に業務妨害を受けた経験があり、かつ、今現在も受け続けておりますが、情報端末がスマートフォンなどで一般的に非常に普及している現代、身近にインターネットにアクセスできる環境の中で、旧来のリアルな、例えば不動産や相続、企業法務といった法分野から、新たにインターネット上での法律問題が発生しているという社会状況があります。
そういった社会状況に置いて、弁護士が自分の名前を出して、インターネット上での依頼者の権利侵害に対して「それはおかしい。ちゃんと正したほうがいい」と言う場面がありますが、それを行う際に、インターネットをする人は様々な属性の人なので通常であれば会わないような人格的にちょっとおかしい人に出くわしたりすると、「この弁護士は自分たちの表現の自由を害している」ということで、インターネット上にその弁護士について事実無根の記事を多数投稿する。
これは実際私自身が経験したんですが、こういった現象は私だけではなく、他の弁護士会の先生から相談を受けることもあり、広く弁護士全般の問題になりつつあると考えております。
司会●ありがとうございます。
インターネットの場合には誰がやっているのかがわからない。
事件とは直接関係のない人だったりすることもあり、後ほど妨害者の類型による区別で考えてみたいと思いますが、事件の相手方というより、もともと典型的な業務妨害事例、民事の事例みたいなものから、依頼者とうまくいかなくなってという話が目立ち、今度は顔も見たこともない、名前もわからない、どこから飛んできているのかわからないという妨害が増え、対応すべき問題の範囲がどんどん広がってきていると強く感じるところです。
今の唐澤さんの話のように、インターネット上で誹謗中傷を受けている人の被害の救済活動をしている弁護士がターゲットにされると、誰もそういう問題については声を上げたくなくなる。
まさに弁護士の果たすべき役割が抑えつけられることによって、結果として、今の司法制度、民主主義に対しても重大な挑戦になってきていると考えます。
依頼者からの業務妨害について
 次に、視点を変えて、妨害者の類型による妨害対策についてお聞きしたいと思います。
最初に依頼者からの妨害ということで幾つかの点がありますが、業務妨害を考える場合、依頼者との打ち合わせの仕方、接し方、受任の仕方について、一般的にどういうことをまず念頭に置く必要があるのか。
これについて池田さん、お話しいただけますか。
池田●依頼者からの妨害というのは、初めからあることは余りない。
つまり、受任をした段階では「いい」と思って受任をするわけです。
事件の処理の過程、途中において依頼者との信頼関係が損なわれるようなことが起きてそこから始まってくるので、場合によっては相当時間が経ってから発生すると、無防備の状態でズーッときているからかなりのダメージを受ける、という特徴があると思います。
私も45年の弁護士歴の中で一度だけそういうケースがありました。
事件そのものを1年、2年処理した中で、些細なことから「先生は相手の弁護士と意志疎通を図りながら自分(依頼者)の利益を損ねるような訴訟進行をしているんじゃないか」と言われたのから始まって、かなり恨みを買ったわけです。
ほとんど誤解なんですがそういう特徴があるので、その経験から言うと、やはり依頼者であってもいつ妨害の加害者に変身するかもしれないということは常に念頭に置く、肝に銘じておかなければいけない。
そのために丸腰で対応しないで、信頼関係と裏腹の部分もありますが、やはり自分の身を守るという意味においてはいろいろな証拠を残しておく。
「最初にあのとき、ああ言ったじゃないの」というようなメモを残しておくことも、先々、自分を守るための方法として必要ではないか、ということを若い弁護士の方々にはぜひ伝えたいと思います。
司会●こういう事件になる多くは、弁護士がちょっとしたミスを犯して負い目があり、依頼者からのクレームを受ける、電話にもだんだん出たくなくなる、ますます依頼者に不満が募っていく、というように発展していくケースです。
例えば、「電話をいついつください」と言われていたのに電話ができなかった、あるいは「この書面は事務所名では送らないでくれ」と言われていたのに事務所名で出しちゃった、と。
こういう本当に些細な事から業務妨害が始まるというのは、私どもが相談を受けているケースでもあります。ですから、具体的に例えば、事件の進行に合わせて報告をする、事件の見通しについての話をどのようにやっていくのか、報酬についてどこまで事前に話ができているのか、それをちゃんと契約書にしておく、といった、「やらなければならない」と職務規程に書いてある事柄をきちんとやっていくことが、業務妨害に対して自分を守ることになる1つだと思います。
このミスが生じたときの対応策についてはどのようにしたらいいでしょうか、黒川さん。
黒川●業務妨害のトラブルの発端は、お金の問題と弁護士の事件のやり方についての不満です。
後者については、法的にできることとできないこととを峻別し、で
黒川達雄会員(写真)
きないことはできないと言い、勝訴するか否かの予測も裁判が終わってみないとわからないので、断定的な言い回しは避けるべきです。依頼者との信頼関係の維持は、実は事件を一緒に考えてやっていくというスタンスが大事だと思います。
司会●先ほどミスの話をしましたが、従来だと多分弁護士は、多少間違っても弁護士も依頼者も気付くことなく終わってしまうことが多かったのではないかと思うんです。
ところが今はインターネットでいろいろな情報が入ってくる。
ちょっと歩けばすぐそこに弁護士がいるという状況になっているから、ミスが明らかになりやすくなっているところがある。
気を付けていても間違えることはあると思いますが、依頼者が気付いた時の(怒りの)増幅のされ方を考えると、しくじってしまったことに気付いたときには「ごめんなさい」と、まず謝ることが必要ではないかと思います。
樋口●あるサイトでは弁護士の懲戒処分例を紹介してこれに対していろいろと評釈を加えている。
他には「2ちゃんねる」内の特定のスレ(※スレ=スレッド)で、弁護士に対する細かな不満、場合によっては誹謗中傷が、しばしば実名入りで書かれている。
ミスした場合にどう謝るかというのは、むしろ私どものノウハウよりは、デパートとかのクレームの対処法などのマニュアルを参考に学んだほうがいいぐらいの今の状況かなと思います。
出澤秀二会員●その点で1点。
普段から依頼者に誠実に対応していれば、謝れば済むケースは多いと思うので、普段の対応がやはり一番重要で基礎にあるのではないかと思います。
謝らないから怒るという人も多いと思います。
今まで誠実に対応してくれた弁護士だからと思って許してもらえるような弁護活動をいつもしないといけないのではないかと思います。
樋口●精神的にちょっとおかしいなと思ったときは、やはり早めに対応しないと、誠実に対応してきちんとやっているのに、思い込みでトラブルになることもある。
私の経験で、まだ登録3年くらいのころに、依頼者から学歴詐称と言われたことがありました。
「私、学歴の話はしていないと思うんですけど」と言うと、「あなたは嘘の学歴を言った」と。
「このようなことでは信頼関係が保てないので別の弁護士に交替しましょうか」と言ったら、今度は当時の事務所の上司に、私が「嘘をついたことを謝らない」と手紙を出した。
結局その事案は、事務所のサポートも得て続行しましたが、一般論で言えば、依頼人が精神的におかしいことがわかったら、コミュニケーションに留意し、最悪、どこかの時点で信頼関係が保てないことを理由に辞任することを検討すべきです。
依頼人のすべてが「樋口弁護士と闘う」というスレを立てるとは思いませんが(笑)、どういうところで情報が波及するかわからないので、やはりおかしな人だとわかったら何か手を打たなければいけない。
出澤さんが言ったことは100%全くその通りだと思いますが、それは相手がまともであることが大前提かと思います。
森川●実際にはミスではないのに、依頼者がミスだと勝手に思ってしまうという場合もあると思います。
先ほどもお話に出ましたが、最初からできないものは「できない」とはっきり言うことも妨害を防ぐための1つ手段であると思います。
それで思い出したのが、かつてストーカー的な被害を受けている女性から、「家族に絶対ばればいようにストーカーをやめさせてほしい」という話があった。
それはなぜかというと、不倫絡みだったからです。
ただ、こちらが絶対に家族に知られないように気を遣っても、交渉をすることによって相手方が家に来たり、警察に相談をすれば警察から問い合わせが行くとかいろいろなことがあるので、「それは約束できない」といって結
森川紀代会員(写真)
局以来にはならなかったんですが、そこで安請け合いして「わかりました。家族には絶対知られないようにやります」とやっていれば、恐らくトラブルになったのではないかという気がします。
仕事は取れなくなるかもしれませんが、後の危険を考えると、ちゃんと言うべきことは言ってよかったのではないかと自分としては思っています。
池田●あと一つ、私が最近つくづく思うのは、最初に人の紹介で依頼者が来て、話を聞いてみると少しおかしいなとわかったときは、初めからもう1人、弁護士を頼んで、依頼者に「費用は1人分ですけどいいですか」と聞いて、複数で一緒に共同受任をしています。
これはいろいろな意味で非常にいいですね。
もちろん助けてくれるし、証人にもなる。
若い弁護士の方にはぜひとも勧めたいと思います。
樋口●ネットワークづくりは若い方のほうがうまいですから、「今困っているんだけど」と言ってね(笑)、それはできるよね。
唐澤●はい。
樋口●あと、企業の依頼人ではあまり例はないですが、個人の依頼人の中には、何でも激しくやることが自分の味方の証だと思っている人が昔からいるわけです。
例えば、「裁判所で相手の声よりあなたの声が小さかった。相手の弁護士よりも大きな声で話してほしい」とか「相手方は非常に不届きな人間だから、その職場に直接乗り込んで話し合いをしてきてくれ」とかいうものですが、先ほどの、できないことは「できない」と言えるかということで言えば「私はそういうところで勝負していませんので」と明確に言えることが大事だと思います。
また、訴訟や交渉で「相手方は代理人弁護士3人だからこっちは4人にしてくれ」とか「先方は裁判官に対して5回発言したが先生は4回しか発言しなかった」とか、そういう方もいますが、このような場合も同様と思います。
方針の違いを理由にどこかの時点で辞任を検討するということもあるかもしれませんね。
今池田さんが言ったように1人でやっているのかどうかという点もありますが、プロセスを後で示すことは、それこそ紛議調停委員会に行っても鋼紀委員会の場合でも有力、有用だと思います。
司会●私の経験ですが、回り回って私の事務所に相談に来た案件で、長男に社長を譲った父親が長男を社長から引きづり下ろすために「株主代表訴訟を起こしてくれ」ということだったのですが、仰っていることが腑に落ちなかったので「今までどこかに相談をしたんですか」と聞いてみました。
渉外系の大事務所に行ったらしいんですが「うちは商法は苦手だからお宅の仕事は受けられない」と断られたということでした。
いや、うまい断り方があるものだなと思いました(笑)。
ちょっと危ないと思ったら、踏みとどまって早いうちにお断りすることも重要な選択、決断ですよね。
ただ、そうは言ってもなかなか粘り強く離してくれないのが、黒川さんの造詣の深いパーソナリティー障碍者ですが、これはどうしますか。
どうしても受けてくれと。
例えば携帯電話に30件も留守録されているといったストーカー的な猛烈な依頼者も時にはいますが、これにはどう対応したらいいんでしょうか。
黒川●パーソナリティー障害者から相談を受けた場合、まず第1に、どのような法律問題があるのかを考え、それ以外の問題と区別し、整理して、法的問題に限定、集中する必要があります。
権利義務がどうなっているかを考え、それが解決できないものははっきりできないと言う。
精神科医の人に聞いた話によると、まず断定をしないということだそうです。精神科医の弘末先生は、待てば海路の日和ありと言っています。
樋口●結論を急がないということですか。
黒川●そういうことです。
人格障碍者は、人と係わり合いを持ちたいと願っていると同時に被害意識、被害妄想的なところがあります。
それが逆転すると、今度は加害者になり、相手に対して非常に攻撃的になります。常に攻撃性と受動性の表裏一体です。
依頼者が頭を下げて来るとこちらは喜んでしまいますが、意外と依頼者の心の中には何とも言えない葛藤を抱えていることがあります。
又、自分のことをわかってくれないということで、依頼者から敵意を持たれてしまうこともあります。それから、弁護士の断り方により恨まれることもあるので、やんわりと断るべきでしょう。
司会●依頼者との関係について、1つ、最近の話として付け加えておきたいのは、依頼者の中には、実は弁護士の弱みを握って犬のように使おうとする悪い奴がいるということです。
そういう相談を何件か受けたことがあって、とんでもない仕事をさせられたことがあるので、依頼者とのつき合い方、距離感はとても大切だなと思います。
相手方からの業務妨害について
 次に、相手方からの妨害についてお聞きします。
ニュース等でも取り上げられる非常に深刻な妨害事案として、DV夫が相手になっているような離婚事件あるいは相続事件がありますが、このような感情の対立が強い事件はどんなことに注意すればいいのか、森川さん、お話しいただけますか。
森川●先ほど、妨害の傾向として暴力から非暴力にという話をしましたが、DV加害者からの妨害は圧倒的に暴力です。
非常に重大な事件が起こったものの妨害を受ける原因となった受任事件は、圧倒的にDV事件が多いということはアンケート結果から裏付けられています。
DVを扱う異常は危険だと考えざるを得ないので、DV事件を受けたときには、先ほど池田さんが言った複数受任が基本であるというぐらいの意識でやっていかないといけないと思います。
特に女性弁護士の場合ですが、DVをする典型的な男性というのは、女性のことを下に見ている人とか、脅せば女は言うことを聞くだろうと考えている人なので、そういう人に対応するには、女性弁護士であれば男性と一緒に複数受任で対応するということです。
突発的にカーッとなって行われることも多いので、精神
樋口收会員(写真)
的な意味での歯止めでもあり物理的な歯止めにもなるように、できるだけ裁判や調停の場にも一緒に行ってもらう。
女性弁護士がDV事件を扱うときは男性弁護士と受けるのが望ましい――必要であるとまでは言えませんが――と思います。
司会●これは法テラスからの紹介案件でも、困難な事件ということで費用を増加していただいて、その費用で複数受任というか、もう一人の弁護士の費用を捻出するという取り組みがなされているわけですよね。
森川●はい。法テラスは複数受任そのものは認めておらず、法テラスと複数の弁護士が契約することはできませんが、費用自体を少し増額してくれるので自分の復代理という形でお願いをすることは可能になっています。
ですから、法テラスに申請をする際に、これはDV事件でかなり危険度が高く複数受任の必要があるので費用を増額してほしいと申請すれば、増額が検討されます。
法テラス自体にもまだなかなか浸透していないようでいろいろと問題はありますが、そのように、むしろ皆さんが申請をしていくことで法テラスも対応が変わってくるのではないかと考えています。
司会●これについては、この前、一弁の当委員会と千葉県弁護士会の業務妨害対策を扱っているところと意見交換をしたときに、千葉県弁護士会では民暴基金を使って、暴力団相手ではないDV事件等に対しても共同受任の形でサポートで入っていく。
用心棒のように弁護士を付け、会が費用を負担するという取り組みをしているようです。
当会ではそういう仕組みはないですが、そういうものができれば、特に若手で「一緒にやってくれ」と頼めないような人の場合やDV夫を相手とする事件を受任した女性会員などにはそれは心強いかなと。
これも新しい課題だと思います。
インターネットを通じた業務妨害
 次に、妨害が行われる場所、妨害行為の類型について話を進めてみたいと思います。
まず最近の新しい話として、インターネットによる弁護士業務妨害はどういう形でなされていくのかについて議論をしたいと思います。
これについては唐澤さんからご紹介いただけますか。
唐澤●インターネット上での業務妨害のあり方として、まず一番単純な基本的な妨害のやり方としては、弁護士名とその弁護士がいかに悪い奴かを書く。
内容としては、例えばこの弁護士は無能であるとか、犯罪者であるとか、性犯罪者であるとか、依頼者を殴ったとか、そういった事実無根のことを書いた文章を作ってインターネット上の掲示板に投稿する。
ないしは弁護士口コミサイトといったところに投稿する、というのが一番ポピュラーな妨害の仕方です。
今はそこからちょっと進化したものもあります。
我々はインターネットにどうやって日常的に接しているかというと、検索エンジン(グーグル、ヤフー等)を通じて情報を調べて弁護士を探したりその弁護士の評判を調べたりしますが、そこに着眼した妨害のあり方です。
これは弁護士名とある特定のキーワードを検索エンジン上で表示しやすくするものです。
例えば私の名前を検索エンジン上の入力フォームに入れた際に、検索エンジンのサービスとして、このキーワードはこの弁護士の名前と関連しているのではないかということで、ある特定のキーワードを表示してくれる。
これは検索をしやすくするため検索エンジン上のサービスです。
そこでかつてよく出てきたのは、「無能」とか「詐欺」とか、弁護士としてそれが関連していると思われると、かなり致命的なキーワードをそこに表示する。
こういう業務妨害のやり方が、先ほどのポピュラーなものから一歩進化した形です。
一般の人から見るとその文章自体は意味不明ですが、特定のキーワードをその弁護士名と近接した形で掲示板上に多数投稿するための掲示板がインターネット上につくられており、その弁護士名をちょっとでも入力すると、この弁護士は変な弁護士だと一般の人に思わせることができる。
これは私が実際に経験した例ですが、他の弁護士でもそういった被害に遭っている方はいます。
 あと、インターネットの攻撃のあり方として、プライバシーを侵害するというものもあります。
インターネット上で「炎上」という言葉があります。
炎上とは、特定人に対して不特定多数の者から、反復継続的に誹謗中傷がなされる状況と私は定義づけていますが、そのような状況下では、話題を求めて、炎上対象者に関する情報を収集するということが行われることがあります。
インターネット上に散逸している情報以外にも、例えば電話をかけたり、関連しているところに行ったりして情報を収集して、それを基に臆測でいろいろなことを書いて、またその人のプライバシーを侵害する。
私に起こった現象ですが、紳士名鑑に載っている親族の情報も集めて一族関係図みたいなものを勝手につくられました、誤った情報も多く含まれていましたが、そうやってプライバシーをどんどん侵害してくる。
ほかにも、これはインターネットではないですが無言電話がかかってくるとか、よくわからない届け物が送られてくるとか、そういったことが私の場合は行われました。
司会●唐澤さんの妨害者は特定することはできないんですか。
唐澤●基本的にできますが、ただ、インターネットというのは非常に不特定多数の人が関与していて、不特定多数の人に関心を持たれると、攻撃する人も何百人、何十人と数が多くて、その記事一つ一つについて特定する作業をし出すと自分の弁護士業務が滞ってくる。
私も1回やろうと試みましたが、事務所運営がかなり厳しくなると思い、半ば諦めています。
ただ、特定できるといっても今またそこで更に進化しております。
去年遠隔操作事件を起こした片山祐輔容疑者などが使った手法で、海外で匿名性を担保するTor(トーア)サーバーを介して書けば犯人を特定するのは現在困難だと言われておりまして、警察もこれにはかなり手こずっていると聞いています。
犯人を追おうとすると、捕まえられるケースもありますが、技術がどんどん進化していることもあって、かなりイタチごっこの面もある。
出澤●きっかけは何だったんですか。
唐澤●きっかけは、インターネット上の掲示板「2ちゃんねる」というウェブサイトがありまして、このサイトで誹謗中傷された高校生の事件を受任して、インターネット上に投稿された記事を削除ないし発信者を特定するためにIPアドレスと投稿日時を教えてくれ、という請求をかけた。
この請求のやり方は、当時、「2ちゃんねる」上では、「誰でも見られる掲示板上で請求をしてくれ。そうじゃないと一切応じません」ということで、そうしないと削除もしてくれないので、インターネット系の問題をやっている弁護士は皆それに応じる形で請求をかけていた。
私もそのようにしたわけですが、依頼者について攻撃している人たちからすれば、私が弁護するなんてとんでもない弁護士なんだと判断され、私を攻撃の対象にする事態になりました。弊害についてお話ししますと例えば依頼しようとする人が検索してこれを見ると、実際に依頼が来なかったりする。
インターネット上の問題は法律分野としては余り手を付けられていなかったので、事務所を始めるにあたって事件の受任件数も順調に伸びていたんですが、やはりこういった誹謗中傷をされてから著しく売上げが落ちたところがあって、現在は普通になってきていますが、影響としては非常に大きかったです。
司会●唐澤さんのケースのほかにも、例えばインターネット上で「弁護士××」と入れて検索エンジンをかけたらすぐに「詐欺」「悪徳」と出てきて、調べるとそこに中傷した記事が呼び出される。
そうすると、「あの先生を紹介するから行ってみたら」と言うと最近は最初にインターネットで住所や地図を探すので、そこでそんな記事が出てきたら、まず行かない、という選択をとるのではないかと思います。
そういう被害を受けている会員は当会だけではなく東京三会にもたくさんいまして、これにどう対応することができるのか、当委員会でも現在検討しているところです。
唐澤●1点、先ほど犯人を特定することはなかなか大変だという話をしましたが、実際、私もこれだけの事態に
安酸庸祐会員(写真)
なったので警察にも協力していただいて、何人か書類送検して1人の逮捕が去年実現したんです。
ただ、そこで出てきた人たちの属性は、まず女性はいないんですね。
男性で10代後半~20代前半の学生ないし無職の人が非常に多く、基本的に余りリスクを背負っていないで生きている人たちです。、
このような方々に対して、どこまで弁護士として注力できるか。
仮に犯人がわかったとしても、現行の日本の法制度で取れる損害賠償金の額は少額です。
出澤●自分がそういう攻撃のターゲットになっても精神的にまいらないタフさというのはどうやって維持されるのですか。
唐澤●やはりうつ状態になりました、夜寝られないとか。
池田●それはなりますね、通常なら。
唐澤●私は今、自分で事務所をやっております。
仕事がこのままできなくなったらどうするんだろう、事務職員も雇っているので路頭に迷う、といったことを考えるとストレスが相当かかってくる。
でも、同期とか知り合いの弁護士で応援してくれる人がいて彼らと話したり、安酸さんにも非常に助けていただいて、その中で辛うじて徐々に持ち直してきたところです。
ですから、そういう心理的なところを相談できる場があればいいなと、それは病院なのかもしれませんが。
業務妨害対策委員会という形だとなかなか相談しにくいので、例えば弁護士会の中に簡単に相談できるところがあれば非常にいいのではない
出澤秀二会員
かと、そのときは思っていました。
外井浩志会員●弁護士会は、たしかメンタル相談を始めましたよね。
樋口●大企業などは企業防衛でサイバーテロとかサイバー攻撃に対するものをいろいろやっていますが、弁護士会も本当はインターネットの専門部会がもう少し進化してそういう方向に行くことが期待されますね。
森川●インターネットの怖いところは、最初はすごく悪意に満ちたコメントの中に誹謗中傷が書いてあるので、嘘っぽいとわかるんですが、それを違う人が「こう書かれていたよ」と何回か伝言のように書いていくうちに、いつかそれが事実であるかのようになっていく。
「この人はこうである。こういうことがあった」ということで、最後のものを見た人はそれを信じてしまう、という怖さがあるように思います。
樋口●確かに進化しています。
以前、私の事務所にいた女性アソシエイトが当委員会で申立てをして救済していただいたことがありましたが、彼女は国選事件で本当に真面目に案件をやって、実刑の可能性があったものを執行猶予に落とした。
そこで被告人とメールでやりとりをしたのですが、「先生のお陰で最良の結果が得られました、本当にありがとうございます」という被告人のメールに対して「いや、私は当然のことをしただけです」との趣旨の返信をしたら、「これだけ優秀だったら人を殺しても大丈夫ですよね」という内容が返って来たので、彼女は怖くなってメールを返さなくなった。
そうしたら被告人から誹謗中傷、脅迫といった業務妨害行為が始まって、最終的にはメールが1日300回、「殺す」とか来るし、ファックスも事務所にいっぱい来る。
1回、事務所の他の弁護士数人で被告人に電話をしたら両親の実家にいたので、私どもが両親に「警察に突き出せ」とかいろいろ言ったのですが、両親もその被告人に脅かされて何もできない、と。
「今から武器を持って行くから」とか殺害予告ばかり来る。
事務所の所轄の警察署に電話をしても、正直最初は埒が明かなかった。
そこで、業務妨害対策委員会を通じて警察サイドにアクセスし、漸くうまくいきました。
ちなみに、2ちゃんねるについては、今は削除要請や裁判所を通じた仮処分など、書き込みを止めさせる方法もあり得るところですが唐澤さんのケースは進化していて誰がやっているかわからないので、法的手続がとれない。
唐澤●彼らも私が開示請求とか犯人追求の方法論をある程度知っていることをわかっているので、逆に、追えないところの外国のサーバー上の中で誹謗中傷を目的とする掲示板をつくって誹謗中傷するとか、そういうちょっと手の込んだやり方をしている。
樋口●皆さんおわかりのとおり、真っ当に一生懸命仕事をして忙しい人はこのような行為をするわけはないので、妨害者の多くは基本的にヒマなんです。
ヒマで、とにかく人のことをいじめたり誹謗中傷することだけを生きがいにしている人たちがいる、ということなんですね、残念ながら。
司会●インターネットについては大変難しい問題があって、対処方法についてもこれから更に研究しなければいけないし法整備も求めていかなければいかないところがあると思います。
電話による業務妨害
 そのほかの妨害行為の態様として電話による妨害行為があります。
繰り返しとか長時間とかいう電話の対処方法について何かアイデアをお持ちの方はいますか。
 日弁連が出している『弁護士業務妨害対策マニュアル』という冊子がありまして(四訂増補版、現在改訂中)、この中には、NTTのサービスやいろいろな電話機の機能で対応する方策も書いてあります。
私は、録音機能の電話を使うのがよいのではないか、「今録音している」と言うだけでも相当効果があるのではないか、と思います。
最近の録音機能付きの電話は、ボタンを押してから録音が始まるのではなくて受信したときからメモリーに録っているので、ボタンを押せば通話が始まったときから録音できる、残せる。
昔みたいに、あたふたして録音機を持ってくることをしなくてもよい。
これがあるだけでも精神的には相当ラクだと思います。
何か変な話になりかけたらボタンを押す、依頼者でも相手方でも。
これはお薦めしたいと思います。
池田●それは携帯電話は考えていないんでしょう。
固定電話のことですね。
司会●そうです。
樋口●携帯電話の番号は、変な人に教えないというのが一番ですね。あと、履歴を消す。相手にもこちらの番号は非開示で電話をする。
出澤●電話録音をする機会はそんなに多くはないですよね。
安心感のほうですかね。
司会●脅されるわけでもないんですが、グダグダと30分も40分も電話を切らせない場合があるので、そのようなときには、「いや、そんなことを言っちゃっていいのか。ちゃんと録っているんだぞ」と言えると、こちらに心のゆとりができる。
警察も、そういう脅しの電話はやはり録音してあることが捜査を進めていく上での証拠として絶対必要なので、「それは必ずやってください」と言われます。
森川●一般企業のクレーム対策の話ですが、お客様相談室に毎日何時間も電話をしてくる人について、「何回以上・何分以上になったら仮処分を行う」というルールが決まっているらしく、何分を超えたらむしろ「やった~、これで仮処分ができる」と思うんだ、という話もありました。
ですから、とりあえず録音をしておけば、いざとなれば、これ以上長くなれば証拠に使えるぞと考えられれば心の余裕にもつながるし、実際に何かしたいときには有用だと思います。
沖田和司会員(写真)
事務所訪問型面談強要
 では、今度は事務所に妨害者がやってくるケースについて考えてみたいと思います。
基本的に、事件の相手方、特に妨害行為を起こしそうな人物を事務所に招き入れることはすべきではないだろうと。
弁護士会とか、どこかもう少しオープンなスペース、ホテルのロビーとかいうところで会うのが望ましいんだろうと思いますが、ただ、押しかけてこられたときに備えてどういう対応策を考えればいいか。
これについて、まず事前準備としてどんなことをすればよろしいでしょうか。
池田●平成9年3月の弁護士業務妨害対策委員会の議事録で、前述のI会員の問題を議論している中で当時の東谷副会長が、I弁護士の事務所の前に警視庁のカメラを設置して防犯監視に当たってもらうための手続きをする、と述べているので、当時から、妨害者が来ることがある程度予想できれば警視庁とそういう連携をとり合ってカメラの設置も可能なようです。
ですから、今もこれは多分できると思うので、喫茶店やホテルで会うのはかえってまずい、というのが当時のIさんに対してのアドバイスだったようにも思います。
これは意見の分かれるところかもしれませんが、どうですか。
そういう危なっかしい相手と会うときに、自分の事務所から出てほかの場所で会うほうがいいのか、それともやはり事務所で会ったほうがいいのか、という問題がありますが。
森川●精神科の方の講演録か何かで読んだように思い
大澤一雄会員(写真)
ますが、妨害行為は、妨害者が誰も見ていないという心理になったときに主に行われるということなので、人の目があるところのほうが妨害行為に発展しない可能性が高いように思います。
喫茶店よりは事務所等のほうが突発的な妨害行為が発生する可能性は高いと思います。
司会●日弁連のアンケートでも、やはり業務妨害が行われる場所は事務所が非常に多い。
事務所にいきなり入ってこられたとき、小さな事務所の場合は入り口が1つでなかなか逃げられない構造になっているんだろうと思いますが、最近の事務所の多くは、常時施錠していて、テレビのモニターが付いているインターフォンで、解錠しなければ入れない。
特に新しい事務所などはそうしているのではないか。
あとは監視カメラ等を置いたり、できるだけそういうことはしたほうがいいと思います。
これは先ほどの『マニュアル』にも書いてあるところです。
また、襲われたときに逃げ場があるように、入り口は1つではなくて2つある事務所がいいとか、部屋でも1つの入り口だと逃げにくいとか、会うときも大きなテーブルを挟んでいれば(妨害者が)上がってきても逃げやすい。
それをテーブルなしでソファーに座りながら話していたら、やられたときはすぐですから、そういう構造上のことも意識しなければいけないんだろうと思います。
それに加えて、例えば金属バットや催涙ガスのようなものを置いておくということはどうでしょうか。
森川●ただ、武器に関しては奪われることも考えなければいけない。
金属バットは、相手に持たれると危険ではないでしょうか。
司会●刺股(さすまた)というんですか、あれはやはり何人かでやらないと実際は機能しないらしいです(笑)。
あとは防犯ブザーが有効ではないかという話があります。
大きな音がすれば向こうはひるむ、周りからも見られる。
池田●痴漢防止のものですね。
樋口●実際はつながっていないものでしょう、音だけがでるものですね。
司会●あとは、弁護士が不在の時に訪ねてきて事務員が招き入れるかどうか、というところもあるんだろうと思いますが、このあたりも、実際に被害に遭っているのは弁護士だけではなくて事務員のケースも少なからずあるので、やはりそこの意識をちゃんと統一させておく必要があると思います。
森川●今の点に関連して。
業務妨害対策ニュースなどに出ているのでご覧になったことがあるかもしれませんが、札幌でアンケートをとったところ、問題として出てきたのが、事務員が怖い目に遭っているのに弁護士が真面目に対応しない。
あるいはひどいものは、事務員が「こんな人が来ている」と言ったら「何とかしておいて」と言って、事務所に帰ってくる予定だったのに帰ってこないというように、弁護士が事務局に危険を押しつけていることが実際にあるそうです。
これは1つ、2つではなくて複数の報告として。
事務員に対するものも弁護士業務妨害であることと、事務員は弁護士が守らなければいけないということ、やはりそこを間違えないでほしいと思います。
樋口●(事務員の)多くは女性ですからね。ある事務所では、大学の体育会の学生にアルバイトをさせているところがありましたね。
司会●そういう危険をどれだけ予知して準備できるかにもよりますが、突発的に来たときにはなかなか難しい。
ある程度予想できる場合は、ちょっと変なところに話が流れたら事務員が警察に電話をする、という打合わせが最初からできていると多分いいんだろうと思います。
最悪は自分が1人でいたときですが、そういう事件は結構多い。
夜の遅い時間とか、1人で事務所にいたときとか。
樋口●110番通報をしたときはどうなんですか。
(妨害者が)なかなか帰ってくれないとか、中で騒いでいるとかいった場合、警察は一応来ますよね。
ただ、相手が民事不介入だと言ったら、帰っちゃうんでしょう、多分。
司会●妨害に遭いそうだという人と一緒に例えば警視庁の組対三課(組織犯罪対策第三課)に相談に行ったりすると、あらかじめ所轄に連絡を入れてくれるので、電話があったらすぐに駆け付ける。
一番速いのは、パトカーに無線が入るから近くを走っているパトカーが急行するという対応も場合によっては可能だというお話ですが、でも、そう言った後に「基本的にこれは暴力団の場合だ」と言われたことがありました(笑)。
基本はそうかもわかりませんが、でも所轄にちゃんと連絡が入っていれば、こういう人からやられる可能性があることがわかっていれば、そういうことはできるのではないか。
そのときには、業務妨害対策委員会と警視庁とのパイプは大変有効に働くのではないかと思います。
出澤●私の数少ない経験ですが、所轄の警察にあらかじめ「こういう人が今日事務所に来る予定がある」と相談に行ったことがあります。
これは破産事件の相手方(債権者)でしたが、事務所で話をせざるを得なくて、相手もすごくカッカしていたので、隣の部屋で警備会社の人に待機してもらっていた。
そういうことがありました。
結果的には何もありませんでしたが。
司会●私は昔、車のリース会社の事件をたくさんやっていたことがあって、やくざが不法占有しているリース車両を仮処分で引き揚げてくるという場合など、相手の属性がちょっとヤバいなというときには警察にもお願いして臨場してもらっていました。
そういう意味では警察とのパイプは非常に大切だと思います。
黒川●弁護士は、依頼者から激烈な紛争のドロドロになった火の玉の事件の依頼を受けることがあり、相手方から憎しみの対象にされることがあります。
相手方の依頼者への恨みを弁護士が引き継ぐことになるので、その紛争の本質は何であるのか、その背景事情、依頼者の対応等を詳しく説明を受けないと相手方からの憎しみを直に受け、業務妨害を受け、生命身体を危険にさらすことにもなります。
相手方の依頼者への憎しみが弁護士へシフトしてくるので、そのような相手方に対しては、自分
外井浩志会員(写真)
一人だけを特定化しないで、多数の弁護士と共同してやる必要があります。
業務妨害対策委員の弁護士が多数で対応することも憎しみを散らす一つの方法でしょう。
池田●ターゲットの分散化ですね。
黒川●例えば、先程のインターネットの件は愉快犯です。
人の苦しむのを想像することを無上の喜びとします。
個人的にその弁護士が本当に憎くてやることもあるかもしれないが、愉快犯というのは、ただ自分の世界の中、万能感。妄想の中で喜んでいる面があります。
だから、それと歩調を合わせてしまうと危険です。
自分もそこに入ってしまうからです。
そこで、次元を異にし、シフトというか視点をずらす。
そうしないと本当にその人の思うつぼになってしまう。
彼らの楽しみを余計に倍加し、異常な妄想を増長することにもなりかねません。
我々がむきにならず、あまり関心を持たなくなってしまうと面白くなくなるのではなかろうか。
外井●おっしゃるところはよくわかります。
やはり相手を挑発しないということは非常に重要だと思います。
それから、言っている人と同列になって議論をしない、と。
私の知っている弁護士は、依頼者が無理難題を言ってくるのに対して本気で喧嘩をしてしまうので、あれは非常にまずいなと思います。
やはり挑発はしない。
そして幾ら説得しても無理だと思ったら黙ってジッとして聞く、というぐらいの覚悟が必要ではないか。
そうしないと、相手を挑発すればどんどんエスカレートしていくし、また、
松原健一会員(写真)
同列になって議論をすること自体に弁護士としての資質の問題があるという感じがします。
終わりに
司会●大体時間になりましたので、最後に言い残すことがあればお願いします(笑)。
樋口●先ほどの話をまとめると、若い方は、断り方も演技とか引出しとかいうことで結構人生経験が必要なのでそこはハンディがあると思いますが。
松原健一会員●是非教えていただきたいのですが、話の途中で負担を感じるようになって、「これは危ないな。ここで話を切っておかなければ」と脳裏をよぎることもあろうかと思いますが、どこまで話を聞いて、どのタイミングで、どのようにして切るのか、アドバイスをいただけますか。
森川●人格障碍者に対する対応として、よく故藤本昭さんが言っていたのは、「聞いてはあげるけれども優しくはしない」と。
先ほど来名前が出ている精神科医の弘末先生は、たしか「木で鼻をくくったような誠実さ」とおっしゃった。
誠実に対応しているけれども、完全に線を引いて、ここから立ち入らせない、向こうに立ち入らない、というようなことだと思います。
松原●余り早く閉ざしてしまうと、恨みを買ったり、カーッとさせてしまうかもしれませんし、そこら辺が難しいように思います。
外井●ある程度は聞いてあげるということじゃないでしょうか。
私も我慢して1時間ぐらいは聞きます。
それ以上になるとさすがに辛くなるので、そのときは事務員からノックしてもらってちょっと席を外すという工夫はしています。
やはり2時間も3時間もズーッとつかまってしまうと大変なことになるので、工夫は要るんじゃないでしょうか。
藥師寺●若手会員が、実際に業務妨害を受ける事態に陥った場合、どのようなサポートを受けることができるのでしょうか。
司会●当委員会では業務妨害を受けている委員に対する支援活動を行っています。
支援要請については、委員会宛にご連絡ください(事務局会員課:03-3595-8580)。
きょうはいろいろ有意義なお話が聞けたと思います。
長時間どうもありがとうございました。
(了)


== 脚注 ==
== 脚注 ==

2015年3月14日 (土) 05:29時点における版

若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策とは(わかてかいいんがしっておくべきべんごしぎょうむぼうがいじけん)とは、2015年1月6日に東京第一弁護士会で開催された座談会である。第一東京弁護士会の広報誌「ICHIBEN Bulletin」2015年3月号に掲載された。

概要

3月3日にある弁護士が「唐沢貴洋弁護士がインターネットを通じた業務妨害について報告している」とリークしたことが初出。[1] 弁護士向けの会報誌であるため尊師のご尊顔が開示されるのではないかと注目された。[2]

3月7日に記事の一部が投下された。

【朗報】尊師の顔面が遂に公開される★3
316 :風吹けば名無し@転載禁止[]:2015/03/07(土) 23:33:12.75 ID:ChUIgjjf0
http://imgur.com/lkNCCkL.png 

おまえらのせいで尊師うつ状態になったやんけ 
【朗報】尊師の顔面が遂に公開される★3
362 :風吹けば名無し@転載禁止[]:2015/03/07(土) 23:42:03.08 ID:ChUIgjjf0
http://imgur.com/8dCtjWU.jpg 

やっぱりおまえら無職ばっかりなんやな 

そして3月13日には記事の全文が投下される。

【早川紀代秀】雑談★49 【ティローパ正悟師】
273 :グナマーナ正大師:2015/03/13(金) 19:48:32 ID:dJADyOKU
第一東京弁護士会会報 平成27年3月号(通巻504号)
特集記事 若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策

https://infotomb.com/yj6ez.jpg
https://infotomb.com/1xjsu.jpg
https://infotomb.com/838pr.jpg
(以下略)


内容

特集記事

座談会 若手会員が知っておくべき 弁護士業務妨害対策

【日 時】平成27年1月6日(火)午後4時~6時 【場 所】第一東京弁護士会 役員室 【出席者】 弁護士業務妨害対策委員会 委員長代行 安酸 庸祐 会員(※司会)(45期) 副委員長 森川 紀代 会員(54期) 委員 池田 和司 会員(22期) 〃 黒川 達雄 会員(29期) 〃 樋口 收 会員(43期) 〃 唐澤 貴洋 会員(63期) 〃 松原 健一(56期) 〃 大澤 一雄 会員(64期) 〃 藥師寺孝亮 会員(66期) 会報委員会 委員長 出澤 秀二 会員(35期) 委員 外井 浩志 会員(37期)

司会・安酸庸祐会員●今日は、弁護士業務妨害対策委員会の松原さん、大澤さん、藥師寺さんの企画により、「若手会員が知っておくべき弁護士業務妨害対策」というテーマで座談会を開きます。 平成元年に約1万4,000人だった弁護士数が今や3万6,000人になり重大な事件も起きている中、特に若手会員に知っておいてもらいたい事柄を座談会の中で浮き彫りにできればと思います。 『自由と正義』の平成26年6月号にも「弁護士業務と安全対策について」ということでアンケートを踏まえた詳細な記事が載っておりますが、今回はそれも前提に、一般的・抽象的なお話ではなく、できるだけ具体的なケースに沿いながら、「こういうとき、ちょっと困っちゃうな」というものに対するヒントを示すことができればいいなと思っております。 司会は、私、委員長代行の安酸が務めます。本日ご出席の方々は、当委員会の初代委員長代行をつとめた22期の池田和司さん、当委員会の設立以来のメンバーでパーソナリティ障碍等にも造詣の深い29期の黒川達雄さん、豊富な経験を基に若手会員に熱心に指導する43期の樋口收さん、当委員会の唯一の女性メンバーで日弁連委員としても大変ご活躍の54期の森川紀代さん、インターネットによる業務妨害に大変造詣の深い63期の唐澤貴洋さん、そして今回の企画をしてくれた松原健一さん、大澤一雄さん、藥師寺孝亮さんです。  本題に入る前に、弁護士業務妨害対策委員会が設置された経緯について若干復習しておきたいと思います。 平成元年11月に、オウム真理教による被害者の救済活動に取り組んでいた坂本堤弁護士一家が突然いなくなったということで、その救出活動が始まります。 日弁連執行部の中でも救出活動が始まっていきますが、残念なことに平成7年9月に坂本弁護士一家が遺体で発見されるという痛ましい事態となり、これを機に業務妨害対策に真剣に取り組まなければならないという気運が高まり、翌年(平成8年)6月に日弁連に弁護士業務妨害対策委員会ができまして、当会では平成9年1月に設置されております。  最初に池田さんから、弁護士業務妨害対策委員会ができるころ、どういうことが弁護士会の中で話題になりこれを委員会として立ち上げなければいけないということになったのかについてお話しください。

弁護士業務妨害対策委員会の 立ち上げ

池田和司会員●私は昭和45年に弁護士登録をしました。 登録して間もないころ、弁護士会では弁護士の方々とお会いする場所があり今よりもたくさんの方が来ていまして、あるいは派閥に入ったことなどもあり、ある先輩弁護士から、自宅の表札に、例えば私だったら「弁護士池田和司」というように「弁護士」を付けると、窃盗の被害に遭わず、強盗なども入らず、いわんや放火などの被害に遭うこともない、と教わりまして、「あ、そういうものか」ということで私も自宅を建てたときに表札に「弁護士」の文字を付けた思い出があります。 ですから、当時は弁護士は悪い人たちの刑事事件を担当してくれる尊い人種であるということで、暴力や犯罪の被害者になることはまずなかった時代だったわけですが、今安酸さんが言ったように、昭和の終わりから平成にかけてバブルがやや陰ってきたころから世相が少し変わってきたようです。 先ほど委員会のスタートは坂本一家殺害事件からという言い方をしていましたが、それより3年ぐらい前の昭和62年6月に、浜松で三井さんという弁護士が一力一家の暴力団から刃物で刺されたというこれもかなりショックな事件が起きており、それから2年経つか経たないかのうちに坂本一家殺害事件が発生しているという事で、私はこの時期から弁護士あるいはその家族の身体・生命・財産が妨害行為の対象になるという状況が出てきた、という時代認識をしております。  日弁連では早くも平成8年に弁護士業務妨害対策委員会ができたようですが、そのころは一弁にはまだできていなかった。 当時の山﨑源三会長が日弁連に出ていて、全国的に委員会をつくらないとまずいのではないかということで、山﨑会長の残り数カ月の時点のたしか平成9年2月ごろに急いで一弁の中に弁護士業務妨害対策委員会ができ上がりまして、初代委員長代行ということで私が就任しました。  そういう流れの中で、我が一弁では名前は伏せますがIさんという方が暴力団からターゲットにされて警視庁からカメラを弁護士事務所に向かって設置してもらうなどいろいろ対応していたと思います。 我々委員会も、早速、被害を受けた弁護士を救済・支援する目的で事件受任の候補者名簿を作成しようということになり、1班~5班に分けて約3名編成で支援対策チームをつくることになったわけです。 さて誰になってもらおうかという人材選びがなかなか難しかった。 当時、我々委員会の委員だけではなく民暴(民事介入暴力対策委員会)の委員にも入ってもらい、急遽、5班の編成をつくりました。  その後、そういう方々にボランティアで支援してもらうのは甚だ申し訳ないということで、支援弁護士に対する弁護士費用の問題が出てその方法について議論をしている中、何と、平成9年10月に、我が一弁の元会長の夫人が山一証券の株の取引に関連して殺害されたという事件が発生した。 これはまさに我々の先輩弁護士がそういう被害に遭ったわけで、ではどうしようかということで、その問題に取り組む専従班をつくり、きょうの司会の安酸さん、南部さん、岡本さんの3人が専従班として当該事件を担当していくことになったと記憶しております。  ということで当委員会は大忙しのスタートを切り、民暴委員会との連携の問題や、警視庁との連絡をどうしていくかという中で、ある種のコネクションを生かしながら、一弁特有の活動をしてきた、という歴史的事実があったと思います。 司会●ありがとうございます。 元会長夫人が被害に遭われた事件もまさにそうだったと思いますが、警察はこの加害者の異常な行動について察知をしていましたが元会長にはその情報は伝わっておらず、ましてや奥様には全く伝わっていなかったことがこの事件についていろいろ調査をしていく中でだんだんわかってきました。 もう1つ、坂本弁護士事件について言えば、もともと坂本さんの事務所は刑事事件をかなり活発に行っており、警察とはある種、緊張関係があったこともあり、警察に保護を求めにくかったのではないかという疑念もありました。 弁護士は理念的に警察や検察と対立する部分はありますが、やはりこういう強行犯の対策には警察とどうしても協力関係がなければならない、情報交換ができなければならない。 そういう中で、一弁と警視庁の組織犯罪対策第三課との意見交換会が委員会を立ち上げてすぐにできたのは大変よかったと思っております。  このような歴史の中で、今、若手弁護士が大変急増しているわけですが、弁護士の数だけ仕事があるわけではありませんから、若手弁護士が仕事を取りに行く中でトラブルに巻き込まれやすい環境がつくられているのではないか。 また、従来であればイソ弁のような格好でボス弁に付いて仕事を徐々に覚えられた、経験のある先生に付いて徐々に学んでいけたことが今やそうではなくなっているのではないか。 そういう意味で、業務妨害について若手会員にぜひこの点は注意してほしい、ということで今回の企画になったわけです。一般に弁護士が依頼者や相手方に接するときの心構えについて、以前と今とで弁護士のあり方、対応の仕方が少し変わってきているのではないかと考えますが、樋口さんはどう思われますか。

一般に弁護士が依頼者や 相手方に接するときの心構え

樋口 收会員●弁護士の数が大きく増加するに至り、日弁連が「市民に開かれた弁護士」を念頭に、その敷居はどんどん低くなり、我々の存在も一般市民に大変近くなってきました。 あるいはその一方で、先ほど池田さんが言ったような、弁護士に対する尊敬の念、といいますか、弁護士がリスペクトされることが段々と少なくなってきたことはあるかもしれません。 敷居を低くした、その方針が間違っていたというつもりはありませんが、状況としては市民が弁護士にアクセスする機会が増えて、その態様も多種多様になってきたことは、確かに大きな要因だと思います。 それから、暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)その他のいわゆる反社会的勢力対策の立法がこの間色々進んでいますが、私が弁護士登録をしたころは、業務上、反社会的勢力と対峙する中でそれなりにいろいろ危険な目に遭っている。 まぁ危険な目といっても程度問題ですが、例えば倒産事案などで債務整理に携わっていると変な輩が入ってきて脅かされることも昔はあったわけです。 そういう人たちは、皆さんもご存じのとおり元々それを言わば「商売」としてすべて計算で動いているわけです。 脅かすことを1つの商売としている。 でも、最近はそういう人ではなくて、同じく確信犯でも、ただ相手が苦しむのを見たいとか、相手を窮地に陥れたいといったことを意図し、かつ精神的にまともではない人が多くなってきて、自分自身どこまで続けるのか、限度がわかっていないという事案が非常に増えている。 これは私自身も非常に思うところです。 司会●現在我々が相手にするのは、暴力団から少し様相が変わって人格(パーソナリティー)障碍というようなちょっと厄介な人物で、彼らが事件の相手方あるいは依頼者として登場してくるようになった、そういうのが目立つようになった気がしますが、この点については、やはり黒川さんにお聞きしなければいけないのではないかと思います。 黒川達雄会員●業務妨害の対応について、現在、以前と相当様変わりをしていると思います。まず、情報化、インターネット等により、法律に関する知識や情報が国民の間に広く流布し、国民がセミプロ化し、以前は依頼者も法律の専門家である弁護士の言うことに従っていましたが、今はもう弁護士と対等となり、異議を申し立て、むしろ依頼者が雇用主で、命令服従の雇用関係に近くなっているのではないか。 又、人格障碍を疑わせる相手方、依頼者も多くなってきています。 現代では、国民の一人一人が自分の考えが最良のものとし、他者の考えを無視、排除して、自分の考えを無理矢理押し通そうとする。 現代人は、内的には自己不全、対社会的には不安、不満、不信があり、且つ重大なストレスを抱えている人が多く、法的問題になれば、相手を徹底的に抹殺するまで尖鋭的に対立します。 弁護士は、その一方当事者の代理人となるので、どうしても一方的に取り込まれてしまい、業務妨害を受ける危険性があります。

アンケート調査等にみる 業務妨害の最近の傾向

司会●今、様変わりしてきたとのお話がありましたが、日弁連で行っているアンケート調査に係わっている森川さんから、最近の傾向についてお話しください。 森川紀代会員●簡単なキーワードだけを並べると、まず、「相手方による妨害から依頼者による妨害へ」という傾向があります。 かつては相手方から妨害を受けることが多かったのが、依頼者からの妨害が相当数増えてきていると思います。 2番目に、「暴力的な妨害から非暴力的な妨害」の傾向があります。 かつては脅されたり身体・生命に対する害悪の告知といった妨害が多かったように思いますが、今はインターネット上の名誉棄損という形での妨害が増えてきている。 3番目として、「特殊な人物から一般人に」。 かつては反社会的勢力からの妨害が多かったかと思いますが、今は一般人による妨害が中心になってきている。  以上、3つほど傾向をまとめてみました。

藥師寺孝亮会員(画像)

 妨害手段として気になるのは、今も触れたインターネットによる妨害が非常に増えてきたということです。 精神的に未熟な依頼者が増え、弁護士とのやりとりで、カッとしたことについて昔は自分の中で抱えているしかなかったことを、今はインターネットに書き込む。 それについて同調する者が現れてますます図に乗るということで、インターネットで妨害をして、更に周りがはやし立ててそれがどんどん大きくなる、というケースが相当数出てきているという気がします。 司会●ありがとうございます。 的確なまとめ方ですね。  インターネットの話もちょっと出ましたので、インターネットによる業務妨害について、唐澤さんから一言お願いします。 唐澤貴洋会員●インターネット上で私自身が実際に業務妨害を受けた経験があり、かつ、今現在も受け続けておりますが、情報端末がスマートフォンなどで一般的に非常に普及している現代、身近にインターネットにアクセスできる環境の中で、旧来のリアルな、例えば不動産や相続、企業法務といった法分野から、新たにインターネット上での法律問題が発生しているという社会状況があります。 そういった社会状況に置いて、弁護士が自分の名前を出して、インターネット上での依頼者の権利侵害に対して「それはおかしい。ちゃんと正したほうがいい」と言う場面がありますが、それを行う際に、インターネットをする人は様々な属性の人なので通常であれば会わないような人格的にちょっとおかしい人に出くわしたりすると、「この弁護士は自分たちの表現の自由を害している」ということで、インターネット上にその弁護士について事実無根の記事を多数投稿する。 これは実際私自身が経験したんですが、こういった現象は私だけではなく、他の弁護士会の先生から相談を受けることもあり、広く弁護士全般の問題になりつつあると考えております。 司会●ありがとうございます。 インターネットの場合には誰がやっているのかがわからない。 事件とは直接関係のない人だったりすることもあり、後ほど妨害者の類型による区別で考えてみたいと思いますが、事件の相手方というより、もともと典型的な業務妨害事例、民事の事例みたいなものから、依頼者とうまくいかなくなってという話が目立ち、今度は顔も見たこともない、名前もわからない、どこから飛んできているのかわからないという妨害が増え、対応すべき問題の範囲がどんどん広がってきていると強く感じるところです。 今の唐澤さんの話のように、インターネット上で誹謗中傷を受けている人の被害の救済活動をしている弁護士がターゲットにされると、誰もそういう問題については声を上げたくなくなる。 まさに弁護士の果たすべき役割が抑えつけられることによって、結果として、今の司法制度、民主主義に対しても重大な挑戦になってきていると考えます。

依頼者からの業務妨害について

 次に、視点を変えて、妨害者の類型による妨害対策についてお聞きしたいと思います。 最初に依頼者からの妨害ということで幾つかの点がありますが、業務妨害を考える場合、依頼者との打ち合わせの仕方、接し方、受任の仕方について、一般的にどういうことをまず念頭に置く必要があるのか。 これについて池田さん、お話しいただけますか。 池田●依頼者からの妨害というのは、初めからあることは余りない。 つまり、受任をした段階では「いい」と思って受任をするわけです。 事件の処理の過程、途中において依頼者との信頼関係が損なわれるようなことが起きてそこから始まってくるので、場合によっては相当時間が経ってから発生すると、無防備の状態でズーッときているからかなりのダメージを受ける、という特徴があると思います。 私も45年の弁護士歴の中で一度だけそういうケースがありました。 事件そのものを1年、2年処理した中で、些細なことから「先生は相手の弁護士と意志疎通を図りながら自分(依頼者)の利益を損ねるような訴訟進行をしているんじゃないか」と言われたのから始まって、かなり恨みを買ったわけです。 ほとんど誤解なんですがそういう特徴があるので、その経験から言うと、やはり依頼者であってもいつ妨害の加害者に変身するかもしれないということは常に念頭に置く、肝に銘じておかなければいけない。 そのために丸腰で対応しないで、信頼関係と裏腹の部分もありますが、やはり自分の身を守るという意味においてはいろいろな証拠を残しておく。 「最初にあのとき、ああ言ったじゃないの」というようなメモを残しておくことも、先々、自分を守るための方法として必要ではないか、ということを若い弁護士の方々にはぜひ伝えたいと思います。 司会●こういう事件になる多くは、弁護士がちょっとしたミスを犯して負い目があり、依頼者からのクレームを受ける、電話にもだんだん出たくなくなる、ますます依頼者に不満が募っていく、というように発展していくケースです。 例えば、「電話をいついつください」と言われていたのに電話ができなかった、あるいは「この書面は事務所名では送らないでくれ」と言われていたのに事務所名で出しちゃった、と。 こういう本当に些細な事から業務妨害が始まるというのは、私どもが相談を受けているケースでもあります。ですから、具体的に例えば、事件の進行に合わせて報告をする、事件の見通しについての話をどのようにやっていくのか、報酬についてどこまで事前に話ができているのか、それをちゃんと契約書にしておく、といった、「やらなければならない」と職務規程に書いてある事柄をきちんとやっていくことが、業務妨害に対して自分を守ることになる1つだと思います。 このミスが生じたときの対応策についてはどのようにしたらいいでしょうか、黒川さん。 黒川●業務妨害のトラブルの発端は、お金の問題と弁護士の事件のやり方についての不満です。 後者については、法的にできることとできないこととを峻別し、で

黒川達雄会員(写真)

きないことはできないと言い、勝訴するか否かの予測も裁判が終わってみないとわからないので、断定的な言い回しは避けるべきです。依頼者との信頼関係の維持は、実は事件を一緒に考えてやっていくというスタンスが大事だと思います。 司会●先ほどミスの話をしましたが、従来だと多分弁護士は、多少間違っても弁護士も依頼者も気付くことなく終わってしまうことが多かったのではないかと思うんです。 ところが今はインターネットでいろいろな情報が入ってくる。 ちょっと歩けばすぐそこに弁護士がいるという状況になっているから、ミスが明らかになりやすくなっているところがある。 気を付けていても間違えることはあると思いますが、依頼者が気付いた時の(怒りの)増幅のされ方を考えると、しくじってしまったことに気付いたときには「ごめんなさい」と、まず謝ることが必要ではないかと思います。 樋口●あるサイトでは弁護士の懲戒処分例を紹介してこれに対していろいろと評釈を加えている。 他には「2ちゃんねる」内の特定のスレ(※スレ=スレッド)で、弁護士に対する細かな不満、場合によっては誹謗中傷が、しばしば実名入りで書かれている。 ミスした場合にどう謝るかというのは、むしろ私どものノウハウよりは、デパートとかのクレームの対処法などのマニュアルを参考に学んだほうがいいぐらいの今の状況かなと思います。 出澤秀二会員●その点で1点。 普段から依頼者に誠実に対応していれば、謝れば済むケースは多いと思うので、普段の対応がやはり一番重要で基礎にあるのではないかと思います。 謝らないから怒るという人も多いと思います。 今まで誠実に対応してくれた弁護士だからと思って許してもらえるような弁護活動をいつもしないといけないのではないかと思います。 樋口●精神的にちょっとおかしいなと思ったときは、やはり早めに対応しないと、誠実に対応してきちんとやっているのに、思い込みでトラブルになることもある。 私の経験で、まだ登録3年くらいのころに、依頼者から学歴詐称と言われたことがありました。 「私、学歴の話はしていないと思うんですけど」と言うと、「あなたは嘘の学歴を言った」と。 「このようなことでは信頼関係が保てないので別の弁護士に交替しましょうか」と言ったら、今度は当時の事務所の上司に、私が「嘘をついたことを謝らない」と手紙を出した。 結局その事案は、事務所のサポートも得て続行しましたが、一般論で言えば、依頼人が精神的におかしいことがわかったら、コミュニケーションに留意し、最悪、どこかの時点で信頼関係が保てないことを理由に辞任することを検討すべきです。 依頼人のすべてが「樋口弁護士と闘う」というスレを立てるとは思いませんが(笑)、どういうところで情報が波及するかわからないので、やはりおかしな人だとわかったら何か手を打たなければいけない。 出澤さんが言ったことは100%全くその通りだと思いますが、それは相手がまともであることが大前提かと思います。 森川●実際にはミスではないのに、依頼者がミスだと勝手に思ってしまうという場合もあると思います。 先ほどもお話に出ましたが、最初からできないものは「できない」とはっきり言うことも妨害を防ぐための1つ手段であると思います。 それで思い出したのが、かつてストーカー的な被害を受けている女性から、「家族に絶対ばればいようにストーカーをやめさせてほしい」という話があった。 それはなぜかというと、不倫絡みだったからです。 ただ、こちらが絶対に家族に知られないように気を遣っても、交渉をすることによって相手方が家に来たり、警察に相談をすれば警察から問い合わせが行くとかいろいろなことがあるので、「それは約束できない」といって結

森川紀代会員(写真)

局以来にはならなかったんですが、そこで安請け合いして「わかりました。家族には絶対知られないようにやります」とやっていれば、恐らくトラブルになったのではないかという気がします。 仕事は取れなくなるかもしれませんが、後の危険を考えると、ちゃんと言うべきことは言ってよかったのではないかと自分としては思っています。 池田●あと一つ、私が最近つくづく思うのは、最初に人の紹介で依頼者が来て、話を聞いてみると少しおかしいなとわかったときは、初めからもう1人、弁護士を頼んで、依頼者に「費用は1人分ですけどいいですか」と聞いて、複数で一緒に共同受任をしています。 これはいろいろな意味で非常にいいですね。 もちろん助けてくれるし、証人にもなる。 若い弁護士の方にはぜひとも勧めたいと思います。 樋口●ネットワークづくりは若い方のほうがうまいですから、「今困っているんだけど」と言ってね(笑)、それはできるよね。 唐澤●はい。 樋口●あと、企業の依頼人ではあまり例はないですが、個人の依頼人の中には、何でも激しくやることが自分の味方の証だと思っている人が昔からいるわけです。 例えば、「裁判所で相手の声よりあなたの声が小さかった。相手の弁護士よりも大きな声で話してほしい」とか「相手方は非常に不届きな人間だから、その職場に直接乗り込んで話し合いをしてきてくれ」とかいうものですが、先ほどの、できないことは「できない」と言えるかということで言えば「私はそういうところで勝負していませんので」と明確に言えることが大事だと思います。 また、訴訟や交渉で「相手方は代理人弁護士3人だからこっちは4人にしてくれ」とか「先方は裁判官に対して5回発言したが先生は4回しか発言しなかった」とか、そういう方もいますが、このような場合も同様と思います。 方針の違いを理由にどこかの時点で辞任を検討するということもあるかもしれませんね。 今池田さんが言ったように1人でやっているのかどうかという点もありますが、プロセスを後で示すことは、それこそ紛議調停委員会に行っても鋼紀委員会の場合でも有力、有用だと思います。 司会●私の経験ですが、回り回って私の事務所に相談に来た案件で、長男に社長を譲った父親が長男を社長から引きづり下ろすために「株主代表訴訟を起こしてくれ」ということだったのですが、仰っていることが腑に落ちなかったので「今までどこかに相談をしたんですか」と聞いてみました。 渉外系の大事務所に行ったらしいんですが「うちは商法は苦手だからお宅の仕事は受けられない」と断られたということでした。 いや、うまい断り方があるものだなと思いました(笑)。 ちょっと危ないと思ったら、踏みとどまって早いうちにお断りすることも重要な選択、決断ですよね。 ただ、そうは言ってもなかなか粘り強く離してくれないのが、黒川さんの造詣の深いパーソナリティー障碍者ですが、これはどうしますか。 どうしても受けてくれと。 例えば携帯電話に30件も留守録されているといったストーカー的な猛烈な依頼者も時にはいますが、これにはどう対応したらいいんでしょうか。 黒川●パーソナリティー障害者から相談を受けた場合、まず第1に、どのような法律問題があるのかを考え、それ以外の問題と区別し、整理して、法的問題に限定、集中する必要があります。 権利義務がどうなっているかを考え、それが解決できないものははっきりできないと言う。 精神科医の人に聞いた話によると、まず断定をしないということだそうです。精神科医の弘末先生は、待てば海路の日和ありと言っています。 樋口●結論を急がないということですか。 黒川●そういうことです。 人格障碍者は、人と係わり合いを持ちたいと願っていると同時に被害意識、被害妄想的なところがあります。 それが逆転すると、今度は加害者になり、相手に対して非常に攻撃的になります。常に攻撃性と受動性の表裏一体です。 依頼者が頭を下げて来るとこちらは喜んでしまいますが、意外と依頼者の心の中には何とも言えない葛藤を抱えていることがあります。 又、自分のことをわかってくれないということで、依頼者から敵意を持たれてしまうこともあります。それから、弁護士の断り方により恨まれることもあるので、やんわりと断るべきでしょう。 司会●依頼者との関係について、1つ、最近の話として付け加えておきたいのは、依頼者の中には、実は弁護士の弱みを握って犬のように使おうとする悪い奴がいるということです。 そういう相談を何件か受けたことがあって、とんでもない仕事をさせられたことがあるので、依頼者とのつき合い方、距離感はとても大切だなと思います。

相手方からの業務妨害について

 次に、相手方からの妨害についてお聞きします。 ニュース等でも取り上げられる非常に深刻な妨害事案として、DV夫が相手になっているような離婚事件あるいは相続事件がありますが、このような感情の対立が強い事件はどんなことに注意すればいいのか、森川さん、お話しいただけますか。 森川●先ほど、妨害の傾向として暴力から非暴力にという話をしましたが、DV加害者からの妨害は圧倒的に暴力です。 非常に重大な事件が起こったものの妨害を受ける原因となった受任事件は、圧倒的にDV事件が多いということはアンケート結果から裏付けられています。 DVを扱う異常は危険だと考えざるを得ないので、DV事件を受けたときには、先ほど池田さんが言った複数受任が基本であるというぐらいの意識でやっていかないといけないと思います。 特に女性弁護士の場合ですが、DVをする典型的な男性というのは、女性のことを下に見ている人とか、脅せば女は言うことを聞くだろうと考えている人なので、そういう人に対応するには、女性弁護士であれば男性と一緒に複数受任で対応するということです。 突発的にカーッとなって行われることも多いので、精神

樋口收会員(写真)

的な意味での歯止めでもあり物理的な歯止めにもなるように、できるだけ裁判や調停の場にも一緒に行ってもらう。 女性弁護士がDV事件を扱うときは男性弁護士と受けるのが望ましい――必要であるとまでは言えませんが――と思います。 司会●これは法テラスからの紹介案件でも、困難な事件ということで費用を増加していただいて、その費用で複数受任というか、もう一人の弁護士の費用を捻出するという取り組みがなされているわけですよね。 森川●はい。法テラスは複数受任そのものは認めておらず、法テラスと複数の弁護士が契約することはできませんが、費用自体を少し増額してくれるので自分の復代理という形でお願いをすることは可能になっています。 ですから、法テラスに申請をする際に、これはDV事件でかなり危険度が高く複数受任の必要があるので費用を増額してほしいと申請すれば、増額が検討されます。 法テラス自体にもまだなかなか浸透していないようでいろいろと問題はありますが、そのように、むしろ皆さんが申請をしていくことで法テラスも対応が変わってくるのではないかと考えています。 司会●これについては、この前、一弁の当委員会と千葉県弁護士会の業務妨害対策を扱っているところと意見交換をしたときに、千葉県弁護士会では民暴基金を使って、暴力団相手ではないDV事件等に対しても共同受任の形でサポートで入っていく。 用心棒のように弁護士を付け、会が費用を負担するという取り組みをしているようです。 当会ではそういう仕組みはないですが、そういうものができれば、特に若手で「一緒にやってくれ」と頼めないような人の場合やDV夫を相手とする事件を受任した女性会員などにはそれは心強いかなと。 これも新しい課題だと思います。

インターネットを通じた業務妨害

 次に、妨害が行われる場所、妨害行為の類型について話を進めてみたいと思います。 まず最近の新しい話として、インターネットによる弁護士業務妨害はどういう形でなされていくのかについて議論をしたいと思います。 これについては唐澤さんからご紹介いただけますか。 唐澤●インターネット上での業務妨害のあり方として、まず一番単純な基本的な妨害のやり方としては、弁護士名とその弁護士がいかに悪い奴かを書く。 内容としては、例えばこの弁護士は無能であるとか、犯罪者であるとか、性犯罪者であるとか、依頼者を殴ったとか、そういった事実無根のことを書いた文章を作ってインターネット上の掲示板に投稿する。 ないしは弁護士口コミサイトといったところに投稿する、というのが一番ポピュラーな妨害の仕方です。 今はそこからちょっと進化したものもあります。 我々はインターネットにどうやって日常的に接しているかというと、検索エンジン(グーグル、ヤフー等)を通じて情報を調べて弁護士を探したりその弁護士の評判を調べたりしますが、そこに着眼した妨害のあり方です。 これは弁護士名とある特定のキーワードを検索エンジン上で表示しやすくするものです。 例えば私の名前を検索エンジン上の入力フォームに入れた際に、検索エンジンのサービスとして、このキーワードはこの弁護士の名前と関連しているのではないかということで、ある特定のキーワードを表示してくれる。 これは検索をしやすくするため検索エンジン上のサービスです。 そこでかつてよく出てきたのは、「無能」とか「詐欺」とか、弁護士としてそれが関連していると思われると、かなり致命的なキーワードをそこに表示する。 こういう業務妨害のやり方が、先ほどのポピュラーなものから一歩進化した形です。 一般の人から見るとその文章自体は意味不明ですが、特定のキーワードをその弁護士名と近接した形で掲示板上に多数投稿するための掲示板がインターネット上につくられており、その弁護士名をちょっとでも入力すると、この弁護士は変な弁護士だと一般の人に思わせることができる。 これは私が実際に経験した例ですが、他の弁護士でもそういった被害に遭っている方はいます。  あと、インターネットの攻撃のあり方として、プライバシーを侵害するというものもあります。 インターネット上で「炎上」という言葉があります。 炎上とは、特定人に対して不特定多数の者から、反復継続的に誹謗中傷がなされる状況と私は定義づけていますが、そのような状況下では、話題を求めて、炎上対象者に関する情報を収集するということが行われることがあります。 インターネット上に散逸している情報以外にも、例えば電話をかけたり、関連しているところに行ったりして情報を収集して、それを基に臆測でいろいろなことを書いて、またその人のプライバシーを侵害する。 私に起こった現象ですが、紳士名鑑に載っている親族の情報も集めて一族関係図みたいなものを勝手につくられました、誤った情報も多く含まれていましたが、そうやってプライバシーをどんどん侵害してくる。 ほかにも、これはインターネットではないですが無言電話がかかってくるとか、よくわからない届け物が送られてくるとか、そういったことが私の場合は行われました。 司会●唐澤さんの妨害者は特定することはできないんですか。 唐澤●基本的にできますが、ただ、インターネットというのは非常に不特定多数の人が関与していて、不特定多数の人に関心を持たれると、攻撃する人も何百人、何十人と数が多くて、その記事一つ一つについて特定する作業をし出すと自分の弁護士業務が滞ってくる。 私も1回やろうと試みましたが、事務所運営がかなり厳しくなると思い、半ば諦めています。 ただ、特定できるといっても今またそこで更に進化しております。 去年遠隔操作事件を起こした片山祐輔容疑者などが使った手法で、海外で匿名性を担保するTor(トーア)サーバーを介して書けば犯人を特定するのは現在困難だと言われておりまして、警察もこれにはかなり手こずっていると聞いています。 犯人を追おうとすると、捕まえられるケースもありますが、技術がどんどん進化していることもあって、かなりイタチごっこの面もある。 出澤●きっかけは何だったんですか。 唐澤●きっかけは、インターネット上の掲示板「2ちゃんねる」というウェブサイトがありまして、このサイトで誹謗中傷された高校生の事件を受任して、インターネット上に投稿された記事を削除ないし発信者を特定するためにIPアドレスと投稿日時を教えてくれ、という請求をかけた。 この請求のやり方は、当時、「2ちゃんねる」上では、「誰でも見られる掲示板上で請求をしてくれ。そうじゃないと一切応じません」ということで、そうしないと削除もしてくれないので、インターネット系の問題をやっている弁護士は皆それに応じる形で請求をかけていた。 私もそのようにしたわけですが、依頼者について攻撃している人たちからすれば、私が弁護するなんてとんでもない弁護士なんだと判断され、私を攻撃の対象にする事態になりました。弊害についてお話ししますと例えば依頼しようとする人が検索してこれを見ると、実際に依頼が来なかったりする。 インターネット上の問題は法律分野としては余り手を付けられていなかったので、事務所を始めるにあたって事件の受任件数も順調に伸びていたんですが、やはりこういった誹謗中傷をされてから著しく売上げが落ちたところがあって、現在は普通になってきていますが、影響としては非常に大きかったです。 司会●唐澤さんのケースのほかにも、例えばインターネット上で「弁護士××」と入れて検索エンジンをかけたらすぐに「詐欺」「悪徳」と出てきて、調べるとそこに中傷した記事が呼び出される。 そうすると、「あの先生を紹介するから行ってみたら」と言うと最近は最初にインターネットで住所や地図を探すので、そこでそんな記事が出てきたら、まず行かない、という選択をとるのではないかと思います。 そういう被害を受けている会員は当会だけではなく東京三会にもたくさんいまして、これにどう対応することができるのか、当委員会でも現在検討しているところです。 唐澤●1点、先ほど犯人を特定することはなかなか大変だという話をしましたが、実際、私もこれだけの事態に

安酸庸祐会員(写真)

なったので警察にも協力していただいて、何人か書類送検して1人の逮捕が去年実現したんです。 ただ、そこで出てきた人たちの属性は、まず女性はいないんですね。 男性で10代後半~20代前半の学生ないし無職の人が非常に多く、基本的に余りリスクを背負っていないで生きている人たちです。、 このような方々に対して、どこまで弁護士として注力できるか。 仮に犯人がわかったとしても、現行の日本の法制度で取れる損害賠償金の額は少額です。 出澤●自分がそういう攻撃のターゲットになっても精神的にまいらないタフさというのはどうやって維持されるのですか。 唐澤●やはりうつ状態になりました、夜寝られないとか。 池田●それはなりますね、通常なら。 唐澤●私は今、自分で事務所をやっております。 仕事がこのままできなくなったらどうするんだろう、事務職員も雇っているので路頭に迷う、といったことを考えるとストレスが相当かかってくる。 でも、同期とか知り合いの弁護士で応援してくれる人がいて彼らと話したり、安酸さんにも非常に助けていただいて、その中で辛うじて徐々に持ち直してきたところです。 ですから、そういう心理的なところを相談できる場があればいいなと、それは病院なのかもしれませんが。 業務妨害対策委員会という形だとなかなか相談しにくいので、例えば弁護士会の中に簡単に相談できるところがあれば非常にいいのではない

出澤秀二会員

かと、そのときは思っていました。 外井浩志会員●弁護士会は、たしかメンタル相談を始めましたよね。 樋口●大企業などは企業防衛でサイバーテロとかサイバー攻撃に対するものをいろいろやっていますが、弁護士会も本当はインターネットの専門部会がもう少し進化してそういう方向に行くことが期待されますね。 森川●インターネットの怖いところは、最初はすごく悪意に満ちたコメントの中に誹謗中傷が書いてあるので、嘘っぽいとわかるんですが、それを違う人が「こう書かれていたよ」と何回か伝言のように書いていくうちに、いつかそれが事実であるかのようになっていく。 「この人はこうである。こういうことがあった」ということで、最後のものを見た人はそれを信じてしまう、という怖さがあるように思います。 樋口●確かに進化しています。 以前、私の事務所にいた女性アソシエイトが当委員会で申立てをして救済していただいたことがありましたが、彼女は国選事件で本当に真面目に案件をやって、実刑の可能性があったものを執行猶予に落とした。 そこで被告人とメールでやりとりをしたのですが、「先生のお陰で最良の結果が得られました、本当にありがとうございます」という被告人のメールに対して「いや、私は当然のことをしただけです」との趣旨の返信をしたら、「これだけ優秀だったら人を殺しても大丈夫ですよね」という内容が返って来たので、彼女は怖くなってメールを返さなくなった。 そうしたら被告人から誹謗中傷、脅迫といった業務妨害行為が始まって、最終的にはメールが1日300回、「殺す」とか来るし、ファックスも事務所にいっぱい来る。 1回、事務所の他の弁護士数人で被告人に電話をしたら両親の実家にいたので、私どもが両親に「警察に突き出せ」とかいろいろ言ったのですが、両親もその被告人に脅かされて何もできない、と。 「今から武器を持って行くから」とか殺害予告ばかり来る。 事務所の所轄の警察署に電話をしても、正直最初は埒が明かなかった。 そこで、業務妨害対策委員会を通じて警察サイドにアクセスし、漸くうまくいきました。 ちなみに、2ちゃんねるについては、今は削除要請や裁判所を通じた仮処分など、書き込みを止めさせる方法もあり得るところですが唐澤さんのケースは進化していて誰がやっているかわからないので、法的手続がとれない。 唐澤●彼らも私が開示請求とか犯人追求の方法論をある程度知っていることをわかっているので、逆に、追えないところの外国のサーバー上の中で誹謗中傷を目的とする掲示板をつくって誹謗中傷するとか、そういうちょっと手の込んだやり方をしている。 樋口●皆さんおわかりのとおり、真っ当に一生懸命仕事をして忙しい人はこのような行為をするわけはないので、妨害者の多くは基本的にヒマなんです。 ヒマで、とにかく人のことをいじめたり誹謗中傷することだけを生きがいにしている人たちがいる、ということなんですね、残念ながら。 司会●インターネットについては大変難しい問題があって、対処方法についてもこれから更に研究しなければいけないし法整備も求めていかなければいかないところがあると思います。

電話による業務妨害

 そのほかの妨害行為の態様として電話による妨害行為があります。 繰り返しとか長時間とかいう電話の対処方法について何かアイデアをお持ちの方はいますか。  日弁連が出している『弁護士業務妨害対策マニュアル』という冊子がありまして(四訂増補版、現在改訂中)、この中には、NTTのサービスやいろいろな電話機の機能で対応する方策も書いてあります。 私は、録音機能の電話を使うのがよいのではないか、「今録音している」と言うだけでも相当効果があるのではないか、と思います。 最近の録音機能付きの電話は、ボタンを押してから録音が始まるのではなくて受信したときからメモリーに録っているので、ボタンを押せば通話が始まったときから録音できる、残せる。 昔みたいに、あたふたして録音機を持ってくることをしなくてもよい。 これがあるだけでも精神的には相当ラクだと思います。 何か変な話になりかけたらボタンを押す、依頼者でも相手方でも。 これはお薦めしたいと思います。 池田●それは携帯電話は考えていないんでしょう。 固定電話のことですね。 司会●そうです。 樋口●携帯電話の番号は、変な人に教えないというのが一番ですね。あと、履歴を消す。相手にもこちらの番号は非開示で電話をする。 出澤●電話録音をする機会はそんなに多くはないですよね。 安心感のほうですかね。 司会●脅されるわけでもないんですが、グダグダと30分も40分も電話を切らせない場合があるので、そのようなときには、「いや、そんなことを言っちゃっていいのか。ちゃんと録っているんだぞ」と言えると、こちらに心のゆとりができる。 警察も、そういう脅しの電話はやはり録音してあることが捜査を進めていく上での証拠として絶対必要なので、「それは必ずやってください」と言われます。 森川●一般企業のクレーム対策の話ですが、お客様相談室に毎日何時間も電話をしてくる人について、「何回以上・何分以上になったら仮処分を行う」というルールが決まっているらしく、何分を超えたらむしろ「やった~、これで仮処分ができる」と思うんだ、という話もありました。 ですから、とりあえず録音をしておけば、いざとなれば、これ以上長くなれば証拠に使えるぞと考えられれば心の余裕にもつながるし、実際に何かしたいときには有用だと思います。

沖田和司会員(写真)

事務所訪問型面談強要

 では、今度は事務所に妨害者がやってくるケースについて考えてみたいと思います。 基本的に、事件の相手方、特に妨害行為を起こしそうな人物を事務所に招き入れることはすべきではないだろうと。 弁護士会とか、どこかもう少しオープンなスペース、ホテルのロビーとかいうところで会うのが望ましいんだろうと思いますが、ただ、押しかけてこられたときに備えてどういう対応策を考えればいいか。 これについて、まず事前準備としてどんなことをすればよろしいでしょうか。 池田●平成9年3月の弁護士業務妨害対策委員会の議事録で、前述のI会員の問題を議論している中で当時の東谷副会長が、I弁護士の事務所の前に警視庁のカメラを設置して防犯監視に当たってもらうための手続きをする、と述べているので、当時から、妨害者が来ることがある程度予想できれば警視庁とそういう連携をとり合ってカメラの設置も可能なようです。 ですから、今もこれは多分できると思うので、喫茶店やホテルで会うのはかえってまずい、というのが当時のIさんに対してのアドバイスだったようにも思います。 これは意見の分かれるところかもしれませんが、どうですか。 そういう危なっかしい相手と会うときに、自分の事務所から出てほかの場所で会うほうがいいのか、それともやはり事務所で会ったほうがいいのか、という問題がありますが。 森川●精神科の方の講演録か何かで読んだように思い

大澤一雄会員(写真)

ますが、妨害行為は、妨害者が誰も見ていないという心理になったときに主に行われるということなので、人の目があるところのほうが妨害行為に発展しない可能性が高いように思います。 喫茶店よりは事務所等のほうが突発的な妨害行為が発生する可能性は高いと思います。 司会●日弁連のアンケートでも、やはり業務妨害が行われる場所は事務所が非常に多い。 事務所にいきなり入ってこられたとき、小さな事務所の場合は入り口が1つでなかなか逃げられない構造になっているんだろうと思いますが、最近の事務所の多くは、常時施錠していて、テレビのモニターが付いているインターフォンで、解錠しなければ入れない。 特に新しい事務所などはそうしているのではないか。 あとは監視カメラ等を置いたり、できるだけそういうことはしたほうがいいと思います。 これは先ほどの『マニュアル』にも書いてあるところです。 また、襲われたときに逃げ場があるように、入り口は1つではなくて2つある事務所がいいとか、部屋でも1つの入り口だと逃げにくいとか、会うときも大きなテーブルを挟んでいれば(妨害者が)上がってきても逃げやすい。 それをテーブルなしでソファーに座りながら話していたら、やられたときはすぐですから、そういう構造上のことも意識しなければいけないんだろうと思います。 それに加えて、例えば金属バットや催涙ガスのようなものを置いておくということはどうでしょうか。 森川●ただ、武器に関しては奪われることも考えなければいけない。 金属バットは、相手に持たれると危険ではないでしょうか。 司会●刺股(さすまた)というんですか、あれはやはり何人かでやらないと実際は機能しないらしいです(笑)。 あとは防犯ブザーが有効ではないかという話があります。 大きな音がすれば向こうはひるむ、周りからも見られる。 池田●痴漢防止のものですね。 樋口●実際はつながっていないものでしょう、音だけがでるものですね。 司会●あとは、弁護士が不在の時に訪ねてきて事務員が招き入れるかどうか、というところもあるんだろうと思いますが、このあたりも、実際に被害に遭っているのは弁護士だけではなくて事務員のケースも少なからずあるので、やはりそこの意識をちゃんと統一させておく必要があると思います。 森川●今の点に関連して。 業務妨害対策ニュースなどに出ているのでご覧になったことがあるかもしれませんが、札幌でアンケートをとったところ、問題として出てきたのが、事務員が怖い目に遭っているのに弁護士が真面目に対応しない。 あるいはひどいものは、事務員が「こんな人が来ている」と言ったら「何とかしておいて」と言って、事務所に帰ってくる予定だったのに帰ってこないというように、弁護士が事務局に危険を押しつけていることが実際にあるそうです。 これは1つ、2つではなくて複数の報告として。 事務員に対するものも弁護士業務妨害であることと、事務員は弁護士が守らなければいけないということ、やはりそこを間違えないでほしいと思います。 樋口●(事務員の)多くは女性ですからね。ある事務所では、大学の体育会の学生にアルバイトをさせているところがありましたね。 司会●そういう危険をどれだけ予知して準備できるかにもよりますが、突発的に来たときにはなかなか難しい。 ある程度予想できる場合は、ちょっと変なところに話が流れたら事務員が警察に電話をする、という打合わせが最初からできていると多分いいんだろうと思います。 最悪は自分が1人でいたときですが、そういう事件は結構多い。 夜の遅い時間とか、1人で事務所にいたときとか。 樋口●110番通報をしたときはどうなんですか。 (妨害者が)なかなか帰ってくれないとか、中で騒いでいるとかいった場合、警察は一応来ますよね。 ただ、相手が民事不介入だと言ったら、帰っちゃうんでしょう、多分。 司会●妨害に遭いそうだという人と一緒に例えば警視庁の組対三課(組織犯罪対策第三課)に相談に行ったりすると、あらかじめ所轄に連絡を入れてくれるので、電話があったらすぐに駆け付ける。 一番速いのは、パトカーに無線が入るから近くを走っているパトカーが急行するという対応も場合によっては可能だというお話ですが、でも、そう言った後に「基本的にこれは暴力団の場合だ」と言われたことがありました(笑)。 基本はそうかもわかりませんが、でも所轄にちゃんと連絡が入っていれば、こういう人からやられる可能性があることがわかっていれば、そういうことはできるのではないか。 そのときには、業務妨害対策委員会と警視庁とのパイプは大変有効に働くのではないかと思います。 出澤●私の数少ない経験ですが、所轄の警察にあらかじめ「こういう人が今日事務所に来る予定がある」と相談に行ったことがあります。 これは破産事件の相手方(債権者)でしたが、事務所で話をせざるを得なくて、相手もすごくカッカしていたので、隣の部屋で警備会社の人に待機してもらっていた。 そういうことがありました。 結果的には何もありませんでしたが。 司会●私は昔、車のリース会社の事件をたくさんやっていたことがあって、やくざが不法占有しているリース車両を仮処分で引き揚げてくるという場合など、相手の属性がちょっとヤバいなというときには警察にもお願いして臨場してもらっていました。 そういう意味では警察とのパイプは非常に大切だと思います。 黒川●弁護士は、依頼者から激烈な紛争のドロドロになった火の玉の事件の依頼を受けることがあり、相手方から憎しみの対象にされることがあります。 相手方の依頼者への恨みを弁護士が引き継ぐことになるので、その紛争の本質は何であるのか、その背景事情、依頼者の対応等を詳しく説明を受けないと相手方からの憎しみを直に受け、業務妨害を受け、生命身体を危険にさらすことにもなります。 相手方の依頼者への憎しみが弁護士へシフトしてくるので、そのような相手方に対しては、自分

外井浩志会員(写真)

一人だけを特定化しないで、多数の弁護士と共同してやる必要があります。 業務妨害対策委員の弁護士が多数で対応することも憎しみを散らす一つの方法でしょう。 池田●ターゲットの分散化ですね。 黒川●例えば、先程のインターネットの件は愉快犯です。 人の苦しむのを想像することを無上の喜びとします。 個人的にその弁護士が本当に憎くてやることもあるかもしれないが、愉快犯というのは、ただ自分の世界の中、万能感。妄想の中で喜んでいる面があります。 だから、それと歩調を合わせてしまうと危険です。 自分もそこに入ってしまうからです。 そこで、次元を異にし、シフトというか視点をずらす。 そうしないと本当にその人の思うつぼになってしまう。 彼らの楽しみを余計に倍加し、異常な妄想を増長することにもなりかねません。 我々がむきにならず、あまり関心を持たなくなってしまうと面白くなくなるのではなかろうか。 外井●おっしゃるところはよくわかります。 やはり相手を挑発しないということは非常に重要だと思います。 それから、言っている人と同列になって議論をしない、と。 私の知っている弁護士は、依頼者が無理難題を言ってくるのに対して本気で喧嘩をしてしまうので、あれは非常にまずいなと思います。 やはり挑発はしない。 そして幾ら説得しても無理だと思ったら黙ってジッとして聞く、というぐらいの覚悟が必要ではないか。 そうしないと、相手を挑発すればどんどんエスカレートしていくし、また、

松原健一会員(写真)

同列になって議論をすること自体に弁護士としての資質の問題があるという感じがします。

終わりに

司会●大体時間になりましたので、最後に言い残すことがあればお願いします(笑)。 樋口●先ほどの話をまとめると、若い方は、断り方も演技とか引出しとかいうことで結構人生経験が必要なのでそこはハンディがあると思いますが。 松原健一会員●是非教えていただきたいのですが、話の途中で負担を感じるようになって、「これは危ないな。ここで話を切っておかなければ」と脳裏をよぎることもあろうかと思いますが、どこまで話を聞いて、どのタイミングで、どのようにして切るのか、アドバイスをいただけますか。 森川●人格障碍者に対する対応として、よく故藤本昭さんが言っていたのは、「聞いてはあげるけれども優しくはしない」と。 先ほど来名前が出ている精神科医の弘末先生は、たしか「木で鼻をくくったような誠実さ」とおっしゃった。 誠実に対応しているけれども、完全に線を引いて、ここから立ち入らせない、向こうに立ち入らない、というようなことだと思います。 松原●余り早く閉ざしてしまうと、恨みを買ったり、カーッとさせてしまうかもしれませんし、そこら辺が難しいように思います。 外井●ある程度は聞いてあげるということじゃないでしょうか。 私も我慢して1時間ぐらいは聞きます。 それ以上になるとさすがに辛くなるので、そのときは事務員からノックしてもらってちょっと席を外すという工夫はしています。 やはり2時間も3時間もズーッとつかまってしまうと大変なことになるので、工夫は要るんじゃないでしょうか。 藥師寺●若手会員が、実際に業務妨害を受ける事態に陥った場合、どのようなサポートを受けることができるのでしょうか。 司会●当委員会では業務妨害を受けている委員に対する支援活動を行っています。 支援要請については、委員会宛にご連絡ください(事務局会員課:03-3595-8580)。 きょうはいろいろ有意義なお話が聞けたと思います。 長時間どうもありがとうございました。 (了)

脚注

  1. [1]
  2. しかし、後に別件で開示された。唐澤貴洋のご尊顔開示事件を参照

関連項目

唐澤貴洋の発言一覧