「自然の理に反した行動には明日がない」の版間の差分
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*[[アメリカ合衆国の活力根源について]] - 「INTERNATIONAL TAXATION」月刊国際税務 | |||
*[[BC級戦犯60年目の証言と日本の戦争]] - 「[連載]語り継ぐ戦争体験者の証言⑥」機関誌「わだつみのこえ」127号 | |||
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2015年9月13日 (日) 08:46時点における版
自然の理に反した行動には明日がないユーモア対談(しぜんのことわりにはんしたこうどうにはあすがないゆーもあたいだん)は、河野一英が寄稿したコラムである。
概要
「産業新潮」内の「ユーモア対談」に掲載された。
全文
自然の理に反した行動には明日がない ユーモア対談(15) ● ホスト ● 日本ペンクラブ会員 さつまラーメン・社長 河野清美 ● ゲスト ● センチュリー監査法人 名誉会長 河野一英 ○プロフィール 昭和18年 明治大学商学部卒業、昭和19年館山海軍砲術学校卒業(海軍少尉任官)、 昭和59年 商学博士(明治大学)の学位を受く。 昭和16年4月 東京実業学校教諭を経て、旭硝子㈱、衆議院議員秘書となる。 昭和29年7月 公認会計士特別試験に合格。 昭和30年4月 明治大学商学部非常勤講師の後、中央商科短期大学非常勤講師。 昭和38年4月 大東文化大学経済学部経営学科教授となり、 昭和51年4月 大東文化大学経済学部長就任。 現在、大東文化学園理事、評議員、センチュリー監査法人名誉会長、代表社員。 公職としては、日本会計研究会理事、日本公認会計士協会学術賞審査委員などを歴任。 著書の主なものは、 「簿記教材」(明治大学出版部 昭和31年刊)、 「原価計算教材」(中央商科短大 昭和33年刊)、 「会計学の基礎理論」(産学社 昭和47年刊)、 「監査実務」(森山書店 昭和53年刊)等多数がある。 堂々たる体躯、渋くて深みのある声、それが時にはべらんめえになって河野一英先生の話術は迫力満点である。 生まれは大正九年、昭和十八年明治大学商学部を卒業し、同五十九年商学博士を授けられている。 著書・論文は数多く、会計学の泰斗として知られ、柔道は講道館四段の猛者である。 戦時中は海軍士官としてインド洋アンダマン島守備隊に勤務。 戦後、明治大学、大東文化大学、中央商科短期大学で教鞭をとり、現在はセンチュリー監査法人名誉会長、代表社員。 同監査法人は日本では五番目だが、世界最大のKPMGへの加入によって飛躍的に業容が拡大する。 海外との協議も頻繁で、百回目の渡航が最近日本経済新聞でも紹介されている。 まさに博学多識、話題は古今内外にわたって不足はない。 そこには政治や文化への注目するべき批判が展開されているが、その底には、天に対する謙虚な恐れの姿勢が貫かれている。 ●司会● 本誌副社長 伊藤千恵 日本が五輪に夢中だったとき世界は何を見ていたか ―― オリンピックが終わり、今度は甲子園の高校野球で日本の熱い夏がなお続いています。 そんな最中に先生のスカッとしたお話の切れ味を楽しみにして参りました。 清美 今日は「河野」姓が二人いますから、掲載するときはホストの私のほうは「清美」で、先生の方を「河野」とさせていただきます。 河野 いまお話のオリンピックですがね、日本人がみんな夢中でテレビを見ていたとき、世界は何を見ていたか。 心有る人たちはオリンピックどころじゃあない。みんな真剣にユーゴの収容所の映像を見ていましたよ。 清美 収容された人たちの悲惨なシーンが何度も映されていましたね。 河野 セルビア人がクロアチア人を収容所へ入れてひどいことをしている。 そんな状況がCNNやABCでどんどん流されていました。やられた人は金網のなかで骨と皮だけに痩せ衰えて実に悲痛でした。 あれを見て米国のブッシュ大統領も「けしからん」と怒った。民主党のクリントンは「もう武力介入をするべきだ」と言っています。 もともとブッシュは米国の地上軍を欧州へ持っていくのは反対だったのだが、クリントンは「もう見逃すわけにはいかん」と言い出した。 今まではブッシュは外交が得意で、クリントンは下手だという見方がなされていたのですが、最近ではクリントンが積極的に発言しているので、この評価に変化が現れているような気がします。 清美 サラエボの破壊なども深刻になっているようですが、ユーゴはこれから先どうなるのでしょう。 河野 国連も査察を入れようと言っているし、国際赤十字も「見にいかなければいけない」と言いはじめました。いまや全世界の注目がユーゴに注がれています。 清美 日本ではマラソンがどうだ、柔道がどうだ、金メダルか銀メダルか、それにみんなが一喜一憂していました。どうも申し訳ないようですね。 ダーウィンの進化論に対抗する「棲み分け」論 ―― 世界の状況について、私たちは知らないことが多すぎるように思います。 河野 先日京都大学名誉教授の今西錦司先生が亡くなられました。このかたは生物学、文化人類学、生態学などで多くの功績を挙げられたかたですが、特にその「棲み分け論」は世界に大きな影響を及ぼしました。 簡単に言いますと、チャールズ・ダーウィンの「進化論」は弱肉強食です。弱いものが強いものに殺されることによって、強いものが生き残り、これによって生物が進歩するという考え方です。 ところが今西先生はこれを批判した。弱いものは強いものとは別のところに棲んで、そこで集団をつくることによって生き残り、強いものとの共存ができる、というのです。これはサルの社会構成の研究でも明らかにされました。 清美 そういえば、弱いものでも地球上に生きのびている例がたくさんありますね。 河野 さつまラーメンのように、他と比べて強いものはダーウィンの「進化論」でやっていけます。そしてよりすばらしいものをつくり、より優秀なセールスマンが売り込めばいいのです。エリートは弱肉強食で競争をすればいい。 しかし、弱い業者はそうはいかない。それでも彼等は、たとえば同業組合をつくったりして生き残ることができます。 これの端的な例が米国社会です。日本人はリトルトーキョーをつくり、中国人はチャイナタウンをつくります。ユダヤ人はブロンクスに集まるし黒人はハーレムなどの地域にいたり、メキシコ人も自分たちで団結しています。 アメリカインディアンの街もあります。みんなそれぞれに「棲み分け」ているといえるでしょう。 ところが最近これがすこし崩れはじめているのです。というのはあのベトナム戦争のとき、これに参加した者には米国が永住権を与えることにしました。 そのために韓国の軍人でこの資格を得て米国へ永住する人がでてきた。場所によっては韓国人街のあるところもありますが、彼等は黒人の町でもイタリア人の町でも白人の町でもどんどん入っていきます。 そこで八百屋や魚屋や食料品店を始める。これがセブンデイオープン、つまり年中無休で二十四時間営業をするのでたちまち繁盛します。 こういうことが反感を買ったりして、この間のロサンゼルスのようにひどい目に合わされてしまったのですが、その理由のひとつは彼等が棲み分けをしないで、いわばダーウィンの世界へ入っていってしまったことによるのだと思います。 韓国人にしてみれば、米国は先進国であり文明国であり法治国だから、法律でしっかり守ってくれるものと期待していたのですから、その怒りと失意も大きかったことでしょう。 清美 ベトナム人はどうだったのですか。 河野 彼等も非常に優秀な民族で、米国の一流大学のトップクラスにたくさんはいっています。今年の空軍士官学校の首席卒業者はベトナム人でした。しかし、彼等は自分たちの町をつくろうとはしませんね。 エリートはダーウィン流でいいが、庶民大衆は棲み分けが必要ではないかと思いますね。いま、これが米国社会の成功と不成功の二両性となって現れています。 棲み分けていたものを強制的に潰した事実も 清美 ソビエトロシアの場合はどう考えるべきですか。 河野 かつてクリミア半島はトルコ領でした。スターリンが独裁者になって、この地の住民をタシケントとか中央アジアなどへ強制的に移動させました。そのあとに自分の別荘をつくった。 清美 ゴルバチョフもクリミアに別荘を持っていましたね。 河野 そこでは自然の形で棲み分けがなされていたのに、政治力で強制的にこれを潰してしまった。彼等は共産主義とか計画経済とかいう形で、人工的にいじることが多いので、さまざまな矛盾が起こる。 そのひとつの反動がいまグルジア共和国で起こっていますが、これもグルジアの町のなかにロシア人の町を強制的につくったことが原因なのです。 旧ソ連は国内で綿花がほしかった。そのために湖の水を別のところへ引いた。やがて湖は涸れてしまって、魚師が生活できなくなった……こんな例がいくつもあります。自然の理に背いて無理にやるとそのとがめがきっと出てきます。 清美 旧ソ連ではあちらこちらで民族の対立と抗争が噴出していますね。 河野 ユーゴでもそうですね。チトーという独裁者が、セルビア人とクロアチア人と、イスラム教徒がもとは分かれていたのを勝手にミックスさせたことが今日のような血で血を洗う戦争をもたらしているのです。 イラクでサダム・フセインがクルド人に対してやっていることも同じような行動です。 これはまさに天を恐れざる所業だと思いますね。独裁者がこれをやると悲劇が非常に大きくなります。 天の摂理に背いて人間の浅知恵ですべてを割り切ろうとすると、必ずアンバランスが起こります。これがあと大きな矛盾を残すことになるのではないかという不安が非常に大きいといわなければなりません。 神様は自然と同じだと説いたスピノザの思想 ―― このように地球上の人間による戦争が絶えないのを見ますと、神様はいらっしゃらないのかなあと愚痴も言いたくなります。 清美 戦争の大きな原因のひとつに宗教の争いがあります。お互いに自分の信じている神様に、極端に忠実であろうとするとどうしても相手を排除せざるをえないことになるのですね。 河野 オランダのユダヤ系哲学者にスピノザという人がいました。それまでは神はこの世をつくりたもうた絶対の存在だとされてきたのですが、これに対してスピノザは「神は自然だ」と唱えました。 のちにアインシュタイン博士が相対性原理を唱えたのもこのスピノザの哲学から思いついたものだといわれています。博士は彼の生家も訪ねています。 清美 神が絶対ではなくて相対だというと、拠りどころがなくなって困るのではないかという気がするのですが。 河野 神はイコール自然である、ということです。もうすこし言えば、神はイコール美であるということになります。 それまでは「神は万物の産みの親である」というような曖昧な説明しかできなかったのですが、スピノザによれば、神は空であり、海であり、そして晴天も雨天も台風もすべてが神なのです。 僕も昔、十七、八歳のころ一生懸命にカントを勉強した。が、わけがわからん。その点スピノザはわかりやすかった。 つまりまじめに一生懸命やっていればそれが神なのだ。 清美 すこしわかりかけてきました(笑い)。つまり真善美も自然もすべてが神なのですね。 河野 昔創価学会を作った戸田城聖さんも、このスピノザの哲学を頭に置いていたのだと僕は思うよ。創価学会も真善美に価値があるのだと言っている。 あなたはさっき神様が相対では困ると言いましたが、宗教も絶対から相対になってきたのです。キリスト教でもカトリックとプロテスタントができた。 日本の儒教でも勤労が一番美しいと言っている。つまり勤労がイコール美であり善である。すなわちこれが神なのです。今から二千五百年前の孔子のときからすでにアジアには宗教の相対性が入っていたのです。 お釈迦様は南無阿弥陀仏でお救いくださるけれど儒教はそうはいかない。働かなければ救われない。神様は摩訶不思議なものではない。人間が懸命に努力する。それがイコール神様なのです。 どこまでも深い自然の教えから何を汲み取るか 清美 よく「神様なんていないよ。それは人間の気休めだ」という人もいますが、私は神様は必ずいらっしゃると信じています。 河野 おたくのラーメンでも、この味が最高だと思ったらもうそれでおしまいでしょう。もつといいものにしよう、まだほかに方法があるはずだと、理想と現実を見据えてあらゆるチャレンジをする。 自分で鼻先へニンジンをぶら下げて、それに向かってトライするところに神様がおられるのです。 清美 そのための努力では人に負けない自信があります。 河野 僕は素人だが、やはり味の秘訣はニンニクとニラだと思うね。もちろんそれを引き出すためにはいろいろな企業秘密があるだろうけど。 中国人は豚肉が好きだが、その栄養を人間の実になるようにするにはヨードが必要だ。ところが中国の沿岸ではコンブができない。これを以前は北海道から輸入していた。 ところが第二次世界大戦のとき、北海道の人が大連へ行ってここの潜海湾で養殖することに成功した。この人は亡くなったが、そのお嬢さんがいま中国政府から非常にだいじにされているそうだ。 清美 人間の健康には正しい食事をとることが非常に大切ですね。 河野 医食同源というのは正しいと思うね。ニンニクやニラにはすばらしい成分があると思うよ。 ―― 人間が自然から教えられるところはまだまだ非常にたくさんありますね。 河野 シンガポールのある会社に日本から行っている中国人で游さんという人がいるが、この人は何かことがあるとすぐに奥さんに電話をする。「今日は残業だよ」などという電話です(笑い)。 そこでみんながからかうんだ。「あなたは奥さんの尻に敷かれている。ライオンでも虎でもオットセイでもみんな男が女を支配しているのに、あなたは何と情けないではないか。」 すると彼はこう答えた「オリエンタルは集団主義だ。日本でも天照大神は女性ではないか。卑弥呼もそうだ。蟻や蜂の社会を見なさい。女王が中心になってうまくまとまっているではないか」。 清美 それもそうですね 河野 すなわち、ライオンや虎やオットセイはダーウィンの弱肉強食の世界です。東洋では蟻と蜂の棲み分け社会でうまくいっているというのです。これも儒教の教えに結びつくものだと思います。 清美 先生のおっしゃられた事をいろいろ考えてみますと、まだまだ人間にはわからないことばかりですね。 河野 自然の奥はどこまでも深い。そこから何を汲み取るか、人間は決して思い上がってはいけません。天を恐れ、自然を恐れることが人間を間違った道から引き戻してくれるでしょう。 ―― 今日は重要なお話をどうも有難うございました。
脚注
関連項目
- 河野一英
- アメリカ合衆国の活力根源について - 「INTERNATIONAL TAXATION」月刊国際税務
- BC級戦犯60年目の証言と日本の戦争 - 「[連載]語り継ぐ戦争体験者の証言⑥」機関誌「わだつみのこえ」127号