「石渡貴洋(早稲田大学院)/弁護士ドットコム」の版間の差分
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2021年4月27日 (火) 21:20時点における版
当記事では弁護士ドットコムにおける石渡貴洋のインタビュー記事を掲載する。
ネットリンチで「電車に飛び込もうと思った」 AV購入履歴を晒された法科大学院生
ネットリンチで「電車に飛び込もうと思った」 AV購入履歴を晒された法科大学院生(魚拓) 2021年04月26日 09時45分 取材に応じる石渡貴洋さん 昨年5月、女子プロレスラーの木村花さんが亡くなった出来事は、あらためて、誹謗中傷が個人を追い込む「ネットの闇」を明らかにした。その後、社会全体で問題意識は高まってきたが、いまだ個人情報を晒すなど、加害行為を繰り返す「集団」もいる。 その標的となった1人が、法科大学院生の石渡貴洋さん(27)だ。住所や電話番号にとどまらず、アダルトビデオ(AV)の購入履歴まで暴露され、「電車に飛び込む一歩手前」まで追い込まれた。 法整備に向けた議論が進む中、石渡さんは、被害実態を伝えたいと「ネットリンチ」の全容を実名告白した。 ●現実のものとは思えない「混沌」とした感情になった 2019年10月17日夜、石渡さんは都内の自宅に1人でいた。疲れていたが、目の前のノートPCから目を離せなかった。1カ月半ほど前から始まった、ネット上での個人情報晒しは、エスカレートしていた。舞台となっている2つの掲示板をチェックする必要があった。 突然、まとまった情報が、別サイトからのコピペ、スクショのかたちで流れてきた。そこには「赤面発情」「キス魔変身」「ポロリ」「エッチ」などの単語が含まれていた。 目にした瞬間、心も体も固まった。どう考えても、世に出ることなどありえない情報だった。それは彼のAV購入履歴だったのだ。 どんなAVを見ているかは通常、他人には内緒にする。まして、誰でも目にすることができるネット上に、実名で、どのAVを買ったかを明らかにすることなどしない。 洋服や音楽、食べ物のお取り寄せの情報ならば、まだマシだろう。考えうる限り、「最も晒されたくない情報」が世に出された。その瞬間を石渡さんは、次のように振り返る。 「現実とは思えない、何が起きているのかわからない、混沌とした感情になりました」 ●ある「アカウント」が乗っ取られていた この「AV購入履歴」の晒しは、あるアカウントが乗っ取られたことから生じた。はっきりした危機の兆候は、実際の被害が起きる3日ほど前からあった。 アカウントに紐づけたアドレスに「不正アクセスの疑い」や「パスワードが間違っています」と告げるメールが、たびたび届いていた。自分を目の敵にする「集団」が、アカウントのハッキングを企んでいることは明らかだった。 この集団はネットスキルに長けているため、パスワードを変えるなどの対策では心もとない。狙われているアカウントからはAVの購入履歴のほか、メールや写真など、さまざまな情報もたどれる。アカウントそのものの削除が、情報を守るうえでは最適だ。 しかし、削除しようとしてもエラーが表示されて、実行できなかった。後日判明したことだが、たまたまシステム上のトラブルがあったようだ。 自分で削除できないならば、サービスを提供しているプラットフォーム企業に頼むしかない。ところが、問い合わせ先としてのメールアドレスも電話番号も見つからなかった。 頼ろうとした最寄りの警察署も動いてくれなかった。対策が取れないまま時間が経ち、石渡さんの懸念は悪いことに的中してしまった。 ●地道に情報を削除していったが・・・ 「秘密の質問の答え」が破られたのは、10月16日午後だった。 「一番好きな映画」の設定で、答えを「スパイダーマン3」にしていた。このアカウントを使い始めたのは、はるか昔の10代前半のころ。当時はネットの危険性に考えが及ばず、安易な答えを設定してしまった。 その集団は、アカウント名「spiderman070501」に着目。「070501」が同映画の公開日(2007年5月1日)であることなどから推測して、正解を導いた。 そして、パスワードを改変して、個人情報を晒していた掲示板に、新しくしたパスワード「ishiwataunko0303」を載せた。これが出てほどなく、石渡さん自身も掲示板チェックで情報をつかんだ。試しに入力すると、ログインできた。 このプラットフォームでは、一度設定した「秘密の質問の答え」は再設定できない運用になっている。そのため、石渡さんがパスワードを変えても、結局、「答え」を握った集団はパスワードを再更新できてしまう。 石渡さんがその時点でできたことは、アカウント内の情報を消すことだけだった。そこには、メール7万件、iPadの写真のバックアップデータ2万件、合計9万件の情報を保存していた。それを地道に消去する作業を開始した。 ●思い出すと「胸が苦しくなる」 情報量が膨大なため、一度に全部を削除することはできない。一定量を選択して、「ゴミ箱」に入れるという作業を繰り返した。 集団からすると、標的たる石渡さんのデータが減ってしまう。これを防ごうと、「秘密の質問の答え」からパスワードを再設定し、石渡さんを弾き飛ばすかたちで新しくログインしてくる。そして掲示板にメールなどを流出させる。 それに対して、石渡さんも同じ工程を経て、再ログインを果たす。 そのアカウントがあったシステムでは、石渡さんと集団が同時にログイン状態になることはない。石渡さんによる削除が20分続くと、集団による流出の時間が20分続く。こうした攻防は16日午後8時に乗っ取りが発覚してから、翌17日午前2時まで続いた。 石渡さんが1人なのに対して、その集団は複数で挑んでくる。掲示板を見ると、自分が大切な人とやり取りしたメールがリアルタイムで晒される。気力も体力も削られ続けた6時間ほどになった。 「思い出すと胸が苦しくなる。PTSD(心的外傷後ストレス障害)に近い出来事です」 ●「僕の人生は終わったな」 自分を信頼してやり取りしてくれていたメールの相手方などには、できるだけ迷惑をかけたくない・・・。こうした意識が優先して、16日夜には、このアカウントとAV購入履歴が紐づいていることは、すっかり失念していた。 17日昼間にも警察署に相談に行った。夕方になり、一息ついたのも束の間、夜になってAV購入履歴が晒されたのだ。 あまりにとんでもないことが起きると、人は現実逃避に走る。 石渡さんは、掲示板で情報を見つけた後、2時間ほどベッドで寝た。当初の「混沌とした感情」がふくらみ、PCに映されている「ポロリ」などの文字が現実だと信じられなくなった。そこには多分に「信じたくなかった感情」も入っていただろう。 しかし、仮眠を終えて、さえた頭でディスプレイを何度チェックしても、おぞましい現実は起こっていた。 「僕の人生は終わったな」 そう考えざるを得なかった。 ●「僕の人生は終わったな」 追い込まれた石渡さんは10月19日の深夜、都内の地下鉄・飯田橋駅のホームに立っていた。終電近い時間帯ながら、ホームにはまばらに乗客がいたことを記憶している。 やってくる電車に飛び込み、自らの命を絶とうとしていた。 社会はネット上での誹謗中傷に対し、あまりに無関心だった。今振り返ると多くの友人、知人から支えを得ていたが、衝撃的な出来事が重なり、絶望感が募っていた。警察などに連絡を取って相談し、被害回復ができないかと動いても、社会は当然のように何もしてくれなかった。次第に「あがいている自分こそが異常なのだ」と思うようになった。 ほどなく「僕は死ぬべき」との結論に至った。そして実行に移そうとした。 しかし、いざというときを迎えると、違う考えになった。 ネット上での誹謗中傷に限らず、何らかの不条理に追い詰められて、人生に価値を失っていった人たちは多い。彼らはおそらく、有形無形のSOSを社会に出しながら無視された。その結果、希望をまったく見いだせなくなり、最終的な選択をしたのだろう。 法律を学んできた自分の原点は、社会の不条理さと向き合うことにあったはずだ。だったら、自分だけでもその不条理さと真正面から向き合ってみるべきなのではないか・・・。 「僕は生きるべき」。ホームに立つ前と正反対の「答え」を導くことになった。それはPC画面上ではなく、リアルな現場でこそつかめたものだった。 石渡さんはメディアに出て被害を告白できるまでに立ち直った。しかし、受けた「ネットリンチ」に対する被害は回復されていない。そして、今でも、他者に知られたくない情報を晒してもて遊ぶ「集団」は活動を続けている。 【つづきを読む #2】 きっかけは「唐澤弁護士」のウィキ作りだった…恒心教に狙われた法科大学院生 https://www.bengo4.com/c_23/n_12986/ 【#3】恒心教から攻撃、警察は塩対応…それでも「友人の言葉」に救われた https://www.bengo4.com/c_23/n_12987/ 【#4】「炎上覚悟」 恒心教に狙われた法科大学院生が「実名告発」に踏み切った狙い https://www.bengo4.com/c_23/n_12988/
きっかけは「唐澤弁護士」のウィキ作りだった…恒心教に狙われた法科大学院生
きっかけは「唐澤弁護士」のウィキ作りだった…恒心教に狙われた法科大学院生(魚拓) 2021年04月26日 09時50分 取材に応じる石渡貴洋さん アダルトビデオ(AV)の購入履歴をネットに流され、一時は自殺を考えた石渡貴洋さん(27)。彼を追い詰めたのは、サイバー空間の悪質な集団「恒心教」(こうしんきょう)だった。 恒心教は個人情報を晒すほか、日常的に施設への爆破予告をおこなうなど「犯罪行為」にも手を染めている。逮捕者を出しても活動がおさまる気配はない。石渡さんの被害事実などから、「ネットの闇」そのものと言える恒心教の実態を報告する。 ●爆破予告を繰り返す「恒心教」 今年3月上旬、恒心教と称する一人、大学院生の男性(当時23歳)が、強要の疑いで書類送検されたと複数のメディアが伝えた。報道によると、男性は昨年7月、高校生を脅して、「ネット上の掲示板に書き込まれた爆破予告を見た」と関係各所に通報させようとした疑いがある。 実はこの男性は昨年11月にも、警視庁に逮捕されたことがニュースになっている。このときは、ネット上の掲示板に高知県内の大学を爆破すると書き込み、授業を休講させたなどとする威力業務妨害の疑いだった。 「爆破予告」が出されれば、高知の大学のように休講措置を取る場合もあるし、店舗ならば一時休業の対応をせざるを得ないかもしれない。少しの良心があれば、自分が発する予告が多くの人に迷惑をかけるとわかる。 しかし、恒心教には、そうした良心は欠けているようだ。 自分の名前が使われて、大学や施設など数多くの施設への爆破予告を出された石渡さんは話す。 「彼らは、予告が広まって、現実に被害が出ることをむしろ楽しんでいます。仲間から逮捕者が出ても変わっていません。捕まらないように混乱を起こすことが愉快でたまらない。報道が出ても、単に『捕まる奴はやり方が馬鹿』だとの結論で済ませている」 ●唐澤貴洋弁護士をターゲットとした集団」 こんな活動をしている恒心教とは何者なのか。恒心教には宗教の「教」の字が使われているが、特段、新興宗教などのたぐいではなく、あくまでネット上のつながりだ。そのため教えを伝える教祖もいない。 ネットで個人攻撃をし、学校や公共団体などを相手に爆破予告などを繰り広げてきた。 ただし、彼らが一方的に「尊師」の名称をかぶせている弁護士がいる。『炎上弁護士』などの著者があり、NHK番組「逆転人生」でも取り上げられた唐澤貴洋氏だ。 かつて唐澤氏がネット炎上した相談者の支援に乗り出したところ、ネット民の一部が逆に唐澤氏を攻撃対象にし始めた。2010年代の初めごろだ。「恒心」の文字も、当時、唐澤氏が開いていた法律事務所名から取られている。 それから10年ほど経つが、彼らは唐澤氏の動向を細かくチェックし、ネットで更新することを続けている。さらに唐澤氏だけに飽き足らず、何か絡めるネタを与えた人物を炎上対象にしている。昨年は、ある男性YouTuberを標的にした。 石渡さんは、いまだ唐澤氏と直接、面会やメールなどでやり取りをしたことはない。しかし、2019年秋、ある行為をしたことで恒心教のターゲットにされてしまった。 ●唐澤弁護士のウィキをつくろうとしたところ・・・ 「AVの購入履歴まで晒された現時点で振り返ると、私のやり方は、たしかにつたないものでした。しかし、あの時点では、恒心教徒(恒心教のメンバーのこと)が僕を攻撃対象にするとは夢にも思いませんでした」 石渡さんが「つたない」と表現したのは、唐澤氏のWikipedia(ウィキ)ページを開設しようとしたことだ。 石渡さんと唐澤氏には共通点がある。時期は違うが同じ法科大学院に通い、下の名前が共に「貴洋」という点だ。石渡さんは、唐澤氏に一方的な親近感を抱き、同時に唐澤氏がネットリンチの被害に遭っていることを気にかけていた。 ところが、唐澤氏のことをネットで調べようとしても、貶める情報しか検索では引っ掛からない。恒心教がマイナス情報を大量に発信し続ける「検索汚染」を成し遂げた結果だ。 石渡さんは「対抗言論」に出ようとした。検索汚染に負けないぐらい、唐澤氏の客観的で中立な言論があったほうが良い。こうした言論による対抗行為で、唐澤氏の正確な姿を世に伝えようとした。 その具体的な方法として採用したのが、ウィキページを作ることだった。 ●自分の名前を使った爆破予告がはじまった しかし、唐澤氏のウィキを作ることは、恒心教の間ではご法度だった。唐澤氏のウィキがないのは、過去に何度もページが作成されては、そこで誹謗中傷が繰り返されたことによるものだった。石渡さんは、こうした経緯を知らなかった。 さらに誰に相談するわけでもなく、1人勝手に次のように誤解してしまった。 「恒心教徒は、自分たちのネタである唐澤氏を有名にさせたがっている節もある。ウィキの作成は、彼らにとっても怒ることではないだろう」 今となってはわかるが、結局、彼らはただ何でも炎上させたがるだけの愉快犯たちだった。しかし、当時はその実態を知らず、何かしら目的を持っていると考えてしまった。 2019年9月3日夕刻、唐澤氏のウィキをつくると、恒心教は色めき立った。「尊師(唐澤氏)の検索汚染が浄化されそうになっている」。そして「尊師のウィキを勝手に作った奴は、どこのどいつだ」と特定が始まった。 石渡さんは、こうした展開を予想しておらず、自分の情報を守るための対策を取っていなかった。あっという間に氏名の漢字表記、フェイスブックページなどが突き止められた。 そして、石渡さんの名前を使った殺害、爆破などの犯罪予告も始まった。 9月6日夕刻には「9月10日午後(中略)、司法試験合格発表掲示板前に大型トラックで突っ込んで大量殺人を実行します」と掲示板に書き込まれた。 さらにこの書き込みのスクリーンショットが複数のアカウントでツイッターに転載された。一部の法曹関係者も、殺害予告などの内容が真実であることの確認もせずに次々とリツイートをおこなったため、情報は石渡さんの周囲にも瞬く間に広がった。 石渡さんは9月7日、友人から教えてもらい、初めてこうした事態になっていることを知った。ほどなく犯罪予告の対象となった団体などから電話を受け、説明や謝罪に追われる事態となった。 ●感覚が麻痺して、何も感じなくなった 当初はこうした問い合わせの対応には、慣れずに苦慮した。貴重な時間が取られることにバカバカしさも感じた。ただし、石渡さんがどう感じようとも事態は悪化の一途をたどった。 ネットを見れば、自分への殺害予告が出ている。縁もゆかりもない県の警察から「あなたの名義で犯罪予告がされたのですが・・・」と疑いの連絡を受ける。 さらに、電話番号が晒されるようになると、なりすまして登録された闇金業者から電話がかかってきた。日夜、無言電話やいたずらのショートメッセージも届くようになった。 特に対処が面倒だったのは「パンフボム」。なりすましで、企業に資料請求をしまくる悪質行為だ。帰宅すると自宅マンションに設置された小さい郵便受け周辺にあふれている資料を片付けないといけない。一度の掃除で、ゴミ袋複数個分を回収したこともあった。 こうした出来事が続くと、「感覚が麻痺して、何も感じなくなりました」(石渡さん)。 そんな境地に至っても2019年10月中旬に起きた「AV購入履歴」の流出はきつかった。一連の個人情報晒しの中でも「精神的にダメージが大きかった」という。 それでも周囲の支えで、なんとかしのいできた。電車への飛び込みを実行しようとした直前にも、女性の友人に話を聞いてもらっていた。 彼女は別れ際、「気分が楽になるよ」とある錠剤をくれた。本物の向精神薬だったか、単にプラシーボ(偽薬)効果があったのかは、今となっては不明だ。 それを飲んで現場に立つと、「死ぬべき」から「生きるべき」に考えが変わった。この劇的な変化の陰に「薬が何かしら作用した」と彼女には心から感謝している。 ●「ネットでの誹謗中傷が非日常のものになってほしい」 一連のつらい経験があるだけに、石渡さんはネットに関する司法(検察を含む)の動きに敏感だ。 最高検察庁は組織改変し、4月1日に「先端犯罪検察ユニット(JPEC)」と名付ける専門部署を設けた。情報通信技術を悪用した犯罪に対応するためで、各地の検察庁の捜査、公判を支援するとされる。 石渡さんは、この動きを「ネットによる犯罪の匿名化、広域化に真正面から向き合う姿勢を示した」と歓迎している。 そして司法に期待すると同時に、私たち市民がネットでの誹謗中傷にどう向き合うべきかも考え続けている。 身近にそうした被害を受けた人がいたとする。あなたは思わず、「ネットなんかそんなものだから気にするな」と励まそうとしないだろうか。 こうした反応をしてしまうのは、ネットでの誹謗中傷が日常となっているためだ。 「しかし、本当にそれでいいのでしょうか」と石渡さんは問題提起する。 この告発記事が出ると、恒心教は確実にネタにしてくる。それがわかっていても、今回、実名を出してメディアに出ることを決めた。 それは「ネットでの誹謗中傷が非日常のものになってほしい」という思いからだ。1回の告発で終わらせず、継続して社会に訴えていく覚悟もできている。 【はじめから読む #1】 ネットリンチで「電車に飛び込もうと思った」 AV購入履歴を晒された法科大学院生 https://www.bengo4.com/c_23/n_12985/ 【つづきを読む#3】恒心教から攻撃、警察は塩対応…それでも「友人の言葉」に救われた https://www.bengo4.com/c_23/n_12987/ 【#4】「炎上覚悟」 恒心教に狙われた法科大学院生が「実名告発」に踏み切った狙い https://www.bengo4.com/c_23/n_12988/
恒心教から攻撃、警察は塩対応…それでも「友人の言葉」に救われた
恒心教から攻撃、警察は塩対応…それでも「友人の言葉」に救われた(魚拓) 2021年04月26日 10時00分 取材に応じる石渡貴洋さん サイバー空間での悪質組織「恒心教」(こうしんきょう)に繰り返し誹謗中傷された石渡貴洋さん(27)。アダルトビデオ(AV)の購入履歴を流出させられる「最もきつい被害」を受けた裏には、警察の動きの鈍さがあった。一方、この「AV晒し」に対して、「あなたの評価は変わらない」と救いの言葉を向けたのは、意外にも女性の友人だった。 ●生活安全課に何度もお願いしたが・・・ 2019年10月中旬、石渡さんは、どうしようもなく焦っていた。当時、最もよく利用していたあるアカウントが乗っ取られるかもしれない危機にあった。 メールや写真、ネット通販の購入履歴などを完全に守るには、アカウントを削除するしかなかった。しかし、実行しようとしてもエラー表示が出てしまう。 後日わかったのだが、このアカウントを提供しているサービスは決済システムの移行期にあたり、一時的にアカウント削除ができないバグが起きていた。 このアカウントを提供しているプラットフォーム企業は、問い合わせ先を開示していなかった。時間がない中、頼れる先は警察しかなかった。 しかし、最寄りにある警察署の生活安全課は「塩対応」に徹していた。連日のように電話、訪問を繰り返して、同じお願いをした。 「アカウント削除するために、警察が知っている連絡先を使ってプラットフォーム企業にコンタクトしてほしい」 すでに住所や電話番号、生年月日などが晒されていた。恒心教の執拗さは、同年9月上旬から始まった被害経験で十分に理解していた。ともかく、徹底的に個人情報を暴きにくる。 しかし、石渡さんの希望とは裏腹に、同課の警察官は電話1本、メール1通してくれなかった。 そこには伏線があった。同年9月末、彼らはある結論を出していた。 ●完全にアカウントが乗っ取られていないと対応してもらえない このアカウントは、パスワードを忘れた人向けに救済措置を設けていた。当時、そこではID、登録アドレス、生年月日を入力したうえで、「秘密の質問の答え」を入力する手順になっていた。 恒心教は、入力項目になっている「答え」以外は、個人情報の探査で入手していた。彼らは、パスワードを推測して打ち込み続ける直接解除を試みながら、最後のカギとなる「答え」を求めていた。 手当たり次第に入力することから、石渡さんの元には「答えが間違っています」という内容を記したショートメッセージが次々と届いた。 石渡さんは、勝手に個人情報を打ち込み、「秘密の答え」の照合行為をおこなっているのだから「不正アクセスになる」と考えた。 それに対して、同課の警察官は「アカウントが完全に乗っ取られていない以上は、不正アクセスとは解釈しない」。頑として、この説を変更することはなかった。 石渡さんはこのとき、不正アクセス禁止法に基づく告訴状・告発状を持参していた。警察が受理して、事件として捜査に動くことを期待していた。 ところが、対応した生活安全課の警察官や同課の課長は「実務上、そんな簡単に告訴や告発状は受理していない」「不正アクセスには当たらないという見解がある以上、受理できない」と繰り返す。 さらに、他部署に回すべく「刑法犯(電磁的記録不正作出罪)として、刑事課でやってもらうのが筋なんじゃないか」。このように話にならない対応に終始した。 ●別の警察官が一緒にプラットフォームに連絡してくれた 「AV晒し」を受けた翌10月18日に署に出向いて、被害を伝えた。 最も知られたくない情報が流出したにも関わらず、「うちでは取り扱わないって言っているだろ」。さらに「実家に電話して言えばいい」と言われ、しまいには「帰れ」。 炎上被害にあった9月上旬から、同課には通っていた。たまたま通りかかった同課長に「もう自殺します。それで良いんですね」と迫った。それを見ていた、別の警察官がようやく取り合い、一緒にプラットフォーム企業に連絡を入れてくれた。 プラットフォーム企業への連絡が済むと、その日のうちにアカウントは削除できた。 なお、最終的にアカウントが完全に乗っ取られたにも関わらず、同課は、石渡さんの告訴状・告発状を受理していないという。彼らがいう「不正アクセスにあたる完全なる乗っ取り」となっているのにだ。 このようにネット上での誹謗中傷などに対する告訴状や告発状が受理されないケースは、過去にもニュースになっている。女優の春名風花(愛称・はるかぜちゃん)さんの事例だ。 彼女は2020年1月、SNSの投稿で名誉毀損されたとして、神奈川県警に告訴状を提出しようとしたところ拒否されたと公表した。母親に「うちはそういうのやってないから」と電話がかかってきたとした。 県警の言葉の軽さもあり、ニュースになったことで批判が殺到。後日、県警は告訴状を受理し、捜査が始まった。 その後の報道によると、SNSへの投稿者は春名さんに告訴の取り下げを依頼して、315万円の示談金を払ったとされる。 ネット上で安易に誹謗中傷したことが高くつくことになったが、こうした事例はレアだ。弁護士に依頼して対処するには時間も費用もかかる。そもそも投稿者に一定のネットの知識があると、足をつかないかたちでネットに書き込みができてしまう。 ●女性の友人に支えてもらった 警察の対応が鈍く、石渡さんはAVの購入履歴を晒されてしまった。それまでに自分の名前で爆破予告を出され、なりすましで資料請求される「パンフボム」も経験した。こうした一連の被害の中でも、この「AV晒し」は「精神的にきつかった」。 救いとなったのが、信頼できる友人が複数いたことだ。その中でも、特にある女性2人とは、LINEのグループを作り、頻繁にやり取りしていた。うち1人は、自分の代わりに情報が出てくる掲示板をチェックするとまで言ってくれていた。 AVの購入履歴が出てほどなく、彼女に電話をして事実を明かした。極めて口にしがたく、恥を忍んで伝えた石渡さんに対して、彼女の返事は期待以上だった。 「AVの情報うんぬんで、石渡くんの評価は変わらないから」 もう1人の女性も「それは言葉出ないことだね。つらいね」と心からの同情を寄せてくれた。 2人とも特段に騒ぐことなく、話を聞いてくれた。この2人の対応に、石渡さんは「かなり救われました」と振り返る。 ●「正義感」をより良いかたちで発揮したい 最初の炎上から1年半になる。ようやく、AVの件も含め、友人に笑い話として披露するぐらいに折り合いをつけられるようになった。 それでも、ネット上での一連の大炎上をすべて受け入れられているわけではない。炎上前に戻れたらと考える時もあるが、到底無理なため、現実を受け止め進もうとしている。なかったことにしたい経験だが、「プラスに考えていくほかない」。 ことの発端は、恒心教が「尊師」と呼んでいる唐澤貴洋弁護士のWikipediaページを作ったことだった。ネット上で悪口ばかり書かれている唐澤氏の違う面を伝えようとした。石渡さんなりの「正義感」に基づく行動だったが、恒心教の逆鱗に触れた。 石渡さんは自分自身の性格を「負けん気、正義感が強い」と分析する。そして27年の人生を「自分が正しいと思う信念に基づいて生きてきた」と捉えている。 こうした価値観や生き方に、今回の経験は大きな影響を与えている。それは、ある法曹関係者が、石渡さん宛てのメールに記した言葉を大切にしていることからもわかる。 「正義感に基づく行動であっても、むしろそのようなときこそ、自分を信じず、『ほかにより良い方法があるのではないか』と先達の意見を聞くことにより、石渡さんの一番星の一つである正義感、共感力はより最大化されるものと信じています」 これからの人生では「正義感」「共感力」をより良いかたちで発揮するつもりだ。 【はじめから読む #1】 ネットリンチで「電車に飛び込もうと思った」 AV購入履歴を晒された法科大学院生 https://www.bengo4.com/c_23/n_12985/ 【#2】きっかけは「唐澤弁護士」のウィキ作りだった…恒心教に狙われた法科大学院生 https://www.bengo4.com/c_23/n_12986/ 【つづきを読む #4】「炎上覚悟」 恒心教に狙われた法科大学院生が「実名告発」に踏み切った狙い https://www.bengo4.com/c_23/n_12988/
「炎上覚悟」 恒心教に狙われた法科大学院生が「実名告発」に踏み切った狙い
「炎上覚悟」 恒心教に狙われた法科大学院生が「実名告発」に踏み切った狙い(魚拓) 2021年04月26日 10時05分 取材に応じる石渡貴洋さん サイバー空間の悪質組織「恒心教」(こうしんきょう)の攻撃対象になり、アダルトビデオ(AV)の購入履歴を晒された過去を持つ法科大学院生、石渡貴洋さん(27)。ひた隠しながら生きることもできたが、今回、実名で「ネットリンチ」の実態を告発した。「恒心教が悪いだけでなく、法整備の欠如も問題」という主張や、被害当事者となり初めてわかった「戦う気持ちすら持てなくなる」実感について聞いた。 ●社会に問題を顕在化させたかった ――公にするのが極めてはばかられる「AV晒し」も含め、実名で取材に応じた理由は? 主に2つあります。AVの件も含め、一度ネットに上がった情報は消せません。恒心教が使う掲示板などで、あれこれ言われるならば、自分からオープンにしてしまったほうが清々します。 昔から、冤罪事件に関心を持ってきました。高校のときには、足利事件で無罪判決を得た菅家利和さんに直接会って話を聞きました。最近では、袴田事件の袴田巌さんにお目にかかっています。 「誰かを犠牲にして、人知れず闇に葬り去ることは許せない」という思いが強いから、こうした関心を持つのでしょう。今回受けた被害を何とか消化しようとしたとき、取材に応じて、問題を社会に顕在化させる手段が僕にとっての最適解でした。 ――もう1つの理由は? もちろん加害者たる恒心教は悪い。ですが、同時にネットリンチに遭った被害者が、社会で、いろいろなところにSOSを出しても、誰も助けてくれない問題に直面しました。AV晒しにつながるアカウント乗っ取り前に警察に相談したのですが、まったく対応してもらえなかった。 こうした事態を招く、法整備の欠如を指摘したい。法整備がされない背景には、市民が無関心であった経緯もあります。この流れを断ち切るために、恥を忍んで実名で応じました。 ●パンドラの箱を開けたかもしれない ――法科大学院で法律を学んでいる立場から、どんな「法整備の欠如」を指摘するか? 2020年5月、女子プロレスラーの木村花さんが、SNS上での誹謗中傷を受けて自殺しました。この事件を受けて、政府もようやく対応や議論を加速させています。 昨今議論されている法改正には、一定の評価はしています。芸能人や著名人への誹謗中傷に、ある程度は役立ちそうだからです。 しかし、ネットの悪用に長けている人々には効果が期待できません。 恒心教は、2019年には新潟県警のサーバーに、2020年にはコロナ禍の国立感染症研究所のサーバーに侵入しています。彼らはTor(トーア)と呼ばれるツールなどで海外サーバーを経由し、自分たちの通信に足がつかないことを知っています。 また、恒心教は誹謗中傷を書き込む掲示板やサイトを「防弾ホスティング」に立ち上げます。このサーバーは、利用者情報などを外部に一切情報提供しない契約にあります。主に海外のものが使用されるため、特定が非常に困難になります。 恒心教に対しては、今の政府の対応方針では、被害者救済はまったく見込めません。 それどころか最悪のシナリオは、恒心教の手口が一般化することです。先ほど、今回の法改正が「芸能人や著名人への誹謗中傷にはある程度役立つ」と申し上げましたが、実は、パンドラの箱を開けたかもしれない危惧もしています。 ●あえて「ブロッキング」を提案する ――恒心教対策としてできることはあるか? 特定のサイトに接続させない「ブロッキング」(接続遮断措置)を誹謗中傷の場面でも真剣に考える時期に来ているのではないでしょうか。 児童ポルノでは効果を上げています。自主規制として一般社団法人「インターネットコンテンツセーフティ協会」(ICSA)がおこなっています。 ――健全な批判と悪質な誹謗中傷の線引きなど、実施にはかなり難しい問題がありそうです。 僕自身、考えうる限りの悪口をネットで書かれましたが、やはり「表現の自由」は重視する立場です。 その前提のうえで、あえてブロッキングを提案します。 児童ポルノと同様、民間団体による緊急避難的な自主規制が望ましいです。 同時に裁判官による差止令状のような制度を創設する。そして民間団体のリストから漏れた違法サイトに関しては、被害者の相談を受けた警察官が差止令状の発付を受けて、さらにリストに追加させるなどの仕組みが考えられます。 ●恒心教徒の特徴 ――被害を受けて、何かご自身が変わったことは? 被害者の心情を理解しないといけないと特に感じました。 先ほど、少年のころから冤罪事件に興味があったことを話しましたが、やっていないのにやったと言ってしまう「冤罪の構造」も身に染みた気がします。 実際に不条理な被害に遭うと、間違っていることに毅然と発言する気持ちや、降りかかる不正義に悠然と立ち向かう気力が、一切生じなくなります。僕の場合、ただただ面倒で、何もかもが嫌になりました。 そうした悪循環が、自殺を選択させることに繋がります。 ――そこまで追い込んできた恒心教とは何者なのか? 詳しいことはわかりませんが、そのメンバーは入れ替わり立ち替わりしているようです。2010年代の始めごろに唐澤貴洋弁護士をからかい始めてから、ずっと活動している人は稀だと見ています。 一方で、共通の特徴があります。 僕だけでなく、ほかの被害者に対する攻撃も踏まえた見解ですが、まず、弁護士だの社長だの学歴だのと攻撃対象の「肩書」にこだわります。 妬みの感情も強いです。リンチする対象より、自分たちのほうが優れている、と感じていたいのでしょう。たとえば、僕がPCを自作していると掴んだときにも、彼らは若干ざわついていました。「石渡のくせにPCを自作してるなんて」とでも言いたいような反応でした。 人間関係にも食いつきます。いろいろな被害者に対して「友だちが多いと言ってるけれど、本当はいないだろう」「こんな奴に彼女や妻がいるわけないだろう」とか。 自己顕示欲が強く、独りぼっちで、子どもか、あるいは大人になりきれていない大人であることが見て取れます。 ●誹謗中傷された人に寄り添ってほしい ――今回の記事が出ることで、そんなメンバーから再度ネットで叩かれる可能性もある。 もちろんそのリスクはあるでしょうが、仕方ありません。 取材を受けている今や、法科大学院で過ごしている時間はリアルです。一方、恒心教から被害を受けているのは、バーチャルになります。 しかし、このリアルとバーチャルは分断している別の世界でなく、どちらも並列で起きている現実です。だからこそ、現実から目をつぶって逃れるよりも、受け入れざるを得ません。 そうした点からも、誹謗中傷を受けた人には「ネットなんて見なければ良い」とアドバイスしてほしくない。「それは辛いね」と寄り添ってあげてほしい。その対応こそ、バーチャルで誹謗中傷を受けている「現実」に向き合ってあげることに繋がります。 ――多くの人がネットに費やす時間を増やす中、そうした考えは賛同できる。 ネットで大炎上をしても、人生は切れ目なく続いていきます。 私は、2016年にすい臓がんで亡くなったジャーナリストの竹田圭吾さんが好きでした。 彼はがん発覚後、「ちょっと種類が違う人生が、その後に続くだけ」という発言を残しています。進行したがんが見つかっても、「人生終わりというわけではない」と前を向いていました。 炎上を経験した僕にも、すごくしっくりくる言葉です。 僕だけでなく、炎上で苦しんでいる人が大勢います。被害者になったからこそ、こうした人を心底理解できる。 これからの人生では、自分の居場所で、できることや求められたことをしていくつもりです。そうすることで、僕の「ちょっと種類が違う人生」も、きっと価値のあるものになるだろうと信じています。 【はじめから読む #1】 ネットリンチで「電車に飛び込もうと思った」 AV購入履歴を晒された法科大学院生 https://www.bengo4.com/c_23/n_12985/ 【#2】きっかけは「唐澤弁護士」のウィキ作りだった…恒心教に狙われた法科大学院生 https://www.bengo4.com/c_23/n_12986/ 【#3】恒心教から攻撃、警察は塩対応…それでも「友人の言葉」に救われた https://www.bengo4.com/c_23/n_12987/