「唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成27年(ワ)第8276号」の版間の差分
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2016年7月9日 (土) 18:08時点における版
原告 ロイヤルネットワーク株式会社
同代表者代表取締役 Z1
同訴訟代理人弁護士 ○○○○
被告 株式会社NTTドコモ
同代表者代表取締役 Z2
同訴訟代理人弁護士 上田雅大
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
第2 争点及び当事者の主張等
本件は,原告が,インターネット上の匿名掲示板に記載された記事が原告の名誉を毀損するものであり,原告の権利を侵害することが明らかであると主張して,電気通信事業者として記事の発信者の情報を保有する被告に対し,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき,発信者情報の開示を請求する事案である。
1 前提となる事実(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,クリーニング業を営む株式会社である(弁論の全趣旨)。
(2) 被告は,電気通信事業を営む電気通信事業者であって,インターネット接続サービスを提供しており,プロバイダ法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。
(3) 氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は,インターネット掲示板2ちゃんねる(http://<以下略>)(以下「本件掲示板」という。)の「□□□□□□□□□□」,「△△△△△△△△△△」とのスレッドにおいて,別紙情報目録記載の情報(以下「本件情報」といい,目録の[1]などの番号に従って「本件情報1」などという。)を発信した(甲1,2)
(5) 原告は本件掲示板を管理するRace Queen Inc.に本件発信者に係る発信者情報の開示を請求し,別紙情報目録記載のIPアドレス及び投稿日時の開示を受けたところ,これらのIPアドレスは被告の保有に係るものであり,本件発信者は,被告が提供するインターネット接続サービスを経由して本件情報を本件掲示板に発信したことが明らかとなった(弁論の全趣旨)。
2 争点及び当事者の主張等
本件の争点は,本件情報の投稿によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるかどうかである。
(原告の主張)
(1) 本件情報1は,原告の従業員が,インターネット上において,顧客について「ワキガ臭」がするなどと侮辱していると一般の読者をして誤信せしめ,もって,その社会的評価を著しく低下させるものである。
(2) 本件情報2は,原告において,「サビ残」があると記載し,原告において違法な労働環境が常態化していると一般の読者をして誤信せしめ,もって,その社会的評価を著しく低下させるものである。
(3) 本件情報3は,顧客に対して,「頭がイカれているババァ客を出禁にするにはどうしたらいい?」,「馬鹿にしたくて喧嘩売りに店に来ているようなババァ」と記載し,原告の従業員が,インターネット上において,顧客のことを侮辱し又は顧客に対する名誉毀損行為をしていると一般の読者をして誤信せしめ,もってその社会的評価を著しく低下させるものである。
(4) 本件情報4は,顧客に対して,対応すると「ノイローゼになりそう」な「嫌な客」がいると記載し,原告の従業員が,インターネット上において顧客を侮辱し又は顧客に対する名誉毀損をしていると一般の読者をして誤信せしめ,もっとその社会的評価を著しく低下させるものである。
(被告の主張)
(1) 本件情報1,3及び4は,単に投稿者の体験に基づく感想を述べているものと受け止められるに過ぎないものであり,原告の社会的評価を低下させるものでないことは明らかである。
(2) 本件情報2は,原告においてサービス残業が行われている事実を摘示するものであるとしても,直ちに原告の社会的評価を低下させるものといえるか疑義がある。また,仮に原告の社会的評価を低下させる側面があるとしても,投稿内容は非常に具体的なものであり,内容が真実であって,公共性及び公益目的があり,違法性阻却事由が存在する可能性があるから,権利侵害が明白であるとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 本件情報に係る記事の投稿による原告の権利侵害の明白性
一般に,ある表現が,他人の社会的評価を低下させるものとしてその名誉を毀損すると評価されるかどうかについては,一般読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである。
本件情報に係る記事(以下,情報番号に対応して「本件記事1」などといい,これらをまとめて「本件記事」という。)は,本件掲示板の特定のスレッドへの投稿記事であり,これらのスレッドに「ロイヤルネットワーク」という名称が使用されていることから,本件記事は,原告に関心がある不特定多数の者が閲覧する可能性がある。
そのような読者の通常の注意と読み方は,前後の投稿記事やスレッド全体を参照して当該記事の意味するところを理解しようとするものではなく,あくまでも当該記事自体の記載から読み取ることができる内容を把握するというものであるから,本件情報が流通したことによる権利侵害の有無を判断するに当たっては,本件記事の具体的な表現内容から権利侵害を認定することができる必要がある。
そして,権利侵害が「明らか」であるとは,違法性を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことまでを意味すると解するべきである。
2 本件記事の内容(甲1)
(1) 本件記事1
「すんげぇイケメンが夕方にスーツを出しに来た,直前に来てたおじさんがワキガ臭のワイシャツ10枚出してて店内に苦いニオイが充満・・・
絶対アタシがワキガだと思われただろうな・・・チッ!」
(2) 本件記事2
「受付もサビ残ありますよ・・・。一番酷い時で閉店後4時間タグ付けとか・・・増税前日(3月31日)のタグ付けは閉店後~朝5時まででした・・・」
「外部の労働評議会ってゆう法人のアンケートです。それを元に本部に話合いするとか・・・郡山だったかなぁ・・・そこの人達の告発(?)だと書いてました。労働評議会が調べたら,違法な雇用形態が明らかになったとか。上は嫌がらせと中傷団体だと言ってるけど,知り合いに聞いたら労働監督署の外部組織だよって言ってました。
本当かどうかわかりませんが・・・
長文失礼しました〈(_ _)〉」
(3) 本件記事3
「頭がイカれてるババァ客を出禁にするにはどうしたらいい?マジで業務に差し支えるくらい酷い
上に相談したところで守ってくれない(そんなんでも客は客と売上げ重視)
当店のご利用はお断りいたしますとか言っちゃってもいいかな?
馬鹿にしたくて喧嘩売りに店に来てるようなババァでウンザリする
某クリーニング店のサービスは良いのにここの店はブスしかいない!
お前の顔見てると殴りたくなる!とか言われながら接客してます
Yシャツ1枚は必ず出すから一応は客なわけで
受付けのみなさんならどうします?ちなみにマネージャーとブロック長は助けてくれません」
(4) 本件記事4
「レスありがとうございます
どこでも嫌な客はいるんですね,もう店に行きたくないです
ノイローゼになりそう」
3 本件記事の投稿による原告の権利侵害の有無
(1) 本件記事1
本件記事1は,あくまでも自分がワキガであると誤解されたとしたら残念であるという感想を述べたものであるにすぎず,店員がこのような内心を吐露したからといって,当該店員の雇用主の社会的評価が低下するとはいえないから,本件記事1の投稿が原告の権利を侵害することが明白であるとはいえない。
(2) 本件記事2
本件記事2は,サービス残業の実態について告発するとともに,労働評議会によるアンケートの結果により原告の違法な雇用形態が明らかになったことについて,不確定情報であることを断った上で情報提供するものである。
その内容は,原告が従業員にサービス残業を強いるなど,違法な雇用関係を形成しているとの事実を摘示するものであるから,原告の社会的評価を低下させるものであるが,仮にサービス残業の実態が真実なのであれば,これを告発する記事の投稿には公共性や公益目的が認められ,違法性が阻却される可能性がある。
しかし,原告は,権利侵害の明白性について補充する書面の提出を求められたにもかかわらず,店舗における残業管理の実情からサービス残業が存在しないことや労働評議会におけるアンケート実施の有無やその結果等について何ら証拠を提出せず,本件記事2に係る事実が真実でないことについて主張立証しないから,本件記事2が原告の権利を侵害することが明白であるとは認められない。
(3) 本件記事3
本件記事3は,対応が困難な客について,上司の助けが得られないことや客の具体的な言動等を紹介しながら,その対応方針を相談するものである。
本件記事3の表現中には「ババァ」のような穏当でない表現が含まれるが,それ自体は原告を指すものではなく,原告との関係では,受付業務に対する指導や支援が十分でないという実態を告発する内容であるという意味で,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
しかし,原告は,権利侵害の明白性について補充する書面の提出を求められたにもかかわらず,店舗における顧客への対応マニュアルやこれを用いた受付指導の実情について何ら証拠を提出せず,本件記事3に係る事実が真実でないことについて主張立証しないから,本件記事3が原告の権利を侵害することが明白であるとは認められない。
(4) 本件記事4
本件記事4は,受付業務における他の担当者の苦労を紹介されるなどしたことを受けて,その礼を述べ,自らの心情として受付業務がつらいとの感想を述べたものであり,原告又はその業務に関して特段の事実を摘示するものでもなく,何ら原告の社会的評価を低下させるものではない。
4 まとめ
上記2及び3によると,本件記事1及び4については,原告の社会的評価を低下させるものとは認められず,本件記事2及び3については,これらが事実を摘示して原告の社会的評価を低下させるものとは認められるが,違法性阻却事由の存在がうかがわれないとの事情について立証があるとはいえず,これらの記事によって原告の権利が侵害されたことが明白であるとまではいえないというべきである。
第4 結論
以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第1部
裁判官 杜下弘記
別紙 情報目録
別紙 発信者情報目録
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1 氏名又は名称
2 住所
3 電子メールアドレス
以上