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「唐澤貴洋の裁判一覧/東京地方裁判所平成23年(ワ)第38080号」の版間の差分

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== 全文 ==
原告 P1</br>
同訴訟代理人弁護士 大坪和敏 川崎美奈</br>
被告 P2</br>
被告 P3</br>
上記両名訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋</br>


=== 主文 ===
1 被告らは,原告に対し,別紙物件目録記載1の土地につき,平成元年4月1日時効取得を原因とする亡P4の3分の1の持分全部移転登記手続をせよ。
2 被告らは,原告に対し,別紙物件目録記載2の土地につき,平成元年4月1日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
=== 事実及び理由 ===
====第1 請求====
 主文同旨
====第2 事案の概要等====
 本件は,原告が,亡P4(以下「P4」という。)の相続人である被告らに対し,別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地1」という。)のP4の持分部分及び別紙物件目録記載2の土地(以下「本件土地2」という。
また,本件土地1及び同2を合わせて「本件各土地」という。)について,時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求めた事案である。
=== 1 争いのない事実等(特記しない限り当事者間に争いがない。) ===
(1)本件土地1について,昭和6年3月14日付けで,同日売買を原因とする所有権移転登記手続がされており,P4(登記簿上の表記 P5),P6及びP7が共有者(持分各3分の1)として記載されている。
 このうちP6の持分については,昭和25年11月2日付けで,昭和18年5月16日家督相続を原因として,P8に持分全部移転登記手続がされ,
P7の持分については,昭和25年11月2日付けで,昭和13年4月17日家督相続を原因としてP9に持分全部移転登記がされている。(甲1)
(2)本件土地2について,昭和14年9月19日付けで,同日売買を原因として,P4に所有権移転登記手続がされている。(甲2)
(3)本件各土地上に,建物が存在し(以下「本件建物」という。),昭和9年7月2日付けで,同年6月29日売買を原因として,P4の4女であるP10(登記簿上の名称はP11。以下「P10」という。)に所有権移転登記手続がされ、
さらに,平成5年6月29日付けで,同月18日贈与を原因として,原告へ所有権移転登記手続がされている。(甲3,4)
(4)P4は,昭和28年6月21日に死亡した。
 P4の長男であるP12(以下「P12」という。)は,平成元年4月1日に死亡した。 
 原告は,P12の長男である。(甲9の1,11)
(5)P4の3女であるP13は昭和59年1月13日に死亡し,その長男であるP14は平成22年1月28日に死亡した。
 被告らは,P14の子である。
(甲9の1・10・12・15~18,10)
(6)原告は,平成23年12月10日に被告らに到達した本件訴状により,本件各土地についての取得時効を援用するとの意思表示をした(弁論の全趣旨)。
=== 2 争点 ===
 本件の争点は,原告が,本件各土地を時効取得したかである。
==== (1)原告の主張 ====
ア P4は,本件建物に居住し,本件各土地を占有していた。
 P4死亡後は,長男であるP12がP4を相続して本件建物に居住するほか,本件各土地で個人事業として造園業(長嶋造園)を営んでいた。
 原告は,P12の子であり,昭和5年生まれであるが,7歳のころからP12と共に本件建物に居住していた。
 原告は,昭和48年ころP12に代わって世帯主となり,長嶋造園を引き継ぎ,本件土地1及び本件建物の固定資産税を支払うようになった。
 原告は,平成元年4月1日にP12の死亡により,本件建物及び本件各土地の占有を取得した。
 なお,本件土地1の一部は,古くからP15家に賃貸されており,平成元年4月1日時点では,P12からP16に賃貸されており,その後も,原告から,P16の家族が賃借していた。
 また,原告は,平成5年6月18日には,贈与によりP10から本件建物の登記名義を取得した。
 よって,原告は,平成元年4月1日から本件各土地を占有しており,平成21年4月1日経過時にも本件各土地を占有していたから,取得時効が完成している。
イ 被告らの主張への反論
 原告は,本件各土地及び本件建物の固定資産税を支払ってきている。
 本件建物についても,所有権移転登記手続をする以前から,原告が所有しているものであった。
 また,本件建物は増改築されていない。
 P12の相続の際,同人の二男の妻から,墓でももらえないかといった話があったことから喧嘩となり,遺産分割協議がされていないが,原告は,P12に代わって世帯主となり,家業も引き継いだから,家業を営む場所である本件各土地及び本件建物について当然引き継ぎ,相続したと考えていた。
 原告は,相続税についての意識がなく,申告は検討しなかった。
 P15家との間の賃貸借の地代については,昭和46年に賃料増額の交渉をしようとしたところ,弁護士をつけて争ってきたためあきらめたものであり,その後は単に増額を求めなかったに過ぎない。平成22年からは月2万円を受領している。
 原告代理人が被告らに送付した手紙は,無償で名義の移転を求めたものであり,被告らが登記簿上の名義人であるP4の権利義務について相続している以上,形式的には所有者として扱わなければならないため,譲渡という文言を用いただけであり,被告らの所有権を認めたものではない。
==== (2)被告らの主張 ====
 原告は,以下のとおり,所有の意思があれば取るであろう行動を取らず,また,取らないであろう行動を取っているから,所有の意思をもって本件各土地を占有していたものではない。
ア 原告は,本件土地1の固定資産税を支払ったとしながら,本件土地2の固定資産税を支払っていなかったようであるが,そうであれば,所有者として不思議に思い,区役所に問い合わせるなどして現在の登記状況等の確認を行ってしかるべきところ,何もしていない。
イ 本件建物につき,P10から贈与を受けているが,本件建物を所有していたのであればこのような贈与を受けるはずがない。
ウ 本件建物については,贈与によって登記名義を変更したのに,本件各土地についてはそのような手続を取っていない。
エ 本件建物は増改築されているようだが,登記に反映されていない。
オ P12の死亡時に,同人の二男の妻から,墓地でももらえないかとの話があったことから喧嘩となり,遺産分割協議がされていないというのであるから,原告が,P12の相続により,全ての財産を取得したと考えてはいなかったのは明らかである。原告が世帯主になり,家業を引き継いだからといって,本件各土地,本件建物を当然引き継いだと考えるのは,家督相続制度が廃止されて久しい平成元年の相続においては不合理である。
カ P12の相続時に相続税を申告していない。
キ P15家との間の賃貸について,小田急小田原線a駅近くの約50坪の土地の地代としては相当に低い金額しか受領していない。
ク 平成22年6月30日,原告の訴訟代理人から被告らに対し,相続分を譲渡して欲しい旨の手紙が送付されている。
=== 第3 当裁判所の判断 ===
====1 前記争いのない事実等に証拠(甲12,30,証人P17のほか各項末尾に記載)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件の経過について以下の事実が認められる。 ====
(1)昭和9年ころ,P4は本件建物を取得したが,4女であるP10名義でこれを登記した。(甲3)
(2)P4は,昭和28年6月21日に死亡し,長男であるP12が本件各土地及び本件建物を引き継いで居住し,個人事業として造園業(長嶋造園)を行っていた。原告は,P12と同居して17歳ころからこれを手伝い,昭和48年ころには長嶋造園を継いで,P18家の家計を預かることとなり,本件各土地や本件建物の固定資産税を支払うようになった。なお,これらの固定資産税の課税の名宛人は,不動産登記簿上の所有者であったが,固定資産税納税通知書は原告のところに届いていた。(甲14ないし16,23ないし25(いずれも枝番全てを含む。))
(3)P12は,平成元年4月1日に死亡した。P12の遺産は,本件各土地と本件建物であり,その後も原告がその利用を引き継ぎ,居住するとともに長嶋造園を営んでいた。P12の相続人は,原告以外にも複数名がいたが,P12の法事の際に,原告の弟であるP19の妻から,墓くらいはもらえないか,といった話があったものの,遺産分割の具体的な協議がもたれることはなかった。また,本件各土地の不動産登記簿上の所有名義については,P4の名義が残っており,ただちに名義を移転するのが困難であった上,そのころ,P12やその妻の死が相次いだことから対応はされなかった。また,P12の相続に関する相続税の申告もされなかった。
(4)本件建物については,これらの状況が落ち着いた平成5年6月18日に,既に婚姻により本件建物を出ていたP10から原告へ贈与により不動産登記簿上の所有名義が移転した。
(5)なお,本件各土地のうち,本件土地1の一部は,以前からP15家に地代月額1万円で賃貸され,P15家では同土地上に建物を所有してこれを占有していた。昭和46年ころ,P12は,当時の借地人であったP16に対し地代月額1万円の増額を申入れたが,紛争となったことから増額をあきらめ,前記地代のまま契約が継続していた。その後,P12の死亡により貸主は原告となり,また,P16の死亡によりP20とP21が建物を持分2分の1ずつで共有してP20が借地人となり,同人の死後はP21が建物の所有権を全部取得して借地人となり,同人の家族とともに同建物に居住している。平成22年9月からは,P21と原告との交渉により,地代月額は2万円となった。(甲20ないし22,26ないし29(いずれも枝番全てを含む。),乙4,6)
(6)平成22年6月30日ころ,本訴原告代理人は,被告らに対し,被告らが本件各土地についてP4の登記名義を相続によって承継しているところ,原告に登記名義を移転するために相続分譲渡証の作成をして欲しい旨を申し入れた。(乙1,2)
==== 2 原告による本件各土地の占有について ====
 以上によれば,原告は,平成元年4月1日以降,P12の死亡により同人の占有を引き継ぐ形で,原告自身が本件建物を占有使用するなどして,また,本件土地1の一部についてはP15家に借地に出すことで,本件各土地を占有していたといえる。
==== 3 原告の本件各土地の所有の意思について ====
(1)占有者は,所有の意志をもって,平穏かつ公然と占有するものと推定される(民法186条1項)が,
本件では,原告は,P12からの相続によって本件各土地の占有を取得しているところ,P12には原告以外にも相続人がいたから,本件各土地の全体について所有の意思があったことが推定されるものではない。しかし,原告は,P12と同居してその個人事業である造園業(長嶋造園)を手伝い,昭和48年ころにはこれを継いで,P18家の家計を預かることとなり,本件各土地や本件建物の固定資産税を支払うようになったこと,P12の遺産は本件各土地と本件建物であり,原告はその利用を引き継ぎ,居住するとともに長嶋造園を営んでいたが,P12の他の相続人から,原告が本件各土地を占有することについて具体的な異議を述べた者はなかったことからすれば,原告は,P12の相続のときから本件各土地について単独所有者としての自主占有を取得したものというべきである。
(2)ア これに対し,被告らは,所有者であれば取るべき行動を取らず,また,取らないであろう行動を取っていると主張する。
イ しかし,前記認定のとおり,原告は本件各土地及び本件建物の固定資産税を支払ってきている。
ウ 本件各土地の登記名義を移転していないことを被告らは論難するが,P12が死亡して原告が本件建物や本件各土地を引き継いだ平成元年時点でも,P4の登記名義の相続人は相当数に上ることがうかがえ(甲10),P12やその妻の死亡が重なった時期であったことも合わせ考えると,原告が,同じP4の相続人として血縁関係を有する者らに対し,ただちに登記名義を実際の所有関係に一致させるべく行動しなかったからといって不合理ではない。
エ P10が有していた本件建物の登記名義を,贈与という形式で譲り受けるのは,原告が実際の所有者であったとすれば,金銭的負担なしに登記名義を実態の所有関係に一致させる行為であると解されるのであって,所有の意思を有していたことを否定する事情ではない。
オ 本件建物が増改築されたことを認めるに足りる証拠はない。
カ 被告らは,P12死亡時に,その相続によって原告が全ての財産を取得したと解するのは不合理であるとも指摘するが,原告は,従前から本件建物に居住して,P12から引き継いだ家業の長嶋造園を運営し,本件各土地を利用してきており,P12死亡後も,同様の利用形態を継続しており,具体的な遺産分割協議の話もなかったというのであるから,原告が,P12から本件各土地及び本件建物を相続した,と解するのは不自然なことではない。
キ 原告は,P12の死亡時に相続税の申告をしていないけれども,P12の遺産が,同人の登記名義になっていない本件各土地及び本件建物のみであったことからすると,原告が相続税申告を行わなかったことについて,税務上の当否はともかく,所有の意思を有していたことを否定する事情であるとはいえない。
ク P15家との間の地代が月額1万円(増額後は2万円)という点についても,少なくとも地代月額を1万円と設定した時点(昭和46年以前であると思われる。)においては,当時の経済情勢に照らし,相応の金額であったと推認されるから,地代の設定時点においては所有者の取る行動として不合理なものではない。また,その後に地代がほとんど増額していない点については,当事者間の交渉による地代の増減は,単純に経済的な見地からのみ決定されるものではなく,貸主と借主の人的関係や交渉経過等にも影響されるものであって,増額がされていないことのみから,貸主が,土地所有の意思を有していないことが推認されるとはいえず,他に原告が土地所有の意思を有していないがために地代を増額しなかったことをうかがわせる証拠もない。
ケ 平成22年の本訴原告代理人からの相続分譲渡証の作成の依頼も,原告に本件各土地の登記名義を移転させるための便法としての,無償での相続分譲渡証の作成方を依頼しているのは明らかであって,原告が所有者ではないことを前提とした行動とはいえない。
コ してみると,被告らが,原告の所有の意思を否定する事情として指摘するものは,いずれもその事実が認められないか,あるいは,所有の意思を否定するには足りないものであって,これらを総合考慮しても,原告の所有の意思を否定するには足りない。
(3)よって,原告は,所有の意思をもって,本件各土地を占有していたものであるといえるところ,原告は,平成23年12月10日に被告らに到達した本件訴状により,本件各土地についての取得時効を援用するとの意思表示をしたから,本件各土地を時効取得した。
=== 4 結論 ===
 以上の次第で,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第16部
裁判官 野村武範
=== 別紙 物件目録 ===
1 所在 世田谷区α×丁目
地番 b番c
地目 宅地
地積 149.28平方メートル
P5の持分 3分の1
2 所在 世田谷区α×丁目
地番 e番f
地目 宅地
地積 72.19平方メートル
== 関連項目 ==
*[[尊閉じ]]
*[[川崎美奈]]
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[[カテゴリ:資料]]
[[カテゴリ:唐澤貴洋]]
[[カテゴリ:判決文]]
[[カテゴリ:事実追求]]

2014年8月10日 (日) 03:09時点における版

全文

原告 P1
同訴訟代理人弁護士 大坪和敏 川崎美奈
被告 P2
被告 P3
上記両名訴訟代理人弁護士 唐澤貴洋

主文

1 被告らは,原告に対し,別紙物件目録記載1の土地につき,平成元年4月1日時効取得を原因とする亡P4の3分の1の持分全部移転登記手続をせよ。

2 被告らは,原告に対し,別紙物件目録記載2の土地につき,平成元年4月1日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第1 請求

 主文同旨

第2 事案の概要等

 本件は,原告が,亡P4(以下「P4」という。)の相続人である被告らに対し,別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地1」という。)のP4の持分部分及び別紙物件目録記載2の土地(以下「本件土地2」という。 また,本件土地1及び同2を合わせて「本件各土地」という。)について,時効取得を原因とする所有権移転登記手続を求めた事案である。

1 争いのない事実等(特記しない限り当事者間に争いがない。)

(1)本件土地1について,昭和6年3月14日付けで,同日売買を原因とする所有権移転登記手続がされており,P4(登記簿上の表記 P5),P6及びP7が共有者(持分各3分の1)として記載されている。  このうちP6の持分については,昭和25年11月2日付けで,昭和18年5月16日家督相続を原因として,P8に持分全部移転登記手続がされ, P7の持分については,昭和25年11月2日付けで,昭和13年4月17日家督相続を原因としてP9に持分全部移転登記がされている。(甲1)

(2)本件土地2について,昭和14年9月19日付けで,同日売買を原因として,P4に所有権移転登記手続がされている。(甲2)

(3)本件各土地上に,建物が存在し(以下「本件建物」という。),昭和9年7月2日付けで,同年6月29日売買を原因として,P4の4女であるP10(登記簿上の名称はP11。以下「P10」という。)に所有権移転登記手続がされ、 さらに,平成5年6月29日付けで,同月18日贈与を原因として,原告へ所有権移転登記手続がされている。(甲3,4)

(4)P4は,昭和28年6月21日に死亡した。  P4の長男であるP12(以下「P12」という。)は,平成元年4月1日に死亡した。   原告は,P12の長男である。(甲9の1,11)

(5)P4の3女であるP13は昭和59年1月13日に死亡し,その長男であるP14は平成22年1月28日に死亡した。  被告らは,P14の子である。 (甲9の1・10・12・15~18,10)

(6)原告は,平成23年12月10日に被告らに到達した本件訴状により,本件各土地についての取得時効を援用するとの意思表示をした(弁論の全趣旨)。

2 争点

 本件の争点は,原告が,本件各土地を時効取得したかである。

(1)原告の主張

ア P4は,本件建物に居住し,本件各土地を占有していた。  P4死亡後は,長男であるP12がP4を相続して本件建物に居住するほか,本件各土地で個人事業として造園業(長嶋造園)を営んでいた。  原告は,P12の子であり,昭和5年生まれであるが,7歳のころからP12と共に本件建物に居住していた。  原告は,昭和48年ころP12に代わって世帯主となり,長嶋造園を引き継ぎ,本件土地1及び本件建物の固定資産税を支払うようになった。  原告は,平成元年4月1日にP12の死亡により,本件建物及び本件各土地の占有を取得した。  なお,本件土地1の一部は,古くからP15家に賃貸されており,平成元年4月1日時点では,P12からP16に賃貸されており,その後も,原告から,P16の家族が賃借していた。  また,原告は,平成5年6月18日には,贈与によりP10から本件建物の登記名義を取得した。  よって,原告は,平成元年4月1日から本件各土地を占有しており,平成21年4月1日経過時にも本件各土地を占有していたから,取得時効が完成している。

イ 被告らの主張への反論  原告は,本件各土地及び本件建物の固定資産税を支払ってきている。

 本件建物についても,所有権移転登記手続をする以前から,原告が所有しているものであった。

 また,本件建物は増改築されていない。

 P12の相続の際,同人の二男の妻から,墓でももらえないかといった話があったことから喧嘩となり,遺産分割協議がされていないが,原告は,P12に代わって世帯主となり,家業も引き継いだから,家業を営む場所である本件各土地及び本件建物について当然引き継ぎ,相続したと考えていた。

 原告は,相続税についての意識がなく,申告は検討しなかった。

 P15家との間の賃貸借の地代については,昭和46年に賃料増額の交渉をしようとしたところ,弁護士をつけて争ってきたためあきらめたものであり,その後は単に増額を求めなかったに過ぎない。平成22年からは月2万円を受領している。

 原告代理人が被告らに送付した手紙は,無償で名義の移転を求めたものであり,被告らが登記簿上の名義人であるP4の権利義務について相続している以上,形式的には所有者として扱わなければならないため,譲渡という文言を用いただけであり,被告らの所有権を認めたものではない。

(2)被告らの主張

 原告は,以下のとおり,所有の意思があれば取るであろう行動を取らず,また,取らないであろう行動を取っているから,所有の意思をもって本件各土地を占有していたものではない。

ア 原告は,本件土地1の固定資産税を支払ったとしながら,本件土地2の固定資産税を支払っていなかったようであるが,そうであれば,所有者として不思議に思い,区役所に問い合わせるなどして現在の登記状況等の確認を行ってしかるべきところ,何もしていない。

イ 本件建物につき,P10から贈与を受けているが,本件建物を所有していたのであればこのような贈与を受けるはずがない。

ウ 本件建物については,贈与によって登記名義を変更したのに,本件各土地についてはそのような手続を取っていない。

エ 本件建物は増改築されているようだが,登記に反映されていない。

オ P12の死亡時に,同人の二男の妻から,墓地でももらえないかとの話があったことから喧嘩となり,遺産分割協議がされていないというのであるから,原告が,P12の相続により,全ての財産を取得したと考えてはいなかったのは明らかである。原告が世帯主になり,家業を引き継いだからといって,本件各土地,本件建物を当然引き継いだと考えるのは,家督相続制度が廃止されて久しい平成元年の相続においては不合理である。

カ P12の相続時に相続税を申告していない。

キ P15家との間の賃貸について,小田急小田原線a駅近くの約50坪の土地の地代としては相当に低い金額しか受領していない。

ク 平成22年6月30日,原告の訴訟代理人から被告らに対し,相続分を譲渡して欲しい旨の手紙が送付されている。

第3 当裁判所の判断

1 前記争いのない事実等に証拠(甲12,30,証人P17のほか各項末尾に記載)及び弁論の全趣旨を総合すると,本件の経過について以下の事実が認められる。

(1)昭和9年ころ,P4は本件建物を取得したが,4女であるP10名義でこれを登記した。(甲3)

(2)P4は,昭和28年6月21日に死亡し,長男であるP12が本件各土地及び本件建物を引き継いで居住し,個人事業として造園業(長嶋造園)を行っていた。原告は,P12と同居して17歳ころからこれを手伝い,昭和48年ころには長嶋造園を継いで,P18家の家計を預かることとなり,本件各土地や本件建物の固定資産税を支払うようになった。なお,これらの固定資産税の課税の名宛人は,不動産登記簿上の所有者であったが,固定資産税納税通知書は原告のところに届いていた。(甲14ないし16,23ないし25(いずれも枝番全てを含む。))

(3)P12は,平成元年4月1日に死亡した。P12の遺産は,本件各土地と本件建物であり,その後も原告がその利用を引き継ぎ,居住するとともに長嶋造園を営んでいた。P12の相続人は,原告以外にも複数名がいたが,P12の法事の際に,原告の弟であるP19の妻から,墓くらいはもらえないか,といった話があったものの,遺産分割の具体的な協議がもたれることはなかった。また,本件各土地の不動産登記簿上の所有名義については,P4の名義が残っており,ただちに名義を移転するのが困難であった上,そのころ,P12やその妻の死が相次いだことから対応はされなかった。また,P12の相続に関する相続税の申告もされなかった。

(4)本件建物については,これらの状況が落ち着いた平成5年6月18日に,既に婚姻により本件建物を出ていたP10から原告へ贈与により不動産登記簿上の所有名義が移転した。

(5)なお,本件各土地のうち,本件土地1の一部は,以前からP15家に地代月額1万円で賃貸され,P15家では同土地上に建物を所有してこれを占有していた。昭和46年ころ,P12は,当時の借地人であったP16に対し地代月額1万円の増額を申入れたが,紛争となったことから増額をあきらめ,前記地代のまま契約が継続していた。その後,P12の死亡により貸主は原告となり,また,P16の死亡によりP20とP21が建物を持分2分の1ずつで共有してP20が借地人となり,同人の死後はP21が建物の所有権を全部取得して借地人となり,同人の家族とともに同建物に居住している。平成22年9月からは,P21と原告との交渉により,地代月額は2万円となった。(甲20ないし22,26ないし29(いずれも枝番全てを含む。),乙4,6)

(6)平成22年6月30日ころ,本訴原告代理人は,被告らに対し,被告らが本件各土地についてP4の登記名義を相続によって承継しているところ,原告に登記名義を移転するために相続分譲渡証の作成をして欲しい旨を申し入れた。(乙1,2)

2 原告による本件各土地の占有について

 以上によれば,原告は,平成元年4月1日以降,P12の死亡により同人の占有を引き継ぐ形で,原告自身が本件建物を占有使用するなどして,また,本件土地1の一部についてはP15家に借地に出すことで,本件各土地を占有していたといえる。

3 原告の本件各土地の所有の意思について

(1)占有者は,所有の意志をもって,平穏かつ公然と占有するものと推定される(民法186条1項)が, 本件では,原告は,P12からの相続によって本件各土地の占有を取得しているところ,P12には原告以外にも相続人がいたから,本件各土地の全体について所有の意思があったことが推定されるものではない。しかし,原告は,P12と同居してその個人事業である造園業(長嶋造園)を手伝い,昭和48年ころにはこれを継いで,P18家の家計を預かることとなり,本件各土地や本件建物の固定資産税を支払うようになったこと,P12の遺産は本件各土地と本件建物であり,原告はその利用を引き継ぎ,居住するとともに長嶋造園を営んでいたが,P12の他の相続人から,原告が本件各土地を占有することについて具体的な異議を述べた者はなかったことからすれば,原告は,P12の相続のときから本件各土地について単独所有者としての自主占有を取得したものというべきである。

(2)ア これに対し,被告らは,所有者であれば取るべき行動を取らず,また,取らないであろう行動を取っていると主張する。

イ しかし,前記認定のとおり,原告は本件各土地及び本件建物の固定資産税を支払ってきている。

ウ 本件各土地の登記名義を移転していないことを被告らは論難するが,P12が死亡して原告が本件建物や本件各土地を引き継いだ平成元年時点でも,P4の登記名義の相続人は相当数に上ることがうかがえ(甲10),P12やその妻の死亡が重なった時期であったことも合わせ考えると,原告が,同じP4の相続人として血縁関係を有する者らに対し,ただちに登記名義を実際の所有関係に一致させるべく行動しなかったからといって不合理ではない。

エ P10が有していた本件建物の登記名義を,贈与という形式で譲り受けるのは,原告が実際の所有者であったとすれば,金銭的負担なしに登記名義を実態の所有関係に一致させる行為であると解されるのであって,所有の意思を有していたことを否定する事情ではない。

オ 本件建物が増改築されたことを認めるに足りる証拠はない。

カ 被告らは,P12死亡時に,その相続によって原告が全ての財産を取得したと解するのは不合理であるとも指摘するが,原告は,従前から本件建物に居住して,P12から引き継いだ家業の長嶋造園を運営し,本件各土地を利用してきており,P12死亡後も,同様の利用形態を継続しており,具体的な遺産分割協議の話もなかったというのであるから,原告が,P12から本件各土地及び本件建物を相続した,と解するのは不自然なことではない。

キ 原告は,P12の死亡時に相続税の申告をしていないけれども,P12の遺産が,同人の登記名義になっていない本件各土地及び本件建物のみであったことからすると,原告が相続税申告を行わなかったことについて,税務上の当否はともかく,所有の意思を有していたことを否定する事情であるとはいえない。

ク P15家との間の地代が月額1万円(増額後は2万円)という点についても,少なくとも地代月額を1万円と設定した時点(昭和46年以前であると思われる。)においては,当時の経済情勢に照らし,相応の金額であったと推認されるから,地代の設定時点においては所有者の取る行動として不合理なものではない。また,その後に地代がほとんど増額していない点については,当事者間の交渉による地代の増減は,単純に経済的な見地からのみ決定されるものではなく,貸主と借主の人的関係や交渉経過等にも影響されるものであって,増額がされていないことのみから,貸主が,土地所有の意思を有していないことが推認されるとはいえず,他に原告が土地所有の意思を有していないがために地代を増額しなかったことをうかがわせる証拠もない。

ケ 平成22年の本訴原告代理人からの相続分譲渡証の作成の依頼も,原告に本件各土地の登記名義を移転させるための便法としての,無償での相続分譲渡証の作成方を依頼しているのは明らかであって,原告が所有者ではないことを前提とした行動とはいえない。

コ してみると,被告らが,原告の所有の意思を否定する事情として指摘するものは,いずれもその事実が認められないか,あるいは,所有の意思を否定するには足りないものであって,これらを総合考慮しても,原告の所有の意思を否定するには足りない。

(3)よって,原告は,所有の意思をもって,本件各土地を占有していたものであるといえるところ,原告は,平成23年12月10日に被告らに到達した本件訴状により,本件各土地についての取得時効を援用するとの意思表示をしたから,本件各土地を時効取得した。

4 結論

 以上の次第で,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第16部


裁判官 野村武範

別紙 物件目録

1 所在 世田谷区α×丁目 地番 b番c 地目 宅地 地積 149.28平方メートル P5の持分 3分の1

2 所在 世田谷区α×丁目 地番 e番f 地目 宅地 地積 72.19平方メートル

関連項目