マヨケーがポアされたため、現在はロシケーがメインとなっています。

「恒心文庫:恋するロミオ」の版間の差分

提供:唐澤貴洋Wiki
ナビゲーションに移動 検索に移動
>ジ・M
(ページの作成:「__NOTOC__ == 本文 == <poem> 俺の名前は唐澤貴洋。どこにでもいる平凡な高校生。 いや、それはあまり正しい言い方ではないかもし…」)
(相違点なし)

2020年4月27日 (月) 23:27時点における版

本文

俺の名前は唐澤貴洋。どこにでもいる平凡な高校生。
いや、それはあまり正しい言い方ではないかもしれない。
俺は今日から高校生になるのだ。そう、今日は俺が入る高校の入学式。
新しい出会い、新しい人生の門出。どんな高校生活が俺を待っているのだろうか。
期待と緊張で今日は早く目がさめてしまった。
部屋でゆっくりと身支度を整えリビングに行く。

そこでは、弟が既に起きていて朝食をとりながら新聞を読んでいた。
「あ、兄さん、起きたのかい」
「ああ、うん」
俺は少しはにかみながら応える。
「今日入学式だからね」
「あはは、そうだね。今日から兄さんも高校生だね」
弟は読んでいた新聞をたたみ横に置き、俺に笑いかける。
この弟の名前は厚史。俺の弟ながらよく出来たやつだ。
性格も温厚でいながら積極的、運動もできて、顔も少し身内びいきが入っているかもしれないが端正、というよりもむしろ可愛い。
中学のサッカー部ではレギュラーでエースだったと聞いている。女子にもてるらしく彼女も既にいるという。ははは、嫉妬してしまうな。
それに何よりも頭もよくて―――いや、この話は今はやめておこう。

「新入生は早めに登校しなくていいのかい?」
「入学式案内によると逆みたいだ。新入生は9時集合だって」
「へえ羨ましいなあ」
厚史は少し考えこんで話を続ける。
「まあ早めに行って友達を作ったほうがいいんじゃないの?それに、かわいい子とかいるかもしれないし」
おいおい、何を言っているんだ厚史は。別に俺はそういうのを目的に高校に行くわけではないのに。それに……。
「ん?なんだよそんなショボくれた顔して。兄さんらしくないじゃないか。まさか、自分には彼女なんてできないとか思っているんじゃないか?」
「いやそういうことを考えているわけではなくて」
と俺は適当にはぐらかした。まあ、高校に入って新しい恋をするのもいいかもしれないな。
うん、いかにも青春っぽいぞ。そういえばと気になって俺は厚史に気になることをたずねてみる。

「高校に入って気をつけることってなにかないかな?」
「え?うーん……僕にはよくわからないなぁ」
そりゃそうだ。厚史は何も気にしなくたってうまくことを運ぶことができるからな。
「適当に思いつくのだと、例えば初対面では笑顔で接するとか?第一印象は大切だからね」
「ああ、確かに。でも俺ちょっと人見知りするたちだから」
「それは兄さんが自分で自分のことを人見知りするたちだと思い込んでいるからさ。肩の力を抜いて話すといいよ」
「そういうもんか」
「そういうもんさ。それから初めての自己紹介ではあまり卑屈にならないほうがいいよ。卑屈になられたら接しにくいからね」
「ふむふむ。なるほどな」
「あとはうーん……そうだ、高校では―――」
厚史の話を聞いているうちに時計が8時のメロディーを奏でた。シンディ・ローパーの”Time after Time”が時計から流れる。
それを聞いて厚史は慌てた様子で玄関に向かう。
「僕はそろそろいかないと」
「おお、行ってらっしゃい。俺はもう少しゆっくりするから」
厚史は俺みたいに新入生ではないので、いつもどおりの学校の時間に登校する。
俺も大昔の中学の頃は今ぐらいの時間に慌てて家を出たものだ。
しかし、今日だけは俺は新入生だからゆっくり登校できる。明日からは普通通りの登校時間に縛られることになるのだろうけど……。
リビングで一人、俺はふぅっと溜息を付く。深呼吸をする。
さて、どんな高校生活が俺を待っているのだろう。
楽しかったらいいんだけど……。

初めての教室ということで緊張して入ったのだが思ったよりもすんなりとみんなに溶け込めた。
厚史のアドバイスを守り笑顔で話し、友達をつくろうとする。既に何人か「仲の良い」といってよい奴が出来た。
可愛い子は……うん、何人かいるな。でも、俺にはそんなの興味ないな。そもそも女なんかにうつつを抜かすのは……
おっといかんいかん、愚痴るところだった。
その後の入学式も特に大過なく終わり(校長や来賓の議員の話がつまらない上長いのは最初から覚悟していたから気にならなかった)、お昼前には解散となった。
明日から授業が始まるというわけではなく、明日は明日で部活の説明会やらなんやらがあってまだイベント気分を味わえるらしい。
部活かぁ。青春といえば部活だ。部活で俺の青春は決まるといっても過言ではないのかもしれない。
明日は俺の高校生活を左右する決定をしなければならない日になるぞ。

家に帰り入学式の後にもらった教科書や参考書をパラパラとめくりこれからの高校生活にそこはかとない不安を感じため息をついていたとき、厚史が帰宅した。
「おかえり厚史」
「ただいま兄さん」
厚史は可愛く笑って俺を見る。
「で、どうだった?クラスは」
「厚史のアドバイスのお陰でうまくいったよ。友達も何人か出来た」
「へぇ、それは良かったじゃないか」
「明日は部活説明会みたいだからそれで入る部活を決めて」
「おや、兄さん高校では部活にはいるのかい?」
「ああ、だって高校といえば部活だろ?」
正直に告白しよう。俺は中学では部活に入っていなかった。帰宅部というやつだ。運動も苦手だし群れるのもなんだか嫌だったのだ。
「どういう心境の変化があったのやら」
厚史はいたずらっぽく笑って僕を一瞥する。
「まあいいじゃないか」
「もうどの部活に入るのかは大体は決まっているの?ほら、運動系とか文化系とか」
「具体的には決まってないけど」
「まあ好きなのにするといいさ」
弟はわざと大げさに驚いてみせる。まるで海外のコメディの登場人物みたいに手を広げ肩をすくめて眉をあげて声色も変える念の入れようだ。
まるで『フルハウス』に出てくるジョーイ(山寺宏一が吹き替えをしているあいつだ)みたいなリアクションだ。
「高校生活、楽しかったらいいんだけど」
「兄さんだったら大丈夫さ」
厚史はいつもの快活な笑顔でそう応えた。

翌日。高校生活を決定する(と勝手に俺の思っている)部活選び、部活説明会の日だ。新入生一同が体育館に集められ、
各部活の代表がステージで説明とその部活の実演をしてみせる。
剣道部はステージの上で奇声を発しながら竹刀で叩き合っているのだが……あれで入ってみようと思う新入生はいるのかな。
ラグビー部はタックルの実演とかいうのをやっているが、いやいや、あんなことをやっていたら年中怪我しちゃうじゃないか、実演の演目考えたほうがいいんじゃないか。
美術部なんかコンクールに入賞した部員の絵とやらを持ってきたのだが、ステージの上じゃ小さすぎてよく見えない。
目を凝らせばなんとなく見えるのだが、それもなんていうかいわゆる「前衛的」な絵で意味がわからないのだ。
木から目玉がにょきにょきと生えてそれを見ている男も目玉を飛び出させて驚いている。
ああいうのをみて意味がわかるやつだけが入ればいいと美術部は思っているのだろうと勝手に一人で納得した。
あんまり入りたいと思う部活がないなぁと思いながら次々と繰り広げられていくステージ上の部活紹介を眺めていたとき、俺の体を電流が流れた。
それは演劇部の紹介だった。彼らは短い説明のあと
「ステージは僕達の主戦場ですので、実際に見ていただくのが早いと思います」
といい、演技を始めた。
演劇にはあまり詳しくない俺でもわかったのだが、それはシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』で、その中でも恐らくは一番有名なあのシーン
「ああ、ロミオ、どうしてあなたはロミオなの」
の部分であった。短い1シーンであったが、俺の心はそれにしたたかにうたれた。目が離せなかった。許されざる恋、叶わない恋、なんて切ないんだ。
その切なさが凝縮されていた。そしてなによりも、その『ロミオとジュリエット』のジュリエットに俺は心を奪われていた。

紛れもない恋であった。

説明会が終わり、興味がある部活の部室へ集合という流れになったのだが、俺は当然演劇部へと向かった。
新入生が入りやすいようにと考慮してのことだろう、ドアは開けっ放しになっていて何人か新入生と思われるのも既にいた。
俺は恐る恐ると覗いてみるとすぐに話しかけられた。
「おっ、君も演劇部に入部希望回?にひひ」
ショートカットの女の先輩だった。かわいい顔をしているが、もちろん俺の恋したジュリエットではない。というかいきなり入部ってなんだ。
「ほらほらこの用紙に名前を書いて書いて」
そういって何かの用紙と筆記用具を渡してくる。
「これ入部届ですよね……?」
俺がそう尋ねるとその女の先輩はまた「にひひ」と笑って頭をかいた。
「ま、最初から入部するつもりだったんで別にいいんですけど」
そう言うと俺は名前とクラスをそこに書く。
「おっ!マジで!?いよっしゃぁ」
どれだけ喜ぶんだこの人は……。いや、それともこれも演技なのか?
「へぇ、唐澤貴洋くんっていうのかぁ君」
俺の用紙を覗き込みながらつぶやく。
「ん?もしかして―――」
その時だった。パンパンと手を二度叩く音がして、みんな自然とそちらに注目する。
「はい、ではとりあえず時間になったので自己紹介をしてもらいます。もちろん部員と、ここにいる一年生のみなさんに」
演劇部顧問の先生だった。というか、俺のクラスの担任だった。全然気が付かなかった。ま、そういうもんか。
「まずはうちの部員からね。あと一年生はなんで演劇部に興味をもったのかも一応いってちょうだい」
そのあと部員がそれぞれ名前と趣味だとか特技だとか短い紹介をしていく。
その中にはもちろん「ジュリエット」もいた。やっぱり可愛いなあ……。顔がにやけてしまう。
と、ぼぉっとしているうちに俺に順番が回ってきた。
やばい、何も考えてないぞ。
まあ昨日のクラスでの紹介みたいに適当にやろう。
「えーっと、俺は、あ、じゃなくて僕は唐澤貴洋です。趣味はうーん、とくにないです」
ニコッと笑ってみせる。しかし反応がおかしい。
「で、興味をもった理由は?」
先生がうながす。ああ、そういえばそれも言うんだっけか。
忘れてた。頭が真っ白になって思わず言ってしまう。

「ジュリエット先輩が素敵だなと思って」

おいおい何を言っているんだ俺は。ジュリエット先輩ってなんだよ。しばらくシーンとなったが、すぐに笑いが起きた。

「ははは、ジュリエット先輩か。面白いな」
先生だけではなく他の先輩方も笑う。
「うん、これからはジュリエットと呼ぶことにしようか。ジュリエット、可愛いもんなー。にひひ」
また爆笑が起こる。俺以外の一年生も笑っている。
俺のとっさの失言のせいで、先輩のあだ名がジュリエットになってしまったようだ。申し訳ない。
で、当のジュリエット先輩は恥ずかしそうに照れながら笑っている。
やっぱり可愛い。
この後、残りの一年生も自己紹介をし、それが済むといきなり「演劇の体験」ということで劇をすることになった。
いやいやいきなりそんなの無理でしょと思ってあたふたしていると、あのショートカットの女の先輩―名前は稲垣といった―が肩をポンポンとたたき
「少年、心配するな。案ずるより産むが易しというだろう?にひひ」
とかなんとかいって励ましてくれた。
まあ、「体験」という名目だしせっかくの新入生だからおそらく失敗しても怒られるなんてことはないだろう。
稲垣先輩は俺に台本を渡すとまた「にひひ」と笑って言う。
「よし少年、君には憧れのジュリエット先輩を抱きしめる権利をあげよう」
「ええ、ちょっと待って下さいよ。そんな、いきなり」
「恋人同士の役でハグしあうだけさ」
「でも、でもでも」
「まあまあ、これは演劇なんだから仕方ない仕方ない。役得だよ少年、うんうん」
「うーん、はい……」
まったくなんなんだこの先輩は。いきなりからかい始めて……。
と心のなかで悪態をついてみるものの、その内心はとても嬉しかった。
好きな先輩を抱きしめる?そういう役なら仕方ないじゃないか。
と自分でも納得して演技にのぞむ。
で実際はいっぱいいっぱいで先輩がどんな抱き心地だったかも覚えてないのだが……うーん情けない。

あっという間に「体験」は終わって解散の時間となる。
俺は勇気を出してジュリエット先輩に話しかけてみる。
「今日はありがとうございました」
「えっと、うん、こちらこそありがとう」
ニコッとして微笑む。
はっきり言ってこの可愛さは異常だ。
「今日はこのまま帰るんですか?」
「どうして?」
「いや、よかったら一緒に帰ろうと思って」
なんて大胆なんだ俺は。
「えっと、ごめんね?このあと今日のことについてのミーティングとかあって」
「あ、そうなんですか。いや、それなら大丈夫です」
「本当にごめんね」
「いえ、こちらこそいきなりすいませんでした」
貴洋少年、見事に玉砕する。
稲垣先輩がみていたら
「にひひ、まあそううまくいくもんじゃないのだよ人生は」
とかなんとか言ってきそうだ。
仕方ない。まだこれからだ。
そして、俺は帰宅した。


「ただいま」
俺が帰ってから何時間か経ってから厚史が帰宅する。
「おかえり厚史」
「いやー今日はつかれたよ」
「おつかれだな厚史」
疲れた様子の弟を適当にねぎらう。部活が長引いたのだろう。
「で、兄さんのほうはどうだった?」
「ん?今日か、ま、見ての通りさ」
肩をすくめてみせる。それをみると厚史は軽く笑う。
「大変だと思うけど頑張ってね兄さん」
「ああ、厚史、お前もな」
兄弟二人で笑い合う。



「んー!……んー!」
高校に入学してもう二ヶ月か。
「ん!んーっ!!」
そろそろ暑くなってきたな。
まあ、こうやって教室を締めきってカーテンもしているのだから仕方がない。
「……んぐっ……!」
誰かに見つかったらまずいからな。
多少の暑さは我慢しよう。
「んっんっ!」
さっきからうるさいな……。こいつは……。
俺の目の前では、ガムテープで手足をぐるぐる巻きにされ口にも猿ぐつわをかまされたジュリエット先輩が転がっていた。
断続的に声にならない声を喉からあげ、身をよじるようにしてじたばたしている。
無駄だとわからないのかこいつは。
お前が悪いんだジュリエット。
俺がこれだけお前のことを好きだったのに、愛しているのにそれに少しも気がつかないお前が悪いんだ。
だからこうやって無理やり俺のものにするしかないじゃないか。
はさみで服を切り、裸にひんむく。
いい体をしている。
俺の***は既に屹立し、その先からはカウパー汁が垂れている。
前戯をする余裕もないほど俺は興奮していた。
俺の***をジュリエット先輩の***にあて、力を込める。
「んーーー!!!!!!!!!!」
この反応はどうやら処女らしい。
へへへ、ありがたい。
好きな人の処女を奪えるなんて最高じゃないか。
少しきつかったが、だんだんと力をいれ挿入していく。
メリッ、メリッと先輩の***が裂けていく感覚がある。
時間はかかったが、根本まで挿入することが出来た。
そしてゆっくりと俺はピストンを開始する。

……が、先輩は必死に抵抗する。身を力の限りよじってじたばたとする。
くそ、ふざけるなじっとしろ。
脅すつもりだった。脅すつもりで先輩の首を両手でしめただけだった。
だが興奮していた俺は、すこし手に力が入りすぎていた。
時間の感覚もおかしくなっていた。これ以上絞めたら死んでしまうという感覚がなかった。
端的に言おう。先輩は死んでしまった。

俺が殺してしまったのだ。

先輩が死んでいることに気がついたのは、首を絞めながらピストンを繰り返し射精に至った時だった。
先輩の***に俺の種子をたっぷりと注ぎ込み満足感に浸っているときに気がついたのだ。
やってしまった。なんてことをしでかしたんだ俺は。
先輩の死に気がついたとき、俺は一瞬はかなり慌てた。
しかし、すぐに慌てている場合ではないと気が付き、これを隠すことにした。
こんなことがバレたら人生が終わる。
ふざけるな、ふざけるなよ。
先輩の体を折りたたむとバッグに突っ込む。
大きめのバッグだったので折り畳めばなんとか入った。
持ち上げる。
存外重くない。火事場のなんとやらというやつか。
と考えることができるほど俺は冷静さを取り戻していた。
一歩一歩踏みしめながら、俺はこの先輩の死体を捨てようと思いついた場所に向かう。
大丈夫、どうにかなる。
うまくいく。
大丈夫。

かなり時間はかかったがなんとかついた。
そこは多摩川の河川敷だった。
周りに誰もいないことを確認して、ジュリエット先輩の死体を出しそこに置く。
これで大丈夫だ。
あとは逃げれば、これは先輩が暴漢に、悪いものたちに暴行されて死んだということになって処理される。
「先輩、ごめんなさい」
そう俺はつぶやいた。
そして立ち去ろうとしたが、やはり最後くらい名前で呼んであげようと思い死体の前まで戻る。
「ジュリエット先輩」じゃ可哀想だからな。
先輩の横にひざまずいて手を合わせつぶやく。
 

「ごめんなさい、先輩、いや、厚史、ごめんな」


家での呼び方で最後のあいさつをして俺は立ち去った。
河川敷に初夏の風が吹き渡った。

俺が自分の弟に恋をしたのはいつからだろう。
いつの間にか、厚史の可愛さに心を奪われ恋をしてしまったのだ。
厚史の優秀さは俺の心をすべて奪った。
俺が高校入試に失敗し浪人している間に、厚史は見事その高校に合格し、弟でありながら先輩になってしまったのだ。
「今日から兄さんも高校生だね」
と厚史が言ったとき、弟に自分も認められたと思って嬉しかった。
「僕と同じで兄さんも」と言われたら喜ぶに決まってるじゃないか。
兄である俺が恋するほどだ、やはり女の子にもてて彼女もいるらしいが、その彼女とやらに嫉妬してしまう。
厚史と付き合えるなんて、なんてうらやましいんだ。
厚史は高校に入るとそれまで部活でやっていたサッカーではなく演劇を選び、そのことは俺も知っていた。
だから、演劇部の説明に厚史が出てきたのは別に驚かなかったが、さすがに『ロミオとジュリエット』で女性である「ジュリエット」役をやらされているとは思わなかった。
「ジュリエット、可愛いもんなー」と言っていた稲垣先輩の口ぶりからして、半ばネタとして男である厚史が抜擢されたのだろう。
しかし、あのジュリエットをみると俺の厚史への愛はますます激しさを増してしまったのだ。
『ロミオとジュリエット』が扱う「禁断の恋」というモチーフも兄弟間の恋という禁断を是認しているような気がした。

説明会が終わるとすぐに演劇部へと向かい、入部届に名前を書いたが、それをみて稲垣先輩の口にした
「ん?もしかして―――」という言葉の続きはおそらく「うちの厚史の弟さんだったりする?」であったのだろう。
まあ実際は、弟じゃなくて兄なのだが、学年的にそういう勘違いをするのも仕方がない。
演劇部で厚史と会ったが、入学式の朝にされたアドバイスを守って、「兄」ではなく「先輩」として接した。

『あとはうーん……そうだ、高校では、兄さんとは言え僕の後輩になるわけだから、ちゃんと先輩と呼んで敬語も使うこと、とかもアドバイスかな?』

厚史がしてくれた他のアドバイスも役立った。例えば「自己紹介で卑屈になるな」というのは、
高校入試に失敗して浪人したことを必要以上にひけらかして卑屈になってしまうと接しにくいからやめろという意味だった。
本当に優秀な弟だった。
演劇もうまく、厚史が見せてくれた『フルハウス』などのコメディのものまねなんかは一級品だった。
最高な弟だった。
だが、俺はそれを殺してしまったのだ。この手でその生命を終わらせてしまったのだ。
ん?俺が殺した?いや違う。
「真実」はそうかもしれないが、「事実」は違う。

俺は優秀な弟を失った哀れな兄なのだ。

当職の弟を当職が殺したなどという当職のアイデンティティを否定する投稿が多数なされておりました。

当職の弟は厚史という名前でした。一つ違いの弟でした。喧嘩もしましたが、私にとってのかけがいのない弟でした。

弟は、地元の悪いもの達に、恐喝され、多摩川の河川敷で、集団暴行にあった翌日に親にもいえず自殺しました。

弟が16、私が17のことでした。
私の中にはいつも弟がいます。

(終わり)

リンク

恒心文庫
メインページ ・ この作品をウォッチする ・ 全作品一覧 ・ 本棚 ・ おまかせ表示