「恒心文庫:ラーメン尊師郎」の版間の差分
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(相違点なし)
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2019年8月2日 (金) 20:59時点における版
本文
西新橋の方に面白いラーメン屋ができたみたいだよとMさんに聞いた私は、妻と散歩がてら寄ってみることにした。
店はすぐ見つかった。ビルの一階に遠くから目を引く「ラーメン尊師郎」の黄色い看板、これはきっと巷で人気のJ系ラーメンを意識したものだろう。
あの系列は私も妻も大好きだ。
豚からとったスープに極太麺、モヤシやキャベツなどをたっぷり乗せて仕上げはプルプルの背脂。たまらない。ニンニク、ヤサイ、アブラ、カラメなど独特の無料トッピングも人気のひとつだ。
ごくりと唾を飲みながら店の戸を開けると、開店したばかりのためか、まだ先客はいなかった。
顎髭をうっすら生やした細身の店員がカウンターの向こうから「先に食券を買ってくださいね」と言う。店長かな、あれ。
入口左手にはJ系ラーメン店でお馴染みの食券販売機があった。メニューは「大」「小」しかない。それにトッピングの「豚」「豚ダブル」だ。いいぞいいぞ、これが硬派なJ系だ。
妻は「小」、私は「大」「豚」のボタンを押し、カラフルなプラスチックの食券をカウンターに置いて着席した。
「小と大豚ですね」細身の店員は手早く麺を鍋に入れた。厨房の中が暑いのか、服の胸元が開いている。乳首が立っているのまで見えてしまい、妻は「あら、いやあねえ」と苦笑いだ。
さて、厨房の中を眺めると、片隅に奇妙なものがあった。大型の寸胴鍋の中に太った仏頂面の中年男がいるではないか。
「あれは誰ですか?」私は細身の店員に聞いた。
「ああ、あれは、」醤油の一斗缶を開けながら細身の店員は言った。「スープですよ」
聞くところによると、40℃ほどの湯にあの男を浸けておくと、低温熟成の上質な豚骨エキスが抽出されるのだという。
我々の丼に醤油が入れられ、更にひしゃくで中年男の鍋から縮れ毛の浮く白濁スープが注がれる。脂の匂いがふわりと鼻腔をくすぐる。
茹で上がった麺が入れられると、「ニンニクは入れますか」細身の店員がトッピングを聞いてきた。
このあとMさんと会う予定があるためニンニクはやめておき、私はアブラマシ、妻はヤサイ多めでと答えた。
「小ヤサイからいきますね」細身の店員はそう言うと、妻の丼を持って中年男の鍋の前に立った。
中年男が鍋の中で立ち上がるや否や、
「もぉダメェ!!我慢できないナリ!!漏れちゃうナリィィィィィ!!(ジョボボボボジョボボボ!!!!!!!ブバッババブッチッパッパッパパ!!!!!!」
丼へ大量に放尿するではないか!大便も少し漏れてしまったのか、尻から未消化のニラが幾筋かはみ出ている。細身の店員はそのニラを集め、丼に乗せた。
唖然とする我々をよそに、細身の店員は「じゃ次は大豚アブラいきますよ」と笑顔を見せた。中年男は鍋から這い出て、私の丼の上に尻をつき出している。
そして、「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!! )」
私の丼は中年男の「大」で一杯になった。そこに、湯上がりのアブラぎった汗がボトボト落とされる。
「あと豚ですね」細身の店員は慣れた手つきで中年男の腹の肉を包丁で切り取った。「サービスでダブルにしておきました」ほとんど脂身だった。
我々はこの見たこともないJ系ラーメンを味わい、身を震わせことは言うまでもない。
丼をカウンター上に起き、布巾で卓上を拭いて「ごちそうさま」と店を出ると、秋の空は早くも夕焼け色に染まっていたのだった。
タイトルについて
この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。
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- 初出 - デリュケースレinエビケー >>280(魚拓)