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== はじめに ==
== はじめに ==
 私は弁護士として、ネット上の法的問題をよく取り扱っています。専門家としてテレビでコメントする機会をいただくこともあります。弁護士として一般的にみなさんが想像されるような業務も数多く担当していますが、中でもネット問題に特に熱心に取り組んでいます。それは、私自身が過去にインターネット上で誹謗中傷や殺害予告を受けた経験があるからです。<br>
 私は弁護士として、ネット上の法的問題をよく取り扱っています。専門家としてテレビでコメントする機会をいただくこともあります。弁護士として一般的にみなさんが想像されるような業務も数多く担当していますが、中でもネット問題に特に熱心に取り組んでいます。それは、私自身が過去にインターネット上で誹謗中傷や殺害予告を受けた経験があるからです。<br>
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 そのためには、被疑者の名前をキーワードに検索エンジンで検索された場合に、検索上位にまとめサイトが来る必要があるのです。<br>
 そのためには、被疑者の名前をキーワードに検索エンジンで検索された場合に、検索上位にまとめサイトが来る必要があるのです。<br>
 そこで、早期に情報を収集し、他のサイトに先んじてまとめサイトを作る必要があります。こういった事情から、'''情報の真偽が確かめられる前に誤った情報が公開されやすい'''ともいえます。<br>
 そこで、早期に情報を収集し、他のサイトに先んじてまとめサイトを作る必要があります。こういった事情から、'''情報の真偽が確かめられる前に誤った情報が公開されやすい'''ともいえます。<br>
 過去、私自身もインターネット上で間違った情報を流され、その情報を鵜呑みにした一部マスコミが取材に来るということもあり、取材もなく誤報を流されたことがありました。<br>
 過去、私自身もインターネット上で間違った情報を流され、その情報を鵜呑みにした一部マスコミが取材に来るということもあり、取材もなく誤報を流されたことがありました{{原文ママ|取材に来ているのか来ていないのかわからない}}。<br>
 マスコミは情報の精査を何よりも大事にしていると考えていましたが、ときに急いで出そうとするあまり、誤った情報を入手してしまうこともあるという現実に驚きました。<br>
 マスコミは情報の精査を何よりも大事にしていると考えていましたが、ときに急いで出そうとするあまり、誤った情報を入手してしまうこともあるという現実に驚きました。<br>
 誰が言っているから、どこが言っているからではなく、その情報がなぜ正しいと思うのか考えること。それが情報を受け取ったときにもっとも大事なことなのです。<br>
 誰が言っているから、どこが言っているからではなく、その情報がなぜ正しいと思うのか考えること。それが情報を受け取ったときにもっとも大事なことなのです。<br>
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<div style="font-size:110%">'''ブログは自分が何者かになれる'''<br>
<div style="font-size:110%">'''ブログは自分が何者かになれる'''<br>
'''唯一の場所だった'''</div>
'''唯一の居場所だった'''</div>


'''唐澤''' 発信することに対する恐怖は湧きませんでしたか?
'''唐澤''' 発信することに対する恐怖は湧きませんでしたか?
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'''はあちゅう''' ……変化のときだったのだと思います。以前からツイッターに対してはすごく疑問に思っていて……ここでなにを言ってもダメだという諦めがありました。<br>
'''はあちゅう''' ……変化のときだったのだと思います。以前からツイッターに対してはすごく疑問に思っていて……ここでなにを言ってもダメだという諦めがありました。<br>
 私が4までフォローを削除した時も、「はあちゅうが逮捕を恐れてフォローを4人まで減らしたのマジ」って書かれたツイートが何千リツイートもされた。なぜかというと。以前、脱税で捕まった著名人とご飯を食べたことがあったり、ナンパ塾の講師の人にインタビューしたことがあって、そういう人たちが立て続けに逮捕された時期だったんです。<br>
 私が4までフォローを削除した時も、「はあちゅうが逮捕を恐れてフォローを4人まで減らしたのマジ」って書かれたツイートが何千リツイートもされた。なぜかというと。以前、脱税で捕まった著名人とご飯を食べたことがあったり、ナンパ塾の講師の人にインタビューしたことがあって、そういう人たちが立て続けに逮捕された時期だったんです。<br>
 その結果、「はあちゅうが自分も逮捕されると思って、芋づる逮捕を恐れて交友関係を隠すためにフォローを削減した」みたいなことが書かれてしまって。そんないわれのないデマは何千リツイートsれるのに、私がそれを否定したツイートは、3リツイート。ああ、ここに私の味方はいないんだなって思っちゃいましたね。
 その結果、「はあちゅうが自分も逮捕されると思って、芋づる逮捕を恐れて交友関係を隠すためにフォローを削減した」みたいなことが書かれてしまって。そんないわれのないデマは何千リツイートされるのに、私がそれを否定したツイートは、3リツイート。ああ、ここに私の味方はいないんだなって思っちゃいましたね。


'''唐澤''' 絶望的な気持ちになりますね。
'''唐澤''' 絶望的な気持ちになりますね。
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== 炎上してしまったらどうすればいい ==
== 炎上してしまったらどうすればいい ==
===炎上したらまずすべきこととは===
====炎上したらまずすべきこととは====
 不幸にもあなたのSNSが炎上してしまったらどうすればいいのでしょう?<br>
 不幸にもあなたのSNSが炎上してしまったらどうすればいいのでしょう?<br>
 あなたがいくら気をつけていても炎上をしてしまう場合はあります。<br>
 あなたがいくら気をつけていても炎上をしてしまう場合はあります。<br>
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 炎上が始まると、'''炎上させる側は被害者が知られたくない、明らかにしたくない、弱いところを狙おうとします。'''<br>
 炎上が始まると、'''炎上させる側は被害者が知られたくない、明らかにしたくない、弱いところを狙おうとします。'''<br>
 たとえば個人情報や家族であったり。社会人で所属が明らかになると、今度は会社への{{原文ママ}}電話してクレームを入れたりして相手が嫌がることをして社会的に追い詰めようとしてきます。<br>
 たとえば個人情報や家族であったり。社会人で所属が明らかになると、今度は会社への{{原文ママ}}電話してクレームを入れたりして相手が嫌がることをして社会的に追い詰めようとしてきます。<br>
====1 ネタを投下しない====
=====1 ネタを投下しない=====
 炎上してしまったら、第一にとるべき行動は、'''次の炎上の燃料となるネタを与えないこと'''です。燃料を投下されると、また一気に盛り上がり、まとめサイトへの転載が始まります。<br>
 炎上してしまったら、第一にとるべき行動は、'''次の炎上の燃料となるネタを与えないこと'''です。燃料を投下されると、また一気に盛り上がり、まとめサイトへの転載が始まります。<br>
 炎上を鎮火させようとして発言したつもりであったとしても、大抵は火に油を注ぐこととなり、ますます炎が広がるという悪循環に陥ります。<br>
 炎上を鎮火させようとして発言したつもりであったとしても、大抵は火に油を注ぐこととなり、ますます炎が広がるという悪循環に陥ります。<br>
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 なにを言われても黙る。しつこく絡まれても無視をするのが一番です。<ref>もっとも、これができていないから唐澤貴洋に対する嫌がらせが今日まで続いている訳である。</ref>
 なにを言われても黙る。しつこく絡まれても無視をするのが一番です。<ref>もっとも、これができていないから唐澤貴洋に対する嫌がらせが今日まで続いている訳である。</ref>


====2 時間が経過するのを待つ====
=====2 時間が経過するのを待つ=====
 燃料を与えないことが何よりも大事ですが、同時に時間の力を借りましょう。喉元過ぎれば、ということわざがありますが、時間の経過とともに人の怒りの感情はおさまるものです。<br>
 アンガーマネジメントという言葉があります。人間は瞬間的に怒りを覚えても6秒程度じっとこらえると、怒りに任せた衝動的な行動を抑えることができるということは広く知られるようになりました。<br>
 このように、程度はあれど時間とともに人間の怒りは鎮まっていくものなのです。<br>
 時間の経過によって解決することもあると理解した上で、'''炎上させる相手と同じ土俵に上らない'''ように気をつけてください。<br>
 大事なのはちょっと離れたところから状況を観察して見守ることです。<br>
 自分の社会的立場を守るために弁解することも、この段階では避けてください。自己保身に走っていると評価され、その場面だけを切り取られたイメージが拡散して、さらに事態が悪化することが予想されるからです。<br>
 炎上が始まると精神的にダメージを受けて、早くどうにかしないとと焦ってしまったり、他人のことを構う余裕がなくなります。しかし、そんなときこそ、冷静な対応が求められます。<br>
 ネタを与えないで飽きるのを待つ。「時間稼ぎか」と言われても気にせず、落ち着くのを待ちましょう。弁明や謝罪などはその次の段階で行えばいいのです。


====3 警察に相談する====
=====3 警察に相談する=====
 ひどい誹謗中傷が続いたり、プライベートの様子が盗撮されたり、自分の居住地が明記されたり、学校や勤め先、両親や家族、恋人の情報が晒されたりするなど、明らかなプライバシー侵害が行われた場合はまず警察に相談しましょう。<br>
 警察に動いてもらうためにはまず窓口で相談する必要かあります。必要があれば被害届を提出しますが、結果としてどの程度の捜査をしてもらえるかは、被害者側の努力や協力にかかっていることもあります。<br>
 この項目については、次章で詳しく語りますが、ネット上で被害を受けたからと単に相談をしても、必ずしも警察が対応してくれるとは限らないのです。まずは'''警察に対して、自分が被害を受けたという証拠を提示'''しなければいけません。<br>
 たとえばプライバシー侵害をされているならば、まとめサイトのHPのスクリーンショットを用意するなど、明らかに自分が被害を受けているとわかる証拠が必要です。ツイートで炎上している、クレームのリプが飛んでくるという理由だけでは警察は動いてくれないでしょう。<br>
 あなたがもし匿名アカウントを用いていて、その匿名アカウントに対して誹謗中傷されている場合は、周りの人がそのアカウントをあなたであると認識していることが必要です。<br>


====4 弁護士に相談する====
=====4 弁護士に相談する=====
{{color|red|'''''以下執筆中'''''}}
 警察への相談と同時に、インターネットの人権侵害に明るい弁護士に相談を依頼するのもいいでしょう。<br>
 弁護士は具体的な解決策を示してくれる場合もありますし、警察への対応力になってくれます。インターネット上のトラブルに明るい弁護士ならば、友人や知り合いに炎上している事実を話せなかったり、あるいは話しても炎上のつらさを共有できなかったという苦しみにも理解を示してくれます。<br>
 また、警察に相談しても告訴状を受理されない可能性がありますが、かならず'''自分の味方になってくれる弁護士の存在は心強く感じる'''はずです。ただし、弁護士との相談などには費用がかかりますので、その点は注意してください。
 
====一般人(私人)の場合の対応例====
 ここからは私人・公人・企業などに分けて対応策を見ていきましょう。<br>
 一般人の場合、大事なのは'''反論をしない'''ことです。炎上させようという敵意をもった人間に対して、どんなことを言っても無意味です。とりあえず、炎上に気がついたら沈黙を守ること。信頼できる人間に相談することも大事です。両親や家族、恋人にも被害が及ぶ可能性があることを直接伝えてもいいかもしれません。<br>
 次に'''アカウントを削除しましょう。'''ツイッターやインスタグラムにはたくさんの個人情報が詰まっています。鍵をかけたとしても、もしかするとフォロー関係にある知り合いから、さらに個人情報が流出しないとも限りません。<br>
 もったいないという感覚を捨て去り、勇気を持って消すことです。何年もかけてフォロワーが増えたのに、という気持ちはわかります。だからといって、ツイートを全削除しても、アカウントが存在しているというだけで、炎上させる側のターゲットになり続けます。<br>
 いったんアカウントごと削除して、SNSから存在を消すこと。あなたを炎上させようとしている人々の視野から消えることが大事なのです。<br>
 同時に過去のインターネット上に発信した情報を削除します。他のアカウントやホームページ上で個人情報が掲載されている場合は、そちらも削除をお願いしましょう。<br>
 次に'''学校や勤務先に炎上している事実と現状を説明'''してください。<br>
 炎上投稿をした人間に敵意をもった人たちは、自宅以外の、学校や勤務先にも電話やメールで突撃してくることがあります。<br>
 このとき、一番まずいのが、学校や担任や会社の上長{{原文ママ|「学校の担任や会社の上司」か?}}がその事実を知らないまま、突然電話が鳴り響き、学校や会社に混乱を招いてしまうことです。あなたの印象はますます悪くなるでしょう。<br>
 つまり、'''自分に非があるならばその旨をきちんと伝えて、対応をお願いする'''ことが大事なのです。自分に非がないのであれば、毅然とした対応をお願いすることで、混乱を防ぐことができます。<br>
 また、政府もインターネット上の誹謗中傷への対策に力を入れています。法務省人権擁護局のインターネット人権相談窓口に相談するのもいいでしょう。<br>
 こちらではインターネットでも相談を受け付けているので、メールや面談などで一緒に解決策を探ってもいいでしょう。
=====企業の場合の対応例=====
 
 企業の場合は当たり前ですが、一般人と対策が異なります。<br>
 かのドラッカーは「顧客を満足させることが、企業の使命であり目的である」といいました。企業の使命は最終的には社会に貢献することです。<br>
 炎上をした場合には関係各所が迅速に動き、現時点で集められる情報を集め、記者会見を行い情報を公開することが求められます。それを社会が欲しているからです。<br>
 この対応の素早さと誠実さが、その後の炎上の度合いを決めるといってもいいでしょう。<br>
 問題となるのは'''炎上の原因となった事象を隠蔽した場合です。'''<br>
 批判的な意見や、そのもととなった事実を「隠そう」としてはいけません。<br>
 炎上したのち企業側の判断で投稿の削除をすることがありますが、現在ではすぐにサイトにまとめられてアップされてしまうので意味はなく、さらにリリースや記者会見などで説明する前に削除をすると「隠蔽している」という悪いイメージを与えかねません。<br>
 炎上した際は、「'''何について、誰について謝罪し、どのような責任を誰がとるか'''」が重要です。<br>
 先日話題になった銭湯絵師の「元弟子」がイベントで他人のイラストをモチーフを{{原文ママ|「イラストをモチーフに」の間違い。}}模倣したことが判明したあとの謝罪文が悪い例ですが、「お騒がせしたことをお詫び」するのではなく、なぜ、誰に対して、どうして謝るのかを明確にしなくてはいけません。そうしないと、正義の代理人の怒りを増幅させるだけです。<br>
 もしも被害者がいる場合、被害者に対して、潔い謝罪と最大限の損害賠償をすることが大事です。月並みな言い方になってしまうのですが、'''誠意ある対応を心がけることが不手際・不始末のあとでもそれ以上に企業価値を損なわない最良の方法'''なのです。<br>
 
 もしも従業員が不当な炎上やインターネット上の人権侵害の被害に遭っていたとしたら、会社や組織は毅然とした対応をすべきであると考えます。<br>
 たとえば私は事務所への嫌がらせが続いたため、大手ビル所有会社から出て行けと言われたこともありました。日本有数の会社がそのような対応をとったことはとても残念であり企業として適切な対応だったのか今でも疑問に思っています。<br>
 幸いにして私には弁護士という職があったのげなんとかなりましたが、企業に勤める社会人でそれに耐えられる人は少ないと思います。<br>
 私の場合は第一弁護士会の会長が応援の声明を出してくれたことが心の支えとなりました。それだけで、「あきらめてはいけない。がんばらなければいけない」という気持ちになりました。会長からは「弁護士会はこれからも応援する、そして、今はこの声明しか出せなくて申し訳ない」という言葉をいただきました。<br>
 私への声明を出したがために、会長が脅迫されるという事態まで生じたものの、それ以上に私のことを気遣っていただきました。自然と涙が出てきました。今でも弁護士会の先生方に多くの支援をいただいております。<br>
 以上の私の経験から、会社や組織は、炎上している当該従業員と話し合った上で、インターネット上の人権侵害だと認識したのなら、迅速に社員を守る対応をとるべきだと考えています。'''それがその人の心の支えになるからです。'''
 
=====有名人の場合=====
 最後に、有名人や芸能人の場合の対策もお話しておきましょう。<br>
 有名人を炎上させる人たちがなにを求めているのかすぐに考えましょう。不法行為やマナー違反であればすぐに謝罪して、問題の記事を削除。謝罪の際には潔く謝ることが何よりも大事です。<br>
 謝罪に至るまでのスピードは大事です。常に大衆の目に触れる可能性のある有名人は、否が応でも顔を見たり、記事で名前を見かけるだけで、そのことを思い出す人も多いわけで、放っておくことで、怒りが増幅され憎悪になってしまう可能性があるからです。<br>
 さらにまとめサイトがすぐに立ち上がるので、初期対応を間違えるとあっというまに炎上して、さらに周辺にも飛び火、延焼を始めます。<br>
 前にも書いたように、'''有名人に求めるのは、言い訳や弁明ではなく、真剣に反省している態度'''です。中途半端な反論はしてはいけません。<br>
 迷惑をかけた相手がいる場合は、当事者間で和解を行うことはもちろん、相手方へ配慮している姿勢を示すことが大事です。<br>
 連名で声明を出すことも効果があります。<br>
 雑誌「SPA!」は女子大生に対する性的偏見を助長する記事を掲載したとして炎上しました。しかし、クレームの声をあげた女子大生を呼んで話し合いの上、両者で解決策を提示しました。
 '''当人同士がもめてないということを明確にすれば、外野がそれ以上焚きつける道理も目的もなくなってしまいます。'''<br>
 VAZという芸能事務所ではユーチューバー同士、あるいはユーチューバーと事務所のトラブルが問題になりました。揉めていた当事者同士が出演した和解の動画を公開したところあっというまに騒動は収まったかのように見えました。しかし、その後、事務所と当事者の話し合いがうまくいかず、再び問題がおこっています。きちんとした和解をすべきであるとの教訓でもあります。<br>
 芸能人はその後、スポンサーやテレビ局への説明が求められますが、これは社会人が会社に説明するのと同じことです。自分のせいで迷惑をかけてしまうことを事前に伝えるのです。<br>
 スポンサーやテレビ局は、ときにインターネット上の炎上を過剰に重視してしまうことがあります。実数として何人が炎上に参加しているのか、何人が電話しているのかも知らないにもかかわらず。<br>
 スポンサーやテレビ局も炎上を忌避するのではなく、炎上について冷静に分析することが求められます。


== 炎上で被害を受けた、さあどう戦う ==
== 炎上で被害を受けた、さあどう戦う ==


====まずはどんな戦い方があるのかを知る====
 もしもあなたのSNSが炎上して、いわれのない誹謗中傷を受けたり、個人情報がさらされるなどの実害を被ったら、どうしたらいいのでしょうか。<br>
 炎上したことで実害を被った場合、以下の流れで「見えない相手」と戦いましょう。<br>
<div colspan="2" style="border:1px solid #633;padding:0 1em 1em 1em;color:black;background:#fff;margin:9px 4px">
<br><center>発信者の特定</center>
<center>▼</center>
<center>▼</center>
<center>▼</center><br>
<center>損害賠償請求</center>
<center>or</center>
<center>名誉毀損罪・脅迫罪</center>
<center>業務妨害罪</center>
<center>著作権法違反等での</center>
<center>被害申告、</center>
<center>場合によって</center>
<center>刑事告訴</center>
</div>
 まずは、投稿記事の発信者を特定する必要がありますが、仮に特定できた場合、実際に相手を法的な手続きをとっていく{{原文ママ|「法的な手続きに持っていく」}}とすれば、次のような手立てがあります。<br>
=====損害賠償請求するには=====
 誹謗中傷、プライバシー等の権利侵害に基づく精神的損害に対する慰謝料、営業損失についての賠償を求めましょう。慰謝料については、裁判では、数百万円といった金額が認められる可能性は低く、個人への少数の投稿だと数十万円程度と考えてください。損害賠償で認められる金額は少なく、被害者にとっては書かれ損であるのが現状です。<br>
 発信者の特定のためにかかった弁護士費用は、発信者への損害賠償金額の裁判で一部調査費用として認められる場合があります。<br>
 損害賠償請求訴訟の提起のための弁護士費用は、裁判で認められた損害賠償金額の1割だけ認められます。たとえば20万円の慰謝料が認められたら、その1割の2万円が認められます。さらに裁判を行うと費用がかかります。具体的に、郵便切手代、裁判所に収める印紙代が訴訟当初にかかります。<br>
 損害賠償請求は訴訟を行わなくてもできます。裁判ではなく内容証明郵便等で相手に請求するもので、この段階で示談がまとまることもあります。
=====刑事告訴するには=====
 名誉毀損罪は被害者側で犯人を特定した上で、資料を整えて警察にお願いすると対応されやすくなります。<br>
 警察には一度相談に行くだけではなく、資料を整えて足繁く通うことが必要です。
 資料とは、'''誹謗中傷されている投稿記事のスクリーンショット(URLが記載されているもの)'''、開示手続きをした場合は裁判所の仮処分決定、判決、実際に発信者情報の開示結果を資料として付ける必要があり、刑事告訴の文書では、各犯罪になぜ該当するかを記載する必要があります。<br>
 ちなみに、名誉毀損罪は親告罪(被害者からの告訴が無ければ起訴できない犯罪のこと)なので、刑事告訴が無ければ起訴されません。<br>
 警察への対応としては、告訴した後も定期的に連絡を取り、対応状況の確認をした方がいいでしょう。警察も多忙のため、その案件にかかりきりというわけにはいかないからです。誹謗中傷が続いたり、事態に進展があったらそれも伝えてください。<br>
 '''脅迫罪・業務妨害罪は親告罪ではない'''ので、被害届でも警察の対応を求めることができます。業務妨害罪では、法律上は本来必要とされていないのですが、具体的な業務妨害についての証拠の提出を求められることがあります。このため、'''どういった投稿や現実的な嫌がらせがあってその結果どのように業務が妨害されたかを記録する'''必要があります。
=====プロバイダの情報開示にはどうすればいい=====
 それでは、次に個人を特定するための方法を見ていきましょう。<br>
 '''掲示板、ブログのコメント、SNSにおける投稿についての投稿者を特定する'''には以下の方法があります。<br>
 まず投稿されたウェブサイトの管理者(ウェブサイトというコンテンツを提供〈プロバイド〉していることからコンテンツプロバイダという)からIPアドレス・投稿日時等について開示を受けましょう。<br>
 この場合は、'''①裁判所に発信者情報開示の仮処分を申し立てる'''ことが多くなるでしょう。裁判手続をしなくてもIPアドレスの開示を受けることができるサイトもありますが少数に限られています。<br>
 次に'''②IPアドレスを管理するインターネット接続業者'''(経由プロバイダと呼ばれる。ソフトバンク、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズなど)に対して'''契約者情報の開示を求めます。'''発信者が同意しない限り(実際に同意するケースはごく少数です)、裁判手続きによらなければ、契約者情報の開示は困難です。<br>
総務省が発行する、開示を受けるための根拠となる法律の解説本では、
<blockquote>
「プロバイダ等が任意に開示した場合、要件判断を誤ったときには、通信の秘密侵害罪を構成する場合があるほか、発信者からの責任追及を受けることにもなるので、裁判所の判断に基づく場合以外に開示を行うケースは例外的であろう」
<cite>(『改定増補第2版プロバイダ責任制限法』74頁)</cite>
</blockquote>
と推奨されており、インターネット接続業者もそれに従っているのが現状です。
<blockquote>
「「求め」ではなく「請求」という用語を求めたのは、「求め」の場合には、任意の履行を期待して裁判外において要求するという意味合いが強いのに対し、本法律においては、そのような広い履行方法は期待されておらず、開示関係役務提供者は要件の充足性を厳格に審査し、要件充足性について疑義がある場合には、開示しないことが期待されることから、訴訟による権利の実現というニュアンスが強い「請求」という用語を用いているものである。」
<cite>(『改定増補第2版プロバイダ責任制限法』78頁)</cite>
</blockquote>
 すこし難しくなってしまいましたが、これらの文は、'''ネットに投稿された投稿者の個人情報をプロバイダが開示する場合は裁判所からの判決を受けてからにしなさい'''ということを明言しています。<br>
 実際に、前提となる事実が明らかでない論評や、女性に対する明らかな名誉毀損やプライバシー権侵害に対して、プロバイダが任意で開示しなかった例が確認されています。<br>
 弁護士会からの照会での契約者情報の開示ができるといった誤った解説が、某掲示板の管理者からなされていますが、具体的な根拠は示されていませんし、実務家からもそのようなケースを現在聞いたことはありません。実際、その掲示板も弁護士会照会で発信者情報の開示ができるわけではありません。
=====ウェブサイト管理者を特定する方法=====
 ウェブサイトの管理者自体が誹謗中傷に関与している場合に、ウェブサイト管理者を特定する方法を確認しましょう。<br>
 まず、ウェブサイトに関するデータが入っているサーバ管理会社(さくらインターネット、エックスサーバーなど)を調べることが第一歩です。<br>
 '''「whois」というサイトでドメインの登録情報やどのIPアドレスと紐づいているかを調べましょう。'''<br>
 権利侵害情報を掲載するサイトは、ドメインの登録者情報が正確に記載されることはなく、ドメインの登録サービスを提供して登録情報公開の代行を行う事業者(レジストラと呼ばれます)の情報が掲載されていることが多いのです。<br>
 ドメインとIPアドレスの紐づけが確認できたら、基本的にそのIPアドレスを管理しているサーバ管理会社に対して、発信者情報開示訴訟請求を行い、サーバの利用契約をした者に関する情報を得る必要があります。しかし、サーバ管理会社はウェブサイトの投稿者に関する通信ログ情報までは提供してくれません。<br>
=====個人情報を特定する際に立ちはだかるハードル=====
 法の力を借りて戦うことがもっとも有効な戦法であることは間違いありませんが、それでもさまざまな困難が立ちはだかります。<br>
======問題① 通信ログ(IPアドレス、投稿日時、契約者情報)の保存期間や、通信ログの保存方法について法律上規定されていないこと======
 総務省は個人情報保護の観点から通信ログの保存を推奨しておらず、掲示板管理者、コンテンツを提供する事業者、インターネット接続業者において、通信ログがきちんと保存されていないことがあります。<br>
 また、開示されたIPアドレスや投稿日時だけでは、発信者を特定できない場合もあります。これは、インターネット接続業者がIPアドレスや投稿日時では契約者情報が特定できない方法で契約者の通信情報を管理しているからです。これらの問題は、新たな立法が求められます。<br>
======問題② 発信者情報と{{原文ママ|正しくは「を」。}}隠すための技術の存在======
 '''a)Tor(The Onion Router)'''ブラウザという発信者情報を隠すためのブラウザが存在します。このブラウザを介し、インターネット上の情報を発信すると、発信者に関わる情報を特定するのが困難になります。もしも、この通信技術を用いたサイバーテロが行われたら、現状では対応できない可能性が高いということです。これは警察も認識しており、早急に国家的な対応が求められます。<br>
 プロバイダもTorを用いて悪意ある投稿が行われていることは把握しており、プロバイダが把握した情報を端緒とし、発信者を特定できる仕組みを作る必要があるでしょう。<br>
 '''b)クラウドフレアというCDN(Content Delivery Network)'''を提供するサービスを利用されると、サイト管理者を特定する上で支障が出ます。<br>
 CDNとは、元々データを保存していたサーバ管理会社以外にウェブサイトに関するデータを保存し、エンドユーザーがサイトへのアクセスを容易にするサービスでしたが、このサービスを用いられるとサーバ管理会社に関する情報が掲載されているwhois情報を隠すことができるからです。違法サイトがクラウドフレアを用いると、サーバ管理会社が特定できず、サイトの削除をサーバ管理会社に請求する上で支障が出ます。<br>
 クラウドフレアがサーバ管理会社に関する情報を提供してくれることもあるので、まずはメールで何度も問い合わせをすることをお勧めします。<br>
 それでも対応してもらえない場合は、クラウドフレアに対して、発信者情報開示の仮処分を申し立てることが必要となります。<br>
 ただし、ここで開示を受けられる情報は、クラウドフレアの利用者の登録情報であり、登録時に虚偽の情報を入力されている場合もあります。<br>
 この場合、登録時に保存していたクレジットカード情報を把握したいところですが、日本の法律上、開示を受けることができる根拠となる法令が存在しないのです。<br>
 米国の情報開示手続と用いた成功事例が存在するのですが、米国では弁護士費用が高額であり、一般の方がこの手続きを利用するにはまだまだハードルが高いでしょう。<br>
 クラウドフレアは、日本国内向けのサービス展開のため、日本国内のサーバ管理会社を用いてデータを保存していることが調査の結果わかっています。<br>
 日本の会社が関与して日本国内でサービスを展開している以上、違法行為にクラウドフレアが利用されているのならば、関与している日本企業も含めて情報開示について誠実な対応が求められます。<br>
 '''c)街中で誰でも自由に使える公衆Wifi{{原文ママ|「Wi-fi」。ハイフンが抜けている。}}'''も厄介です。身分の確認をきちんとせずに、インターネットの接続サービスを提供している公衆Wifiも存在します。このような回線を利用されると、発信者情報の特定が困難になります。<br>
 公衆Wifiの中には、パスワード設定していないところ、一度パスワード設定をした後、ずっと変更しないところもあります。<br>
 一度パスワードを入手すれば、近隣でノートパソコンやスマートフォンを開き、店舗が契約した回線を利用して、違法情報が発信される危険性があるということです。<br>
 公衆Wifiの在り方にもきちんとしたルール作りをする必要があるでしょう。<br>
 '''d)他者の回線を乗っ取って'''投稿されると、実際に投稿をしたことのない人に関する情報が契約者情報として開示されます。刑事事件では誤った捜査が行われないように、スマートフォン、パソコン等通信端末に残存している通信ログを調査しています。<br>
 民事訴訟で見に覚えのない通信をしたとして発信者情報の開示を求められた場合は、その旨を主張し、専門家に通信端末の通信ログを解析してもらい、身の潔白を主張していく必要があるでしょう。
=====私はこうやって戦った=====
 私に対するインターネット上の誹謗中傷や殺害予告等は無数存在していたことから、民事手続のみでは、対応できませんでした。そこで、刑事告訴を行い被害届を出し、刑事事件としての立件を目指していきました。これにより、10人を超える加害者が刑事事件で立件されており、複数人逮捕され、現在服役している人もいます。<br>
 警察からも多大な協力をいただいて、なにかあればいつでも対応いただける体制を整えていただきました。また、弁護士会によるサポートも大きな支えになりました。声明を出して公的にサポートしていただいたことにはじまり、法的手段をとるときは、多数の弁護士の方に、訴訟についてご協力いただきました。それはとても心強いものでした。<br>
 そして、周囲の知人や、特に家族による支援は心の励みになりました。私の父親、母親からはいつも気持ち上でサポートしてもらっています。<br>
 インターネットで誹謗中傷を受けた経験は誰にでもあるものではありません。それは周囲が想像するよりも大きな恐怖であり、怯えながら毎日を暮らすことは大きな精神的負担になります。<br>
 自分の悪口を誰が書き込んでいるかわからない、それゆえ疑心暗鬼になり精神的に不安定になっていく。このとき、支えてくれる人の存在がなによりも大事です。<br>
 それは自分の周囲にいる人でもいいですし、法務省の人権擁護局のインターネット人権相談や、弁護士など法の専門家に相談してもいいでしょう。<br>
 一人で戦うことはありません、そして、あなたは一人ではありません。自分の状況について周囲に率直に伝え、理解を求めることから始めましょう。
=== 対談 ジャーナリスト 渋井哲也 ===
=== 対談 ジャーナリスト 渋井哲也 ===
<div style="font-size:120%">ずっとその場所に居続けてしまうと、<br>
今度はその居場所の平凡さ、変化のなさに耐えられなくなる。<br>
そうすると、今度は競争が始まる</div>
渋井哲也<br>
ジャーナリスト
'''しぶい てつや'''<br>
ジャーナリスト・フリーライター。中央大学非常勤講師。長野県の地方紙の記者を経て、フリーに。主な取材テーマは、インターネット・コミュニケーションのほか、若者の生きづらさ、自殺など。著書には、『明日、自殺しませんか』『学校裏サイト』など。
<div style="font-size:110%">'''ジャーナリストから見た'''<br>
'''ネット依存とは'''</div>
'''唐澤''' 渋井さんはもともと新聞記者をされていたんですよね。どういったきっかけでインターネットの問題に取り組み始めたんですか?
'''渋井''' 僕は1993年に長野日報に入社して、初めは車の免許がなかったので内勤だったんですよ。内勤ってパソコンを使うんですけど、単にシステムだけ見ててもつまらない。ここでなにができるだろうって考えていたときに、ちょうどシステム担当がインターネットに精通している人で、システムに関することからネットコミュニケーションの可能性まで教えてもらったんです。<br>
 1996年8月に、当時住んでいた長野県塩尻市が無料でネット回線を開放するサービスを開始したので、そのタイミングでネットを始めました。でもそのときはまだヤフーのページとかも何もなくて、ネットには情報が溢れているって聞いてたのに全然情報少ないじゃんって。<br>
'''唐澤''' ネットは世界とつながっているはずなのに?
'''渋井''' それで情報がないなら自分で情報を作っちゃえって。最初は興味のあった教育問題の発信をしていたんですけど、いまいち盛り上がらなかったんですよ。だけど、『朝まで生テレビ』で援助交際特集をしたときに、それに対して「女子高生って本当はそんな姿じゃないよ」というロフトプラスワンでのイベントを書いたら、援助交際している女子高生から結構反応があったんです。自分のことも取材をしてくださいとか、あるいはまだ援助交際はしてないけど、今後する気持ちはあるんだっていう子たちからもコメントが来て。ネットと家出・援助交際っていうものの相性の良さを感じたんですね。それがネット問題に取り組み始めたきっかけです。
'''唐澤''' 相性がいいとはどういう意味でしょう。
'''渋井''' 家出や援助交際をする子たちって、どこにも居場所がないんですよね。家庭や学校に居場所を感じられないから、自分の住んでいる地域や家族、学校以外の場所に行ける方法をずっと探しているんです。ネットは外の世界とつながれるものなので、自分の殻を破りたいと思っている子たちの受け皿だったんですよ。その頃からインターネットは居場所になっていたんだと思います。
<div style="font-size:110%">'''スマホ時代到来で'''<br>
'''ネットの利用者層にも変化が'''</div>
'''唐澤''' 当時はまだネット黎明期だったと思うのですが、家出や援助交際する子たちってうまくネットを使いこなせていたんですか?
'''渋井''' 1990年代はパソコンがメインだったので、家庭でお父さんやお母さんがネットを使っているのを見て使い方を学んでいるんですよね。彼らはパソコンユーザーの家庭に育っているから、おそらくなんとなく使えちゃう。当時ネットを利用していたのは、ホームページが作れたり、ネットで情報収集ができる子たちだったんですよ。
'''唐澤''' つまりある程度ネットの仕組みがわかっていて、情報の取捨選択能力があったわけですね。
'''渋井''' そういう子たちは、ネットを利用するときに自分でリスク回避していたんですよね。援助交際で直接会う前に、こういう態度をとってくる人は危険だとか、あるいは安全だとか、言語化できないところで危険な目に遭わないようにしていたんですよ。仮に危険なトラブルがあったとしても、交番に駆け込んだり法律に詳しい人に聞くとか、自分でなんとかするって発想があったんですよね。
'''唐澤''' 自分の身は自分で守るという発想ですね。1990年代と比べると、今ネットを利用している子たちの層って変わっていますか?
'''渋井''' 今考えると、1990年代後半から2000年代前半にかけて相当変わったと思います。そのきっかけになったのがiモードの普及。iモードが普及する前って情報の見極めが上手な人だけがネットを利用していたんです。でも普及してからは、ネットの仕組みがよくわかっていなくても携帯で気軽にネットが使えるようになってしまった。しかも今では、誰もがスマホを使う時代でしょ?それによって情報の取捨選択がうまくない人、いわばリスク回避ができない人もネットを利用するようになったんですよ。
'''唐澤''' ネットの利用者の裾野が広がっちゃってるんですね。
'''渋井''' 言うなれば自分が危険な街に行くとして、最初のころ危険な街だって認知して行くから、どこが危険かって理解しているんですよ。だけどその危険な街が一般化されてきちゃうと、いろんな人が行っちゃうでしょ?中には危険だってことを知らない人もいる。一見いっぱいお店があって安全に遊べる街なんだけど、実は近くに危険なスポットがあったりしても、一般利用者にはわからないんですよ。
'''唐澤''' だから危険を回避できないんですね。それに今はスマホで24時間ネットが使えますし、昔と比べると1日のうちネットに関わる時間もぐっと増えましたよね。
'''渋井''' そうですね。昔は夜11時以降のテレホーダイを使ってダイヤルアップでネットを利用したりしていましたからね。当時のユーザーの方は時間はかなり限られていました。それ以外の時間はネット以外のアナログなコミュニケーションをとっていたんじゃないかな。
'''唐澤''' それが時代とともに生活においてネットの比重が大きくなっていった。よりネットへの依存度が高まってきていると言えますよね。どういう流れでそうなっていったんでしょうか?
'''渋井''' 2003年ぐらいに、ガイアックスで誰でもホームページが作れるようになったんですよ。これは人々がネットとの関わり方が変わるきっかけになったんじゃないかと思います。2004年に起きた殺人事件にもネットが深く関わっているんですよ。
'''唐澤''' 「佐世保小6女児同級生殺害事件」ですね。
'''渋井''' あの事件では、最初加害者が被害者の子にパソコンを教えていて、一緒にホームページを作ったんです。誰でも作れるいわゆるブログのようなものですね。でもリアルな世界でトラブルがあって、加害者はホームページのパスワードを知っているから、被害者が書いたブログの内容を書き換えたり嫌がらせして。結局はその延長で攻撃性が増していった。
'''唐澤''' ネットのトラブルが、リアルな世界にまで影響を及ぼすようになったと。
'''渋井''' 当時、文科省のネット教育っていうのは、「知らない人に気をつけよう」だったんですよ。出会い系に気をつけよう、チェーンメールに気をつけようみたいな。でもこの事件以降は「知っている人にも気をつけよう」教育にも変わるんですよ。
'''唐澤''' 友達同士でも気をつけようってことですかね。
'''渋井''' 知っている人の間でもネットのマナーが大事っていう、ネチケットですね。当時の新聞で、ネットでトラブルが起きたとき相手がどんな人だと怒りが継続するのかという調査を行っていたんですよね。それによると、ネット上だけで知っている人が相手だとトラブルがあっても怒りが継続しないんですよ。理由はネットを遮断すればいいから。でも身近な知り合いとネットでトラブルが起きたとき、ネットを遮断してもリアルな世界を遮断することができないから24時間怒りが増していくんですよ。だからネットの他人より身近な知り合いが相手だと怒りが継続してしまう。
<div style="font-size:110%">'''"ネット=居場所"に'''<br>
'''なっている現状'''</div>
'''唐澤''' そもそもどういう人がネットに依存しやすいのでしょうか?
'''渋井''' なにかしら「欠けている」と感じている人ですね。家族環境や仕事だったり、何かしら欠けたと思うとき、それを補うものがないと、ネットに依存しやすくなります。インターネットにある情報を見て、メットで友達と一緒にオンラインゲームをしていたとしても、プレイ中は一人なのでさらに孤立する。ネット上ではみんな楽しくしてるのに、それに比べて自分は孤独だよって。インターネットは本来であれば孤独を満たすための居場所。でもそこにいることでますます孤独な気持ちになってしまうこともあるんです。
'''唐澤''' 依存する人たちはなにを求めてるんでしょう。
'''渋井''' いろんな居場所の形があると思うんですけど、一つは「自己語らいの場所」ですね。たとえば自殺系サイトだったら、私はこんな体験をしたから死にたいと思うんだっていう体験だったり、自殺未遂をしましたよっていうことを語り合う。<br>
 あるいは自殺を止めようとする人が入ってきて、「自殺するなら俺が話を聞くよ」っていう場合もありますね。
'''唐澤''' その人たちは、居場所を見つけることがゴールで、孤独を感じることもあるけどそこにいれば安心できる?
'''渋井''' ゴールはないですね。そこにいることは安心だけれども、24時間張り付いていることはできないから不安は感じると思います。でも、とりあえずサイトにアクセスできれば、ちょっと安心できるんだと思いますね。<br>
 だから自殺系サイト関連の事件が起きると、プロバイダが自殺系サイトを規制して凍結でしょ。そうすると居場所がなくなって不安になっちゃう。下手したら死んじゃう人もいるくらい。
'''唐澤''' 居場所をなくしたらまた別の居場所を探さなきゃならないですよね。ネットの居場所の見つけ方ってありますか?
'''渋井''' ほぼ偶然見つけていると思いますよ。自分の状況に合うキーワードを入力して、それに引っかかったサイトがそのまま居場所になったりしますね。<br>
 たとえば1999年くらいから2000年の前半くらいって、リストカットの自傷系サイトが乱立した時期なんですよね。そのサイトにいじめられたから自傷しましたって人が集まってくると、いじめっていうキーワードが出てくるじゃないですか。そうするとそのサイトには自傷行為をしていないけど、いじめられた人も入ってくるんですよ。いじめが原因で自傷行為をした人がたくさんいると、その話題で盛り上がりますよね。<br>
 そのとき「私はいじめられたけど自傷行為はしていない」っていう人はどうすると思いますか?
'''唐澤''' 新たに、自傷行為はしていないけどいじめられた人が集まるページを作る?
'''渋井''' いや、自分も自傷するんです。自傷すればこのコミュニティに入れると思うんですよ。<br>
 そうなっちゃうと、たとえ自傷するほどの気持ちがなくなったとしても、その居場所から抜けたくないがために自傷し続けるんですよ。ネットだから自傷行為をしてなくてもしているって言えばわからないのに、それじゃあ自分の気分が乗らないんですよ。
'''唐澤''' 居場所がここにしかないって思いつめてるんですね。
'''渋井''' そのときに流行っているサイトに集まってきて、自分も同じような状態になりたいと思い同化していくわけですね。ただ、あまりにも人が集まりすぎると、今度は個別化したくなろ。さきほどの例でいうといじめられて自傷する人のサイトとかにどんどん分断していくんですよ。その度に新しいコミュニティのカリスマが生まれるわけです。
'''唐澤''' 先導とまで言わなくても、何となくコミュニティの空気を作る人が現れるわけですね。それってネット炎上が大きくなるときと少し似ているんじゃないかな。僕自身が炎上したときは、やはり誰かが先導する空気があって、それに周りが煽られて炎上が盛り上がっていると感じました。
<div style="font-size:110%">'''居場所を保つために'''<br>
'''競争が生まれることも'''</div>
'''唐澤''' 仮にネットに自分の居場所が見つけられたとしても、それに依存しすぎるとどうなっていくんですかね。
'''渋井''' 居場所に依存すること自体は悪くないと思うんですけど、僕は居場所っていうのは、居場所でない場所があることによって、初めて居場所になると思うんですよ。<br>
 極端な言い方をすると、24時間働けます的な状況にいるから、たまに羽を休められる場所がある。なので、ずっとその居場所に居続けてしまうと、今度はその居場所の平凡さ、変化のなさに耐えられなくなる。そうすると、今度は競争が始まるんです。
'''唐澤''' 居場所にいる仲間たちとの競争ですか?
'''渋井''' はい。たとえばインターネットの中で自傷行為のコミュニティがあったとします。そこでは、「いつから切ってるのか」、あるいは「どのカッターでを使ってるのか」とか、「まだコンビニのカッターを使ってるの?東急ハンズのカッターがいいよ」とか。同じ自傷行為でもそれ以外のなにかで争っちゃうんですよ。<br>
 本来コミュニティは癒やしの場所としてお互いつながっていたのに、それ以外で争っていくんですね。
'''唐澤''' 初めは居場所の中に同化していたものが、次第に分離や階層化していく。居場所だったはずなのに、ずっといることによって、居場所を居場所として維持するための努力をしなければならなくなるんですね。
'''渋井''' そう。ネットのホームページってより多くのアクセスが欲しいじゃないですか。だからアクセスを増やすためにリストカットの画像を送ったり、そのうち画像だけでは足りなくなると動画を送ったりするんですよ。<br>
 それは居場所を維持するためでもあるんですけど、「こんな状況の私をどうにかしてほしい」というSOSの意思も込められているんです。競争したい気持ちとSOS、2つの感情を含んでいるから複雑なんですよね。
'''唐澤''' 居場所を維持するために競争しているプロセスは、炎上にも共通しているものを感じます。僕は炎上事件の加害者に、炎上に参加したときの心理を聞いてみたことがあるんですよ。「今だったら同じことはしないけれど、そのときはそこにいることに興奮してしまった」と言っていました。初めは居場所としてネットに救いを求めていたはずなのに、いつの間にかその場所にいること自体が目的化しちゃうんです。いわば居場所を保つために競争し合って、その結果、炎上が過激化してしまうんですね。
'''渋井''' ネットの炎上は2000年代に流行ったヤフーチャットのなかの喧嘩部屋の心情にちょっと似てるなって思います。聴衆がたくさんいる中で口喧嘩してどっちが勝ったかを判定するというチャットがあったんですけど、どうすれば勝てるかはどんなメンバーがいるかで変わるんですよね。声が大きい人がついているから勝てるとか、知識が多い人がついてるから勝てるとか。基本的には大声で相手をバカにして、相手が反論できなかったら勝ちみたいなルールの部屋です。
'''唐澤''' 喧嘩が目的っていうのはすごい。それって喧嘩の中でなされるコミュニケーションが面白くてやっているわけですよね。いわば当たり屋みたいなもので、わざわざ当たりに行って、向こうも文句つけてきたら揚げ足とるっていう。それって炎上の構図と一緒ですよね。
'''渋井''' 一緒ですね。ただ喧嘩部屋はチャットのコミュニティだから、喧嘩している人同士が意外と仲良くしてて、たまに「こいつら実は仲良いぜ」みたいなのが暴かれちゃったりするんですよ。喧嘩が目的でいるけれども、本当に喧嘩してるわけじゃないっていうのはネットの炎上とは違いますね。
<div style="font-size:110%">'''身体的影響が'''<br>
'''ネット依存の危険信号'''</div>
'''唐澤''' 僕は喧嘩チャットも炎上も結局コミュニケーションを消費しているだけだっていう点では似ていると思いますね。だんだん消費していること自体に依存してしまう。ネットに依存することで救いはあるんでしょうか?
'''渋井''' 依存はしている間は救いを感じるんじゃないかな。依存といってもライフライン的な依存と、病的依存っていうのは違うわけですよね。例えば水を飲むからといって決して水に依存しているとは言わないけど、あまりにも水を飲みすぎると依存になる。それと一緒で、ある程度の依存はライフラインとして必要だと思います。<br>
 問題は依存しすぎて居場所が平凡でつまらないものに見えた瞬間。そうすると精神的依存だけでなく身体的にも影響が及んでむると思います。
'''唐澤''' 依存先が平凡に見えたらちょっと危険信号だということですね。どこからが危険な依存になるのでしょうか?
'''渋井''' やっぱり身体的な依存ですね。たとえばスマホをいじりすぎて友達との約束を忘れたり、会社の仕事を忘れたりとか、ネットが原因で実社会との関係でトラブルが起こるようになってくる。そうなってくると危険信号かなって思いますね。
<div style="font-size:110%">'''依存をコントロールできるか'''<br>
'''否かの見極めが重要'''</div>
'''唐澤''' ネットに依存している人が脱却したいと思ったら、具体的にどうすればいいのでしょう。
'''渋井''' 生活のリズムを自ら見直してネットをコントロールできるかっていうのがポイントだと思います。まずか1ヶ月間の生活のリズムを把握してください。それで、とりあえずここにネットは必要なかったよねっていう不要な利用を見つけて、最低限まで削っていく。それでコントロールできる状況であれば、おそらく病院などに行く必要はないと思います。自分自身をコントロールできる状態なのか、それを超えて病的な状態なのかという判断が必要になってきますね。
'''唐澤''' ネットに依存しているのが、自らの子供だった場合はどうします?
'''渋井''' まず親が子供の文化を理解すること。そもそもなんで子供がネットに依存してしまうのかって考えると、面白いからなんですよ。子供がネットのなにを面白がっているのかっていうことを理解するように努力してください。<br>
 よくネットは時間制限して使えっていうのを聞くんですけど、時間制限するにしても理由が必要なわけですよ。じゃないと子供が反発するだけです。子供の文化を理解した上で、宿題や外で遊ぶ時間の必要性を説明していくことが大切だと思います。
'''唐澤''' 誰でもネットを使うの当たり前になった今、なんらかで依存してしまうことは避けられないと思います。今後、私達はインターネットとどのような付き合い方をすべきなのでしょうか?
'''渋井''' 昔からテレビ依存やゲーム依存など、なにかと依存っていう言葉が使われてきました。でも今の時代は、ライフラインとしてテレビが必要だし、ある程度エンタメとしてのゲームも必要なんですよ。ネット依存についても同じで、ネットはライフラインとしてもエンタメとしても必要不可欠なものになっています。だからネットに関わる時間はこれからもっと増えていくし、その意味での依存は強まっていくと思います。<br>
 問題は時間的依存ではなく、そこに精神的依存が入ってくるかどうかなんです。これからは常にネット依存を自分自身でコントロールできるか見極めながら、付き合っていく必要があると思います。


== おわりに ==
== おわりに ==
====すべては被害者を出さないために====
 私が弁護士になった理由は、正しい力を手にしたいと思ったからです。そう思うようになったきっかけは弟の死でした。<br>
 高校生だった弟はいじめの被害にあっていました。やがてそれはエスカレートして、集団から暴力を受けたこともあったようです。人生を悲観した弟は自宅で自死しました。<br>
 時は流れ、今度は私が他人からの憎悪といじめの対象になりました。<br>
 インターネット上で誹謗中傷されるとそのことばかり考えてしまいますし、すべてを失った気になったこともありました。しかし、いま自分の周りにあるものを見つめなおすと、実はなにも失っていないことに気が付きます。<br>
 炎上による被害で、物質的に家や物を失ったことがありました。しかし、私は今生きています。周りには支えてくれる人がいますし、食事も満足にとれて、食後においしいコーヒーを飲むこともできます。<br>
 インターネット上の誹謗中傷が続いたとき、お酒がなければ眠れず、寝ても目がさめてしまい、激しい動悸が続いた時期がありました。<br>
 しかし、「当たり前のありがたさを見直す」ことで、すべての見方が変わってきました。誹謗中傷されても、自分は自分であり、前を向いて生きていくことが大事だと思えるようになったのです。自分は何もかも失ったと思い込まないことが大切なのでしょう。<br>
 人生は良いときもあれば悪いときもあります。感情をもった人間として生まれたということは、毀誉褒貶のある1話限りのドラマを経験するということでもあります。それが生きるということの醍醐味なんだと、今では思えるようになりました。<br>
 学校が終わると、弟のお墓に行き、墓前で泣き崩れていた自分がいました。しかし、それらもすべて受け止めなければならないと歳をとり気が付きました。生きるとは、受け止めること。それが私の人生のテーマなのかもしれません。そして、それを与えてくれたのは弟でした。<br>
=====被害者を保護する体制を法的に整えたい=====
 インターネットの被害を相談する窓口は、法務局の人権擁護局に存在しますが、気軽に、かつ継続的に相談できる窓口はありません。実効的に被害者の現状を変える体制を国家が作っていく必要があるでしょう。<br>
 また誹謗中傷やプライバシー侵害された被害者自身が、自力で対応を求められる現状も問題があります。さらにプライバシーを侵害されても少額の損害賠償しか認められていません。日本の名誉毀損をはじめとした損害賠償額は低く、失った社会的評価を賠償するには到底足りません。その現状にも異議を唱えていきたいと思います。<br>
 さらに、流出した個人情報によって、インターネットで永遠にプライバシーが侵害され続ける可能性もあります。プライバシー侵害は刑事罰を課す必要があると考えます。<br>
 本書を読んだ読者の方にこの問題に興味をもってもらい、法改正および新法立法の機運が高まることを願うばかりです。
=====最後に、加害者を生まないために=====
 インターネット上で加害行為をする人は、孤独な人が多いという印象を私は受けたことがあります。実際、私が会った加害者もインターネット以外に行き場のない孤独な人が多くいました。有名ブロガーがインターネットユーザーに殺された事件がありましたが、インターネットしか自分の居場所がないと思い込んでいる人がいるのが今の現状です。<br>
 孤独な人を実社会で受け入れる体制をつくれないものでしょうか。<br>
 人は誰かを貶めたり傷つけるために生まれたのではなく、自分の人生を謳歌するために生まれてきたはずです。このことは改めて考えて欲しいと思います。<br>
 私は10代の後半を無為に過ごしました。学校を中退して友達もおらず、ベッドで天井を見つづけた日々がありました。それでも、今は目の前で私と話してくれる友人がいます。<br>
 人生はいつだって思うようにはならないものです。そして流動的でもあります。<br>
 悪いことがあった後には、きっといいことがある。言い古された言葉でありますが、私はその言葉を信じています。インターネットで加害行為をしている人は、自分の人生を生きてほしいと強く願っています。


==脚注==
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<references />
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