「インフレーシヨンと物價對策」の版間の差分
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==== 數量說による貨幣󠄁價値の決定 ==== | ==== 數量說による貨幣󠄁價値の決定 ==== | ||
インフレーシヨンと云ふ言葉は、極めて一般的に使󠄁用されてゐるにも拘らず、其の內容の規定は極めて區󠄁々である。 | |||
例へば、橋爪明󠄁男敎授󠄁は、インフレーシヨンの意義を「その語義は獨の Aufblahüüg{{原文ママ|Aufblähung}} に該當し、吾國に移せば通󠄁貨膨脹とするが最も適󠄁當であろう{{原文ママ|あらう}}。…………」⑴ とせられ、荒木光太郞敎授󠄁は、「最も一般的にはインフレーシヨンとは、貨幣󠄁の供給量がそれに對する需要󠄁量を超過󠄁し、その結果一般物價謄󠄁貴{{原文ママ|騰󠄁貴}}を惹起󠄁する樣な場合を言ふのである。」となされ⑵、又󠄂「インフレーシヨンとは、流通󠄁に必要󠄁なる數量以上に貨幣󠄁並に信用が流通󠄁界に投入せらるる結果貨幣󠄁價値が減少し、物價が騰󠄁貴する現𧰼である」と云ふ。<br> | 例へば、橋爪明󠄁男敎授󠄁は、インフレーシヨンの意義を「その語義は獨の Aufblahüüg{{原文ママ|Aufblähung}} に該當し、吾國に移せば通󠄁貨膨脹とするが最も適󠄁當であろう{{原文ママ|あらう}}。…………」⑴ とせられ、荒木光太郞敎授󠄁は、「最も一般的にはインフレーシヨンとは、貨幣󠄁の供給量がそれに對する需要󠄁量を超過󠄁し、その結果一般物價謄󠄁貴{{原文ママ|騰󠄁貴}}を惹起󠄁する樣な場合を言ふのである。」となされ⑵、又󠄂「インフレーシヨンとは、流通󠄁に必要󠄁なる數量以上に貨幣󠄁並に信用が流通󠄁界に投入せらるる結果貨幣󠄁價値が減少し、物價が騰󠄁貴する現𧰼である」と云ふ。<br> | ||
斯くの如くインフレーシヨンの規定は區󠄁々であるが、其れが貨幣󠄁價値の下落に關する事であり、其の原因を貨幣󠄁數量の增加に求める傾向にあり、然も量と共に其の流通󠄁速󠄁度にも變化ある事及び結果的にも必ず物價騰󠄁貴ある事が一般に認󠄁識せられてゐる所󠄁である。 | |||
かゝる一般の通󠄁說に從つて、インフレーシヨンを貨幣󠄁價値の下落であるとするならば貨幣󠄁價値は何を基準に下落と云ひ、或は騰󠄁貴と云ふか、先づ貨幣󠄁價値の決定からしてかゝらねばならぬ。<br> | かゝる一般の通󠄁說に從つて、インフレーシヨンを貨幣󠄁價値の下落であるとするならば貨幣󠄁價値は何を基準に下落と云ひ、或は騰󠄁貴と云ふか、先づ貨幣󠄁價値の決定からしてかゝらねばならぬ。<br> | ||
而して、貨幣󠄁價値決定に當つては、根本原因として、アーヴイング・フイツシヤー氏の數量說によるを今日の通󠄁說にして同時に又󠄂、適󠄁當なるも{{原文ママ|もの?}}と考へるのであるが、フイツシヤー氏の數量說に更󠄁に修正要󠄁素を加へられた春日井先生は次󠄁の如く說かれてゐる。<br> | 而して、貨幣󠄁價値決定に當つては、根本原因として、アーヴイング・フイツシヤー氏の數量說によるを今日の通󠄁說にして同時に又󠄂、適󠄁當なるも{{原文ママ|もの?}}と考へるのであるが、フイツシヤー氏の數量說に更󠄁に修正要󠄁素を加へられた春日井先生は次󠄁の如く說かれてゐる。<br> | ||
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</div> | </div> | ||
貨幣󠄁價値は斯の如く除外例を附したる財貨對貨幣󠄁の對立關係の比率󠄁に求むべきであつて私も亦、春日井敎授󠄁の說に追󠄁從するものである。<br> | 貨幣󠄁價値は斯の如く除外例を附したる財貨對貨幣󠄁の對立關係の比率󠄁に求むべきであつて私も亦、春日井敎授󠄁の說に追󠄁從するものである。<br> | ||
⑴ 橋爪明󠄁男著󠄁「貨幣󠄁理論」<ref>[https://dl.ndl.go.jp | ⑴ 橋爪明󠄁男著󠄁「貨幣󠄁理論」<ref>[https://doi.org/10.11501/1453167 橋爪明男 著『貨幣理論』, 日本評論社, 1928. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1453167 (参照 2023-02-20)]</ref><br> | ||
⑵ 荒木光太郞著󠄁「貨幣󠄁槪󠄁論」<ref>[https://dl.ndl.go.jp | ⑵ 荒木光太郞著󠄁「貨幣󠄁槪󠄁論」<ref>[https://doi.org/10.11501/2389593 荒木光太郎 著『貨幣概論』, 有斐閣, 1936. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2389593 (参照 2023-02-20)]</ref><br> | ||
⑶ 春日井先生著󠄁「貨幣󠄁及金融原理」<ref>[https://doi.org/10.11501/1277523 春日井薫 著『貨幣及金融原理』, 文雅堂, 昭11. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1277523 (参照 2023-02-20)]</ref>九九頁參照。<br> | |||
⑷ 春日井先生著󠄁 前󠄁揭書一〇四頁參照。 | ⑷ 春日井先生著󠄁 前󠄁揭書一〇四頁參照。 | ||
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職分󠄁說又󠄂は需給說は、貨幣󠄁に對する需用{{原文ママ|需要󠄁}}供給が貨幣󠄁價値を決定するとなし、而して貨幣󠄁に對する需要󠄁とは、商品勞務を提供して貨幣󠄁を得んとする慾求である。 | 職分󠄁說又󠄂は需給說は、貨幣󠄁に對する需用{{原文ママ|需要󠄁}}供給が貨幣󠄁價値を決定するとなし、而して貨幣󠄁に對する需要󠄁とは、商品勞務を提供して貨幣󠄁を得んとする慾求である。 | ||
供給とは、貨幣󠄁によつて商品、勞力を得んとする慾求である。 | 供給とは、貨幣󠄁によつて商品、勞力を得んとする慾求である。 | ||
故に前󠄁の要󠄁求が强ければ物價は低落し、後の要󠄁求が强ければ物價は騰󠄁貴するとなすのである。<br> | |||
固より貨幣󠄁の價値を現實に決定するものは需要󠄁、供給の關係であるが、この場合の供給こそ貨幣󠄁數量說に云ふ所󠄁の他の事情󠄁にして同一なれば供給數量によるとの說に外ならぬのである。<br> | 固より貨幣󠄁の價値を現實に決定するものは需要󠄁、供給の關係であるが、この場合の供給こそ貨幣󠄁數量說に云ふ所󠄁の他の事情󠄁にして同一なれば供給數量によるとの說に外ならぬのである。<br> | ||
斯の如く、從來貨幣󠄁數量說に對しては幾󠄁多の論あるに不拘、數量說が依然として貨幣󠄁經濟社󠄁會に於ける貨幣󠄁現𧰼を說明󠄁する最基本的な理論たる所󠄁以は、數量說を他にしては貨幣󠄁現𧰼を說明󠄁することは不可能であり、又󠄂數量說に對立する所󠄁の第二の貨幣󠄁理論の無い爲である。 | 斯の如く、從來貨幣󠄁數量說に對しては幾󠄁多の論あるに不拘、數量說が依然として貨幣󠄁經濟社󠄁會に於ける貨幣󠄁現𧰼を說明󠄁する最基本的な理論たる所󠄁以は、數量說を他にしては貨幣󠄁現𧰼を說明󠄁することは不可能であり、又󠄂數量說に對立する所󠄁の第二の貨幣󠄁理論の無い爲である。 | ||
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以上の如く貨幣󠄁價値の決定並にその表現について明󠄁らかとなつたから、貨幣󠄁價値の下落であり、物價騰󠄁貴であると前󠄁提する所󠄁のインフレーシヨンの意義も自から解せられる所󠄁である。<br> | 以上の如く貨幣󠄁價値の決定並にその表現について明󠄁らかとなつたから、貨幣󠄁價値の下落であり、物價騰󠄁貴であると前󠄁提する所󠄁のインフレーシヨンの意義も自から解せられる所󠄁である。<br> | ||
卽ちインフレーシヨンとは、通󠄁貨量の增大によつて通󠄁貨と生產取引される物貨との釣合ひが破壞せられ、通󠄁貨の價値の低落した狀態である、と規定し得るであらう。 | |||
=== 二、インフレーシヨンの顯現形態 === | === 二、インフレーシヨンの顯現形態 === | ||
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インフレーシヨンは、斯くの如く、商品流通󠄁量に比して流通󠄁する通󠄁貨量の增大に起󠄁因する所󠄁の貨幣󠄁價値の低落した狀態である事が明󠄁らかとなつたのであるが、然らばインフレーシヨンは如何に顯現し發展するか。 | インフレーシヨンは、斯くの如く、商品流通󠄁量に比して流通󠄁する通󠄁貨量の增大に起󠄁因する所󠄁の貨幣󠄁價値の低落した狀態である事が明󠄁らかとなつたのであるが、然らばインフレーシヨンは如何に顯現し發展するか。 | ||
その顯現形態を次󠄁に述󠄁べる事にする。<br> | その顯現形態を次󠄁に述󠄁べる事にする。<br> | ||
今日の如き信用經濟の發達󠄁せる社󠄁會に於ては、一槪󠄁に通󠄁貨と云つても、通󠄁貨なるものは、現金通󠄁貨のみならず、その代用物として信用通󠄁貨(預金貨幣󠄁)の存する事は先の方程󠄁式によつても明󠄁らかな所󠄁であらう。<br> | |||
而して一般に前󠄁者󠄁に於けるインフレーシヨンを貨幣󠄁インフレーシヨンと云ひ、後者󠄁に於けるを信用インフレーシヨンと稱󠄁へる。 | 而して一般に前󠄁者󠄁に於けるインフレーシヨンを貨幣󠄁インフレーシヨンと云ひ、後者󠄁に於けるを信用インフレーシヨンと稱󠄁へる。 | ||
今之等の樣相を示せば次󠄁の如くである。 | 今之等の樣相を示せば次󠄁の如くである。 | ||
120行目: | 120行目: | ||
故にインフレーシヨンも亦、之等の貨幣󠄁の增加となつて現はれるのであるが先づ、鑄貨について見れば、今日に於ては、鑄貨そのものが貨幣󠄁形態の間に於て最も微々たる役割󠄀を爲してゐるのであるが、其の增加は、貨幣󠄁の購󠄂買力低下と、一方貨幣󠄁製造󠄁費の騰󠄁貴を惹起󠄁して、逐󠄁{{原文ママ|遂󠄂?}}には、貨幣󠄁の通󠄁用價値と、その製造󠄁費との交叉する點まで達󠄁し、通󠄁貨增發者󠄁に何等の利益󠄁をも齎さない事になるから、鑄貨のインフレーシヨンは極めて稀であり、又󠄂發生してもその程󠄁度は比較󠄁的微弱󠄁である。<br> | 故にインフレーシヨンも亦、之等の貨幣󠄁の增加となつて現はれるのであるが先づ、鑄貨について見れば、今日に於ては、鑄貨そのものが貨幣󠄁形態の間に於て最も微々たる役割󠄀を爲してゐるのであるが、其の增加は、貨幣󠄁の購󠄂買力低下と、一方貨幣󠄁製造󠄁費の騰󠄁貴を惹起󠄁して、逐󠄁{{原文ママ|遂󠄂?}}には、貨幣󠄁の通󠄁用價値と、その製造󠄁費との交叉する點まで達󠄁し、通󠄁貨增發者󠄁に何等の利益󠄁をも齎さない事になるから、鑄貨のインフレーシヨンは極めて稀であり、又󠄂發生してもその程󠄁度は比較󠄁的微弱󠄁である。<br> | ||
次󠄁に紙幣󠄁によるイソフレーシヨソ{{原文ママ|インフレーシヨン}}であるが、紙幣󠄁には兌換紙幣󠄁及び、不換紙幣󠄁があり、發行者󠄁には各政府と、銀行とがある。 | 次󠄁に紙幣󠄁によるイソフレーシヨソ{{原文ママ|インフレーシヨン}}であるが、紙幣󠄁には兌換紙幣󠄁及び、不換紙幣󠄁があり、發行者󠄁には各政府と、銀行とがある。 | ||
先づ兌換紙幣󠄁の膨脹は其の兌換準備制度と密接な關係を有󠄁するのであるが之を要󠄁するに、兌換紙幣󠄁にあつては、その增發は、主として凖備金屬{{原文ママ|準備金屬}}、例へば金の增加に左右される。而して諸󠄀國が金本位制度を採󠄁用してゐる場合には、甲國に生じた金の增加も甲國にのみ停滯せず、物價騰󠄁貴、輸󠄁入超過󠄁、殘金決濟と云ふ順序によつて金の流出を見てインフレーシヨンの程󠄁度は著󠄁るしく緩󠄁和される事になるのである。<br> | |||
これに反し、不換紙幣󠄁に於ては原則として、その增發を制限すべき何物も存しないのである。 | これに反し、不換紙幣󠄁に於ては原則として、その增發を制限すべき何物も存しないのである。 | ||
印刷設備さへあれば極めて迅󠄁速󠄁に、又󠄂殆んど無制限に製造󠄁する事が出來るのであるからそれは、不換紙幣󠄁の購󠄂買力が、製造󠄁費用を償ひうる迄、換言すれば不換紙幣󠄁が全󠄁然購󠄂買力を失つて終󠄁ふまで持續󠄁される可能性がある。 | 印刷設備さへあれば極めて迅󠄁速󠄁に、又󠄂殆んど無制限に製造󠄁する事が出來るのであるからそれは、不換紙幣󠄁の購󠄂買力が、製造󠄁費用を償ひうる迄、換言すれば不換紙幣󠄁が全󠄁然購󠄂買力を失つて終󠄁ふまで持續󠄁される可能性がある。 | ||
136行目: | 136行目: | ||
而して之は何れの銀行も一般に行ひ得る所󠄁であるが故に、この預金貨幣󠄁によるインフレーシヨンは、銀行の意志如何によつて起󠄁り得る。 | 而して之は何れの銀行も一般に行ひ得る所󠄁であるが故に、この預金貨幣󠄁によるインフレーシヨンは、銀行の意志如何によつて起󠄁り得る。 | ||
これ等の預金は其の性質上何時たりとも引出さるべきものであるから、經濟上に與へる影響󠄃に於て他の通󠄁貨と異る所󠄁はない。<br> | これ等の預金は其の性質上何時たりとも引出さるべきものであるから、經濟上に與へる影響󠄃に於て他の通󠄁貨と異る所󠄁はない。<br> | ||
以上の如くインフレーシヨンの形態は之を貨幣󠄁インフレーシヨン及び信用インフレーシヨンの二つの見地に區󠄁別する事が出來るのであるが、この二つのインフレーシヨンは、完全󠄁に一致するものではないが、然し大體に於て重り合ふ傾向を有󠄁するものである。 | |||
==== 現今に於ける我が國の戰時經濟とインフレーシヨン ==== | ==== 現今に於ける我が國の戰時經濟とインフレーシヨン ==== | ||
300行目: | 300行目: | ||
之を消󠄁費方面から觀察すると、斯る一般物價の上昇の結果、生活費は極度の膨脹を見るのであつて、一般所󠄁得の增加が之に伴󠄁はないならば、生活上の一大不安を來す事となるのは云ふ迄もない。 | 之を消󠄁費方面から觀察すると、斯る一般物價の上昇の結果、生活費は極度の膨脹を見るのであつて、一般所󠄁得の增加が之に伴󠄁はないならば、生活上の一大不安を來す事となるのは云ふ迄もない。 | ||
而るに前󠄁記󠄂の如く一般所󠄁得の增加は決して一樣のものではないのである。<br> | 而るに前󠄁記󠄂の如く一般所󠄁得の增加は決して一樣のものではないのである。<br> | ||
卽ち物價騰󠄁貴の初期に於ては、賃銀及び給料の上昇は極めて緩󠄁漫であり、それよりも更󠄁に遲󠄃れるのは、貸付資󠄁本に對する利子である。 | |||
故に急󠄁激な物價騰󠄁貴の場合には、給料生活者󠄁に次󠄁いで大なる影響󠄃を受けるものは、貸付資󠄁本に對する利子の所󠄁得者󠄁、卽ち預金利子、株式の配當等の如き一定額の收入によつて生活を維特{{原文ママ|維持}}する者󠄁及び恩給、年金を受くるもの等がそれである。<br> | 故に急󠄁激な物價騰󠄁貴の場合には、給料生活者󠄁に次󠄁いで大なる影響󠄃を受けるものは、貸付資󠄁本に對する利子の所󠄁得者󠄁、卽ち預金利子、株式の配當等の如き一定額の收入によつて生活を維特{{原文ママ|維持}}する者󠄁及び恩給、年金を受くるもの等がそれである。<br> | ||
之に反して物價騰󠄁貴によつて利する者󠄁は、債務者󠄁である。 | 之に反して物價騰󠄁貴によつて利する者󠄁は、債務者󠄁である。 | ||
306行目: | 306行目: | ||
インフレーシヨンの各階級に及ぼす影響󠄃は、大體以上の如くであるが一度インフレ!シヨン{{原文ママ|インフレーシヨン}}が起󠄁るとそれは二度、三度と繼起󠄁して行く可能性を有󠄁し、貨幣󠄁所󠄁有󠄁者󠄁は其の度每に貨幣󠄁價値下落に基く損害󠄂を蒙るから、その損害󠄂から免󠄁かれる爲に受取つた貨貨{{原文ママ|貨幣󠄁?}}は出來る丈󠄁早く支󠄂拂に用ひる樣になる。 | インフレーシヨンの各階級に及ぼす影響󠄃は、大體以上の如くであるが一度インフレ!シヨン{{原文ママ|インフレーシヨン}}が起󠄁るとそれは二度、三度と繼起󠄁して行く可能性を有󠄁し、貨幣󠄁所󠄁有󠄁者󠄁は其の度每に貨幣󠄁價値下落に基く損害󠄂を蒙るから、その損害󠄂から免󠄁かれる爲に受取つた貨貨{{原文ママ|貨幣󠄁?}}は出來る丈󠄁早く支󠄂拂に用ひる樣になる。 | ||
卽ち貨幣󠄁の形に於ける所󠄁有󠄁を商品の形に於ける所󠄁有󠄁に變更󠄁し樣と努力するのであるが、その結果貨幣󠄁の流通󠄁速󠄁度は大となり、これは貨幣󠄁量の增加と同じ結果となるから、ます/\物價騰󠄁貴に拍車をかける事になる。<br> | 卽ち貨幣󠄁の形に於ける所󠄁有󠄁を商品の形に於ける所󠄁有󠄁に變更󠄁し樣と努力するのであるが、その結果貨幣󠄁の流通󠄁速󠄁度は大となり、これは貨幣󠄁量の增加と同じ結果となるから、ます/\物價騰󠄁貴に拍車をかける事になる。<br> | ||
而して斯かる急󠄁激なるインフレーシヨンは、主として戰時等に於て起󠄁るものであるが、斯くの如き分󠄁配關係の不均衡によつて國民生活は極度に脅やかされ、又󠄂一方生產者󠄁は生產を延󠄂遲󠄃{{原文ママ|遲󠄃延󠄂?}}させれば遲󠄃延󠄂させる程󠄁、換言すれば費用と生產價格との開きを時間的に大ならしめれば大ならしむる程󠄁、有󠄁利となるのであるから、この事は生產諸󠄀力の著󠄁しい低下を齎らし、生產力の低下は戰爭の爲の著󠄁しい需要󠄁と矛盾を來して國䇿遂󠄂行上致命的の障害󠄂となる。<br> | |||
又󠄂、戰時に於ては普通󠄁戰費の大部分󠄁は公󠄁債によつて償はれるのであるが、インフレーシヨンによる債權關係の破壞は戰費の調󠄁達󠄁を不可能たらしめるのである。<br> | 又󠄂、戰時に於ては普通󠄁戰費の大部分󠄁は公󠄁債によつて償はれるのであるが、インフレーシヨンによる債權關係の破壞は戰費の調󠄁達󠄁を不可能たらしめるのである。<br> | ||
如斯インフレーシヨンの及ぼす彰響󠄃{{原文ママ|影響󠄃}}は、實に廣範多岐に亘り、引いては國家機󠄁構󠄁の破壞と云ふ結果をも招來し兼󠄁ねないのであるから、我々は何としてもこの惡性インフレーシヨンを防止しなければならないのである。 | 如斯インフレーシヨンの及ぼす彰響󠄃{{原文ママ|影響󠄃}}は、實に廣範多岐に亘り、引いては國家機󠄁構󠄁の破壞と云ふ結果をも招來し兼󠄁ねないのであるから、我々は何としてもこの惡性インフレーシヨンを防止しなければならないのである。 | ||
316行目: | 316行目: | ||
物價對䇿には、貨資󠄁{{原文ママ|貨幣󠄁}}側からする對䇿と物資󠄁側からする對䇿とがある。<br> | 物價對䇿には、貨資󠄁{{原文ママ|貨幣󠄁}}側からする對䇿と物資󠄁側からする對䇿とがある。<br> | ||
貨幣󠄁側からは、國民購󠄂買力の吸收及び資󠄁金流通󠄁の調󠄁整がそれである。<br> | 貨幣󠄁側からは、國民購󠄂買力の吸收及び資󠄁金流通󠄁の調󠄁整がそれである。<br> | ||
我が國の如く、金の現送󠄁量を與へられたものとする限り、軍需品の需要󠄁が現在與へられた軍需品生產力を越える場合には、消󠄁費生產の生產擴張を抑制して、抑制部分󠄁を軍需生產部門へ流入するか、或は旣存の消󠄁費財生產構󠄁造󠄁を再編󠄁成󠄁するかの方法に依らねばならないのであるが、斯かる繰作{{原文ママ|操作}} | 我が國の如く、金の現送󠄁量を與へられたものとする限り、軍需品の需要󠄁が現在與へられた軍需品生產力を越える場合には、消󠄁費生產の生產擴張を抑制して、抑制部分󠄁を軍需生產部門へ流入するか、或は旣存の消󠄁費財生產構󠄁造󠄁を再編󠄁成󠄁するかの方法に依らねばならないのであるが、斯かる繰作{{原文ママ|操作}}を可能ならしめる手段は、增稅及び公󠄁債の發行等による國民の購󠄂買力の吸收に外ならない。 | ||
乍然、增稅の程󠄁度は極く限られてゐるから、專ら公󠄁債の發行に依るより外にないのである。 | 乍然、增稅の程󠄁度は極く限られてゐるから、專ら公󠄁債の發行に依るより外にないのである。 | ||
然し、この公󠄁債の發行も唯、中央銀行が引受けて手許に所󠄁有󠄁してゐる場合には斯かる軍需品生產擴大繰作{{原文ママ|操作}}の圓滑なる運󠄁行は不可能なのである。 | 然し、この公󠄁債の發行も唯、中央銀行が引受けて手許に所󠄁有󠄁してゐる場合には斯かる軍需品生產擴大繰作{{原文ママ|操作}}の圓滑なる運󠄁行は不可能なのである。 | ||
339行目: | 339行目: | ||
如斯、生活必需品や日常使󠄁用品の供給が相當限られるやうになると、價格の公󠄁定が行はれても價格の抑制は殆んど不可能である。 | 如斯、生活必需品や日常使󠄁用品の供給が相當限られるやうになると、價格の公󠄁定が行はれても價格の抑制は殆んど不可能である。 | ||
隨つて次󠄁の段階の切符による割󠄀當配給制にまで進󠄁むのである。 | 隨つて次󠄁の段階の切符による割󠄀當配給制にまで進󠄁むのである。 | ||
固より切符配給の場合に於ても切符に對する闇相場は免󠄁れないのであるが、それが生活必需品であり、その割󠄀當量が最少限度に留まる場合にはかゝる闇相場の出現は緩󠄁和せられるであらう。 | |||
故にこの切符割󠄀當制は生活必需品のそれも或一部に限られるのであつて、之を全󠄁財貨に適󠄁用する事は到底不可能な事である。 | 故にこの切符割󠄀當制は生活必需品のそれも或一部に限られるのであつて、之を全󠄁財貨に適󠄁用する事は到底不可能な事である。 | ||
從つて、一般的に云へば、需要󠄁の調󠄁整は、他の方䇿に依らねばならぬのである。<br> | 從つて、一般的に云へば、需要󠄁の調󠄁整は、他の方䇿に依らねばならぬのである。<br> | ||
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何故ならば信用機󠄁關に託した場合に於ても信用機󠄁關はこの貯蓄分󠄁を再び公󠄁債に投資󠄁せねばならないからである。 | 何故ならば信用機󠄁關に託した場合に於ても信用機󠄁關はこの貯蓄分󠄁を再び公󠄁債に投資󠄁せねばならないからである。 | ||
而して公󠄁債を購󠄂入すると云ふ事は、その金額だけ消󠄁費財を節󠄂約し、軍需品製產に對して協力する事になるのである。<br> | 而して公󠄁債を購󠄂入すると云ふ事は、その金額だけ消󠄁費財を節󠄂約し、軍需品製產に對して協力する事になるのである。<br> | ||
以上物價對䇿の主流を述󠄁󠄁べたに過󠄁ぎないが、之を要󠄁するに、一方貨幣󠄁側に於ては購󠄂買力の吸收を行ふと同時に、銀行資󠄁金流動を統制し、他方物資󠄁側に於ては、價格の公󠄁定、物資󠄁割󠄀當配給制等を行つて物資󠄁需要󠄁の調󠄁制を確立てし{{原文ママ|して}}行けば、インフレーシヨンの本格化を抑制する事が出來るのであるが、この間にあつて最も重要󠄁な役割󠄀を果すものは、國民の消󠄁費節󠄂約の勵行である。(十五年九月󠄁) | |||
== 脚注 == | == 脚注 == |