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恒心文庫:縊死体

提供:唐澤貴洋Wiki
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本文

ぶら下がって、揺れて、吊られて、回って
血まみれの体が向きを変え当職の方を向いた。
光を失った眼が当職を見据える、彼は当職を責め冒涜しているように感じた。
今それは当職の前に無防備に体を晒しているのだ、睨みつけるようなその眼が当職の脳を激しく焦がすのだ。
垂れ下がった唇から伸びた舌を伝って真紅の液体が体の下へ流れ落ち床一面に広がる。
当職の物はそれを目の当たりにして萎えるどころか激しく硬さを主張し始めた、はちきれんばかりに、痛いくらいに股間の布を押し上げる。
扱かずとも当職は気をやってしまった、やがて洋が部屋に駆けつけ、ゆっくりと弟の体を地面に下ろした、そして動揺しつつも警察に通報していた。父に部屋から出るように促されたが当職はその場に惚けたように突っ立っていたのだ
洋はせめて母に、妻には弟の状況を見せないように計らい部屋に決して入れなかった。
洋は母を静止するために部屋から出ていき当職と厚史は二人きりになった
厚史に当職は声を出さずに語りかける、大丈夫だ、優しくする、当職はお前を傷つけたりしない、そっと手を触れた厚史の体は大理石のように冷たく硬かった、息が荒くなる
父が警察を伴い部屋に入ってきた、そして当職は厚史の体から引き離された、当職と弟との最後の肉体的交信だった。
当職はたびたびこの情景が脳裏に浮かび、先程目の当たりにしたかのように目交いに蘇るのだ。
しかし、これを再びみるのは容易ではない。
身を焦がす欲望が臨界に達した時、当職は気づいたのだ、縊死体は作った方が簡単なのだと。

2014年6月にある女性弁護士が29歳という若さで亡くなった、死因は今もって不明である。

タイトルについて

この作品は公開された際タイトルがありませんでした。このタイトルは便宜上付けたものです。

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